Translated by Kouhei Kido
(掲載日 2021/01/26)
はじめに
私たちは最新エキスパンションで新次元『カルドハイム』を訪問します。今回の記事では、新セットで初めてプレイするときの準備を整えるために、リミテッドに主眼を置いています。それでは、この新次元をご案内しましょう。
『カルドハイム』のメカニズム
どのエキスパンションにも、新しいメカニズムと再録されるメカニズムがあります。新しいメカニズムの挙動とリミテッドへの影響をあらかじめ理解しておけば、発売直後の時期に有利に戦えるのです。
「予顕」
あなたのターン中であれば、インスタントタイミングで2マナを支払って「予顕」を持つカードを裏向きで追放することができます。そうした場合、次のターン以降に本来のマナコストではなく「予顕」のマナコストで追放領域から唱えられます。
「予顕」カードの多くは、「予顕」するとマナが軽くなったり、追加効果を持っていたりします。リミテッドでは2ターン目に何かを「予顕」することが多くなりそうなので、2マナ域のカードは価値が落ちることでしょう。また、「予顕」によってマナコストが下がるので、大型のクリーチャーがより早く出てくるようになります。重要な注意点として、「予顕」するとそのターンには唱えられなくなるので気をつけましょう。
最後に付け足すとすれば、「予顕」は『カルドハイム』のカードプールに対する理解が深い人に味方します。特に「予顕」持ちのインスタントはそうです。マナコストを覚えていると大きく有利になることでしょう。「変異」があったセットでのリミテッドを思いださせますね。「変異」のコストと効果を覚えていることがとても重要だったのです。『カルドハイム』の「予顕」でも同様の理解が要求されるようになると考えています。
「誇示」
「誇示」は1ターンに1回、攻撃を宣言したあとにしか起動できない能力です。
リミテッドにとって「誇示」は攻撃することを奨励する能力です。攻撃する行為に対してボーナスを与える能力で、『アモンケット』の「督励」を連想します。『アモンケット』のリミテッドはとても速い環境になりましたから、「誇示」もリミテッドに似たような効果をもたらすのではないかと想定しています。対戦相手が攻撃するだけでボーナスを得られるので、守りに回るのはかなり分が悪くなるでしょう。また、「誇示」は遅いデッキで使うと弱くなるので注意が必要です。
「誇示」は攻撃を宣言したあとなら、相手がブロック指定するよりも前に起動できることもお忘れなく!
「多相」「氷雪」「英雄譚」
これらのメカニズムは新しいものではないので、リミテッドに対する影響は予想しやすくなります。再録されたメカニズムは、必ずしも以前と同じような影響をリミテッドにもたらすとは限りませんが、影響を考える議論の出発点としてはまずはその方向性で考えるとよいでしょう。
3つの要素の中では「氷雪」がもっとも大きな影響を与えます。ドラフト中も一定の割合で「氷雪土地」をピックすることを考えなければいけません。「氷雪」カードが取れていれば取れているほどデッキが強くなるのです。
『モダンホライゾン』のドラフトでは「基本氷雪土地」を早めにピックするようにしていました。最初の2パックで「氷雪土地」が卓を1周してきたら、私ならかなり強めに「氷雪」シナジーに寄せることにしていたのです。『カルドハイム』でも同じようなテクニックが使えるのではないでしょうか。とはいえ、『モダンホライゾン』のほうが「氷雪」に寄せることによって得られるメリットは『カルドハイム』よりも大きかったように思えます。
『カルドハイム』の「多相」は青と緑に存在しています。「多相」はリミテッドの環境を大きく変えることはありませんが、『ローウィン』のような部族テーマのセットでは優先度の高いピック対象でした。『カルドハイム』にもいくつか部族テーマが存在していますが、多くは重要度が低そうなもので、「多相」を持っているという理由でリミテッドでのカードの評価が大きく変わることはないと思います。
「英雄譚」はとても綺麗にデザインされていて、テーマ性も高いので、復活してくれるのは嬉しいですね。『カルドハイム』に存在しているすべての「英雄譚」が多色のレアとアンコモンで、そのほとんどがかなり強力なものです。ドラフトで多色のアンコモンがパックの最後のほうまで流れているということは、その色の組み合わせが空いているシグナルなので見落とさないようにしましょう。
『カルドハイム』の物語
『カルドハイム』はふんわりと北欧神話に基づいていて、面白そうな世界観になっています。私はいつもさまざまな神話に魅了されてきました。『カルドハイム』という次元名自体も翻訳すれば「冷たい土地」という意味です。
北欧神話では世界樹ユグドラシルの周囲に9つの世界が存在しています。描かれているのは異なる世界とそこで暮らす人々です。
『カルドハイム』のデザイナーは北欧の民間伝承を『カルドハイム』の物語の土台としました。カルドハイム次元には世界樹の周囲に10の領界が存在しています。これらの領界がぶつかり合って良くない出来事が起きてしまうこともあるのです。『カルドハイム』は神々の存在もテーマとしていて、それぞれが強い両面カードではあるものの、神話レアとレアなのでリミテッドにはあまり影響を与えないでしょう。
あなたが幸運にも対面のマジックをしても問題ない地域にお住まいであれば、両面カードがドラフトに与える影響を考慮せねばなりません。もし上下のプレイヤーが強い神をパックから引き当てたら、その色で競合すること自体を避けたほうがいいかもしれません。上下のプレイヤーと協調することが強いデッキを組むコツです。
色の組合せと世界観
世界観は興味深いですが、そこから『カルドハイム』のリミテッドについて何が学べるでしょうか?それぞれの領界は、ざっくり言うとマジックの5色のうち2色のペアにそれぞれ相当します。そのため、北欧神話の9つの世界から10の領界へと数が1つ増やされたのでしょうね。
あるカードがどの領域でデザインされたかをテーマ別に知ることは、ドラフト・デッキがどのような形になるかを思い描くうえで、非常に有用な出発点になります。ラヴニカ次元を舞台にしたギルドはそれぞれ個性的で、カードの文章欄にもギルドシンボルの透かしが入っていますが、『カルドハイム』ではそこまでわかりやすくはありません。
白+青:スピリットの領界「イストフェル」
白青には「予顕」のテーマがあります。「予顕」が大量に入ったデッキをドラフトするのが楽しみですね。メカニズムとしてとても強そうで、対戦相手を大いに悩ませることでしょう。
赤+白:ドワーフ・装備品・宝物の領界「アクスガルド」
赤白はアグロ寄りの色になることが多いですが、『カルドハイム』でもそのようです。
緑+青:多相の領界「リトヤラ」
『カルドハイム』の「多相」メカニズムに対応している色の組み合わせです。素直な青緑のデッキをドラフトではあまり見ないのではないかと想定しています。「多相」は簡単にほかの色の組み合わせでも採用することができますし、すべてを同じデッキに入れることに大きなメリットもなさそうです。
青+黒:ドローガーと呼ばれるバイキングのゾンビの領界「カーフェル」
「切削」と「氷雪」のテーマが青黒には含まれています。
黒+赤:デーモンと火の領界「イマースターム」
いつも通りアグロ寄りの混沌とした黒赤に加えて、たくさんの「誇示」が付け足されています。
白+黒:ヴァルキリー(戦乙女)と堕ちたる英雄たちの領界「シュタルンハイム」
ある程度の天使要素がテーマですが、濃いシナジーはありません。
赤+緑:トロールの領界「ノットヴォルド」
ちょっとした土地破壊テーマが存在しているようですが、通例リミテッドでは使い物にならないことが多いテーマです。しかし赤緑が使い物にならないということにはなりません。クリーチャーの大きさで試合に勝利できます。ただ、土地破壊を主軸にしたデッキを組まないように。
青+赤:炎と氷の巨人の領界「セルトランド」
巨人も「氷雪」も『カルドハイム』で重要なテーマです。ちょっとしたウィザードテーマも存在しているので、「多相」は青赤のデッキで重要になると考えられます。
緑+白:人間の領界「ブレタガルド」
『カルドハイム』ではトークンを生みだす手段もそのクリーチャーサイズを上げる手段も豊富に用意されているようなので、緑白のデッキはクリーチャーを横に並べていくテーマなのでしょう。
黒+緑:エルフの領界「スケムファー」
北欧のアルフヘイムとスヴァルトアルフヘイムをモチーフにした領界です。『カルドハイム』でもっともはっきりとした部族テーマを持っているのはエルフです。
それぞれに領界の名前が入っているのでアンコモンの土地サイクルをイラストとして挿入しました。リミテッドではそれぞれの土地を起動するためには2色とも採用している必要があることを忘れないでください。能力を起動しようとしているときに、その土地自身からはマナが出ませんからね。
リミテッドのコツ
リミテッドに関する考察を今まで語ってきました。読者のみなさんが『カルドハイム』環境初期のリミテッドで有利になるために、アドバイスを5つまとめてリストにしてみました。どのようなセットのリミテッドでも役立つアドバイスもあれば、『カルドハイム』特有のアドバイスもあります。
すべてのインスタントと「予顕」を覚えよう
もし勝ちたいなら新カードを出されてびっくりしているようではいけません。特にコモンとアンコモンはしっかり覚える必要があります。何が出てくる可能性があるのか知っておくことは重要です。
3色以上の多色化を試してみよう
記事の前半では、領界にも対応しているので2色の組み合わせについて語ってきました。コモンの2色タップインランドサイクルが10通りすべて存在しているので、3色のデッキもたくさん見るのではないかと考えています。自明かもしれませんが、色を増やすと強いカードをより多く使えます。『カルドハイム』には5色にするとメリットがあるカードすら存在していて、活用できることを楽しみにしています。3色以上のデッキでは「氷雪」シナジーが採用しやすいでしょうね。
レアと神話レアを使おう
『カルドハイム』のレアと神話レアはとても強力に見えます。リミテッドで使い物にならないレアと神話レアはごくわずかのようです。環境初期のうちにレアと神話レアを試しておくのは、どのセットでもすべきだと今まで私は主張してきました。実際にカードを使ってみることでそのカードの本当の強さはわかるもので、レアと神話レアはそれを試す機会が少ないのです。もし迷ったらレアを取りましょう!
欲張りになろう
環境初期は流れるように序盤から展開してくるデッキが少なくなりがちなので、欲張って強力な重いカードを多く採用したデッキを使っても手痛く罰せられることは少ないはずです。アグロデッキの一部、特に黒赤が強い可能性はあると感じていますが、環境初期なら欲張りになることにメリットはあるはずです。
たくさん遊んでたくさん楽しもう!
そんなことかと思うかもしれませんが、これは大事なことです。楽しんでプレイして、たくさんプレイすれば、たくさん勝てます。どうやると上手くいくのか記録して、プレイするすべての試合から学ぶ姿勢も重要ですが、それと同時に楽しむべきです。
おわりに
私はおそらく『カルドハイム』のリミテッドをオンラインだけで楽しむことになるでしょう。少し残念です。オンライン開催であっても、レベルの高いリミテッドの大会が開かれるといいですね。リミテッドは最高レベルの競技マジックの場に存在していたほうがいいフォーマットです。新しいセットが出るたびにリミテッドの観点からもわくわくします。発見や挑戦に満ちているからです。私は『カルドハイム』を楽しむので、読者のみなさんもぜひ楽しんでください。
読者のみなさんを『カルドハイム』のリミテッドにいざなうためのちょっとした紹介記事のつもりで書いたので、一部の読者には物足りなかったかもしれません。『カルドハイム』でドラフトしたデッキをTwitterに投稿する予定なので、ぜひフォローしてください。なにか疑問があったら遠慮せずに私に聞いてくださいね。
パスカル・フィーレン (Twitter)