21年9月統率者戦ルール改定について
こんにちは、統率者戦大好きいってつです。今回は号外記事です。統率者戦のルールアップデートについて、いってつがレポートします。
2021年9月13日、Commander Rules Committeeによりルールアップデートが告示されました。以下に内容を要約し、解説します。
原文はこちら(リンク先英文)
Commander Rules Committeeの告知
Star City Gameに掲載されたSheldon Menery氏のコメント
概要
《世界火》を禁止推奨カードリストから削除(禁止解除)
《不屈の巡礼者、ゴロス》を禁止推奨カードリストへ追加(禁止)
形骸化していた「ルール10」を削除(ゲームプレイ上の変更は一切なし)
今回のルールアップデートは、日本で統率者戦を楽しんでいる多くのプレイヤーにとってまさに青天の霹靂でした。
どのようにしてこうした判断に至ったのか。統率者戦は禁止カードが生まれにくい環境だと言われることもあります。しかしながら、7/13の前回のアップデートからわずか2カ月で新たな「禁止カード」が発表され、多くのプレイヤーが動揺していることでしょう。
- 2021/07/13
- 21年7月 統率者戦 ルール改定について
「≪船殻破り≫の禁止」 - いってつ
今回はCommander Rules Committee公式サイトでの告知に加え、Star City Gamesにも統率者戦ルール委員会の中心的メンバーであるSheldon Menery氏の「今回のルールアップデートに関する考え」が掲載されています。こちらの記事の内容にも触れながら、今回の発表の内容をより細かく見ていきましょう。
要約1「《世界火》の禁止解除」
《世界火》 (6)(赤)(赤)(赤)
ソーサリー
すべてのパーマネントを追放する。すべての手札とすべての墓地にあるすべてのカードを追放する。各プレイヤーのライフの総量は1点になる。
《世界火》はすべてのパーマネント、手札、墓地を追放したうえ、全員のライフを1にするあまりにも極端な「全体除去」です。一般のフォーマットでは対等な状況になりますが、統率者戦では「統率領域」から統率者を唱えることができるので、大量のマナを生み出してから《世界火》を唱え、あらかじめ浮かせておいたマナから統率者を唱えるといった戦法が可能です。統率者戦ではルールとかみ合いがよく、これまで禁止されてきました。
統率者戦ルール委員会(以下CRC)はマナ総量が8,9と重い呪文が統率者戦でより多くプレイされるような環境を作りたいと考え、強力でマナコストの重い呪文を解禁します。
統率者戦では広大なカードプールの中で「より軽い」呪文に注目が集まりがちですが、CRCは重くて強力な呪文にもスポットライトが当たるよう、「様々な重い呪文を唱えようとする」土壌が生まれるきっかけになることも期待して《世界火》を解禁したようです。
現在禁止されていて、《世界火》のように重く強力な呪文と言えば《生命の律動》、《合同勝利》があります。「なぜこれらのカードは解禁されないのか」も説明されていました。
緑のデッキがマナクリーチャーを大量に展開して《生命の律動》につなげることで、自分のライフは確保しつつ、対戦相手のライフを一気に減らすことができます。ほかのプレイヤーがまだ盤面を整えている、4,5ターン目に唱えられた《生命の律動》は「creates a pretty uninteresting game(編集訳:超つまらないゲームを生み出す)」可能性が高いとして、解禁のリスクを高く見積もっているようです。
CRCは「Win the game now(編集訳:解決したら勝ち)」なカードに否定的だと改めて主張しています。
《合同勝利》は5色の統率者とショックランド3枚あるいはトライオーム2枚で勝利条件を満たすことができてしまいます。《合同勝利》の解決前にパーマネントを除去することで勝利条件を満たさないようにすることは可能です。しかし、マナ総量8以上の重い呪文をプレイできる環境にしたことで、全員が打ち消しや除去を構えなければならないという環境が生まれることは本意ではないようです。
CRCは現在統率者戦でプレイされている呪文、《歯と爪》を引き合いに出して解説しています。
《歯と爪》は「通ったら勝ち」な呪文だと認識されていますが、実際はこの呪文を通した後、《孔蹄のビヒモス》で強化した大量のクリーチャーで攻撃したり、対象を取って能力を起動しなければなりません。この間に除去やバウンスでかわすことが可能です。
「呪文の解決後にまだ敗北を回避する手段が存在する呪文」と「呪文を解決したら即勝利する呪文」。この二つは些細な違いに見えますが、それは大きな問題になるとCRCは考えているようです。
要約2「《不屈の巡礼者、ゴロス》の禁止」
《不屈の巡礼者、ゴロス》 (5)
伝説のアーティファクト・クリーチャー – スカウト
《不屈の巡礼者、ゴロス》が戦場に出たとき、あなたは「あなたのライブラリーから土地カード1枚を探し、そのカードをタップ状態で戦場に出し、その後ライブラリーを切り直す。」を選んでもよい。
(2)(白)(青)(黒)(赤)(緑):あなたのライブラリーの一番上からカードを3枚追放する。このターン、あなたはそれらをそれらのマナ・コストを支払うことなくプレイしてもよい。
3/5
《不屈の巡礼者、ゴロス》は《帰還した王、ケンリス》や《刃を咲かせる者、ナジーラ》に次いで人気の5色統率者です。このカードはなぜ禁止推奨カードに指定されてしまったのでしょうか。
このカードは多くの問題を抱えています。なかでも最大の問題は、中級までのレベルの統率者戦において、統率者に主眼を置くデッキでなければ《不屈の巡礼者、ゴロス》が最良の選択肢になってしまうということです。このことはCRCが推し進めたい「統率者の選択の多様性」を損なわせます。
《不屈の巡礼者、ゴロス》は戦場に出たときに土地を1つライブラリーから戦場に出すため、事実上「統率者税が1軽くなっている」という点も問題です。さらに、この土地加速能力は自身の起動型能力を使う助けになっています。
どうやら《不屈の巡礼者、ゴロス》が多くの統率者デッキの統率者と交換が容易に可能で、むしろそうしたほうが強くなることが多い、ということが問題視されたようです。
戦場に出たときに土地加速をするため、除去されても土地を1枚置ければまた戦場に出すことができるやっかいな性能も危険視されました。そうしてマナ基盤を伸ばしていき、自身の非常に強力な起動型能力のコストを捻出できてしまいます。
色に縛られず唱えることができるにも関わらず、5色の固有色を持つ統率者であることも大きな問題だといいます。5色のデッキは、デッキ構築上の制限は一切なく、すべての呪文の中から最高なカードを採用できます。その代わり、5色のデッキは普通、統率者を唱えるのに「5色のマナが必要」で、「色マナ基盤は不安定」なものになります。
ところが《不屈の巡礼者、ゴロス》は自身が色マナにとらわれることなく唱えることができ、自身の能力で色マナ基盤を安定化させることができます。《不屈の巡礼者、ゴロス》は一般の5色統率者が抱える大きな問題2つを同時に解決するのです。
もし《不屈の巡礼者、ゴロス》がただのアーティファクトなら禁止は免れたかもしれません。しかしこのカードはクリーチャーで、統率領域から唱えることができて、ブリンクやバウンスも可能です。土地を統率領域に置いておくようなものです。
ライブラリー上3枚をめくって呪文をすきに唱えられるという能力も、カジュアルなテーブルに《不屈の巡礼者、ゴロス》をあふれさせてはいけない理由の一つでしょう。
自分のターンに1度だけ起動するのだとしても、7マナで3つの呪文を踏み倒すというのは「ぶっこわれ」です。《不屈の巡礼者、ゴロス》がめくる3枚のうち1枚は土地かもしれませんが、それでも十分です。しかも、めくれた呪文を唱えるタイミングは自分で決めることができるのです。
このシンプルな1枚が存在することで立つ瀬がなくなる統率者は多く、変わったテーマやスタイルの探求が失われてしまうとCRCはいいます。統率者戦には「砂丘をテーマにしたデッキ」「左を向いた女たちデッキ」といった変わったデッキの登場を強く期待しているとのことです。
ある統率者の存在が画一的なデッキを生み出してしまうならそれは大問題です。CRCが簡単にカードを禁止にすることはありません。正直言って、カードを禁止することは嫌いです。しかし、フォーマットに大きな悪影響を及ぼしているなら私たちは行動を起こさなければいけません。
解説
お疲れ様でした。
前回のルールアップデートで《船殻破り》が禁止されたときと比べても、今回の声明は圧倒的に長くなっています。おそらく、
「《世界火》解禁するなら《合同勝利》もくれよ!」
「なんで《不屈の巡礼者、ゴロス》を禁止にするの?大好きなカードだし、そんなに悪いことしてないのに!」
――といったコメントが寄せられることを見越して先回りして、より詳細な経緯を説明した結果でしょう。
それと同時に、CRCは統率者戦のあるべき姿を私たちに示したのです。
ゴロス禁止、違和感の正体
《不屈の巡礼者、ゴロス》の禁止は必要だったのでしょうか。
《不屈の巡礼者、ゴロス》が強力な統率者であることには違いありません。しかし、同じく「固有色は5色だが5色ではない統率者」である《帰還した王、ケンリス》や《刃を咲かせる者、ナジーラ》は禁止を免れています。高レベルな統率者戦では、むしろ禁止を免れたこの2枚の方が強力なようにも思えます。
《不屈の巡礼者、ゴロス》がもし高レベルな統率者戦だけのものなら問題なかったのですが、国外ではカジュアルなテーブルの統率者戦でも《不屈の巡礼者、ゴロス》が統率者に選択されることが多くなってしまい、この統率者がカジュアルフォーマットに広まりすぎてしまうことを危惧していたわけです。
日本の統率者コミュニティでは「右も左もゴロス」といった風景はあまり見られませんが、国外のカジュアルなコミュニティではほどほどのレベルのテーブルで深い理由もなく使われる統率者という立ち位置になってしまったようです。「自由に統率者を選べる”多様性”」「スタンダードで愛用していたなど《不屈の巡礼者、ゴロス》に思い入れのあるプレイヤー」と「雑に強いゴロスをみんなが使うようになるリスク」を天秤にかけたのでしょう。
前回の《船殻破り》の禁止と違い、《不屈の巡礼者、ゴロス》の禁止によって多くのデッキが消滅することになります。禁止カードに指定されたことでデッキを失う悲しみは形容しがたい絶望感があります。特に統率者戦は「禁止カードが出にくい」フォーマットだと言われていますし、デッキと長年付き合うつもりで手塩に掛けて大事に育ててきた方も多いはず。本当に残念なことです。
《世界火》を使おう!
《世界火》の解禁はどう感じましたか?
「悪いことする気マンマンだぜ」「解禁したことを後悔させてやる」といった方も多いのではないでしょうか。
まずソーサリーをインスタントタイミングで唱えられるようにしてだな。
各対戦相手のライフを削る呪文を唱えてだな。
優先権を保持したまま《世界火》を唱えれば、《世界火》を解決した後に対戦相手のライフを削る呪文が解決されて勝ちだぜ。
《敏捷なこそ泥、ラガバン》を統率者にして、《敏捷なこそ泥、ラガバン》で宝物を蓄えまくって《世界火》を唱えて、もっかい《敏捷なこそ泥、ラガバン》出して一人ずつ殴って沈める……なんてデッキも成立するかもしれません。
いや、もっとまっすぐで現実的な手段を考えよう。例えば――。
ど~よコレ。
《ティボルトの計略》を握ってゲームをスタートして、《山》4枚を戦場に出せたらコンボ開始だ。
赤4マナを出して《ロフガフフの息子、ログラクフ》を唱えて、《ティボルトの計略》で打ち消す。するとライブラリーに残る唯一の呪文《世界火》が唱えられる。あらかじめ浮かせておいた赤マナで《燃えさし爪の使い魔、ケディス》を唱えてターンを回し、自分のターンが帰ってきたら《燃えさし爪の使い魔、ケディス》で誰かを殴る。すると《燃えさし爪の使い魔、ケディス》の能力でほかの対戦相手にもダメージが飛ぶ。俺の勝ち。
《ティボルトの計略》1枚だけ握ってゲームを開始してもどうせ《山》しか引かないので4ターン目には《世界火》を唱えられる計算になる。《古えの墳墓》《裏切り者の都》を使えば3ターン目に《世界火》が打てるかも。
…………………………。
このデッキリストはあくまでジョークですが、《世界火》が解禁された以上、なんとしてでもこれを使って勝ちたいと思うプレイヤーがあらわれ、誰も想像もしなかった方法で《世界火》を唱えることでしょう。それがCRCの望んだ形かは不明ですが――いったいどんなデッキが登場するのか楽しみです。
https://t.co/5oIBOwACvu
— ヒュージ・リーダーズ委員会 (@hugeleaders) September 13, 2021
……ということで、《世界火》がヒュージ・リーダーズでも使用できるようになりました。ゴロスは禁止なので変わらずです。
統率者戦と禁止カードリストを共有しているヒュージ・リーダーズでも《世界火》が解禁されるようです。
まとめ
今回のルールアップデートでは残念ながら《不屈の巡礼者、ゴロス》が禁止推奨カードとなってしまいました。同時に、《世界火》が解禁されます。
今回のルールアップデートは従来のものと大きく異なり、1枚の禁止、1枚の解禁を通してCRCの抱く今後の統率者戦の展望や理想の姿が強くアピールされました。ウィザーズ側やプレイヤーコミュニティとも綿密にやり取りをしていることも明らかになり、CRCの苦労がうかがえます。
統率者戦ルールアップデートは「必要に応じて三か月に一度」と予告されています。また続報があれば、こうして皆さんにお伝えできればとおもいます。
みなさん、楽しい統率者ライフを!