はじめに
みなさま、「名カード集」へようこそ。
この「名カード集」では、時代を過去へと遡り、昔のエキスパンションの名だたるカードを紹介していきます。
今回は旧枠で刷られた最後のセットである『スカージ』をご紹介しましょう。
『スカージ』ってどんなセット?
『スカージ』とは、2003年5月に発売されたオンスロートブロック2つ目の小型エキスパンション。テーマは引き続き部族であり、全143種類のカードが収録されています。
新キーワード能力は悪名高き「ストーム」と、特定の基本地形をサーチできる「土地サイクリング」。「ストーム」は同じターンに唱えた呪文の数だけコピーがスタックに積まれる恐るべき能力であり、《暗黒の儀式》のような瞬間的なマナ加速や軽いキャントリップを連鎖させて「ストーム」を稼いでからプレイされました。なかでも《精神の願望》をキーカードとしたデザイア系はエクステンデッドで猛威を振るい、メタゲームの一角を占めるまでに至りました。
また、「ストーム」から派生した言葉、ストーム値/The Storm Scaleについてもご紹介します。ストーム値とは、キーワード能力などのメカニズムが将来的にスタンダードで再登場する可能性を評価した数値であり、マーク・ローズウォーター/Mark Rosewater氏が評価しています。
ストーム値 | 意味 | メカニズム例 |
---|---|---|
1 | 次のセットでも再び使われることになるのは間違いない。 | 飛行、接死、占術 |
2 | 再び使われることになるのは間違いないが、すぐとは限らない。 | キャントリップ、混成マナ、両面カード |
3 | おそらく今後何回も使われることになるだろう。 | サイクリング、フラッシュバック、上陸 |
4 | 今後も使われることになるだろうが、確実と言うには問題がある。 | 変異、キッカー、賛美 |
5 | 再録する場所を探す必要があるが、可能性が高いと思っている。 | 進化、怪物化、陰鬱 |
6 | 再録する場所を探す必要があるが、可能性が高いとは思っていない。 | 貪食、忍術、生体武器 |
7 | 再録されるとは思われないが、ふさわしい環境があれば再録はあり得る。 | 氷雪マナ、回顧、刹那 |
8 | 再録されるとは思われないが、もしかしたらあり得る。 | マッドネス、エコー、待機 |
9 | あり得ないとは言わないが、ちょっとした奇跡が必要。 | フェイジング、スレッショルド、激突 |
10 | あり得ないとは言わないが、かなりの奇跡が必要。 | ストーム、発掘 |
自身のブログBlogatogにて読者から「ストーム」の再登場の可能性を尋ねらた際に「ほぼ再録されるものを1、まず再録されないものを10とすれば、ストームは10だ」と回答したことをきっかけに定番化。数々のメカニズムについて再録の可能性を問われるようになり、やがてストーム値として定着しました。点数は10段階で、高いほど再録されにくいメカニズムとなっています。
既存の能力にも変化が生じています。「変異」の中にはマナを使わずに表になるクリーチャーが登場したのです。《ゾンビの殺し屋》は5点と膨大なライフを必要としますが、どの色でも採用でき、かつ戦闘で多大なアドバンテージを得られることで評価が高かった1枚。2/2が基本サイズの「変異」同士の攻防に置いて、3/4はあまりに大きすぎました。
『スカージ』の名カードたち
《苦悶の触手》
プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーは2点のライフを失い、あなたは2点のライフを得る。
ストーム(あなたがこの呪文を唱えたとき、このターンにそれより前に唱えた呪文1つにつきそれを1回コピーする。あなたはそのコピーの新たな対象を選んでもよい。)
《苦悶の触手》は「ストーム」デッキを代表するフィニッシュカード。同じターン中にこれを含めて10枚の呪文を唱えることができれば、一気ライフを削りきることができます。黒は《暗黒の儀式》や《陰謀団の儀式》などマナ加速が多く、呪文が連鎖しやすい色です。ほかの「ストーム」カードと比較してもマナコストが軽く、しかも必要とする「ストーム」数も少なめであり、エンドカードには持ってこいのものでした。
2003年以降の旧エクステンデッド、それは「ストーム」とともに歩み始めた時期であり、いかにして《精神の願望》へと繋げるかさまざまな手法が模索され、多くのデッキが生まれました。マナアーティファクトをばら撒き《転換》でマナを稼ぐ青茶単を皮切りに、《サファイアの大メダル》設置後にフリースペルを連打する青黒や青白、《ぐるぐる》で《金粉の水蓮》を起こすぐるぐるデザイア、《炎の儀式》や《煮えたぎる歌》を連打するTEPSです。
マナと「ストーム」を稼ぎ《精神の願望》へと繋げるわけですが、ゲームを締めくくるのは大量にスタックへと積まれた《苦悶の触手》でした。マナを増やす方法が確立されてしまえば呪文10枚を唱えることは可能であり、《ドラゴンの嵐》と違い構築の制限のない《苦悶の触手》は使い勝手の良い勝利手段となりました。
《もみ消し》
起動型能力1つか誘発型能力1つを対象とし、それを打ち消す。(マナ能力は対象にできない。)
《もみ消し》は、起動型能力と誘発型能力限定の打ち消し呪文。「装備」や《霊気の薬瓶》の起動型能力を打ち消しテンポを崩したり、通常打ち消し呪文では対処の難しい「ストーム」自体を元から絶つことも可能です。見た目に反して用途は広く、フェッチランドに対して強いことからレガシーではこれと《不毛の大地》によるマナ拘束戦略が確立しているほどです。
旧エクステンデッドでは、《もみ消し》でデメリットを打ち消すことに着目したデッキが生まれました。スタイフルノートはその名の通り《もみ消し》で《ファイレクシアン・ドレッドノート》の誘発型能力を打ち消すコンボ入りのコントロール。わずか2マナで12/12のクリーチャーが用意して、打ち消し呪文で相手の反撃を封じ、圧倒的な速度で勝負を決めてしまいます。スタイフルノートは現在のレガシーで構築可能であり、2019年のMOイベントでは入賞もしています。その姿を再び見ることがあるかもしれません。
《硫黄の渦》
各プレイヤーのアップキープの開始時に、《硫黄の渦》はそのプレイヤーに2点のダメージを与える。
プレイヤーがライフを得るなら、代わりにそのプレイヤーはライフを得ない。
バーンやアグロ戦略にとって天敵となるライフ回復手段を禁ずるエンチャント、それが《硫黄の渦》です。自身もダメージをくらってしまいますが、そこは攻撃的な戦略と併せて採用されました。ライフや戦場は自分にとって有利な状況でプレイすることが多く、ライフ回復を禁じつつダメージソースにもなるため対処手段を引かれない限り20点削りきってしまいます。コントロール対策としてゴブリンや赤緑ビーストに採用されました。
当時のスタンダードには厄介なライフ回復手段が存在していました。《賛美されし天使》と《貪欲なるベイロス》です。どちらもサイズの優れたクリーチャーで攻めながらライフを回復して有利な展開へと持ち込んでいきますが、《硫黄の渦》があればそんな心配もありません。ライフ回復さえ封じてしまえば、あとはその恒久的なダメージでじわじわと攻めていきます。《硫黄の渦》を対処しない限り、座して死を待つのみとなってしまったのです。
《正義の命令》
白の4/4の飛行を持つ天使クリーチャー・トークンをX体生成する。
サイクリング(2)(白) ((2)(白),このカードを捨てる:カードを1枚引く。)
あなたが《正義の命令》をサイクリングしたとき、あなたは(X)を支払ってもよい。そうした場合、白の1/1の兵士クリーチャー・トークンをX体生成する。
《正義の命令》は呪文よりも、「サイクリング」としてプレイする方が圧倒的に多かったカードの1枚。現在スタンダードにある《サメ台風》を思い浮かべるとわかりやすく、インスタントタイミングで手札を減らさずに打ち消されないクロックを生成できるカードでした。ソーサリーの全体除去を搔い潜って攻撃でき、さらに青の強い時代にあって青に強いカードのため、あらゆるコントロールデッキにフィニッシャーとして採用されました。
あらゆるコントロールデッキに採用された《正義の命令》ですが、もっとも相性が良かったのはスタンダードのウェイクです。《ミラーリの目覚め》をキーカードにした白青緑のボードコントロールデッキであり、同エンチャント設置後は《綿密な分析》がもたらす圧倒的なハンドアドバンテージと《狡猾な願い》の柔軟性を武器に立ち回ります。
《正義の命令》は《ミラーリの目覚め》で増えたマナを有効活用でき、さらに+1/+1効果もあるため非常に相性の良いカードでした。《神の怒り》を搔い潜るこのカードへの対処手段は限られており、状況によっては1~3ターンで20点削りきれるほどだったのです。
《ゴブリンの戦長》
あなたがゴブリン呪文を唱えるためのコストは(1)少なくなる。
あなたがコントロールしているゴブリンは速攻を持つ。
各色にいる特定種族のマナコストを軽減する戦長サイクル。赤はゴブリンを軽くする《ゴブリンの戦長》であり、ボーナスとして速攻が付与されます。そしてこの《ゴブリンの戦長》こそ、ゴブリンの大躍進を支えたカードなのです。オンスロートブロックで《ゴブリンの群衆追い》や《スカークの探鉱者》など優秀なクリーチャーが多数登場していたゴブリンはここに完結し、メタゲームの一角を占めるまでに至りました。
《ゴブリンの戦長》のもたらすコスト軽減と速攻のおかげですべてのゴブリンは本来よりも2ターン早く攻撃できるようになり、デッキはかなり高速化します。《火花鍛冶》や《ゴブリンの名手》は相手のブロッカーを片っ端からどかし、《ゴブリンの群衆追い》への道を切り開いたのです。
リセット呪文の返しとしても最適であり、《ゴブリンの戦長》がいる限り相手は目に見える以上のダメージを考えなければなりません。『スカージ』に一緒に収録された《包囲攻撃の司令官》とも相性が良く、これ1枚でマナカーブに沿って動けば、5点分のクロックを確保し、さらにマナが起きれば直接火力となりました。
評価が大きく変わったカード
(青):エンチャントされているクリーチャーをアンタップする。
(青):エンチャントされているクリーチャーは、ターン終了時まで飛行を得る。
(青):エンチャントされているクリーチャーは、ターン終了時まで被覆を得る。(それは呪文や能力の対象にならない。)
(1):エンチャントされているクリーチャーは、ターン終了時まで+1/-1または-1/+1の修整を受ける。
《ペミンのオーラ》はどんなクリーチャーでも《変異種》にしてしまうカード。「I am Superman.」のアナグラムから「Pemmin’s Aura」と命名されています。クリーチャー自体は被覆を得るものの《ペミンのオーラ》自体は割れてしまい、オーラをプレイするタイミングで除去されてしまうとカード交換的に不利になってしまうため、競技シーンでは活躍できませんでした。
しかし、統率者戦においてはお手軽無限マナカードとして使用されています。従来の《花を手入れする者》に加えて、『モダンホライゾン2』で《聖域の織り手》が登場したことでこれまで以上にコンボが決まりやすくなりました。最速3ターン目に決まる無限マナであり、今後もシミックカラーのデッキでは要注目のカードとなりそうです。
まだある名カード
さて、『スカージ』名カード集、お楽しみいただけたでしょうか。しかし、「あの有名カードなくない?」「もっといいカードあるよ!」と思われた方もいらっしゃるはず。
もっと『スカージ』のカードについて知りたい方は、ぜひ、動画もご覧ください!
次回の「名カード集」では、『ミラディン』をお届けいたします。