はじめに
みなさま、「名カード集」へようこそ。
この「名カード集」では、時代を過去へと遡り、昔のエキスパンションの名だたるカードを紹介していきます。
今回は親和を最強デッキまで押し上げた『ダークスティール』をご紹介しましょう。
『ダークスティール』ってどんなセット?
『ダークスティール』とは、2004年2月に発売されたミラディンブロックの小型エキスパンション。オンスロートブロックまでの小型エキスパンションと違い、カード枚数が143種類から165種類へと増加しています。
新キーワード能力は「接合」や破壊されない(現在の「破壊不能」)が登場しました。「接合」は、この能力を持つパーマネントが戦場から墓地に置かれたとき、この上に置かれていた+1/+1カウンターをそっくりそのまま別のアーティファクトクリーチャーへと移し替えます。そのため単体除去や戦闘に強い効果といえますね。
その頂点たる《電結の荒廃者》は《エイトグ》に「接合」を付与したデザインであり、インスタントタイミングでほかの「接合」クリーチャーを生け贄に捧げることで戦闘を優位にすすめ、場合によっては自身を含めた大量のアーティファクトを生け贄に捧げてブロックをすり抜けたクリーチャーを巨大化し、一撃で大ダメージを与えることも可能でした。《大霊堂の信奉者》とも相性が良く、《電結の荒廃者》が入ったことで親和デッキは栄華を極めました。
当時のスタンダードでは親和が猛威を振るっていたこともあり、メインボードから《粉砕》などのアーティファクト除去は標準装備。このため親和デッキ以外がメインボードからアーティファクトを採用すると、本来無駄となるはずだったアーティファクト除去の恰好の的となってしまいました。
しかし、親和以外がアーティファクトを採用していなかったかといえば、そんなことはありません。新しく登場した破壊されない効果はアーティファクト限定で付与されており、親和メタの余波をくらわないデザインとなっていました。代わりにマナコストが引き上げられていますが、中~長期戦を見据えたコントロールデッキに居場所を見つけます。この破壊されないことに注目して《抹消》と組み合わせたダークスティール抹消や抹消マーチが登場しました。
あらに『ダークスティール』を、いやミラディンブロックを代表するカードといえば《頭蓋骨絞め》でしょう。かのズヴィ・モーショヴィッツ/Zvi Mowshowitz氏(現マジック・プロツアー殿堂)は、出た当初に「《頭蓋骨絞め》か《減衰のマトリックス》のどちらかが入っていないデッキはデッキではない」とまで言いきっています。
《頭蓋骨絞め》はタフネス1のクリーチャーに装備するだけでカード2枚へと変わります。軽量クリーチャーと相性が良く、さらに「装備」コストが1マナと軽いため同一ターンに使い回して大量ドローできました。破格のアドバンテージをもたらすことから親和をはじめ、ゴブリンやエルフなど多くのクリーチャーデッキに採用されました。親和は《電結の荒廃者》がいたことで装備しただけでは墓地へと落ちない《羽ばたき飛行機械》や《金属ガエル》すらも瞬間的にカードアドバンテージへと変換し、《大霊堂の信奉者》など必要牌を探しにいくことができたのです。
しかし、その効果はあまりに強すぎました。発売からわずか4ヵ月でスタンダードとブロック構築の2フォーマットで禁止カード入りとなってしまったのです。
『ダークスティール』の名カードたち
《電結の働き手》
接合1(これはその上に+1/+1カウンターが1個置かれた状態で戦場に出る。それが墓地に置かれたとき、アーティファクト・クリーチャー1体を対象とする。あなたは「その上にそれらの+1/+1カウンターを置く」ことを選んでもよい)
《電結の働き手》は「接合」を持つ1マナクリーチャー。墓地に置かれてもこの上に置かれた+1/+1カウンターは別のアーティファクトクリーチャーへ引き継がれるためダメージや単体除去に強く、さらに《電結の荒廃者》が隣にいれば+1/+1カウンター2個分の働きとなりました。ミラディンブロックを代表するデッキである親和が求めていた攻撃的な1マナ域であり、色マナを必要とせず、さらに「親和」までを稼いでくれる申し分ない存在でした。
当時のスタンダードで支配的な強さを誇った親和は、1マナ以下のアーティファクトが増えたことでこれまで以上に安定したデッキとなりました。アーティファクト土地を重ねて《電結の働き手》、2マナアーティファクトとプレイすれば2ターン目にして《金属ガエル》は0マナとなり、テンポ面で大きくリードすることができます。
《電結の荒廃者》とのシナジーは抜群であり、この2枚が揃えば戦闘を有利にすすめることができました。相手のブロック後に《電結の働き手》を生け贄に捧げれば、任意のクリーチャーをサイズアップできたのですから。
《ちらつき蛾の生息地》
(T):(◇)を加える。
(1):ターン終了時まで、《ちらつき蛾の生息地》は飛行を持つ1/1のちらつき蛾アーティファクト・クリーチャーになる。それは土地でもある。
(1),(T):ちらつき蛾クリーチャー1体を対象とする。ターン終了時まで、それは+1/+1の修整を受ける。
《ちらつき蛾の生息地》は《ミシュラの工廠》のリメイク版となるクリーチャー化土地の一種です。サイズは一回り小さくなったものの、飛行をもつため膠着した状況でもダメージを稼ぐことができます。ダメージが通りやすいため《火と氷の剣》との相性も抜群であり、単色デッキを中心に採用されました。
また、クリーチャー化するとアーティファクトとなるため、必然的に親和にも採用されました。親和の戦略は戦場にアーティファクトを増やすことほかの「親和」を持つカードのマナコストを下げることにあります。各ターンに一度しか使えないマナと違い、アーティファクト化すれば「親和」を持つカードすべてのコストを下げられるため、1マナ以上の働きをしてくれたのです。
後期型の親和では《電結の荒廃者》の「接合」先に加えて《頭蓋囲い》の装備先となり、《神の怒り》へ睨みを利かせました。相手のライフを削りきれるだけの打点が用意できれば、余剰アーティファクトを+1/+1カウンターへと変換して先に《ちらつき蛾の生息地》へと乗せておきます。こうすればたとえ《神の怒り》を撃たれようとも巨大な《ちらつき蛾の生息地》が速やかにゲームに幕を引いてくれたのです。
《酸化》
アーティファクト1つを対象とし、それを破壊する。それは再生できない。
《酸化》は1マナのインスタントアーティファクト破壊。アーティファクト対策を得意としていた赤のお家芸を奪うほど洗練されたデザインであり、最強のアーティファクト除去として緑系のデッキを中心にメインボードから採用されました。そのコストパフォーマンスの高さから、タッチで使用されることもあったほどでした。
親和とアンチ親和の勝負は戦場にいかに多くのアーティファクトを残せるかにかかっていました。親和側は《溶接の壺》を採用することで、「親和」を稼ぎながら同時に除去耐性を獲得しますが、そこで登場したのが《酸化》です。《粉砕》などと違い再生すら無効化するため、《溶接の壺》があろうとも問答無用で除去できました。対親和では1マナの土地破壊であり、巨大な《マイアの処罰者》をも確実に落とせる万能カードだったのです。
《溶鉱炉の脈動》
プレイヤー1人を対象とする。《溶鉱炉の脈動》はそのプレイヤーに4点のダメージを与える。その後そのプレイヤーのライフがあなたより多い場合、《溶鉱炉の脈動》をオーナーの手札に戻す。
《溶鉱炉の脈動》はプレイヤー限定の火力(現在はプレインズウォーカーも)、いわゆるバーン系カードの一種です。3マナ4点と破格のコストパフォーマンスを誇り、さらに条件を満たせば手札へと戻ります。極端な話ですが、ライフ1の状態ならばこれ1枚で20点を削りきることができるのです。
当時《溶鉱炉の脈動》が活躍した背景には、今はなきマナバーンの存在が大きく影響していました。マナバーンとは、各フェイズの終了時に余剰マナ分ライフを失うことです。これによりマナを出しつつ使用しないことで自ら進んでライフを減らせたため、《溶鉱炉の脈動》の回収条件を満たすことが可能でした。
ミラディン時代のスタンダードには優秀な火力が数多くあり、適宜ボードコントロールしながら自傷によりライフを減らし、《溶鉱炉の脈動》で削りきることが可能でした。しかも、《溶鉱炉の脈動》を使いきってしまったとしても、《爆片破》や《火の玉》などライフを削りきる手段に事欠かなかったのです。
《ダークスティールの巨像》
トランプル
《ダークスティールの巨像》は破壊されない。
《ダークスティールの巨像》がいずれかの領域からいずれかの墓地に置かれる場合、代わりに《ダークスティールの巨像》を公開し、それをオーナーのライブラリーに加えて切り直す。
《ダークスティールの巨像》は破壊されない効果を持つ当時最大級のクリーチャー。わずか2度の攻撃でゲームを終わらせる圧倒的なサイズに加えて、ひとたび戦場へと出てしまえば追放除去以外では対処されない安心感がありました。クリーチャーでありながらアーティファクトでもあるため各種踏み倒し系カードと相性が良く、序盤に着地させてそのままゲームを決めることありました。
スタンダードでは緑トロンのフィニッシャーとして、《歯と爪》の選択肢として不動の地位を築きました。緑トロンはトロンランドを早期に揃えてその爆発的なマナから《歯と爪》へと繋げますが、踏み倒しに頼らずマナを支払ってプレイすることも可能でした。
しかも当時のスタンダードには《剣を鍬に》や《流刑への道》といった強力な追放除去がありません。着地したら最後、《ヴィダルケンの枷》で奪うには大きすぎ、火力では焼けずと対処しようがなかったのです。
今も現役の『ダークスティール』カード
さきほどご紹介した《電結の働き手》は、モダンの鱗親和で活躍しています。親和と名はつきますが、かつてのアーティファクトを展開して「親和」カードを多用して物量差で押す速度重視デッキとはまったく違っています。
鱗親和は+1/+1カウンターのシナジーに特化したアーキタイプであり、《硬化した鱗》で+1/+1カウンターを増やしてボードを強化し、同時に《活性機構》でトークンを量産していきます。ゆっくりと時間をかけて戦場をトークンで埋め尽くすこともできますが、《歩行バリスタ》や《墨蛾の生息地》の毒殺による瞬殺プランも用意されています。このデッキは+1/+1カウンターを置くところからゲームが始まるため、《電結の働き手》は大切なスターターとなるのです。
まだある名カード
さて、『ダークスティール』名カード集、お楽しみいただけたでしょうか。しかし、「あの有名カードなくない?」「もっといいカードあるよ!」と思われた方もいらっしゃるはず。
もっと『ダークスティール』のカードについて知りたい方は、ぜひ、動画もご覧ください!
次回の「名カード集」では、『フィフス・ドーン』をお届けいたします。