はじめに
みなさんこんにちは。晴れる屋メディアチームの富澤です。
チラホラと『イニストラード:真夜中の狩り』の先行プレビューが始まりました。新しいカードを見るたびに想像力をかきたてられ、使い道やデッキを考えてしまいますね。今が一番楽しい時期かもしれません。
新エキスパンションについて語りたい気分はもう少し先延ばしにして、今回はMPL/ライバルズガントレットの大会結果を振り返る、現環境の総括をお送りしたいと思います。
ガントレットをめぐるメタゲーム
1年間の競技シーンを締めくくりとなるガントレットは、MPL/ライバルズの両ガントレットともにわずか24名しか参加できない狭き門となっています。通常のトーナメントとは異なり、少数のプレイヤーがチームで共通のデッキを持ち込むこともあり、メタゲームはかなり特殊なものとなります。強者たちはどのようなデッキを選択したのか、その思考へと迫っていきます。
メタゲーム
デッキタイプ | MPL | ライバルズ |
---|---|---|
スゥルタイ根本原理 | 8 | 2 |
ジェスカイ変容 | 4 | 7 |
ディミーアローグ | 3 | 3 |
イゼットコントロール | 3 | 3 |
ナヤウィノータ | 2 | 3 |
グルールアドベンチャー | 2 | 2 |
サイクリング | 2 | 0 |
ナヤアドベンチャー | 0 | 2 |
その他 | 0 | 2 |
合計 | 24 | 24 |
同時期に開催された両ガントレットですが、メタゲームは大きく異なっています。MPLでは構築の自由度と安定性が高く、使い慣れたプレイヤーが多いスゥルタイ根本原理が最多であり、構築はサイドボードを含めてミラーマッチに寄せています。それゆえにジェスカイ変容やディミーアローグから徹底的にマークされてしまい、苦しい結果となってしまいました。
それに対してライバルズでシェアトップへと躍り出たのはなんとジェスカイ変容でした。MPLと同じくスゥルタイ根本原理を意識したプレイヤーが多かったということですが、アンチデッキであるディミーアローグからはしっかりとマークされた上に、仮想敵だったスゥルタイ根本原理はかなりの少数とやや不利な立ち位置となりました。アドベンチャー系など1/3がクリーチャー主体のデッキだったこともあり、軽いボードコントロールと打ち消し呪文を併せ持つイゼットコントロールは良い選択となりました。
両リーグに共通するのは、ディミーアローグに有利なメタゲームが形成されていたことです。ライバルズではクリーチャーデッキが多いものの、メインボードから《激しい恐怖》を採用するなどしっかりと対策したうえで持ち込まれていました。
MPLガントレット
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
トップ4 | 佐藤 レイ | ジェスカイ変容 |
トップ4 | 井川 良彦 | ジェスカイ変容 |
トップ4 | Jean-Emmanuel Depraz | ディミーアローグ |
トップ4 | 熊谷 陸 | ジェスカイ変容 |
トップ8 | Javier Dominguez | スゥルタイ根本原理 |
トップ8 | Luca Magni | ナヤウィノータ |
トップ8 | Jacob Wilson | グルールアドベンチャー |
トップ8 | Chris Botelho | グルールアドベンチャー |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
MPLガントレットではジェスカイ変容が3つとディミーアローグがトップ4に残り、アンチスゥルタイが大成功をおさめました。ジェスカイ変容を使用し上位入賞を果たしたのはチーム曲者の面々であり、いかに調整レベルとメタゲームを読み解く精度が高いかを物語っています。
また、ディミーアローグを選択したのはMPLに所属の巧者、Jean-Emmanuel Deprazであり、流石の一言に尽きます。
ハビエル・ドミンゲス/Javier Dominguez選手を中心としたHareruya Prosが持ち込んだスゥルタイ根本原理はかなり苦しい結果となりました。ほかのデッキからメタられていたことはもちろん、ミラーマッチを強く意識し過ぎていたようです。
MPL全プレイヤーデッキリストはこちら。
ジェスカイ変容
ジェスカイ変容は《黄金架のドラゴン》に「変容」を重ねて、宝物・トークンで少しずつマナを増やしていくループ系のコンボデッキ。スゥルタイ根本原理など全体的に重いデッキやインスタントでの干渉手段が少ないデッキに強いため、MPLガントレットでは良い位置につけていました。
ループするためには必要牌が5枚と多く、一見すると手順も複雑ですがいくつかのパターンがあり、それを覚えることが上達への第一歩となります。《プリズマリの命令》を連打して相手のライフを削りきるだけでなく、《伝承のドラッキス》で手札を増やして立ち回るコントロールプランも存在します。詳しい手順はこちらの記事を参照していただき、ここでは大きな変更点に絞ってみていきます。
サイドボードに採用された3種類目の「変容」クリーチャー《幼獣守り》はデッキ相性に劇的な変化をもたらしました。《幼獣守り》はアグロデッキに対する壁となり、戦線を膠着させることに特化しています。タフネスは5と火力1枚では落ちず、安心して「変容」元にもできるのです。ひとたび「変容」すればトークンを生成でき、絆魂もあるため攻守おいて活躍する素晴らしいクリーチャーです。
さらに素晴らしいことはこのデッキが苦手とするディミーアローグ相手にミッドレンジプランがとれるようになったことです。打ち消し呪文や除去が多い相手にコンボを決めるのは至難の業となっていましたが、《幼獣守り》や《灰のフェニックス》をサイドインすることでボードにクリーチャーを並べてライフを攻めることが可能になりました。ディミーアローグがサイドインしてくる不死のクロックである《スカイクレイブの影》を牽制できることも覚えておきましょう。
ナヤウィノータやアドベンチャーなどタフネスが低いクリーチャーを並べるデッキを想定し、《燃えがら地獄》がメインボードに採用されています。相手によっては使い時がありませんが、《プリズマリの命令》や《戦利品奪取》などルーティング呪文があるため、無駄になりにくい構造になっています。
スゥルタイ根本原理
『カルドハイム』から《出現の根本原理》用の複数のフィニッシャーと万能除去《古き神々への拘束》を手に入れたことで、環境でもっとも優れたコントロールデッキとなったスゥルタイ根本原理。ボードの支配力は当然として、《出現の根本原理》こそ今までのコントロールになかった圧倒的なフィニッシャーであり、逆転を可能にしてくれる必殺のカードでした。デッキの構造を損なわずにメタチューニングができる部分も魅力です。
今回のガントレットでは周囲からかなり意識されてしまい本来の力を発揮できませんでしたが、環境をけん引し続けたコントロールの王者を改めてみていきましょう。
スゥルタイ根本原理の強さの源は、厚くとられた除去呪文になります。単体/全体あわせて16枚もの除去呪文が採用されており、ミッドレンジデッキではダメージレースで先行することすらかないません。展開力に長けた単色アグロをやや苦手としますが、全体除去を駆使することで《出現の根本原理》までの時間を稼いでいきます。よほど相手が素早く立ち回り、かつ自分が除去を引き込めないような流れにならない限り、ボードは思いのままに操ることができるのです。
除去で時間を稼いだならゴールであり《出現の根本原理》まであと少し。《長老ガーガロス》や《鎖を解かれしもの、ポルクラノス》はもたつく相手に対して攻守を入れ替えるクリーチャーです。戦場にいる時間が長ければ長いほどアドバンテージをもたらし、相手の攻撃を牽制してくれます。《バーニング・ハンズ》の出現で以前よりも対処されやすくはなったものの、生き残った場合のリターンは非常に大きく、依然として採用され続けています。
効果範囲が広く、「サイクリング」付きの《萎れ》に代わって採用された《障壁突破》はグルールカラーのデッキへサイドインしていきます。対処の難しい《運命の神、クローティス》や《乱動する渦》を一掃できる優れたサイドボードなのです。
ディミーアローグ
少数ながら好ポジションにつけたディミーアローグ。「切削」を主戦略に、デッキとライフの両方にダメージを与えていきます。自分より軽い単色アグロや「脱出」クリーチャー擁するグルールを苦手としており一時期は見かけなくなっていましたが、ガントレットに合わせて復活してきました。単色アグロが少なく、コントロールなどゲーム展開が遅く技術介入度が高いメタゲームこそ、ディミーアローグの活躍するに相応しいタイミングだったのです。
「切削」カードとそれによるボーナスの合致こそディミーアローグの主戦略です。早いターンから「切削」を重ね、相手の動きを除去で遅らせてゲームを引きのばしていきます。《物語への没入》さえキャストできれば優位は不動のものとなるため、アグロ相手にはいかに時間を稼ぐか、コントロールにはいかに《物語への没入》を通すタイミングを作れるかが焦点となります。
《物語への没入》に加えて《夢の巣のルールス》が採用できることも大きな強みです。クリーチャーが軒並み軽いため条件を満たしやすく、《マーフォークの風泥棒》のようにドローへと変換できる相性の良いクリーチャーもいるためです。除去されやすいものの追放さえされなければ《アガディームの覚醒》などでリアニメイトでき、デッキに粘り強さをもたらしています。
《灰のフェニックス》や《アゴナスの雄牛》など採用率の高い「脱出」クリーチャーは天敵であり、手厚く墓地対策が採用されています。新加入の《目玉の暴君の住処》はメインボードからスロットを割かずに採用できる墓地対策です。ジェスカイ変容などロングレンジで隙を作りたくない相手には、キャントリップ感覚で使い回せる《塵へのしがみつき》が特に効果を発揮します。
ライバルズガントレット
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
優勝 | Jan-Moritz Merkel | イゼットコントロール |
準優勝 | Gavin Thompson | グルールアドベンチャー |
トップ4 | Kai Budde | イゼットコントロール |
トップ4 | Lee Shi Tian | 緑単アグロ |
トップ8 | 石村 信太朗 | ディミーアローグ |
トップ8 | Louis-Samuel Deltour | ディミーアローグ |
トップ8 | 八十岡 翔太 | ナヤアドベンチャー |
トップ8 | Matti Kuisma | ジェスカイ変容 |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
アグロデッキとそれに対抗するコントロールというメタゲームが展開されたライバルズガントレット。まさにMPLガントレットでスゥルタイ根本原理が狙っていた展開がここにありました。Kai Budde選手など往年のプレイヤーが持ち込んだイゼットコントロールは素晴らしい戦果をあげ、Jan-Moritz Merkel選手が世界選手権への切符を手にしています。
Hareruya Prosのリー・シー・ティエン/Lee Shi Tianが持ち込んだのはまさかの緑単アグロ。《ヤスペラの歩哨》を採用しワンテンポ早い展開が可能となっており、《恋煩いの野獣》と《カザンドゥのマンモス》による早期《グレートヘンジ》着地プランも採用されています。ジェスカイ変容は苦手なものの、《漁る軟泥》や《風化したルーン石》などあつめに対策手段が採用されています。
ライバルズ全プレイヤーデッキリストはこちら。
イゼットコントロール
茂里 憲之選手がチャレンジャー・ガントレットでお披露目し、メタゲームへと定着したイゼットコントロール。今回は《空を放浪するもの、ヨーリオン》を「相棒」にしたことでより消耗戦に強くなっています。手札破壊がない分スゥルタイ根本原理より干渉領域は狭いものの、インスタントにまとめたことで一貫して自分のターンには動かず、相手に対応し続けていきます。
このデッキでは2種類のフィニッシャーが採用されています。《キオーラ、海神を打ち倒す》は7マナと根本原理に匹敵する重さですが、アグロ相手には対処の難しいクリーチャーを得つつ、同時に相手の攻撃を封じる攻防一体の英雄譚となります。攻撃クリーチャーが少ない平らな戦場に着地したが最後、相手は身動きできずにタコの進軍を眺めることしかできません。「相棒」の《空を放浪するもの、ヨーリオン》との相性も格別です。
《キオーラ、海神を打ち倒す》はアグロには強い反面、コントロールやディミーアローグにはその重さからあまり活躍は見込めません。そこで第2のフィニッシャーとなるのが《サメ台風》です。『イコリア:巨獣の棲処』を代表する「サイクリング」カードは隙を作らず、手札を減らさずにフィニッシャーを作り上げてくれます。起動型能力ゆえに打ち消されず、ディミーアローグ戦では相手へ対処を迫り、動かして隙を作るきっかけにもなるカードです。
新しい《誘惑蒔き》こと《マインド・フレイヤー》はミッドレンジタイプのデッキに効果を発揮するクリーチャーであり、特《長老ガーガロス》などの4~5マナ域をタップアウトでプレイされた返しが狙い目です。自分のターン中に除去されない限りは最低でも一度攻撃を止めることができ、さらに生き残れば《空を放浪するもの、ヨーリオン》と強力なシナジーを形成します。
グルールアドベンチャー
《ヤスペラの歩哨》と《厚顔の無法者、マグダ》によるマナエンジンと「出来事」によるアドバンテージエンジンの2種類のクリーチャーシナジーをベースに構築されているグルールアドベンチャー。序盤から高スタッツのクリーチャーを用いてダメージレースを先行し、隙をみて《黄金架のドラゴン》や《エンバレスの宝剣》でライフを詰めていきます。
使うだけでカード2枚分の効果を持つ「出来事」カード。それをよりお得に使うのが《エッジウォールの亭主》の役目です。ダメージソース兼カード供給源であるこの「出来事」システムこそ、すべてのアドベンチャーデッキの根幹なのです。さらに《レンジャー・クラス》が加わったことで、ボードを強化しつつリソースを稼げるカードが増えています。
《運命の神、クローティス》は戦闘以外でのダメージソースであり、コントロール戦では破壊不能を持つ追加のフィニッシャーです。着地さえできれば延々とライフを攻めたり、マナを供給してくれます。《障壁突破》でまとめて対処されないように、エンチャントの並べすぎには注意しましょう。
《蛇皮のヴェール》はお手軽クリーチャー保護呪文。1マナと軽いため構えやすく、しかも多くの単体除去が2マナ以上であるためテンポを稼げるカードとなっています。スゥルタイ根本原理やイゼットコントロールなどには頼もしい対抗策です。
おわりに
長かった現スタンダードも、いよいよローテーションが迫ってきました。振り返ってみればスゥルタイ根本原理のように初期からメタゲームをけん引し続けたデッキもあれば、イゼットコントロールのように後半に現れてメタゲームへと定着したデッキもありました。
目新しいシステムとしては「相棒」があげられます。対戦前にデッキが判明し構築に制限をかけるデメリットがありながら、強力なシステムとして採用され続けました。ルールが改訂されたにもかかわらず、です。
今回ご紹介しませんでしたが、ほかにも単色アグロやボードコントロールに特化したスタックス、サイクリングなど多くのアーキタイプが生まれ、メタゲームは変化し続けました。実りある、多様なスタンダード環境だったといえるでしょう。次回はどんな環境になるのでしょうか。
【お知らせ】10月8~10日開催「第27回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権」招待者全16名が決定!
— マジック:ザ・ギャザリング (@mtgjp) September 6, 2021
日本からは
・高橋優太選手
・茂里憲之選手
・佐藤啓輔選手
・佐藤レイ選手
・井川良彦選手
の5名が出場します!
競技マジックの頂点で繰り広げられる彼らのプレイをお楽しみに!#mtgjp #MTGWorlds pic.twitter.com/y1CChR9NvG
ガントレットが終了したことで、来期のリーグ所属選手と世界選手権へ出場する24名が揃いました。世界選手権はおそらく新スタンダードで開催されると思いますので、今からどんなデッキが登場するか楽しみでなりません。世界選手権には晴れる屋よりはアーネ・ハーシェンビス/Arne Huschenbethと佐藤 啓輔選手が出場します。ぜひ、応援よろしくお願いします。
それでは、また次回の情報局でお会いしましょう。