Translated by Kohei Kido
(掲載日 2021/01/12)
はじめに
あと1か月もすれば『カルドハイム』が発売されますね。冬のこの時期は『カルドハイム』以外に新セットの発売はありませんが、それでもモダンは毎週メタが変わり続けています。この記事では、現在のモダンにおいて目に見えて分かるトレンドを解説して、それをどう活用すべきなのかについて語りたいと思います。
環境を定義するカード
どのフォーマットでもそうですが、相手を妨害できる強力なカードは環境を定義します。そのカードの存在によって、デッキが競技レベルなのかそうでないのかが決まってしまうのです。以下に挙げるようなカードは、現在のモダンにおいてデッキを組むうえで絶対に考慮すべきだと私が考えているものです。
《レンと六番》《溶岩の投げ矢》
『モダンホライゾン』によって《レンと六番》と《溶岩の投げ矢》がもたらされてから、モダンはタフネス1のクリーチャーにとってつらい空間になってしまいました。モダンでもっとも使われているクリーチャーのリストを見てみると、かつて上位にランクインしていた《闇の腹心》や《貴族の教主》はかなり下位になっており、さらには人間デッキ自体もメタゲーム内での順位を落としています。
《レンと六番》と《溶岩の投げ矢》は犠牲となるタフネス1のクリーチャーが存在していなくても十分強力なカードなので、タフネス1のクリーチャーに強く依存するデッキを使いたくなるような状況は考えづらくなっています。
《否定の力》
先ほど言及した『モダンホライゾン』によって《否定の力》もモダンにもたらされました。ソーサリータイミングでマナのかかる脅威を相手に突きつけるタイプのデッキにとっては、死刑宣告のようなものです。《クラーク族の鉄工所》のように特定のカード名をデッキ名に冠するようなコンボデッキがトップメタになることは今までも多くはありませんでしたが、《否定の力》はそのようなデッキが多くなることをこれからも防ぎ続けることでしょう。今のモダンに《クラーク族の鉄工所》が存在していたとしても、強いデッキにはならないと思います。
ストームやトロン、ネオブランド、またこれらほどではないにしろ、アドグレイスやそのほかのデッキは《否定の力》の存在によって使いづらくなっています。
重いプレインズウォーカーは《否定の力》を使う青いデッキ以外ではあまり使われていません。《否定の力》は《溶岩の投げ矢》と《レンと六番》に比べて状況を選ぶカードなので、ときには敗因になることもあるでしょう。
《否定の力》の存在によって、プレイヤーは《夢の巣のルールス》を用いたアグロデッキやクリーチャーの多いデッキの使用を強いられました。その結果、青いデッキが《否定の力》の枚数を減らすこともあります。
《血染めの月》
上記のカード以外に、もうひとつだけモダンに大きな影響を与えているカードがあると思っています。《死者の原野》と《神秘の聖域》を中心に組まれたデッキが、モダンで最強のデッキの玉座に就いてからそれなりに時間が経ちました。土地は干渉しにくいカードタイプですが、モダンには苛立たしいほどに強力な武器がひとつあります。《血染めの月》です。
メタゲームのデータを集めているサイトによると、《血染めの月》は今やモダンで使用頻度の高いカードトップ10に入っています。多くのデッキがコントロールデッキとランプデッキに対する解答として用いているからです。
これは、ラクドスシャドウが《夢の巣のルールス》を放棄してサイドボード後に《血染めの月》を使うとこから始まり、オボシュ果敢はメインデッキに《血染めの月》を入れたデッキとして認識されるようになりました。ヘリオッドカンパニーでさえも、赤をタッチしてサイドボードに《月の大魔術師》を入れることで、《集合した中隊》から出せるようにしたこともあったのです。
モダンの新顔たち
ラクドスミッドレンジ
《血染めの月》のメタゲーム上の意義を理解したところで、まずは直近数週間にモダンのメタゲームに定着した新しいミッドレンジデッキを見てみましょう。
最優秀新人選手のラクドスミッドレンジくんです。
2 《山》
3 《血の墓所》
4 《血染めのぬかるみ》
4 《汚染された三角州》
4 《黒割れの崖》
-土地 (22)- 4 《マグマの媒介者》
3 《死の飢えのタイタン、クロクサ》
4 《歴戦の紅蓮術士》
3 《砕骨の巨人》
-クリーチャー (14)-
モダンのジャンドは長い間デッキとしては弱く、笑いものになっていました。ゲーム終盤の《原始のタイタン》や《自然の怒りのタイタン、ウーロ》デッキにまったく対応できないのがジャンドの最大の問題でしたが、メインデッキに《血染めの月》を入れることによって相性が改善しました。
このデッキの肝は、相手に対してただ《血染めの月》の対処を要求するだけでなく、大量のハンデスでサポートされた《血染めの月》の対処を強要していることです。オボシュ果敢もグルールポンザもメインデッキに《血染めの月》を入れることに成功していましたが、《血染めの月》に対する解答を手札に残しておけないとなると話は変わってきます。
その結果、《血染めの月》に対処するカードの枚数を絞っていて定着されると苦しくなるデッキは、メタゲーム上の立ち位置がいいとは言えません。
黒と赤の色の組み合わせは、モダンのミッドレンジデッキが好んで使うような強力で能動的な2マナ域のカードに恵まれていません。昔は《闇の腹心》がその役割を担えたのですが、現代のモダンでタフネス1のこのクリーチャーは、どんな対戦相手を想定しても強いとは言い難い状態です。
『ゼンディカーの夜明け』に収録されている《マグマの媒介者》は、戦場で存在感を持てるサイズでありつつ、ゲーム後半に不要になった土地とハンデスをほかのカードに交換できる手段としてこのデッキに席を得ました。ラクドスはまだ発展途上の新しいデッキです。相手に突きつける脅威となるカードの構成にはそれなりに多様性があります。それが洗練されていけば、向こう数週間でこのデッキはさらに強くなるでしょう。
ラクドスやそのほかの《血染めの月》デッキの流行が意味しているのは、《原始のタイタン》デッキとコントロールデッキにとってゲーム後半になれば勝てるという保証がなくなったということです。《血染めの月》に対する解答を持っている必要があり、そうでなければゲームプランは破綻します。遅いデッキは、今後数週間のうちに適応することでしょう。
4色コントロール
強力なラクドスカラーのデッキが現在2つも存在しているので、対象に取れるパーマネントの幅が広い《天界の粛清》はサイドボードカードとして有用です。直近のModern Showcase Qualifierでは、サイドボードに4枚フル投入している4色コントロールデッキが優勝しています。参加権を持っている人が少数に限られた大会で、大胆なメタ読みが横行するのは事実なのですが、もっと一般的な大会でもサイドボードに4枚《天界の粛清》を入れることに妥当性はあると考えています。相手のハンデスに対して解答の質よりも量で対抗したいからです。
私の経験上、メインゲームに打ち消し呪文と《時を解す者、テフェリー》を用いつつ、サイドボード後に《天界の粛清》で補強するのは4色コントロールにとって頼れるゲームプランだと感じています。私が今4色コントロールデッキを使うとしたらこういうデッキリストにするでしょう。
1 《島》
1 《森》
1 《冠雪の島》
1 《冠雪の森》
1 《ケトリアのトライオーム》
1 《ラウグリンのトライオーム》
1 《繁殖池》
1 《神聖なる泉》
1 《蒸気孔》
1 《踏み鳴らされる地》
1 《寺院の庭》
2 《神秘の聖域》
4 《溢れかえる岸辺》
4 《霧深い雨林》
4 《沸騰する小湖》
2 《死者の原野》
1 《廃墟の地》
-土地 (29)- 3 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》
2 《創造の座、オムナス》
-クリーチャー (5)-
2 《稲妻》
4 《成長のらせん》
2 《マナ漏出》
3 《否定の力》
3 《謎めいた命令》
1 《約束の刻》
3 《レンと六番》
3 《時を解す者、テフェリー》
1 《精神を刻む者、ジェイス》
1 《ドミナリアの英雄、テフェリー》
-呪文 (26)-
《原始のタイタン》デッキについて話しましょう。もともとアミュレットタイタンはさまざまな理由から使いたくないと思っていましたが、《血染めの月》にかなり弱いデッキなので現在の立ち位置自体も良くないと言っていいでしょう。
《大いなる創造者、カーン》は《血染めの月》が場に出ていても使える脅威として採用することはできますが、経験上《血染めの月》がある状態で《カーン》から勝てる確率は高くないうえに、アミュレットタイタンにとって《カーン》のための充実したウィッシュボードを組むことには多くの代償がともないます。
アミュレットタイタンよりも主流のセレズニア型は、サイドボードに《血染めの月》への解答にもなる《天界の粛清》を入れつつ、ラクドスシャドウにメインゲームから勝てるのでいいデッキでしたが、メインデッキの《血染めの月》に対処するのは簡単ではありません。
メインデッキに《エラダムリーの呼び声》でサーチできる《スカイクレイブの亡霊》を用意するのは、あまりデッキに無理を強いない方法なので、今の環境なら1枚あるいは2枚入れることさえも賢明に思えます。白のダブルシンボルは、序盤からフェッチランドで用意してしまうと立ち回りが難しくなってしまいますが、《イリーシア木立のドライアド》は《血染めの月》が場に出ていても色マナを整えてくれます。
シミックタイタン
この1か月シミックカラーの《原始のタイタン》デッキで試行錯誤しています。デッキに可能性があるのか、それともデッキの強弱とは関係なく自分が楽しんでいるだけなのかはあまりよくわかっていません。このデッキは、軽い打ち消し呪文と戦闘を1ターン止められる《謎めいた命令》を使いながら、さっさとゲームを中盤戦に持ち込んでしまおうという方向性の《原始のタイタン》デッキです。
メインデッキの《血染めの月》に対する解答は完璧ではありませんが、基本土地の枚数と基本土地へのアクセス手段を増やすことは問題を解決する助けになるはずです。《血染めの月》を打ち消すことや《イリーシア木立のドライアド》で《謎めいた命令》を使えるようにしてバウンスすること、あるいは単に基本土地からマナを捻出して《自然の怒りのタイタン、ウーロ》を「脱出」させてリソースゲームに持ち込むことで、勝利できるパターンが存在しています。
2 《森》
1 《冠雪の島》
1 《冠雪の森》
1 《ゼイゴスのトライオーム》
2 《繁殖池》
1 《神秘の聖域》
4 《霧深い雨林》
1 《溢れかえる岸辺》
1 《汚染された三角州》
1 《沸騰する小湖》
1 《新緑の地下墓地》
1 《溢れかえる果樹園》
1 《シミックの成長室》
2 《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》
1 《ボジューカの沼》
1 《ギャレンブリグ城》
1 《雲の宮殿、朧宮》
2 《死者の原野》
1 《爆発域》
1 《廃墟の地》
1 《光輝の泉》
1 《ヴェズーヴァ》
-土地 (31)-
4 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》
4 《原始のタイタン》
-クリーチャー (12)- 4 《成長のらせん》
4 《差し戻し》
3 《明日への探索》
4 《謎めいた命令》
2 《約束の刻》
-呪文 (17)-
一発の砲弾に賭ける「ガラスの大砲」コンボ
『ゼンディカーの夜明け』に収録されていた裏面が土地の両面カードによってThe Spyとベルチャーが似通ったふたつの「ガラスの大砲」系デッキとして誕生しました。初見では、《否定の力》に対してある程度耐性のあるThe Spyのほうが強そうに見えました。しかし、最近ではSodekのようなコンボマスターが、メタゲーム上でのベルチャーの強さを証明しようとしています。ベルチャーは《否定の力》に対して脆弱ではあるもののメタゲームの最新事情は知っておかねばなりません。
ベルチャーがモダンでメタ上位の座にいつまでも座っていられるとは思えませんが、《否定の力》がメタ上で数を減らしたタイミングであれば、そのときこそベルチャーが再度活躍する時期でしょう。ベルチャーの新鋭の構成では、メインデッキに《否定の契約》を入れてみたり、《血染めの月》を使って相手の打ち消し呪文を消費させてみたりして《否定の力》問題を解決しようとしています。The Spyだとコンボの必須パーツだけで20枚の枠を消費してしまうので、メタに合わせて調整する枠やサイドボードと入れ替えられる枠は限られています。
ベルチャーがティアー1のデッキだとは考えていませんが、今までネオブランドが占めていたメタゲーム上の席に代わりに着いたように思えます。「ガラスの大砲」系コンボデッキとしては、より無駄が少なくて優れたデッキですからね。
白単ハンマータイム
モダンで新たに活躍し始めて、ネタデッキ枠から真剣に取り合うべきデッキへと昇格したデッキがあります。白単ハンマータイムです。
初見では冗談のようなデッキに見えますが、Modern Challengeで連続して実績を残して実力を証明しました。よく見てみると、今の環境で強いデッキに求められる条件を満たしていることがわかります。軽い《夢の巣のルールス》デッキなので《否定の力》に強く、ほぼ単色のデッキなので《血染めの月》は意に介さず、《溶岩の投げ矢》も苦にはしていません!「ガラスの大砲」系デッキに見えますし、除去にも弱そうではありますが、ハンマータイムの強みは見かけによらずタフなところにあるのだと考えています。
《ルーンの与え手》、インスタントタイミングで飛んでくる《巨像の鎚》、《純鋼の聖騎士》によるドローと再装備、《夢の巣のルールス》、サイドボードのハンデス。これらが合わさると除去に対してかなり抵抗力を持つことができます。このデッキが成功しているのはまぐれなどではなく、モダンに存在し続けるデッキとなるはずです。従来は感染が担っていた、環境に除去が減ってきたタイミングでメタ上に浮上するデッキの位置に、新たに参入したデッキなのです。
おわりに
今日の記事はここまでです!モダンのメタゲームの最前線を追い続けることは、オンラインオンリーの時代でもかなりやりがいがあって楽しいですし、Modern ChallengeやPTQ、定期的に開催されるMagic OnlineのShowcaseイベントで勝ちたいなら必要な挑戦でもあります。
また次回会いましょう。みなさん健康には気をつけて。