禁止後のモダン ~天変地異のその後~

Matti Kuisma

Translated by Kohei Kido

原文はこちら
(掲載日 2020/03/03)

はじめに

こんにちは!

もうみんな知っていると思うけど2月15日に複数フォーマットに渡る大規模な禁止制限が告知された。全てのフォーマットについて検討すると大変なことになるから、今日はお気に入りフォーマットのモダンがどうなりそうなのかについて解説しよう。

崩壊したデッキは?禁止を受けたけどまだ使えるデッキは?どのデッキが頂点へ?使うべきでないデッキは?サイドボードのカードを選ぶ際に考慮すべきことは?これらの問いの答えを知りたかったらこの記事を読んでくれ!

以下のカードが禁止された5種類のカードだ。

猿人の指導霊ティボルトの計略
神秘の聖域自然の怒りのタイタン、ウーロ死者の原野

追加で「続唱」のキーワードもオラクル修正されて《献身的な嘆願》《暴力的な突発》《嘘の神、ヴァルキー》をめくっても《星界の騙し屋、ティボルト》として場に出せなくなった。

オムナスの往く道

ターボティボルトの狂気の一週間を除けば禁止告知以前の最強デッキは各種ウーロコントロールデッキだったことには多くのモダンプレイヤーが同意するだろう。使用率がそこまで支配的にならなかったのは非常に高額なデッキ価格によるものだ。

これらのデッキには禁止カードの内3種類が採用されていることが多かった。《自然の怒りのタイタン、ウーロ》《神秘の聖域》《死者の原野》だ。1つのデッキから禁止カードが3種類も出たんだ、このデッキはもうおしまい、そう思うだろう?

レンと六番時を解す者、テフェリー創造の座、オムナス

ある意味では正解で、ある意味では間違いだ。これまで最強だった勝利手段は失ったけど、それを支えていた周辺のカードはまだ残っているし、一部はとても強力だ。たとえば《レンと六番》とかね。試合に勝利する直接的な手段についてはこれから最適なものを見つける必要があるけど、《レンと六番》《時を解す者、テフェリー》《創造の座、オムナス》はデッキの土台にするセットとしては手堅いものだ。

死者の原野廃墟の地神秘の聖域

この手のデッキのマナ基盤自体は改善したことにも注目が必要だ。無色土地を4枚(《死者の原野》2枚《廃墟の地》2枚)デッキに入れなくてよくなった上に、序盤に出すとタップインする島(《神秘の聖域》)も使わなくなった。つまり動き出しが滑らかではない手札でキープすることは減って、2ターン目に《レンと六番》を出せない事態も減るということだ。

《白日の下に》

白日の下に

興味があるから試そうと思っている選択肢として《白日の下に》の採用がある。

サンプルデッキリスト

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このデッキには異なる方向性のカードが同居していて多角的な攻めが可能だ。《白日の下に》によって《星界の騙し屋、ティボルト》《風景の変容》から選んで柔軟に勝利できるようにできている。「続唱」のルールは変わったけど《白日の下に》を使えば変わらずに《嘘の神、ヴァルキー》をサーチしてきて《星界の騙し屋、ティボルト》として出すことができる。

時間のねじれ

こういったデッキでは《時間のねじれ》を採用するのもいい選択肢だ。一般論としてプレインズウォーカーと相性がいいカードだけど、《レンと六番》と組み合わせると試合の勝ちに結びつく。《レンと六番》の奥義を使うと対戦相手はゲームから閉め出される。《時間のねじれ》は土地加速呪文だと考えることもできるから、《風景の変容》による勝利にも近づく。

サヒーリコンボ型

サヒーリ・ライ守護フェリダー

サヒーリコンボを採用するという選択肢もある。

サンプルデッキリスト

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《自然の怒りのタイタン、ウーロ》はサヒーリコンボ型のデッキではそこまで重要ではなかったし、代わりに除去や打ち消しでも入れておけばサヒーリコンボは強いデッキとして成立すると思う。《自然の怒りのタイタン、ウーロ》がなくても、ターンが進むにつれて有利になっていくのは得意なデッキだし、無限コンボによる勝利を搭載すれば相手の動きに対処するために必要な多くのカードをデッキから省くことができる。このデッキよりも速いコンボは苦手な相手になるけど、《猿人の指導霊》が禁止されたからそういうデッキも減っているはずだ。

《ナヒリ》《エムラクール》型

先駆ける者、ナヒリ引き裂かれし永劫、エムラクール

《先駆ける者、ナヒリ》《引き裂かれし永劫、エムラクール》を使うのも選択肢になるね。これはMagic Onlineで活躍するコントロールの専門家、McWinSauceのデッキリストだ。

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3種類のデッキは、どれも《レンと六番》《時を解す者、テフェリー》《創造の座、オムナス》の強力な土台を利用したデッキで、他にも適した勝利手段はまだまだ存在しているはずだ。どれがメタゲーム上に浮上してくるかは今後数ヵ月かけて判明するだろうね。

アゾリウスコントロール

天界の列柱精神を刻む者、ジェイス

もちろんマナ基盤に負荷をかけずに古典的なアゾリウスコントロールを使うのも可能だ。以下のデッキリストはMagic Online上のModern Challengeで優勝したデッキだ。

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強力な《レンと六番》を使わないという選択肢を取るのは、個人的にはやりたくないと思っているけど、安定したマナ基盤というのはそれだけでメリットだ。《神秘の聖域》を使えないということは《謎めいた命令》を使うようなコントロールデッキは長期戦での強さが少し弱まったということだ。私が示したデッキリストの内、最初の2つがタップアウトコントロール寄りなのにはそれも要因としてある。

邪智暴虐の王《ウーロ》からの解放

バーン

ウーロコントロールに弱いという理由によってモダンで過去一年くらい活躍できなかったデッキは山ほどある。一連の禁止による勝者はバーンだろう。《自然の怒りのタイタン、ウーロ》がバーンに強かった理由の解説は不要だろう?

稲妻僧院の速槍

特に意外でもないとは思うが、禁止適用後最初のModern Challengeのトップ8には赤単アグロとイゼット果敢の2つのバーン系デッキが入賞していた。こういうデッキが好みのプレイヤーにとって、今はいいタイミングだ。私のようにこの手のデッキを使うのはあまり好きではない人なら、対戦相手として当たることは想定してサイドボードはちゃんと用意しよう!各種赤系アグロは今後メタゲーム上で確実な地位を占めるだろうから、サイドボードのカードを選ぶときには必ず考慮に入れなければいけない。

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ドレッジ

叫び角笛ナルコメーバ恐血鬼

一方で私が大好きなデッキであるドレッジも立ち位置が良くなった。過去1年の間はあまり立ち位置が良くないと感じていた。数年前まではコントロール相手にメインゲームを落とすなんて考えられないくらいだったんだが、《自然の怒りのタイタン、ウーロ》《否定の力》そして《謎めいた命令》《神秘の聖域》によるロックを使っていたウーロコントロールと対戦すると、対戦相手が墓地対策カードを使っていないのに接戦に敗れている自分がそこにはいた。墓地対策カードをサイドボードに入れている相手ならもはや挽回は困難だ。

私がドレッジ愛好家であることを知っている方なら同意してくれると思うが、昨年のMagic Online Championshipsで私がドレッジを使うことを諦めて、自分も《自然の怒りのタイタン、ウーロ》《神秘の聖域》《死者の原野》の軍門に下ることにしたという事実はよほどのことだ。

今ならこういうデッキリストにしようと思う。

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呪禁オーラ

ぬめるボーグル林間隠れの斥候コーの精霊の踊り手

ドレッジ愛好家の1人としては、あまり大きな声では言いたくないけど呪禁オーラも一連の禁止の後には強くなったはずで、いい選択肢になるかもしれないね。《謎めいた命令》《神秘の聖域》の組み合わせは呪禁オーラに対して特に強力で、ロックにハマり始めると対処するのが困難だった。バーンとドレッジが勢いに乗れば《ぬめるボーグル》《林間隠れの斥候》を操る呪禁オーラにとって有利な相手が増える。

これらのデッキは3つとも《猿人の指導霊》を利用した高速コンボデッキに対して弱かった。相手のコンボを妨害するカードにそんなに枠は割けないし、ライフレースでは間に合わないからね。

ジャンド

ヴェールのリリアナ血編み髪のエルフ

《自然の怒りのタイタン、ウーロ》《死者の原野》に手こずっていたデッキの1つにジャンドがある。カードアドバンテージの暴力について行けなかったからね。ジャンドは以前よりはマシだけど、それでもリード・デューク/Reid Dukeとローガン・ネトルズ/Logan Nettlesの親戚や縁者ではないのなら使わない方がいい。もちろん全く使えないデッキではない。でも特に何も強いことをしていないデッキだと感じる。当たりたい相手よりも当たりたくない相手の方が多い、という状態が長く続いているね。

理論上はどんなデッキにも勝てるけど、実際にはどんなデッキにでも負けるデッキの見本だ。確かにどんな相手にでもそのデッキだけ想定するなら勝つようにデッキを組めるよ。でも全てのデッキに勝ちに行くのは無理なんだ。一方を向けば、反対側には背を見せる。ジャンドが実際の実力よりも過大評価されやすいのもそれが理由だね。特定のモダンの大会のメタゲームが正確に予測できていて、それに合わせて適切な調整をデッキの施せるならジャンドは選択肢として悪くないよ。でもこれだけは忠告させて欲しい。メタゲームの予想やデッキ調整が完璧にできるとしたとき、ジャンドが他のどのデッキよりも正しい選択肢だというメタゲームが想像できるかい?

レンと六番

そうは言ったものの、単独で完結しているカードとしてはモダン最強の《レンと六番》が入っているデッキで、それをそれなりに活かせているから、全くダメなデッキというほどでもない。

ジャンドシャドウ

死の影タルモゴイフスカイクレイブの災い魔

もしジャンドカラー縛りで大会に出なければいけないなら、いわゆるジャンドよりはデスシャドウ系のデッキを使うね。デスシャドウは、はるかに強力な相手に押し付けていくゲームプランを持っていて、それはモダンのような多様性のある環境ではいいことだ。サヒーリコンボのときにも言ったけど、対戦相手を高速で倒せるだけで多くの弱点をカバーできる。対戦相手のやろうとしていること全てに解答を持っていなくても許される。モダンで1つ覚えておく必要があることを挙げるならこれだし、覚えておいて欲しいね。

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ゴブリンの放火砲欄干のスパイアロサウルス乗り

《猿人の指導霊》を使っていた各種コンボデッキについても同じことが言える。The Spyのようなデッキは相手が対策カードを使えるようになるよりも前のターンに相手を撃破することで勝利をたくさん拾えていた。先手2ターン目に相手を倒していれば、世界中の《翻弄する魔道士》《安らかなる眠り》を集めても止められはしない。禁止前もすごく強かったわけではないのだから、拾える勝利の数が減った今使うことは絶対にお勧めしない。

すごく強かったわけではない、というのはターボティボルトを除いた場合の話ではあるけど、ターボティボルトは「続唱」にまつわるルール変更によってデッキ自体が消滅している。

通りの悪霊僧院の速槍

ジャンドデスシャドウに話を戻すと、別にこのデッキも特に立ち位置がいいわけではない。ひとつ話題として挙げたいのはバーンに対する相性だけど、バーン側が必要な立ち回りを理解していると不利なように感じる。《通りの悪霊》を使わずに《僧院の速槍》《スカイクレイブの災い魔》を使っているなら以前ほどは問題にならない。最大の問題は、現在もっとも恵まれた立ち位置にいるデッキに対する相性だ。そのデッキとは…。

玉座に登り詰めたデッキ

スパイクの飼育係太陽冠のヘリオッド歩行バリスタ

私見では今使うべきデッキはヘリオッドカンパニーだ。禁止後1回目のModern Challengeでは準優勝がこのデッキで、2回目は決勝がヘリオッドカンパニーのミラーマッチだった。これは偶然ではない。ヘリオッドカンパニーの立ち位置は現在とんでもなくいい。これが2回目のModern Challengeの優勝者、MrRaebのデッキリストだ。

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各種赤系アグロが流行っている今、メインデッキに《オーリオックのチャンピオン》が4枚入っていて無限ライフコンボを搭載したデッキを使えるのは最高だ。ジャンドシャドウにとってこれよりも惨めな気持ちになる相手がいると思うかい?《オーリオックのチャンピオン》、破壊不能の《太陽冠のヘリオッド》《スカイクレイブの亡霊》《集合した中隊》、そしてサイドボードの《夏の帳》。悪夢のような相手だ。

集合した中隊イーオスのレインジャー長

セレズニアカラーのデッキではあるものの、コントロールデッキも意外とヘリオッドカンパニーとは戦いづらい。《歩行バリスタ》《太陽冠のヘリオッド》を使った無限ダメージコンボによる即死をちらつかせてきている中で土地をタップしてターンを渡すのは危険なことだけど、小型クリーチャーにもいつかは対処しないといけないし、コントロールデッキ側のターン終了時に《集合した中隊》を唱えてマナを使うことを強いてくる。

《イーオスのレインジャー長》はコントロールデッキ相手に3つの役割を演じる。カードアドバンテージをもたらし、ライフを詰めていき、コンボに対してインスタントタイミングで介入されるのを防ぐ。《夏の帳》もこのマッチアップでは重大な役割を担っているから、自分ならサイドボードに3枚目を追加するね。

夏の帳

また繰り返しにはなるけど、コンボによる迅速な勝利を狙えることで解答できない多くのものを無視できるようになる。このデッキの弱点のひとつは高速コンボに対処するのが得意ではなかったことだったんだけど、《猿人の指導霊》が消えてそういうデッキも減った。このデッキの立ち位置はすばらしいよ

土地デッキも忘れるな!

原始のタイタン溶鉄の尖峰、ヴァラクート精力の護符

最後に一緒に考えたいのはビッグマナ戦略を利用するデッキの状況だ。各種《原始のタイタン》デッキは《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》《風景の変容》型か、《精力の護符》型に戻らざるを得ない。デッキは《死者の原野》を失って弱体化したとは言え、それでも《原始のタイタン》は強力なカードだ。

ウルザの鉱山ウルザの魔力炉ウルザの塔

なんだかみんな《原始のタイタン》とトロンがまだ環境に存在していることを忘れてしまっているかのようで、ビッグマナ戦略に対して全くサイドボードを割いていないデッキリストを多く見る。ビッグマナ戦略のデッキがモダンで最強だとは言わない。でも準備を怠った相手を手痛く罰せられる程度にはまだまだ強いデッキだ。これらのデッキも《猿人の指導霊》の禁止による恩恵を享受している。高速コンボデッキとの相性は最悪だからね。これから使うデッキの選択肢としてなかなか悪くないと思うよ。ただ、特にトロンについてはそうだけど、バーンや果敢デッキとの相性は少し気がかりだね。

これはNRG Seriesという大会を優勝したトロンのデッキリストだ。

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おわりに

もちろんメタゲームの舞台にはまだまだ多くの役者がいる。この記事で挙げたのは、個人的に主要人物だと判断した役者たちだ。

重要なモダンの大会が明日存在しているなら、私はヘリオッドカンパニーを使う。でもデッキを使った経験や相性もデッキ選択では重要だから、能動的に勝ちに行ける強いデッキを使っている限りはどれを使ったっていいよ。

胸躍る可能性

そしてそれがモダンの美しさでもある。数えきれないほどのデッキが存在しているから誰だって楽しめるデッキがある。

マッティ・クイスマ (Twitter)

この記事内で掲載されたカード

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Matti Kuisma ワールド・マジック・カップ2016でチームの一員としてトップ8に輝いた、フィンランドのプレイヤー。 プロツアー『霊気紛争』で28位入賞を果たしたものの、2016-17シーズンはゴールドレベルに惜しくも1点届かなかった。 2017-18シーズンにHareruya Hopesに加入。2017年は国のキャプテンとしてワールド・マジック・カップに挑む。 Matti Kuismaの記事はこちら