Translated by Kouhei Kido
(掲載日 2021/01/18)
はじめに
みなさんごきげんよう。
『カルドハイム』の発売も近くなり、興味深いカードもたくさん発表された。この記事では、その中で1枚のカードに焦点を絞って考えていこう。《嘘の神、ヴァルキー》/《星界の騙し屋、ティボルト》という2つの面を持つ新カードについて、各フォーマットでどういう使い方ができそうなのか検証する。まずはこのカードがなぜ強いのかについて語ろう。
《嘘の神、ヴァルキー》
このカードは《自然の怒りのタイタン、ウーロ》にまみれたこの世界に変化を起こすことができるカードだ。2ターン目に《ウーロ》を追放して、3ターン目に《ウーロ》として攻撃できるというのはすごい。対戦相手が土地を起こしたまま構えていれば、3ターン目に変身する能力を起動するかどうかは本来なら悩ましい決断だが、相手の手札は先ほど見ているのだから難しいことはない。
《星界の騙し屋、ティボルト》
モードを持つ両面カードは、表の面が「続唱」や《白日の下に》の点数で見たマナ・コストの条件に合致すれば、両方の面から好きなほうを選んで唱えることができる。《死せる生》と違って「続唱」で毎回《星界の騙し屋、ティボルト》を出せるようにデッキを組む必要はなくて、候補として追加されているだけで十分なんだ。「続唱」でズルをするのに失敗しても《嘘の神、ヴァルキー》の面が手札でカードとして不要牌にならないことを保障してくれるし、ミッドレンジデッキなら7マナまでマナが伸びることもある。
紋章が消えないことを考慮すれば、《星界の騙し屋、ティボルト》の忠誠度能力はどれも強い。カードを2枚引く、好きなクリーチャーかアーティファクトを追放する、たくさんカードを引く、という3つの忠誠度能力といえるだろう。初期忠誠度も非常に高く、《突然の衰微》の対象にもならない。
始発駅「モダン」
まずはモダンから、古き良きジャンドで使ってみよう。
ジャンド
1 《山》
1 《森》
2 《草むした墓》
1 《血の墓所》
1 《踏み鳴らされる地》
4 《新緑の地下墓地》
3 《血染めのぬかるみ》
1 《樹木茂る山麓》
4 《黒割れの崖》
2 《怒り狂う山峡》
1 《育成泥炭地》
2 《やせた原野》
-土地 (25)- 3 《漁る軟泥》
3 《嘘の神、ヴァルキー》
2 《タルモゴイフ》
4 《血編み髪のエルフ》
-クリーチャー (12)-
4 《思考囲い》
2 《コジレックの審問》
1 《稲妻》
3 《突然の衰微》
2 《コラガンの命令》
1 《大渦の脈動》
2 《レンと六番》
4 《ヴェールのリリアナ》
-呪文 (23)-
《自然の怒りのタイタン、ウーロ》が登場して以来、ジャンドにとっては厳しい世界になってしまった。《創造の座、オムナス》が合流してからさらに事態は悪化して4色オムナスがメタゲームを支配した。ジャンドは相手のリソースを枯渇させて勝つという発想のデッキだが、出たときにカードを引く能力の付いた6/6の存在と土地による勝利の組み合わせが誕生したことによって、リソースを枯渇させることが不可能になった。
モダンをやっている人ならジャンドに一般的に採用されているカードは知っているだろうから、1枚ずつ説明することはせずに変更点を見ていこう。
手札破壊から入って、2ターン目に《嘘の神、ヴァルキー》で《自然の怒りのタイタン、ウーロ》を追放するのが理想的な滑り出しだ。
「続唱」で《星界の騙し屋、ティボルト》がめくれたとき、《血編み髪のエルフ》はまだスタックに乗っているため、《星界の騙し屋、ティボルト》の忠誠度能力を起動する前に対戦相手から妨害されてしまうことに留意が必要だ。5ダメージ与えられる可能性は低いけど、《稲妻》や《創造の座、オムナス》の「上陸」能力でダメージを受けると2つ目の忠誠度能力は使えなくなる。
「続唱」のために特定のカードを積み込んでおく効果的な方法はない。《亡骸のぬかるみ》や《魔女の小屋》をデッキに入れると、メリットよりもデメリットのほうが大きくなるだろう。《残忍な剥ぎ取り》は少しマシかもしれないからそのうち試してみるかもしれない。
多くのデッキが「脱出」持ちのカードを使っている現在では、対戦相手がこちら側の《タルモゴイフ》のサイズを小さくすることも可能だ。こんなことを言うなんて想像もしていなかったが、ついに《タルモゴイフ》に別れを告げる日が来たのかもしれない。《漁る軟泥》はまだまだ2マナのクリーチャーとして花形で居続けるだろう。
新セットの強化に加えて、ウーロデッキに焦点を当てたサイドボードを用意することで相性がジャンド有利になれば、ジャンドは再びモダンの最前線に戻ってくることができるのではないだろうか(ウーロデッキに対しては、《窒息》《沸騰》《血糊の雨》《運命の神、クローティス》を2枚ずつサイドインし、《稲妻》1枚、《コラガンの命令》2枚、《致命的な一押し》4枚、《突然の衰微》を1枚サイドアウトする)。コンボやアグロに対しては基本的に互角か有利で、ほかのミッドレンジデッキにもサイドボードで対処できるカードを用意できる。
大胆にサイドボーディングするリビングエンドも試作しようとした。《死せる生》と重いクリーチャーの一部をサイドアウトする。3マナ未満の点数で見たマナ・コストのカードを持つカードを《嘘の神、ヴァルキー》だけにして、ほかにも《血染めの月》や《石の雨》をサイドインする、といった具合だ。しかし、《星界の騙し屋、ティボルト》を「続唱」するという機軸を導入してもデッキのほかのカードとあまりシナジーがないし、《星界の騙し屋、ティボルト》に依存しすぎるデッキはリスクが高そうだった。
オルゾフトークン
ズルいことをして《星界の騙し屋、ティボルト》を出す手段は「続唱」以外にも存在している。たとえば『ローウィン』の「秘匿」持ちの土地サイクルでも可能になる。《風立ての高地》は良さそうだから、白黒トークンと組み合わせてみた。
赤マナが出ないのではないかと疑問に感じているかもしれないが、このアーキタイプのデッキは7マナまで土地が伸びることは考えにくいから必要ない。手札に《嘘の神、ヴァルキー》を引いてしまったら、ほかの9枚のハンデスと組み合わさることで効果を発揮する。正直に言えば《未練ある魂》と《苦花》が今のモダンのメタゲームに合っているとは思わないけど、選択肢として覚えておいて損はないはずだ。
《星界の騙し屋、ティボルト》を簡単に出せる別の選択肢は《白日の下に》だ。ほかの手段と違って出そうと思えば確実に出せるけど、3/2速攻のクリーチャー(《血編み髪のエルフ》)がおまけで付いてこないうえに、2マナ節約して7マナのプレインズウォーカーを出しているだけではモダンでは強いとは言えない。パイオニアで使うことについて、のちほど考えてみよう。
2駅目「レガシー」
私が初めてレガシーで使った大会向きのデッキはスゥルタイ《断片無き工作員》だった。もはやメタゲーム内には存在していないアーキタイプとはいえ、今でも愛着はある。《死儀礼のシャーマン》がレガシーから退場してからは時代遅れのデッキではあるが、《星界の騙し屋、ティボルト》をデッキに入れることで復活できないか試してみよう。
サイドボードは特にそうだが、実戦で試さずにレガシーのデッキを組むのは無理難題だ。だからデッキすべてを作り変えてしまうのではなく、以前のものと似たようなデッキリストを組んでみた。
続唱スゥルタイ
3 《Underground Sea》
2 《Bayou》
1 《Badlands》
4 《霧深い雨林》
4 《新緑の地下墓地》
3 《不毛の大地》
1 《ヴォルラスの要塞》
-土地 (21)- 4 《貴族の教主》
4 《タルモゴイフ》
3 《悪意の大梟》
3 《嘘の神、ヴァルキー》
4 《断片無き工作員》
-クリーチャー (18)-
《断片無き工作員》デッキがメタゲーム内のデッキだったのはもうずいぶんと前のことだから、まずは採用カードを改めて見てみよう。
「続唱」
《断片無き工作員》
点数で見たマナ・コストが2のカードを「続唱」するのに適していて、《タルモゴイフ》を成長させるアーティファクトでもあり、《意志の力》のピッチコストに当てられる青いカードでもある。このデッキの中心となるカードだ。
「続唱」で唱えたいカード
《祖先の幻視》
《船殻破り》や《トレストの使者、レオヴォルド》がメタゲーム内で増えない限りは、1ターン目にとる動きとして手堅い。過去にこのデッキがメタゲーム内に存在していたときには「続唱」で唱えたいカード筆頭だった。今は《祖先の幻視》以上に唱えたいカードがある。
4ターン目以降に引いてしまったら《渦まく知識》でデッキに戻すカードや《意志の力》のピッチコストで消費するカードとして使うことを検討したほうがいい。《渦まく知識》や《意志の力》がまだ手札になかったとしてもだ。
《嘘の神、ヴァルキー》/《星界の騙し屋、ティボルト》
最近は《暗殺者の戦利品》をあまり見かけていない。つまり7マナの青くないプレインズウォーカーは、打ち消しか《真髄の針》でしか対処できないということだ。こちらも《意志の力》を使うデッキだから、相手にとってはより対処しづらいだろう。コンボデッキ以外にとって、《星界の騙し屋、ティボルト》が戦場に一度着地してしまうと苦しい戦いになる。
もちろん《嘘の神、ヴァルキー》として唱えるのもためらうことはないだろう。相手の手札にクリーチャーがなかったり、すぐ除去されたりするかもしれないが、相手の手札を知ることで《意志の力》や《不毛の大地》を有効活用できるようになる。
「続唱」関連カード
《渦まく知識》
レガシーを象徴するカードだ。いつもどおりのすばらしさ以外にも、3ターン目の前に使えば、続く3ターン目に「続唱」で《星界の騙し屋、ティボルト》を相手に突きつける準備ができる。マナ・クリーチャーさえ出ていれば《目くらまし》にも耐性ができる。
《思案》
《渦まく知識》ほど強いカードではないが、《断片無き工作員》が必要な状況であれば探しに行ける。《断片無き工作員》をすでに手札に持っているなら「続唱」のためにデッキを並べ替えられる。何枚かはデッキに入れるべきだと思うが、正しい枚数はわからない。
《ヴォルラスの要塞》
私は《ヴォルラスの要塞》が使われていたころを知っているが、いいカードだった。《断片無き工作員》や《タルモゴイフ》を回収してくるのさえもいい選択肢だが、《星界の騙し屋、ティボルト》を「続唱」したり、ときにはふつうに唱えたりするためにも使うことができる。
その他のカード
《貴族の教主》
このデッキリストでもっとも議論の的になりそうなカードが《貴族の教主》だ。「続唱」で捲れてほしくないカードではあるが、在りし日には2ターン目に《断片無き工作員》を唱えられるというのはとても強力だったから、マナ加速も試してみたい。さらに今では、2ターン目の《王冠泥棒、オーコ》も相当な脅威になる。
デッキにはもはや《トーラックへの賛歌》が入っていないから、「賛美」があるというメリットは《極楽鳥》の黒マナが出せるというメリットよりも優れているように感じる。もし《貴族の教主》は必要ない結論になったら《思案》を増やすだろう。
《悪意の大梟》
《氷牙のコアトル》よりも《悪意の大梟》を優先するのは瞬速よりも接死のほうが重要だからだ。青と黒のマナが青と緑よりも若干出しにくいという条件を加味してもそうだ。《タルモゴイフ》のためにアーティファクトとしてカウントされるカードでもある。
《タルモゴイフ》
このデッキで《タルモゴイフ》を採用するメリットは、相手の墓地に依存せずに単独で強いカードだという点だ。相手の墓地が空でも自分のデッキだけでパワー4までは到達する。ティムールデルバーの除去はすべて耐えるうえに《真冬》に耐える可能性も高い。「続唱」でめくれても及第点のカードで、ゲームが膠着状態になったら《ヴォルラスの要塞》で継続的に相手に攻撃を続けられる。
《突然の衰微》
レガシーで使われるパーマネントで《突然の衰微》が対処できないものはほとんどない。
《王冠泥棒、オーコ》
以前のスゥルタイ《断片無き工作員》は《ヴェールのリリアナ》と《精神を刻む者、ジェイス》を採用していた。《ヴェールのリリアナ》は以前ほどの活躍が期待できない。《王冠泥棒、オーコ》よりも《精神を刻む者、ジェイス》を使いたいという状況はありえるが、2ターン目の《王冠泥棒、オーコ》はあまりにも強いので、その可能性を捨てるのは考えられない。
《意志の力》
デルバーとは違ってスゥルタイは《意志の力》を防御のために使う。このデッキはゲーム後半に向かって雪だるま式に強くなっていく。無事にゲームを長引かせれば状況は良くなる。アグロデッキと対戦しているときは、《若き紅蓮術士》や《戦慄衆の秘儀術師》のように継続的に被害を与えてくるタイプの脅威を優先的に打ち消そう。私は手札次第ではあるが1ターン目の《秘密を掘り下げる者》は打ち消さない。そのとき手札に除去できるカードがなかったとしてもだ。
マナベース
デッキは多くの色マナを必要としていて、基本土地が入っていないということは《血染めの月》が着地したらあきらめるということにもなる。ただ最近では《血染めの月》は、そこまで使われていない。古いデッキリストはもっと土地が少なくて《不毛の大地》を3枚採用していた。このデッキリストに3枚入っていることにも問題はないはずだが、もし問題を感じれば枚数を減らしてもいい。
終着駅「パイオニア」
5色ニヴ
1 《島》
1 《沼》
1 《山》
1 《森》
4 《寓話の小道》
2 《インダサのトライオーム》
2 《ラウグリンのトライオーム》
2 《ゼイゴスのトライオーム》
1 《ケトリアのトライオーム》
1 《サヴァイのトライオーム》
2 《草むした墓》
2 《寺院の庭》
1 《血の墓所》
1 《蒸気孔》
1 《湿った墓》
1 《マナの合流点》
1 《水没した地下墓地》
1 《氷河の城砦》
1 《根縛りの岩山》
-土地 (28)- 4 《森の女人像》
3 《楽園のドルイド》
1 《嘘の神、ヴァルキー》
3 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》
2 《創造の座、オムナス》
1 《破滅の龍、ニコル・ボーラス》
3 《ニヴ=ミゼット再誕》
-クリーチャー (17)-
このフォーマットに「続唱」はないから、《白日の下に》の選択肢に1種類増やすだけだ。《星界の騙し屋、ティボルト》のメリットは《創造の座、オムナス》や《自然の怒りのタイタン、ウーロ》に対して完全な解答となりつつ、本人も場に残れば脅威であり続けるところだ。ただし、追放した《自然の怒りのタイタン、ウーロ》を紋章で唱えたら相手の墓地に戻ることは見落とさないでほしい。
5色ニヴの問題は、デッキに入っているカードの多くが状況を選ぶから手札にあるカードで場を制御するのが苦手なところだ。《嘘の神、ヴァルキー》を追加するのはわずかな変更かもしれないけど、デッキとしてはかなり強くなるはずだ。
デッキの骨格はあまり変わっていないから詳しく解説することは避ける。ただ、《森の女人像》4枚と《楽園のドルイド》0~2枚を採用するのが主流だということには言及しておこう。プレイヤーズ・ツアー名古屋のために調整をしているときに、《森の女人像》4枚と《楽園のドルイド》3枚が妥当だと感じていたし、それは今も変わっていない。デッキに入っているほかのカードは、キャントリップかゲームを終わらせられるカードだからマナが余るということは起きないだろう。
おわりに
《アガディームの覚醒》と《髑髏砕きの一撃》は使っていて楽しいカードだ。『カルドハイム』の両面カードにも同じくらい期待しているよ。そのうちもっと相互作用が見えてきて語るべきことも増えるはずだが、今日はここまでにしておこう。
ここまで読んでくれてありがとう。
幸運を!そしてオンラインで対戦できるのを楽しみにしているよ。
ドミトリー・ブタコフ (Twitter)