はじめに
みなさま、「名カード集」へようこそ。
マジックが誕生して早27年、『4版』にて日本語版が発売となって以降、これまでたくさんのカードセットが発売されてきました。その中には拡張セット(以下、エキスパンション)と呼ばれ、基本セットを強化することを名目に作成されたものが存在しています。最近でいえば、『カルドハイム』がこれに該当しています。
この「名カード集」では、時代を過去へと遡り、昔のエキスパンションの名だたるカードを紹介していきます。
第1回目はマジック初のエキスパンションとなった『アラビアンナイト』をご紹介しましょう。
『アラビアンナイト』ってどんなセット?
はじめに、『アラビアンナイト』の簡易説明をば。
『アラビアンナイト』とは、1993年12月に発売されたマジック初のエキスパンションであります。セットデザイン・デベロップメントを手掛けたのは、マジックの生みの親Richard Garfield氏であり、収録カードは全78種類と、かなりの小型セットとなっています。また、同セットは『千夜一夜物語』を題材としており、アラビア風の世界観や実際に存在する地名も登場しております。
最初の拡張セットということもあり、色の役割は不明確であり、突飛なメカニズムやカードが多数存在しています。特に「対エキスパンションカード」と呼ばれる《City in a Bottle》は、『アラビアンナイト』のカードのみに効果を発揮するというものでした。
「もともと『アラビアンナイト』エキスパンションにて印刷された名前のトークンでない他のパーマネントが1つ以上戦場にあるたび、それらのコントローラーはそれぞれそれらを生け贄に捧げる。」
「 プレイヤーは、もともと『アラビアンナイト』エキスパンションにて印刷された名前の呪文を唱えたり土地をプレイしたりできない。」
今でいう対策カードの前身と思われますが、色やカードタイプではなくエキスパンションまるごと対策してしまう何とも大味なデザインとなっています。
『アラビアンナイト』の名カードたち
《Juzám Djinn》
「あなたのアップキープの開始時に、《Juzám Djinn》はあなたに1点のダメージを与える。」
まずご紹介するのは《Juzám Djinn》。マジック黎明期を代表する黒のクリーチャーであり、当時では破格のスペックを有しております。当時A定食と呼ばれた《暗黒の儀式》+《惑乱の死霊》に負けず劣らず、このカードも《暗黒の儀式》の恩恵を受けた1枚であります。2ターン目に登場するのは日常茶飯事、《Mox Jet》があれば最速1ターン目からキャスト可能。いくら《稲妻》があろうとも、1ターン目に現れる5/5はどうにもなりません。
ところでみなさま、このカードのマナコストが何マナかご存知でしょうか?黒のダブルシンボルの2マナ、ではなくその隣に不特定マナコストがあり4マナなのです。実は印刷具合により不特定マナコストが若干薄くなっているのだとか。注意深く見ると気がつきますが、パッと見では2マナと勘違いしてしまいそうですね。
また、このカードの持つデメリットにも注目でしょう。「何かしらの代償を支払うことで高コストパフォーマンスを得る」黒特有のカードデザインがあるのです。このデザインは脈々と受け継がれていき、代表的な後継者としては《ファイレクシアの盾持ち》があげられます。
《セレンディブのイフリート》
「飛行」
「あなたのアップキープの開始時に、《セレンディブのイフリート》はあなたに1点のダメージを与える。」
《Juzám Djinn》の青版、それが《セレンディブのイフリート》。こちらも維持するのに毎ターンライフを要求してきますが、現在の感覚では「青のカードがライフを要求する」デザインに違和感を覚えます。まだ色の役割や特色が決まっていなかった、黎明期特有のカードといえます。
しかし、その強さは《Juzám Djinn》を凌ぐほどであり、一度着地しようものなら飛行も相まって爆撃機のごとく相手のライフめがけて攻撃を続けます。《稲妻》で除去されない点もポイントが高く、オールドスクールでは青の攻撃的なデッキの主力クリーチャーとして、今もなお活躍しています。
『アラビアンナイト』自体は英語のみのセットですが、『エターナルマスターズ』に再録されたことで日本語名がつけられているのです。
《アーナム・ジン》
「あなたのアップキープの開始時に、対戦相手1人がコントロールする壁でないクリーチャー1体を対象とする。それはあなたの次のアップキープまで、森渡りを得る。」
お次は緑のジン、《アーナム・ジン》。こちらも4マナ4/5と破格のスタッツであり、優良クリーチャーが多く攻撃的なカラーということで活躍しました。黎明期には《アーナム・ジン》をフィニッシャーに据えたステロイドやアーニーゲドンなどのビートダウンデッキ(アグロデッキ)が数多くありますが、デメリットはさほど気になりませんでした。攻撃的な構築で相手のライフを先に0にすることを信条としているため、「森渡り」を与えるよりも除去されにくい4/5のクリーチャーを得るほうがリターンが大きかったのです。
その後『ジャッジメント』に再録され、再び《アーナム・ジン》の時代が来るかと思われました。しかし、時の流れは無情であり、同色同マナ域に《幻影のケンタウロス》が存在していたことで、日の目を見ることもなくスタンダードを去ることになりました。
「プロテクション(黒)」
「 幻影のケンタウロスは、その上に+1/+1カウンターが3個置かれた状態で戦場に出る。」
「 幻影のケンタウロスにダメージが与えられる場合、そのすべてのダメージを軽減する。幻影のケンタウロスの上から+1/+1カウンターを3個取り除く。」
再録時は活躍できなかったものの、《アーナム・ジン》はアグロデッキからコントロールマッチでのサイドボードまで幅広く活躍しており、黎明期における緑の主力クリーチャーには違いありません。30代後半~40代のプレイヤーにとっては青春の1枚といえるかもしれませんね。
《ルフ鳥の卵》
「ルフ鳥の卵が死亡したとき、次の終了ステップの開始時に、飛行を持つ赤の4/4の鳥クリーチャー・トークンを1体生成する。」
ジンやイフリートが続いたところで、今度は《ルフ鳥の卵》の出番となります。今ならサクリファイスカードと組み合わせてお手軽に4/4とクリーチャーを生成と考えますが、当時はまったく別の使い方が存在していました。
それは《ルフ鳥の卵》の誤植(以下、エラッタ)よるものであります。「いずれかの領域からであっても《ルフ鳥の卵》が墓地へと置かれれば、トークンを生成できる」というテキストであったため、手札から捨てるだけで4/4のトークンが生成可能となります。後手ならば、土地をセットしないだけで1ターン目に鳥・トークンが生成できてしまったのです。
当然「戦場から」と修正が入るのですが、これがマジックの歴史における最初のエラッタとなりました。
《山》
『アラビアンナイト』には《山》が収録されていますが、ほかの基本土地は見当たりません。印刷直前に基本土地の収録が取りやめになるなどもろもろの事情から手違いが生じてしまったようで、『アラビアンナイト』には《山》のみが収録されているのです。つまり、『アラビアンナイト』のエキスパンションシンボルを持つ基本土地は《山》のみなのです。
『アラビアンナイト』の《山》にまつわる話として、「使うとよく事故る(土地を引かない)」というものがあります。カードのイラストと土地事故には何の因果関係もありませんが、一つには使っていたプレイヤーが多かったのではないかと考えます。基本地形は気に入った絵柄で統一するプレイヤーが多く、この《山》も多くのプレイヤーに愛されてきました。たった1回の土地事故でも、1人のプレイヤーと複数のプレイヤーでは印象が変わってきます。
好んで使うプレイヤーが多かったのか、印象的な場面に出くわしてしまったのか、それとも本当に呪われていたのか。今となってはことの定かは不明であり、検証のしようもありません。当時を知る方やこのような逸話に詳しい方にはぜひとも解明していただきたいことであり、今後もマジック迷信の一つとして、語り継いでいきたいと思います。
まだある名カード
さて、『アラビアンナイト』名カード集、お楽しみいただけたでしょうか。しかし、「あの有名カードなくない?」「もっといいカードあるよ!」と思われた方もいらっしゃるはず。
もっと『アラビアンナイト』のカードについて知りたい方は、ぜひ、動画もご覧ください。
次回の「名カード集」では、『アンティキティー』をお届けいたします。