Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2021/7/30)
拾い上げたアイディア
『モダンホライゾン2』により、ここ数か月のモダン環境はすっかり変わりました。その新カードの研究に精を出す日々でしたが、『フォーゴトン・レルム探訪』が発売されると、《願い》というカードが私の目に飛び込んできました。そして、プレイヤーズツアー・フェニックス後に可能性を模索したアーキタイプ、ロータスブリーチに再訪することになったのです。
今から1年以上前、私はチームメイトとともにプレイヤーズツアーでパイオニア版のロータスブリーチを使用し、大成功を収めました。そして、当時は次のプレイヤーズツアーにモダンが含まれるだろうと予想を立てていました。そのため、モダンでも《死の国からの脱出》を使えないかと考えるのは自然なことでした。
私の記憶が確かならば、デッキの原型を作ったのはアレン・ウー/Allen Wuだったはずです。《死の国からの脱出》と《秘本掃き》、《ぐるぐる》or《夢の掌握》と《睡蓮の原野》を組み合わせることでライブラリーを削りきり、《タッサの神託者》で勝利するデッキです。しかし、強そうな印象を受けたものの、あまりにも妨害に弱いデッキでした。
当面の間テーブルトップのイベントがなくなるだろうとわかり始めたのは、ちょうどこの頃でした。その裏では《夢の巣のルールス》のカード情報が公開され、このアーキタイプがまさに求めているカードではないかと感じていました。《思考掃き》や《秘本掃き》を《死の国からの脱出》を探し出すカードとして使えるようになり、サイドボードから直接出てくる《夢の巣のルールス》がその《死の国からの脱出》を回収すれば、そのターン内に勝利できます。
しかし、エラッタ前の《夢の巣のルールス》はロータスブリーチの枠に収まるような存在ではなく、モダン全般に大きな影響を与えるカードだと判明。来るべきモダンの大型大会もないため、モダン版ロータスブリーチというアイディアはゴミ箱に捨てられ、スタンダードに専念することになったのです。
デッキを構築する
その一年以上あと、プレビューされた《願い》に目をつけ、ロータスブリーチを再び手に取ると大きな衝撃を受けました。《願い》は60枚のうちの多くのスロットを弱いカードに割かずに妨害耐性を大幅に引き上げたのです。
さらに、《ぐるぐる》を重ねて引いてしまう展開でも《願い》が1枚あれば勝てるようになりました。6マナある状態から《願い》で《死の国からの脱出》をキャストし、《ぐるぐる》を2度「脱出」させた後、先ほどの《願い》を「脱出」させて《秘本掃き》をプレイ。すると青マナを1残しながら《ぐるぐる》を再び「脱出」させられる状態が生まれるのです。
『イコリア:巨獣の棲処』の発売前に使っていた経験から得た教訓を活かしながら、以下のデッキを構築。最初のリーグから5-0を達成しました。
3ターンキルできることも多い強さを持っていましたが、リーグ中はサイドボードの4~5枚しか使っておらず、改善の余地が多分にあることは確かでした。また、白をカットしてマナベースをもっと健全にできないかとも思いました。
《虹色の終焉》は《虚空の杯》を除去できるなど、メインデッキから投入できる万能除去として運用できますが、《血染めの月》に対しては無力です。また、横道に逸れて白マナをサーチすれば、ゲームテンポを遅らせてしまう展開がさまざまに考えられました。
時を同じくして、コンボ愛好家として知られるBryant Cookが同じデッキを調整しており、《ミシュラのガラクタ》や《夢の巣のルールス》に加えて手札破壊を入れたグリクシスバージョンを公開していました。
過去に《夢の巣のルールス》の可能性を感じていたため、自分でも試してみたいデッキでした。《ミシュラのガラクタ》はフェッチランドと合わせれば0マナの《選択》として使うことができ、コンボパーツを見つけやすくなるだけでなく、《思考掃き》や《砂時計の侍臣》のようにキャントリップしながら墓地を肥やす役割を1マナではなく0マナで達成できます。
何度かリーグに潜り、数えきれないほど一人回しした結果、こういったリストにたどり着きました。
デッキリスト
ひとつ目のリストから変更点はほとんどなく、《砂時計の侍臣》と《思考掃き》の枠に《コジレックの審問》と《ミシュラのガラクタ》を入れています。
《夢の巣のルールス》は手札破壊してくる相手に強く、良い変更だったと思います。特にサイド後は相手が除去をサイドアウトしてくることもあり、《夢の巣のルールス》の価値が上がります。
《砂時計の侍臣》は《夢の巣のルールス》なしの構成で素晴らしいカードでしたが、《ミシュラのガラクタ》は《夢の巣のルールス》が何らかの理由で使えないとしても使いたいと思えるカードでした。
《コジレックの審問》は能動的なコンボ防衛手段であり、このデッキが求めているものでした。コンボを決めるターン(特に3ターン目)にマナが余っていることはあまりないため、1~2ターン目に安全確認できるのは大きな利点です。《コジレックの審問》は《活性の力》を除き、ほぼ全てのケアすべきカードを落とせます。《活性の力》のためだけに《思考囲い》を選択するほどではないでしょう。《否定の契約》でカバーできる部分ですからね。
《思考囲い》がダメで《コジレックの審問》が良いという発想に違和感を覚えたかもしれませんが、このデッキはほぼ毎ゲーム《湿った墓》をフェッチランドからアンタップインしますし、1枚目の《思考囲い》ですら《思考囲い》でなくても良いなと思うことがほとんどでした。自分でも最初は違和感がありましたが、よくよく考えてみれば、どんな相手にもスピード勝負をしかけるコンボデッキが「あなたは2点のライフを失う」と書かれたカードに興味がないのは自然なことでしょう。
デッキを回す
初見ではいまいちわからないデッキだと思いますので、ここからコンボのやり方について解説していきましょう。
このデッキのゴールは、《死の国からの脱出》《睡蓮の原野》《秘本掃き》、そして《ぐるぐる》or《夢の掌握》の4枚でループを発生させることです(以降では《夢の掌握》を含めて単に《ぐるぐる》と表記します)。
これらのカードを揃えたら、まず《睡蓮の原野》をタップして青3マナを出し、自分を対象に《秘本掃き》を2度唱え、《ぐるぐる》で《睡蓮の原野》をアンタップします。結果的にライブラリーを10枚切削し、「ストーム」カウントを3稼ぎ、墓地の枚数を都合1枚増やすことになります。
この動きを活用して自分のライブラリーを全て削りきったら、メインデッキの《ぶどう弾》を(場合によっては2度)「脱出」させるか、《願い》から《タッサの神託者》をプレイして勝利です。
サイドボードの《タッサの神託者》は非常に重要だという認識をしています。というのも、《ぶどう弾》で致死量のダメージを与えるには2度唱えなくてはならないことがあり、上記のループでは必ずしもそのリソースが確保できるとは限らないからです。
2度に渡る《ぶどう弾》は《願い》からの《タッサの神託者》よりも1マナ少なく済みますが、ループ開始時に余剰のマナがない場合は墓地の枚数が追加で3枚必要になります。《ぶどう弾》2発であれ、《願い》+《タッサの神託者》であれ、ループ始動時にマナが余っていなければ《ぐるぐる》を2度唱えないとマナが不足することに変わりはありません。
また、《タッサの神託者》は白系のデッキにサイドインして《ヴェクの聖別者》への耐性をつけられます。コンボ開始時に必要となる墓地の枚数こそ増えますが、コンボ達成に当たって墓地の赤のカードを頼らずに勝てるのです。
コンボパーツを集めるのは難しそうにも思えますが、キャントリップが12枚、《願い爪のタリスマン》が4枚、《願い》が4枚あるので、実際は驚くほど簡単です。
《願い爪のタリスマン》は3ターン目以降に置かれる性質を持つ《睡蓮の原野》と相性抜群であり、このデッキの重要なカード。2ターン目に設置し、3ターン目に残るコンボパーツを探すことで勝てることがあるのです。
さらなる強みとして、《ぐるぐる》を3枚以上引いてしまったとき、その1枚を《願い爪のタリスマン》をアンタップ用に使えば2度のチューター効果を使えます。これがデッキのさらなる安定性をもたらしているのです。
このデッキを使ってみようと思った方にまずおすすめしたいのは、デッキをプロキシで組んで一人回ししてみることです。このような手法を使ったことのない人にはおかしな提案に思えるかもしれませんが、このデッキは対戦中に一人回しするデッキであり、一人回し以上にデッキを早く使い慣れる方法はないと断言できます。マリガンを判断するにも、コンボを達成するにも、ゲーム序盤の動き方に慣れるにも一人回しが有効です。
私はキャリアを通してパイオニア版のロータスブリーチ、アイアンワークス(KCI)、アミュレットブルームを幾度となく一人回ししてきましたが、今回のモダン版ロータスブリーチのみならず、ほかの直線的なコンボデッキにも一人回しの有効性は当てはまります。
カード選択
デッキの中核について解説してきましたが、自由枠に採用しているカードの選択理由についても触れなくてはなりませんね。
土地 21枚
21枚よりも少ないリストがほとんどのようですが、どちらかと言えば1枚減らすよりも1枚足したい寄りです。《睡蓮の原野》を置くには《睡蓮の原野》以外の土地を絶対に2枚引く必要があり、4ターンキルをするには3枚目の土地はありがたいことのほうが多いです。
また、フェッチランドとそのサーチ先となる土地をいい塩梅で採用すれば、《ミシュラのガラクタ》を上手く使いやすくなります。たとえば手札にフェッチランドと《島》がある場合、土地を置く前に《ミシュラのガラクタ》を使い、確認した情報をもとにセットする土地を選択し、1ターン目の《血清の幻視》や《手練》を唱えられます。
《否定の契約》 1枚
Bryant Cookのリストを参考にした部分であり、高く評価している1枚です。1枚であれば自然と引いてもコンボを通しやすくなるため全く問題なく、妨害が多いマッチアップなどで《願い爪のタリスマン》の起動回数に余裕があるならコンボ中に《否定の契約》をサーチしてコンボを通すといったこともできます。
《残響する真実》 1枚
万能な解答枠としていま選択しているのが《残響する真実》です。この枠に何よりも求めるのは《虚空の杯》を退けることであり、できることなら《虚空の罠》にしたいところですが、こちらでは最大の目的が達成できません。また、青のカードであることから、基本土地の《島》をサーチしておけば《血染めの月》への解答にもなります。
《危険な航海》を選択しているリストもありますが、このカードにはいくつか問題があります。まず、現在の75枚のリストには2マナのバウンス呪文を1枚しか採用しておらず、少なくともその1枚は《残響する真実》を選択し、問題となるパーマネントが複数並んだときでも抜け出せるようにしたい点。そしてもうひとつは、《危険な航海》は《突然の衰微》や《活性の力》に対応して《死の国からの脱出》を手札に戻す使い方ができません。
《ぶどう弾》 1枚
メインデッキのフィニッシャー。ほかにも選択肢はありますが、これほど引いても困らないカードはありません。ときには2ターン目に《敏捷なこそ泥、ラガバン》や《ドラゴンの怒りの媒介者》の除去として使い、時間を稼いでくれます。
また、《ダウスィーの虚空歩き》に対する2番手の解答でもあり、先だって呪文を2回唱えておけば、「ストーム」のコピーで《ダウスィーの虚空歩き》を除去しつつ、本体の《ぶどう弾》は追放されないといった芸当もできます。
《コジレックの審問》 4枚
先述のとおり、このデッキを強化した1枚であり、《選択》や《思考掃き》よりも優先して採用したい呪文です。厄介なパーマネントや《否定の力》を捨てさせることもあれば、相手のメインゲームプランのカードを奪ってゲームを長引かせることもあります。手札情報を把握し、《活性の力》や複数の妨害呪文を持っているとわかれば、勝つためにはもっとリソースを集めなくてはいけないとわかったりもしますね。
《虚空の罠》 2枚
《虚空の罠》の1枚目は《願い》からのサーチ先として必須であり、ヘイトカードから抜け出しやすくなります。2枚目はサイドイン用であり、《残響する真実》よりも1マナ軽く動ける強みがあります。このデッキのバウンス呪文は、《願い爪のタリスマン》があるときなら引いても困らないカードです。《願い爪のタリスマン》を起動してコンボパーツをサーチし、バウンス呪文で手札に回収できるからです。
《致命的な一押し》 2枚、《稲妻》 1枚
《致命的な一押し》のほうが若干強いですが、チューター呪文が多いデッキであることを考えれば、散らして採用することで特殊な状況にも対応できるようにしたほうが良いのではないかと思います。ハンマータイム相手のサイドインカードとして便利ですが、《ダウスィーの虚空歩き》や《エメリアのアルコン》への解答を増やす役割も担います。
《鉱山の崩壊》 1枚
カレブ・シェーラー/Caleb Schererが《願い》入りのストームのサイドボードとして採用しているのを見かけ、気に入った1枚です。《願い》からの除去としてほかのものよりも1ターン早く使うことができますし、土地を生け贄に捧げるコストもそう辛くありません。「脱出」を考えればメリットになることすらあるでしょう。特に《聖域の僧院長》などには、1マナの除去よりも圧倒的に使いやすい呪文です。
《仕組まれた爆薬》 3枚
《虚空の杯》に解答すべく、《願い》のサイドボードとして1枚は必須です。モダン環境全般で見ても、《仕組まれた爆薬》はいま環境的に強い呪文ではないでしょうか。
また、1マナ圏を大量に採用するデッキも「続唱」デッキに対抗しようと《虚空の杯》をサイドに採っていますが、これは必ずしもロータスブリーチ相手に(X)=1で置く目的で《虚空の杯》をサイドインしてこないということにはなりません。《仕組まれた爆薬》はもともとこういったデッキに強かったですが、現環境では《虚空の杯》への解答にもなるというメリットが加わっています。
《巣穴からの総出》 2枚
相手の裏をかくカードとしては《巣穴からの総出》がベストでした。このデッキはインスタント・ソーサリー以外の非クリーチャー呪文を多く採用しているため、インスタントとソーサリーにしかシナジーを持たないものはデッキに合いません。
《前駆軟泥、エーヴ》も試しましたが、《巣穴からの総出》には及ばない出来でした。《前駆軟泥、エーヴ》は大体4~5ぐらいの「ストーム」で唱えることになりますが、たとえば3/3の《前駆軟泥、エーヴ》に《稲妻》を撃たれ、8/8の《濁浪の執政》を出されて残りのトークンはブロックされてしまうといった感じで対処されかねません。《前駆軟泥、エーヴ》の打点の高さよりも、《巣穴からの総出》の横への広がりのほうが重要なのです。
当然ではありますが、《夢の巣のルールス》を「相棒」として使うなら、《前駆軟泥、エーヴ》をサイドインするという戦法は使えません。
《願い》のサーチ先である、こういった相手の意表を突くためのカードは墓地対策に直面したときにだけ意味を持ちます。《願い》を唱えても3マナ余り、すでにそのターンに何度も呪文を唱えていて、まだ墓地を使える状況なら《死の国からの脱出》で普通は勝てるはずです。
ワクワクするパズルを解こう
このデッキを存分に楽しんでいる反面、勝利しながらも何とも不思議な気持ちを抱いています。現時点ではヘイトカードに直面する機会は少なく、それどころか妨害されることも多くありません。《否定の力》よりも《対抗呪文》が優先されているのは、相手の土地をタップしてからコンボに向かえるロータスブリーチにとって追い風です。今は立ち位置が良く、本来よりも打たれ強さがあります。
モダンは広大なフォーマットですから、《否定の力》をメインに入れたイゼット《濁浪の執政》デッキに当たっても文句は言えません。《否定の力》を入れたいと思う理由は想像に難くないからです。《否定の力》や《活性の力》、ヘイトパーマネントが増えてきたらこのデッキはついていけないと思いますが、少なくともコンボ対策が足りないんじゃないかとプレイヤーたちに思わせるデッキを見つけられただけでも十分でしょう。
けちストーム、アイアンワークス、パイオニア版のロータスブリーチなどが好きだった人には、ぜひこのデッキを使ってみて欲しいですね。こういったデッキと同じく、今回のロータスブリーチもパズルを解くスタイルのデッキです。このデッキが今のモダンで最強だと太鼓判を押すことはできませんが、プレイングも構築も本当に楽しめるデッキです。もし勝つことだけを考えているなら《ドラゴンの怒りの媒介者》を使いましょう。モダンのベストカードだと思いますよ。
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