はじめに
みなさま、「名カード集」へようこそ。
この「名カード集」では、時代を過去へと遡り、昔のエキスパンションの名だたるカードを紹介していきます。
今回は日本を基にした世界である神河/Kamigawaより、『神河物語』をご紹介しましょう。
『神河物語』ってどんなセット?
『神河物語』とは、2004年10月に発売された全306種類の大型エキスパンション。伝説をテーマにしていることから『神河物語』はもちろん、『神河謀反』『神河救済』に至るまでブロック全体通じて伝説カードが多く収録されています。レアカードの内クリーチャーはすべてが伝説、アンコモンの一部にも伝説カードが存在しているほどなのです。
新キーワード能力は「側面攻撃」のリデザインにあたる「武士道」や戦場から墓地へ置かれたときに特定のマナコストのスピリットカードを手札へと戻す「転生」、呪文同士を組み合わせる「連携」が登場しました。1枚のカードの中央が区切られて2種類の効果を持つ反転カードもここ、『神河物語』に初収録されました。
また、『神河物語』は伝説ルールが変更されたエキスパンションでもあります。具体的には、同名の伝説のパーマネントが複数存在する場合そのすべてを墓地に置くというもの。つまり、対戦相手と同じ伝説カードを戦場に出せばその両方が墓地置かれるため、除去のように機能したのです。
『神河物語』以前のように伝説カードを先に出されて無駄になってしまうことを防げるようになりましたが、伝説の土地に関しては注意が必要でした。土地を出すことはスタックに積まれないため、同名の伝説の土地が戦場に揃うとマナを出すタイミングもなく双方が墓地へ置かれてしまうのです。呪文を唱えるために伝説の土地をアンタップ状態で残しておいたところに、相手が同じ土地を出したためにマナが足りずプランが狂ってしまったなどこの時代のあるあるでもありました。
『神河物語』の名カードたち
《けちな贈り物》
対戦相手1人を対象とする。あなたのライブラリーから異なる名前のカードを最大4枚まで探し、それらを公開する。そのプレイヤーはそれらのカードから2枚を選ぶ。選ばれたカードをあなたの墓地に置き、残りをあなたの手札に加える。その後、あなたのライブラリーを切り直す。
《けちな贈り物》は神河ブロックを代表するサーチカード。《直観》のリメイク版ともいわれ、デッキ内から名前の異なるカードを最大4種類までサーチし、対戦相手が選んだ2枚を手札へと加えることができます。こう聞くと4枚の中から評価の低い2枚を手札に入るだけではと思うかも知れませんが、このカードの特徴は墓地にもカードを送り込める点です。つまり、墓地で効果を発揮するカードと組み合わせたり、墓地からカードを拾えるギミックを組み込むことで実質的に2枚チューターとして機能するのです。
忘れてはならないのは、最大4枚という点。ライブラリーから探し出すのはそれ以下の枚数でも良く、たとえば2枚選んだならばその両方が墓地へと置かれます。不思議なことに世の中には手札に加わらない方が都合のいい組み合わせもあるのです。《掘葬の儀式》を絡めたリアニメイト戦略でも使用されました。
ブロック構築やスタンダードでは《けちな贈り物》を中核に据えたけりコントロールが隆盛しました。《けちな贈り物》から《花の神》《魂無き蘇生》《死の否定》をサーチすると、なんと「連携」による循環エンジンが構築できたのです。特にブロック構築ではその影響は大きく、けちコントロール一強なったのはいうまでもありません。
エクステンデッドでは、《サイカトグ》が目を付けました。《けちな贈り物》で《壌土からの生命》とフェッチランド、そして《孤立した砂州》などの「サイクリング」土地を組み合わせることで強力なドローエンジンが形成できました。しかも墓地へ落ちたカードは《サイカトグ》の餌となるため、まったく無駄になりません。
《明けの星、陽星》
飛行
《明けの星、陽星》が死亡したとき、プレイヤー1人と、そのプレイヤーがコントロールしているパーマネント最大5つを対象とする。そのプレイヤーは自分の次のアンタップ・ステップを飛ばす。それらのパーマネントをタップする。
『神河物語』の各色に存在するレジェンドドラゴン。6マナ5/5と高水準のスペックに、それぞれ死亡したときに固有の誘発型能力をもっていました。《明けの星、陽星》の場合はパーマネント5つをタップし、アンタップステップを飛ばすというもの。フィニッシャーとしての資質も十分ながら、守勢に回っては1ターンの時間を稼ぐ防御に特化した性能なっていました。
《明けの星、陽星》が恵まれていたのはスタンダードに最高の相棒、《よりよい品物》があったことです。両者を揃えたら相手のアップキープに《明けの星、陽星》を生け贄に捧げることで、パーマネントを5つタップしつつ、次のアンタップステップを飛ばすことができました。
こうして相手を縛って時間を稼ぎつつその間に自分の戦場を構築していくロックコンボ、グレーター・ギフトが誕生しました。サーチカードには先ほどご紹介した《けちな贈り物》が採用されています。《明けの星、陽星》は手札から唱えるだけではなく、墓地にあれば《御霊の復讐》などでリアニメイトできたため、《けちな贈り物》はこのデッキと相性がよかったのです。
《罰する者、ゾーズー》
土地が1つ戦場に出るたび、《罰する者、ゾーズー》はその土地のコントローラーに2点のダメージを与える。
《罰する者、ゾーズー》は《ミシュラのアンク》を内蔵したクリーチャー。《桜族の長老》《木霊の手の内》という2大マナ加速に恵まれた『神河物語』の緑に対するアンチカードであり、長期戦を見越したコントロール全般に強いクリーチャーです。3マナ2/2とサイズも申し分なく、セットランドと攻撃で毎ターン4点分のダメージを稼いでくれました。
ミラディン-神河時代の高速赤単デッキ、スライは非常に強力なカードが揃っていました。《金属モックス》の加速を経て無人の荒野を走りサイズアップする《炎歩スリス》、さらに2ターン目に《罰する者、ゾーズー》が着地すれば追いつけるデッキなど存在しません。
環境にトロンなど土地に依存したデッキが多く、さらにそれらが除去をもたないカラーだったこともあり、《罰する者、ゾーズー》はひとたび着地すれば勝敗を決定づける強力なダメージソースとなりました。
《今田家の猟犬、勇丸》
(テキストなし)
シンプルイズベスト。1マナ2/2と歴代の白のなかでも最高峰のウィニークリーチャーである《今田家の猟犬、勇丸》。この時代の白ウィニーは《サバンナ・ライオン》と合わせて1マナパワー2のクリーチャーを8枚採用できたため、序盤でダメージレースを大きくリードできる非常にスピーディーな構築となっていました。
クリーチャーの少ないコントロール戦では伝説が足を引っ張り《サバンナ・ライオン》の下位互換ともいわれてしまいそうですが、同じセットに《桜族の長老》がいたことで高く評価されます。なんせこちらはタフネスが2であり、気にすることなく攻撃に向かえたのですから。
ナヤカラーの攻撃的なクリーチャーを火力でサポートするZoo。初速を大切にするこのデッキはマナコストが低く、パワーが高いクリーチャーは軒並み採用されました。ほかにも白単ウィニーやボロス、各種白系クロックパーミッションとこの時代に白ベースのクリーチャーデッキは数多く存在しています。
そのすべてに共通するのが《今田家の猟犬、勇丸》であり、このクリーチャーこそもっともダメージ効率が高くかつ安定したスタートとなっていました。なんせ無条件で2/2ですし。ブロック構築やエクステンデッドといった、白い攻撃的なデッキの定番として活躍し続けたのはいうまでもありません。
《すべてを護るもの、母聖樹》
《すべてを護るもの、母聖樹》はタップ状態で戦場に出る。
(T),2点のライフを支払う:(◇)を加える。このマナがインスタント呪文かソーサリー呪文のために使われたなら、その呪文は打ち消されない。
《すべてを護るもの、母聖樹》はタップインかつ、マナを生成するために2点のライフを必要とするかなりスローな痛い土地です。しかし、それを補って余りある強力な効果が付与されていました。それはこのマナが使われたインスタントかソーサリーは打ち消されないということ。弱体化しつつも存続し続けていた青の打ち消し主体のデッキに無情な宣告を告げる効果でした。
しかし、何でもかんでも使ってはライフが持ちません。できることなら重く強力なカードを使い、唱えた瞬間に勝負を決めたいところです。
スタンダードには相性が良いアーキタイプがありました。緑トロンです。トロンランドを揃えて重いソーサリーである《歯と爪》をキャストするこのデッキは、打ち消し呪文が大の苦手。どんなに素早くマナを揃えても、3マナ前後で対処されてしまいました。
そこで活躍するのが《すべてを護るもの、母聖樹》です。ちょうどトロンランドを揃えるために《森の占術》や《刈り取りと種まき》など土地をサーチするカードがあったこともあり、トロンランドを揃えながらデッキに1枚の《すべてを護るもの、母聖樹》も引っ張ってくることが可能でした。
ただし、青いデッキたちも黙って指をくわえて見ているわけではありません。伝説ルールに着目してサイドボードに対消滅用の《すべてを護るもの、母聖樹》を採用します。この時期はコントロールやコンボによる世にも奇妙な土地破壊が発生していました。
再評価されつつある『神河物語』カード
『神河物語』には各色に伝説の土地が用意されていますが、色によって使われた頻度は異なります。スタンダードでもっとも採用されたのは《死の溜まる地、死蔵》であり、ダメージを通すことで誘発する《鬼の下僕、墨目》と相性が良く、また色が合わなくても対消滅用に採用されていたほどです。
その一方で、まったく評価されなかった土地もありました《血に染まりし城砦、真火》です。
(T):あなたのマナ・プールに(赤)を加える。
(赤),(T):伝説のクリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで先制攻撃を得る。
《血に染まりし城砦、真火》はマナ能力に加えて、伝説のクリーチャーへ先制攻撃を付与する能力を持っています。わずか2枚の土地で戦闘を優位に進められるため一見すると悪くないように思えますが、実際のところ構築戦においては接触戦闘はあまり発生しません。ましてや赤には火力があるためブロックされるくらいなら除去してしまいます。そのカードがなぜ、再評価されているのでしょうか?
2021年に《血に染まりし城砦、真火》の評価は一変した理由、それは『モダンホライゾン2』より《敏捷なこそ泥、ラガバン》が登場したためです。
攻撃を通すことで圧倒的にゲームを優位に進めてくれる《敏捷なこそ泥、ラガバン》。回避能力はないものの、打ち消しや除去呪文を絡めるだけで追随不可能なほどアドバンテージ差を広げてくれます。当然対策が進みますが、ブロッカーを立てようにも火力があるため機能せず、青と組み合わせることで除去からも守りやすくなってしまいました。
そんななか1枚のコモン、《若き狼》に活路を見出したプレイヤーもいました。ひとたび着地しようものなら《敏捷なこそ泥、ラガバン》の前に立ちふさがり、除去しようにも「頑強」のために2枚を要求してきます。究極の《敏捷なこそ泥、ラガバン》メタといっても過言ではありません。
接触戦闘で《敏捷なこそ泥、ラガバン》を止める、この視点が生まれたことで《血に染まりし城砦、真火》に注目が集まりはじめます。タフネス2以下のクリーチャーに対しては一方的に攻撃することができ、多少時間は稼がれてしまいますが使い減りしません。何よりも素晴らしいのは極端な対策カードを採用することでデッキを歪めることなく、マナベースに手を加えるだけで済んだのです。しかも赤マナが生成できるため、色マナが減って事故りやすくなるような心配もありません。
この令和の時代において、《血に染まりし城砦、真火》はもっとも使用される伝説土地の1枚となったのです。
まだある名カード
さて、『神河物語』名カード集、お楽しみいただけたでしょうか。しかし、「あの有名カードなくない?」「もっといいカードあるよ!」と思われた方もいらっしゃるはず。
もっと『神河物語』のカードについて知りたい方は、ぜひ、動画もご覧ください!
次回の「名カード集」では、『神河謀叛』をお届けいたします。