はじめに
みなさま、「名カード集」へようこそ。
この「名カード集」では、時代を過去へと遡り、昔のエキスパンションの名だたるカードを紹介していきます。
今回は『フォールン・エンパイア』をご紹介しましょう。
『フォールン・エンパイア』ってどんなセット?
『フォールン・エンパイア』とは、1994年11月に発売された5番目のエキスパンションです。収録カードは102種類ですが、各色のコモンにイラスト違いのカードがあり、それらを含めると187枚。物語はドミナリアの南半球に位置するサーペイディア諸帝国の滅亡を描いています。そのためエキスパンションシンボルは王冠模様となっているのです。
部族をテーマにした最初のエキスパンションですが、同じ色であっても複数の部族が採用されており、現在のように同一部族でデッキを構築するまでには至りませんでした。例えば緑は固有種族のエルフに加え、ここでは「菌類」を意味するファンガスが登場しているのです。
先ほど述べたとおり、各色のコモンすべてに3~4種類の絵違いカードがあるのが特徴です。なかでも有名なのは《トーラックへの賛歌》。レガシーでは現役のカードであり、デッキ構築の際はお気に入りのイラストに統一したり、4枚すべて別々のイラストに分けたりと色々な楽しみ方があります。
テキスト欄では、タップシンボルに注目でしょう。昔のタップシンボルは現在のデザインとは違い、T字が斜め45°に傾いたものとなっておりました。この「傾いたタップシンボル」を使用した最後のセットが『フォールン・エンパイア』なのです。以降のエキスパンションからは、矢印を用いたタップシンボルへと変更されています。
『フォールン・エンパイア』の名カードたち
《Svyelunite Priest》
「(青)(青),(T):クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで被覆を得る。この能力は、あなたのアップキープの間にのみ起動できる。(それは呪文や能力の対象にならない。)」
記事を書くにあたり『フォールン・エンパイア』を見返していましたが、このカードと出会った時の興奮がおわかりでしょうか。「弱い」「弱い」と嘆かれた同エキスパッションにあって、その筆頭候補となるクリーチャーに違いないはず。何より、貴重なアンコモン枠を食いつぶしているのも許せません。
本来被覆とは、相手の除去呪文に対応して起動したい能力にもかかわらず、なぜか起動できるのは自分のアップキープ限定となっています。当時の環境を知る由もありませんが、何かのコンボや対抗策となった形跡があるのなら、ぜひ教えていただきたいと思います。
《Farrelite Priest》
「(1):(白)を加える。このターンにこの能力が4回以上起動されていたなら、次の終了ステップの開始時に《Farrelite Priest》を生け贄に捧げる。」
白いマナクリーチャー!?と喜んだのもつかの間、何と色マナが増えるのではなくフィルターだったという悲しい勘違い。それが《Farrelite Priest》の第一印象です。
自身のマナコストが(白)(白)のことを考えると、彼女が命をとしてまでキャストすべきスペルはこの世に存在しません。後世に《曙光の精霊》が存在しますが、それでも命を捧げるまでには至りません。謎の多きデザインとなっています。
そしてこのクリーチャーと対となる存在が黒には存在しています。《漆黒の手の信徒》です。こちらも同様に使えない…と思いきや、実は《生命吸収》と相性抜群。黒をベースにほかの色をタッチしたデッキでは《生命吸収》のサポート役にもなりました。自身も1マナと軽く、使いやすくなっています。
《Aeolipile》
「(1),(T),《Aeolipile》を生け贄に捧げる:クリーチャー1体かプレインズウォーカー1体かプレイヤー1人を対象とする。《Aeolipile》はそれに2点のダメージを与える。」
マジック初のカードセット『リミテッド・エディション』は1993年5月に発売されました。同セットには《Black Lotus》をはじめ、強力なカードが目白押し。なかでも《Ancestral Recall》は比類なきアドバンテージスペルであり、誰しもがその手から唱えることを夢見る1枚でしょう。
この《Ancestral Recall》は、ブーンズと呼ばれるインスタントサイクルに属する1枚です。ほかの4種類とは、《暗黒の儀式》と《稲妻》、《巨大化》、《治癒の軟膏》。カードパワーに大きな隔たりがあることはさておき、1マナで3つ分の影響を及ぼすサイクルとしてデザインされているのです。
このブーンズにみられるサイクルは、各エキスパンションへと脈々と受け継がれており、《Aeolipile》もその1枚となっています。『フォールン・エンパイア』には、ブーンズをアーティファクトへとリデザインした《Conch Horn》や《Implements of Sacrifice》が存在します。これらのカードは、2+1の合計3マナで2つ分の影響を及ぼすサイクルとなっています。なかでもこの《Aeolipile》は《稲妻》の系統に位置するカードであり、置き型の無色火力なのです。
3マナで2点とかなり効率の悪い呪文ですが、当時は《白騎士》《黒騎士》に代表されるプロテクションをもつウィニー(小型)クリーチャーが猛威を振るっておりました。優秀な《剣を鍬に》や《恐怖》といった除去はあれど、プロテクションの前では無力となってしまいます。この《Aeolipile》はその問題を解決すべく採用されたのです。
《鋸刃の矢》は、その上に鏃カウンターが3個置かれた状態で戦場に出る。
あなたのアップキープの開始時に、《鋸刃の矢》の上に鏃カウンターが置かれていない場合、《鋸刃の矢》を生け贄に捧げる。
(T),《鋸刃の矢》から鏃カウンターを1個取り除く:クリーチャー1体を対象とする。その上に-1/-1カウンターを1個置く。
その後、『ホームランド』にて使いやすい《鋸刃の矢》が登場し役目を終えますが、後の世にさまざまな形でリメイクされたカードでもあります。代表的なものとしては《炎の印章》や《黄鉄の呪文爆弾》があり、これらはトーナメントシーンでも活躍をみせました。
《Rainbow Vale》
(T):好きな色1色のマナ1点を加える。次の終了ステップの開始時に、対戦相手1人は《Rainbow Vale》のコントロールを得る。
『アラビアンナイト』の《真鍮の都》以降2枚目となる5色土地は、ダメージ伴わない代わりにこれまた重いデメリットが付いています。マナを生成すると、ターン終了時にコントロールが対戦相手へと移ってしまうのです。一時的に相手が使えるマナが増えるだけではなく、自分も使えるマナが減ってしまうのです。土地が手札に戻るように工夫したり、相手に渡した土地を利用できるカードと組み合わせての使用が検討されましたが、一時的にマナ差がついてしまうのは痛手となってしまいます。
1994年11月に開催された「第1回マジック・ザ・ギャザリング コンベンション」(主催:ホビージャパン)では、当時DCI組織化前ということもあり、独自の制限カードがもうけられていました。その1枚が《Rainbow Vale》なのです。発売直後の『フォールン・エンパイア』がその場で使用可能だったことやスリーブが浸透していなかったため、《Rainbow Vale》のコントロールが移動した際にオーナーが不明となる点を懸念してとのことでした。
《デレロー》
あなたが唱える黒の呪文は、それを唱えるためのコストが(黒)多くなる。
これまで4種類のカードをご紹介してきたが、その締めくくりとなるのは《デレロー》です。《デレロー》は『フォールン・エンパイア』でフィーチャーされた種族であるスラルの1枚。サイズは申し分ないものの、デメリットとして黒の呪文のコストが上がってしまいます。現在のカード基準では、到底使用に耐えうるものではありませんが、これまでのカードと比べてもらえばわかる通り、デメリットに目をつむれば破格のスペックとなっています。
まず、4/4というサイズのデカさ。マジック史上最高火力に位置する《稲妻》単体では落ちず、ほかの4マナ域とためをはれる打点の高さ。さらに色が黒というのもポイントであり、黒固有の除去《恐怖》の対象となりません。つまりは《剣を鍬に》、もしくはこれを上回るサイズのクリーチャー以外では止めることができないのです。
ただし、黒単のようなデッキではそのデメリットから使用は難しくなってしまいます。黒のカードでありながら、黒いカードが少ないデッキでの使用が望ましく、時代が進んだミラージュ・ブロック期のスタンダードでは、5色デッキのフィニッシャーとして活躍しました。色を散らすことでデメリットを打ち消し、同時に相手の《ネクラタル》や《恐怖》に強いフィニッシャーとして活躍したのです。
まだある名カード
さて、『フォールン・エンパイア』名カード集、お楽しみいただけたでしょうか。しかし、「あの有名カードなくない?」「もっといいカードあるよ!」と思われた方もいらっしゃるはず。
もっと『フォールン・エンパイア』のカードについて知りたい方は、ぜひ、動画もご覧ください!
次回の「名カード集」では、『ホームランド』をお届けいたします。