Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2021/8/31)
はじめに
新型コロナウイルスが流行する前、競技プレイヤーであった私は来たる大会に向けてどんなフォーマットでもプレイしていました。それはリミテッド、スタンダード、パイオニアであったり、果てはレガシーのときもありました。準備すべき大会がなければ、そのフォーマットをプレイすることもありませんでした。限られた時間のなかで、自分の時間を集中的に使わなくてはならなかったのです。記事の執筆に関しては、その時々で知識のあるフォーマットについて書いてきました。
現実世界での大会がなくなった今、面白い記事のテーマを見つけるのは一層難しくなったように思います。記事を書く上での私のポリシーは、読者のためになったり、好奇心をそそる内容にすること。そういったことが上手くいかなかったとしても、少なくともみなさんを楽しませるということだけは守り抜きたいと思っています。だからこそ、今回、私にとってとても大切なテーマを記事にできることを嬉しく思います。本日のテーマは、自分の子供たちとマジックを遊ぶ方法です。
これほど個人的な内容の記事を書いたことはありませんが、これはみなさんに共有したくてたまらない物語、もとい旅です。子供を持つマジックプレイヤーは多いですが、親ならきっと子供たちとの想い出をシェアしたいと思うのではないでしょうか。少なくとも私は子供たちと遊び、このマジック:ザ・ギャザリングという素晴らしいゲームに誘うことに喜びを覚えています。
家族の時間
まずは私の家族を軽く紹介しなくてはなりませんね。私はなんと5人の子供がいます。ダンテ(10)、オスカル(6)、ヘレナ(5)、ヘクトル(1)、ゼノ(7週間)の5人です。そして私は愛する妻、シャーロット(32)と結婚しています。彼女はマジックを遊ぶことにも学ぶことにも一切興味がありませんが、私のやることに対して心からサポートしてくれています。
兄のピーターもまた実力のあるプレイヤーです。シャーロットもイェーレとアルフレッドという2人の兄弟がいますが、彼らもマジックをプレイしています。もしかしてと思った人のために答えておきますが、そう、私はマジック友達の妹と付き合い始めたのです。
はっきりさせておきますが、私は子供にマジック、少なくとも競技マジックを強制させるつもりはありません。しかし同時に、子供たちが初めてグランプリ参加、プロツアー権利獲得、世界選手権制覇したらどれだけ感動するだろうと思うこともあります。
では、現状はどうなっているでしょうか?ダンテはマジックの遊び方を把握しており、かなり楽しんでいます。テキストを読めばそのカードが何をするのかたいていは理解できています。第一言語がオランダ語である子供にとってこれは簡単なことではありませんが、彼がカードを理解する術を身に着けているのは間違いありません。
オスカルは基本的なルールを把握しているものの、新しいカードのテキストを読めない段階にあります。デッキ内のカード効果を知っていれば遊べるという感じです。ヘレナはルールもわかっていませんが、マジックを知りたいと言っていました。
子供たちは全員ポケモンカードゲームを遊んでいます。マジックよりも簡単なルールで、テンプレート化されているからか、オスカルはポケモンカードの効果の理解・記憶にはあまり苦労していません。私も小さいころそうでしたが、子供たちはポケモンに夢中です。ポケモンカードはマジックに興味を持つ最高の入り口です。マジックにもあのクオリティのアニメがあればなぁと思いますね。
ヘクトルはマジックのカードが入っている引き出しを開けては投げ散らかしていますが、これはマジックを学びたいという興味の現れではないかと思います。普通の子供ならこんなことしませんよね?
学びと成長
ダンテにマジックの遊び方を教えたのは、彼が6歳のときのことです。『イクサラン』ブロックのカードを使い、構築済レベルの白黒吸血鬼と赤緑恐竜を組みました。このデッキはルール、各種カードタイプ、戦闘の仕組みを教えるのに適していました。本当に喜ばしいことに、ダンテはオスカルにマジックを教えるときにこの2つのデッキを教材にしてくれています。
2019年の1月、グランプリ・プラハを優勝した私は『アルティメットマスターズ』の魅力的なドラフトデッキを3つ家に持ち帰りました。
すると、ダンテはそのデッキを使ってみたいという強い意志を示しました。奥行きのあるカードを使った複雑なデッキを学ぶことを通して、彼はマジックの素晴らしさに気づいたようでした。それだけでなく、これらのデッキを使うことでデッキごとにゲームプランが違っていて、相手のデッキに合わせて自分の立ち回り方を変える必要があることを理解していきます。
このとき使ったデッキはまだ家にあり、いまはオスカルの愛用デッキです。私もこのデッキを回すのが好きなのは言うまでもないでしょう。
吸血鬼デッキ・恐竜デッキでマジックへの興味が芽生えたダンテ君
モダンの調整をしていたとき、私はダンテにトロンの回し方を教えました。その過程で、ダンテはマリガンを積極的に行うことや、構築戦のデッキはこれまでのデッキよりも明確なゲームプランを持っていることを学んでいきます。
同時に、私は好きなときに彼を相手に調整できるようになりました。ダンテは私のデッキの狙いを十分に理解していないこともありましたが、それは重要ではありませんでした。彼は3ターン目までにウルザランドを揃えて《解放された者、カーン》を唱えれば良いだけなのですから。ダンテはトロンを回すことに夢中になりましたが、反感を持つ人もいるかもしれませんね。
赤単と緑単が隆盛していたパイオニアの黎明期、ダンテはこの2つのデッキを回していました。赤単と緑単を使って彼と何度も何度も戦ったことを記憶しています。これらのデッキは非常にわかりやすいデッキでしたが、使うデッキを入れ替えることで両デッキの目線から考えることの大切さを学んでいきました。
私がそれ以外のデッキを調整したいときは、ダンテに赤単か緑単を使っていつでも相手してもらうことができ、私にとってはこれが追加の調整時間となっていました。私が《睡蓮の原野》コンボを使い始めるとダンテはつまらなさそうにしていましたが、もっともな反応だと思います。
リミテッドに関しては、ダンテが9歳と10歳の誕生日に「ドラフトをやりたい」と言ってきたことがありました。残念ながら彼の友達は(まだ!)マジックを遊んでいないので、やるとすれば私の友人と卓を囲むことになります。そのなかには3人の叔父が含まれていたので、一家団らんの良い機会にもなりました。
9歳の誕生日のときは『テーロス還魂記』でドラフトし、今年の10歳の誕生日のときは『灯争大戦』を使ってドラフト。そのときはどういうわけか1マナ域を15枚もピックしており、失敗に終わりました。ピックの進め方は教えたくてもなかなか教えられるものではありません。友人の1人が『イニストラードを覆う影』のボックスをダンテにプレゼントしてくれたので、次回のドラフトはこのセットを使うことになるのでしょう。オスカルも参加したくて仕方ないようですが、彼が見たことのないカードを理解できるのか今から心配です。
コロナ禍になってから、私はプレリリースキットを自宅用に2つ買うようになりました。ダンテはシールドがお気に入りのフォーマットであり、人生初の店舗プレリリースを夢見て貯金を進めています。そのときは双頭巨人戦になるかもしれませんし、通常のシールドを遊ぶだけかもしれませんが、私はその日を心待ちにしています。
そのほかのフォーマットはどうでしょうか?私は統率者戦デッキをいくつか持っていますが、ダンテとオスカルのお気に入りになっています。最近になり、ダンテはドラフトでピックしたカードや私の”未ソートの引き出し”にあるカードを使って自分の統率者戦デッキを作り上げました。息子が新しいカードをデッキに組み込んだり、デッキに使えそうな新しいカードを楽しそうに探す姿を見るのは本当に喜ばしいことです。
気になった人もいるかもしれませんが、彼の統率者は《不和のトロスターニ》《半真実の神託者、アトリス》《敏捷なこそ泥、ラガバン》です。親ながら良いセンスをしているなと思いますよ。
我が家のデッキは同じカードプールから構築されているので、デッキ間のパワーバランスが上手くとれています。オスカルはデッキ内の全カードの効果が徐々にわかってきていますが、統率者戦は簡単ではありません。プレイするオスカルの隣に座っていると、次に何をすれば良いのかとしきりに訊いてきます。何でもかんでも私が決めるのではなく、彼の脇役になれる良い方法はないかと摸索している段階です。
子供たちはそれぞれ自分のMTGアリーナアカウントを持っていますが、スクリーンを長時間見ることは許されておらず、現実世界の相手と戦うほうが好きなようです。たまにドラフトやシールドのイベントに参加していることもあり、コレクションは徐々に増えつつあります。ヒストリックブロールが常設されたため、今後はアリーナをプレイする機会は増えるのかもしれません。アリーナの構築戦はお財布にも優しいので、子供たちでも集めた強いカードを存分に使えます。
そして最後に、バトルボックスも我が家にはあります。バトルボックスのルールを簡単に説明しますと、全色が含まれるシングルトンの束を使います。全てのプレイヤーはそのデッキを共通で使うため、サーチ効果や占術などの効果は使用しません。また、各プレイヤーは各種基本土地を1枚ずつ、さらに多色土地を5枚ずつ使用できます。私は多色土地をギルド門にしていますが、どんなものでも構いません。初期手札は4枚で、使用できる土地のなかから1枚を毎ターンセットできます。
最初はバトルボックスを大いに楽しめていたのですが、子供たちは私に勝てなくてフラストレーションを溜めています。バトルボックスは試合がとても長く、かなり複雑であり、マジックの理解に向いているとは言えないかもしれません。それから、子供たちに勝たせてあげようというつもりはありません。ほんの少しもです。勝利は自分の手でつかみ取るものなのですから。
未来計画
教育のため、ヘクトルとゼノに対しては妻は英語で、私はオランダ語で話すようにしています。これは年上の子供たちにとっても英語を早く学ぶ機会にもなるはずなので、カードテキストも早く読めるようになって欲しいものですね。シャーロットは英語に堪能なので、子供たちがどれだけ急成長していくのか楽しみです。
私はマジックを愛していますし、子供たちにも同じ情熱を持ってもらえたらと思っています。ただ、はっきりさせておきますが、彼らにどんな形でもマジックを強制するつもりはありません。誰かがマジックを続け、もっと競技的にプレイすることになったとすれば、それは嬉しいことですけどね。
グランプリ・プラハを優勝したとき、私は『アルティメットマスターズ』のパックをひとつ購入し、トロフィーのなかに入れておきました。グランプリでまた優勝したとき、あるいはプロツアーでトップ8に入賞したときにそれを開けるつもりだったのです。しかし、そのパックは子供が自分たちで設定した目標を達成したときに譲るほうが良い使い方なのかもしれません。
子供たちがマジックをプレイする姿を見ていると、自分がプレイし始めたばかりのころを思い出します。パックを開封するときのワクワク。カードの束を掘り起こしてデッキを組む楽しさ。いままで見たこともなかったカードを使って相手がすごいプレイをしたときの驚き。本当に素晴らしい追体験です。
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パスカル・フィーレン(Twitter)