ほかのゲームから学ぶ上達の近道

Allen Wu

Translated by Nobukazu Kato

原文はこちら
(掲載日 2021/08/24)

はじめに

Plateau

細かい点を無視すれば、成長とは役立つスキルを伸ばすことです。難しいのは、何のスキルを伸ばすべきなのかを理解することでしょう。私も伸び悩んだ時期がありましたが、それはハードワークがしたくないとか成長する意志がないとかではなく、ただ進むべき方向がわからなかったからでした。

Magic Onlineを何時間もプレイし、実力の劣る相手に慣れ親しんだデッキを使い、なぜ勝率が75%もあるのに競技マジックで花を咲かせられないんだと悩んでいました。しかし、伸ばすべきスキルを見定めるたびに、進歩は早く、楽に達成されていきました

新たな視点

成長したいならこれをやっておけば良いとアドバイスすることはできません。人それぞれ背景も違えば、長所も短所も違うからです。だからこそ、ほかのフィールドの考え方を競技マジックに持ち込むという記事は素晴らしいと思っています。視点や考え方を各分野から集積し、それらについて議論を交わすことでみなさん一人一人が少なくともひとつは有用な発見を持ち帰ってもらうこと。それが私の願いです。

長ったらしい導入になりましたが、要するに今回の記事はそういった類の記事だということです。チェス・ハースストーン・ブリッジなど、ほかのゲームを遊んだ経験がどのようにマジックプレイヤーとしての成長を促したのかをお話していきます。

訓練場

ほかのゲームを遊ぶことはウェイトトレーニングに例えると良いかもしれません。ターンを用いる戦略ゲームは、情報の非対称性・テンポ・不確実なものの理解など、共通して高度なメカニズムを備えています。

しかし、運動の種類によって鍛えられる筋肉が違うように、こうった要素もゲームごとで重要性が変わってきます。ひとつ例を挙げると、ブラフはマジックにおいてマイナーな要素ですが、ポーカーでは重要な要素です。ブラフを理解しようと思うなら、マジックを1年プレイするよりも、ポーカーを1週間勉強したほうが実りあるでしょう。

始めたばかりのプレイヤーであれば、マジックにおける基本スキルを伸ばすべきです。基本と呼ばれるのはそれ相応の理由があるのですから。しかし、実力のあるプレイヤーがさらに上を目指すのであれば、弱点を見極めなくてはなりません。ほかのゲームを遊ぶことは、楽しみながら効率的に自分の弱点を見つけ、改善していく手法なのです

キー・トゥ・ザ・シティ

街の鍵

ハースストーンは部分的なマリガンシステムを採用しており、一度だけ任意の枚数の初手を新しいカードに入れ替えることができます。このマリガンルールであれば手札が減るデメリットはないですし、ハースストーンには土地というシステムはなく、毎ターンマナが増えていきます。そのため、非常に積極的にマリガンすることこそがあるべき姿なのです。ハースストーンのトッププレイヤーたちのプレイを観るとわかりますが、彼らはキーカード以外のものは文字通り全てマリガンします。

マジックのマリガンで痛い経験をしたことがあるプレイヤーがハースストーンを新たに始めようとすると、ついついマリガンを積極的に行わないというミスをやりがちです。綺麗なマナカーブを描けるからといって、適当な2・3・4マナのカードをキープしてしまうのです。もっとも、機能しない手札になってしまうリスクと、キーカードを引き込むリターンを体系的に比較することは難しいでしょう。ですが、マリガンを積極的に行うという姿勢を試してみると、「これが正しい」という感覚が瞬く間に生まれてきます。3・4マナ域を飛ばして、マナカーブを外れたプレイをする場面も増えますが、キーカードを握っていればそれを補って余りある戦いやすさを感じることでしょう。

ハースストーンでの学びを得たことで、マリガンの捉え方がもっとも変化したのは、キーカードという視点から手札を評価するようになったことです。これはある程度までは直観的に行えます。キーカードがない手札は、それがない手札よりも強いでしょう。しかし、実際はもっと複雑です。

荒野の再生成長のらせん

たとえば、『テーロス還魂記』期のスタンダードに存在したティムール再生を使っているとして、《成長のらせん》1枚と土地6枚の手札はキープすべきでしょうか?私が知るプレイヤーの多くはこの手札をマリガンしていました。しかし、私のハースストーンでの経験から言えば、通常これはキープします。

《成長のらせん》が初手の7枚にくる確率は40%ほどしかなく、ティムール再生では呪文、そして土地でさえも強力であるため、ライブラリーから引くカードの大半は当たりです。そして、2ターン目の《成長のらせん》は多くのマッチアップでゲームを決定づけるカードでした。

岩山被りの小道ハイドラの巣無私の救助犬裕福な亭主
レンジャー・クラス敬愛されるレンジャー、ミンスク軍団のまとめ役、ウィノータ

もうひとつ例を挙げましょう。先日のアリーナ・オープンのとき、友人のダニエルがグループチャットに投稿していた手札です。彼のデッキはナヤウィノータであり、手札は《岩山被りの小道》《ハイドラの巣》《無私の救助犬》《裕福な亭主》《レンジャー・クラス》《敬愛されるレンジャー、ミンスク》《軍団のまとめ役、ウィノータ》でした。

一般的なマジックの感覚でこの手札を評価した場合、明確にマリガンになるでしょう。使い切りでない白マナがない状態で白のカードが3枚あり、土地が2枚しかないにもかかわらず、現時点で唱えられる呪文の1つである《レンジャー・クラス》は終盤のマナの使い道となるカードです。白のカードは全てクリーチャーであり、劣勢状態からの巻き返しに使える除去ですらありません。

ハースストーンからの教訓は、こういった手札は機能することが多いということです。《裕福な亭主》から《軍団のまとめ役、ウィノータ》という最高のスタートが切れれば、残りの手札が何であろうと基本的に関係ありません。仮に《軍団のまとめ役、ウィノータ》が除去され、イージーウィンできなかったとしても、完全なハズレを引くよりも白マナや何らかの有用なスペルを引ける確率の方が高いはずです。

デカいミニオン、顔面へ

友人のボビーはかつてこんなことを言っていました。「君がくれたアドバイスのなかで特に効果があったのは、そのカードが何をするのかよりも、そのカードのコストを考えろというやつだ」。キーカードを探すマリガンと同じく、これもまたマジックにおいて直観的に理解できる考え方でありよく話題にされるものですが、このゲームの本質の重要性は過小評価されがちです。

流刑への道稲妻破滅の刃

マジックには、古典的な《破滅の刃》のように、よりマナコストの大きい呪文とトレードできる呪文が数えきれないほど存在します。また、土地というシステムがあるため、プレイヤーたちは多少の土地事故により思うようなマナカーブを描けないことが一般的でしょう。ハースストーンはマナを有利にトレードできるカードがマジックほどなく、そのマナシステムの仕様上、序盤に築いたプレイヤーの有利は継続し、通常ゲームに勝つまで続きます。

このコンセプトに親しみのない方に説明すると、基本的な考え方は「そのターンの最善のプレイがコストの軽い呪文を唱えることだったとしても、コストの重い呪文を唱えたほうが良いことが多い」というものです。なぜかといえば、重い呪文から使うことで将来的に有益な選択肢を採れる可能性があるからです。

セラの天使破滅の刃灰毛の先導

ひとつ例を挙げますと、相手の戦場には《セラの天使》がいて、あなたの手札には《破滅の刃》《灰毛の先導》がそれぞれ1枚あり、土地は5枚あるとします。わかりやすくするため、こちらのライフは10、相手のライフは20としましょう。

ライフが10であれば《セラの天使》からの4点ダメージは無視できない痛手ですから、仮に《破滅の刃》《灰毛の先導》も同じ5マナだったとしたら、即刻除去するのが間違いなく正しいでしょう。

《破滅の刃》を唱えた場合の問題点は、近いうちに《灰毛の先導》のキャストだけに1ターンを消費することを確定させてしまい、次の相手の展開に対して遅れを取ってしまうことにあります。もしここで《灰毛の先導》を唱えていれば、そのターンのアクションとしては弱いとしても、3マナのカードを引けば2アクションとれるようになり、デッキ内の3マナのカード全てがゲームを立て直す素晴らしいドローとなるのです。

《破滅の刃》を唱えるか、《灰毛の先導》を唱えるか。先ほどの状況では後者の方が勝率が高くなるでしょうが、マジックでは圧倒的な差が生まれることはないでしょう。相手がマナフラッドし、後続の展開がない可能性があり、そうなれば最善手ではない《破滅の刃》のキャストという選択が報われることもあるからです。

少なくとも2016年ごろのハースストーンでは、こういったマナカーブに反するプレイをするとほぼ間違いなく咎められました。手札に呪文しかなければ、高マナ域のカードを手札から吐き出せていたかどうかで選択肢の幅に明確な差が出ます。できるだけマナを余らせないようなターン構成をする姿勢を持ち始めると、使い残したマナの重みを骨の髄から感じられるようになっていくはずです。

カウンター・ギャンビット

チェスはもっとも戦略的なゲームであり、そこには運やランダム性はなく、優れたプランを持っていたプレイヤーが勝つ。そういった幻想を持つ人は少なくありません。しかし、現実はその正反対です。

幸運のクローバー

確かに明確なランダム性はありませんが、チェスはその複雑さゆえに、マジックよりも運が大きいのではないかと思うほどです。トッププレイヤーでさえもチェスのニュアンスを隅から隅まで理解しているわけではないですし、それよりもレベルの低いプレイヤーの戦いであれば、どちらかの勝ち筋が見つかるまではデタラメに駒を動かすでしょう。チェスの醍醐味とは、混沌のなかから少しでも意味を見出せるようになることなのです。

マジックにはチェスほどの複雑さはありませんが、それでも100%正しいプレイを見つけるのは不可能でしょう。目の前の相手には癖や好みがあるため、客観的に最善のプレイというのは存在し得ないのです。私はチェスの経験を重ねていくうち、こういった複雑さをマスターするのではなく、受け入れる姿勢を身に着けていきました

胸躍る可能性

まだマジックを始めたばかりのころ、私は正しいプレイとはこういうものだという頑固な思考を持っており、新たな可能性に対して心を閉ざしていたため、それが成長の大きな妨げになっていました。確かに勝率がもっとも高い、あるいは想定し得る相手の手札の幅にもっとも柔軟に対応できるプレイというのは存在するかもしれません。しかし、それは相手にミスを誘発する余地を与えず、適切なプレイをさせてしまうプレイにもなりかねないのです。

チェスの初心者だったころ、どの駒も取られないか、単純な戦術を見落としていないかといつも時間切れを起こしていました。時間で負けるばかりか、ミスも多発。徐々に、ミスをしないという思考から離れ、良い動きを探すという思考に切り替えていきました。今までに出会ったことのない盤面へ飛び込むことだけを考えて一手を考えていったのです。私にはミスを受け入れて、新しい可能性を探し続けるしかありませんでした。それこそがチェスというものなのですから。

鏡よ、鏡

コントラクトブリッジは古くからあるギャンブルゲームであり、後に競技的に遊ばれるようになりました。ブリッジは手札予測や情報追跡のスキルを育てるのに適していますが、個人的にブリッジで一番面白いと思っているのは、デュプリケートブリッジと呼ばれる競技システムです。

初手の強さはブリッジにおける大きな要素であり、カードの配分によって多くの手札の運命は決まります。この問題に対処するため、ブリッジにおける初手は予め決められ、各プレイヤーはその手札を1度ずつプレイするようになっています。

プレイヤーの評価は各手札で得た素のスコアではなく、ほかのプレイヤーと比べてその手札をどれだけ上手く扱えたかで決まるのです。仮に最高スコアである550点を出したとしても、ほかのプレイヤーも同じスコアを出していれば平均的な結果になるということですね。

デック・オヴ・メニー・シングズ

このデュプリケートブリッジのことを知ってから、マジックの大会の捉え方が改善されました。マジックは奥深く、スキルが試されるゲームですが、マジックの大会には驚くほどランダム性があります。たとえ会場内のベストプレイヤーがベストデッキを握ったとしても、優勝できない可能性のほうが高いでしょう。

ブリッジを学んだことで、大会を勝ち負けの視点だけから見ることがなくなり、ほかのプレイヤーが自分の手札やペアリングだったらどういう結果になっていたかを考えるようになりました。結果が振るわなくとも、一切ミスをしていないのであれば、自分なりにできることは全てやったと受け入れるようにしたのです(もっとも、何かミスを見落としている可能性があるという注釈付きですが)。

何かミスを見つけられたとすれば、それは次回以降の成長につながるでしょう。結果が良かったとしても、それは今後も再現すべき良い判断を下せたからかもしれませんし、あるいは運が良いだけだったかもしれません。

被害妄想

この考え方は一歩間違えれば運のせいにしかねませんが、うまくバランスをとることで私は成長を促してきました。全ての悪い結果を自分のせいだと考えるのは短期的には有効ですし、確かにミスをしなかった大会など一度たりともありませんでしたが、そこまでの自責思考は持続性がありませんし、最終的には身を滅ぼします。

最悪の相性の相手に3度もペアリングされたにもかかわらず、望む結果を出せなかった原因が7回戦目で土地の置き方を間違えたことだと考えるのは、負けた全試合の敗因をマナスクリューのせいにしているのと変わらないぐらいの妄想にとらわれているでしょう。

大局的に見る視点を持てば、自分の課題を見つけやすくなります。土地の置き方を間違ったことをうじうじと考えるのではなく、本当の問題はデッキ選択にあったのではないかという視点を持つのです。

バランス

ポーカーにはこんな格言があります。「誰にもブラフが見透かされないようであれば、もっとブラフをしかけるべきだ」。この格言はほかの文脈にも使える素晴らしいものだと思っています。たとえば、綺麗な例えにはならないかもしれませんが、「フライトに乗り遅れたことがないなら、それは空港に早く着きすぎている」。しかし、このフレーズのなかには重要な真実が含まれています。マジックにおいても、人生全般においても、大きな差(エッジ)が生まれるのは際のところ(エッジ)にあるのです。

秋の際

わかりやすく言うなら、明らかに正しいプレイというのは誰でもできるということです。上手いプレイヤーと偉大なプレイヤーの違いは、ミスにもなり得るプレイをできるかどうかにあります。土地6枚と《成長のらせん》の手札をキープすべきか確信はありませんが、可能性として検討すべき状況でしょう。そして新しいことに挑戦した結果として失敗したとしても、極端で上手くいかないケース(エッジケース)を見つけたのだと祝福すべきなのです。

おわりに

最近はリーグ・オブ・レジェンドのカードゲームである、レジェンド・オブ・ルーンテラにハマっています。そのなかで私が趣味にしているのは、そのルーンテラのデッキが何らかのマジックのデッキに似ていないか考え、そのマジックのデッキにちなんだデッキ名を付けることです。ルーンテラは独特なメカニズムがたくさんあるため、その共通点を探るのは非常に難しいと同時に、やりがいを感じます。マジックとルーンテラのメカニズムを根っこの部分まで掘り下げて考えなくてはならないからです。

遊ぶゲームの幅を広げていくと、それらに共通するゲームの仕組みというものを理解できるようになってきます。程度に差はあれ、それぞれのゲームには重なる部分を見出すことができ、結果的にそのゲームを2~3回遊べばゲームの仕組みを理解できるようになるのです。映画『マトリックス』の観賞と、ダイエットとエクササイズをした後に体重計に乗ったことがある人ならこの感覚がわかるかもしれません。体験したことのないゲームを遊ぶことは自分に足りないスキルを発見・育成するのに役立つばかりか、これまでの知識を活かせる場でもあるのです

ひとつでもみなさんの思考のきっかけになるものがあれば幸いです。みなさんの健闘を祈ります。

アレン・ウー(Twitter)

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Allen Wu アメリカ出身のプロプレイヤー。狭き門といわれるMagic Onlineでのプロツアー予選を幾度となく突破しているアメリカの強豪。グランプリ・アルバカーキ2016の優勝でその名を馳せた後、Wizards of the Coast社のプレイ・デザイン・チームに加入し、マジック開発に携わる。プレイヤーに復帰後、2018年8月に開催されたマジック25周年記念プロツアーでベン・ハル、グレゴリー・オレンジと共に優勝。さらなる研鑽を積むべく、チームメイトたちと共にHareruya Prosに加入した。 Allen Wuの記事はこちら