神のピックを見てみよう! ~リミテッド神が教えるドラフトのコツ~
晴れる屋メディアチーム
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先週末第27回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権が開催されましたが、そのフォーマットはスタンダードとドラフトが採用されました。久しぶりに、本当に久しぶりにトッププレイヤーたちのドラフトピックや対戦を目の当たりにすることができたのです。
画面越しのプロたちの美技に酔いしれて自分もとMTGアリーナを起動しますが、いざやってみると難しいのがドラフトです。「あそこ、アレをピックすれば良かったぁ」と振り返っても後の祭り、ドラフトでの出会いは一期一会となっています。強いカードをピックしているにも関わらず勝てない、デッキが上手くまとまらないなど疑問は増えるばかりです。
ドラフト上達の秘訣はないものかと思案していたところ思いつきました。やはり餅は餅屋、ドラフトはドラフト神。現リミテッド神・高橋さんへドラフトのコツを聞いてみるしかない!と。ちょうど良いことに第9期リミテッド神決定戦が開催中です。
今回はドラフトをもっと楽しめるように現リミテッド神・高橋さんにご協力いただき、神決定戦時のドラフトピックと合わせてリミテッドの考え方を伺いました。「ちょっとドラフトって難しい」と思われる方はぜひ参考にしてみてください。
――「まずは『イニストラード:真夜中の狩り』のドラフト環境について教えてください」
高橋「この環境はカードが全体的に強めでテンポだけで押し切るのは難しく、コツコツとアドバンテージを稼ぐ必要がありますね。コモンに軽いマナ域の狼男が少なく、以前の『イニストラード』のように2~3マナ域の狼男が完走するほど早い環境ではありません。そのため2マナ域は見たら取れとはなりませんが、少数いる軽い狼男に負けないように軽いマナ域を確保する必要がありますね。対戦相手のデッキによって2マナ域の価値が変わるため、サイド後は重いカードと入れ替わります」
――「てっきり『イニストラード』と同じように軽いマナ域が強い、テンポ環境かと思っていました。それでは、ドラフトの指針についてはいかがでしょうか」
高橋「自分がドラフト中意識しているのは色を絞ることです。いわゆる流れを見たり、受けを広くするピックはオススメしません。1パック目の序盤はできるだけ3色以内に絞ってピックしていきます。もしまったく色の違う強いカードが複数枚あったり、1パック目を終えて均等3色なら黄色信号。流れに身を任せるあまり、自分の色を見失っています。ブレブレになるよりは初手に引きずられてでも色を決めた方がカードを集めやすく、結果的にデッキは強くなりますね。最低でも1パック目で1色を決めるようにしています」
どうやら1パック目で1色を決めることが重要なようです。それでは実際の高橋さんのピックを追いかけてみましょう。
初手で強力レア《素晴らしき復活術師、ギサ》をピックした高橋さん。神の言葉をかりるなら「黒はカラー自体も強力であり、文句なしでピックできた」とのことです。
ポイントは2手目の《臓器の貯め込み屋》のところ。黒の候補はなく、青の強力カードが3種類揃ったパックでした。セット全体のトップコモンといえる《臓器の貯め込み屋》《異形の隼》に、青白降霊では特に強力なアンコモン《幻影の馬車》とよりどりみどり。高橋さんは《臓器の貯め込み屋》と《異形の隼》を天秤にかけて時間いっぱい悩み、前者を選択しました。ドラフト終了後3マナがやや薄くなってしまい「後者にすべきだった」と語っていますが、この時点では手札と墓地を潤す《臓器の貯め込み屋》を優先しました。
そして向かえた3手目。ここで《戦慄の猟犬》を手にすると高橋さんの中で黒は確定となり、その後は黒のカードを優先的にピックしていきます。多少点数が低かったとしても一貫して黒を主張していき自分のデッキを強化しつつ、ほかのプレイヤーが参入しないように絞っていきました。
1パック目を終えた段階で黒のカードが大半を占め、宣言通り1色を確定させています。しかもピックしたカードは優秀な生物ばかりであり、十分合格点。2色目としては青に強力なカードがあるものの、今後の流れ次第といったところ。次のパックでは不足している除去と低マナ域、具体的には2~3マナ域のクリーチャーを集めていきたいとのことでした。
2パック目の初手で待望の《窓からの放り投げ》をピックすると、続く《オリヴィアの真夜中の待ち伏せ》で欲しかった除去を一気に補充することに成功。後に「ここの2手がキーだった」と語ってくれた通り、一気にデッキが強化されました。
4手目で《縫込み刃のスカーブ》が流れて来たことで卓内に青黒がいない気配を掴むと、2色目を青に決めてググっとアクセル踏み込みます。その読みは的中しており、2枚目の《縫込み刃のスカーブ》や《食糧庫のゾンビ》を遅い順目で集めることに成功。2パック目終了時点でカード枚数は16~18枚程度あり、余裕をもって3パック目に挑むことができますね。
3パック目では除去と良質な3マナ域を追加したいところです。
初手で2マナ域かつ疑似除去の《スカーブの世話人》を手にして、デッキが引き締まります。「腐乱」を持つゾンビトークンをより有効活用できるようになったためです。
興味深かったのは2手目の《銀弾》。シールドでは必須の1枚とされますが、マナコスト+起動コストで4マナはやや重く感じました。しかし高橋さん曰く、「及第点のカード。この時点で除去が不足していたのと、3マナ域を埋めるカードとしてピックした」とのこと。その後もデッキに何が足りないかを意識して、《八方塞がり》や《回路切り替え》をピックし続けていきます。
4手目の《モークラットのビヒモス》も注目の一手といえそうです。重いマナ域はすでに何枚か確保済ですが、なぜでしょうか。
高橋さんに聞くと、4手目時点ではやや決定力不足であったとのこと。《モークラットのビヒモス》は何よりもサイズが素晴らしく、緑のクリーチャーに引けを取らず、火力1枚では対処できない黒らしからぬクリーチャーです。反面青と黒、つまり軽めの除去やバウンスには弱いものの、メインボードに置くことでデッキがグッとしまったとのことでした。
完成したデッキはクリーチャーの質も高く、序盤から終盤までマナカーブも整っており、黒の除去もすべてある非常に強力な仕上がりとなっていました。《食糧庫のゾンビ》や《スカーブの世話人》などゾンビトークンの活用先も用意されています。特に《食糧庫のゾンビ》は序盤のブロッカーとしても優れており、マナコストが軽いため昼夜反転にも使える高橋さんイチオシのクリーチャーです。
しかし能動的な3マナ域が少なかったこともあり、高橋さんの評価は「70点」と厳しめ。結果的に1-2の《異形の隼》を流したことが響いたようです。青黒ながら飛行などの回避能力持ちが少ないため、インスタントを絡めながら戦闘を進めていかなければなりません。
確かに3マナ域はやや薄めですが、それ以外はかなりの完成度を誇ります。序盤に出遅れることはない綺麗なマナカーブに除去も添えられています。たとえ《レンと七番》が相手だとしても《回路切り替え》とサイドボードの《雲散霧消》と全方位に対処手段が用意されているのです。
本来はピックからデッキの感想で〆るところですが、高橋さんが神の座を防衛したことでドラフトの勝ち方についてさらにつっこんで聞いてみたいと思います。
――「防衛おめでとうございます。先ほどピックを見せていただきましたが、ほかにドラフトを上手くなるコツはありますか?」
高橋「ありがとうございます。構築戦とリミテッドの最大の違いはこのコンバット(クリーチャー同士の接触戦闘)にあります。ほかのプレイヤーのリストも見てもらえばわかる通り、ドラフトはクリーチャーを極端に減らしたデッキ構築は非常に難しくなりますね。自分はこのコンバットこそ、勝負の分かれ目だとおもっています」
――「むむむ、そこまでですか。でもクリーチャーが並びだすと考えきれません。コンバットは一朝一夕で身につくものじゃないんですね」
高橋「上達したい気持ちはわかりますが、義務感でやると途中で嫌気がさしてしまうのでオススメしませんよ。自分は楽しむことこそ上達への近道だと思います」
そして「そうですね」と言葉をおくと高橋さんは一つコツを教えてくれました。
高橋「コンバットの上達のコツとして、除去をすぐに打たないことですね。相手がプレイした強力クリーチャーに対して反射的に除去をプレイしてしまいがちですが、まずは一呼吸して状況を見てください。仮に除去する必要があるとしても、戦闘を絡めて何らかのアドバンテージが稼げないかと考えています。テンポでもハンドでも、単純な1対1交換ではなく複数交換が狙えないか探しますね」
高橋さんは今日の対戦から実例を2つあげてくれました。以下の動画は《窓からの放り投げ》と《オリヴィアの真夜中の待ち伏せ》を的確に使用して、大きなアドバンテージを得たシーンです。
まずはゲーム1の優勢を決定づけたこのビッグプレイ。《モークラットのビヒモス》でアタックし、2体にブロッカーされたところで《窓からの放り投げ》をプレイ。これにより戦闘で一方的に勝ち、カードとテンポ両面でアドバンテージを得ています。
次はゲーム4での橘さんの攻撃に対するブロックしたところ。スタッツで勝る《縫込み刃のスカーブ》がブロックすれば相手は何らかのアクションを起こさざるを得ず、そこに《オリヴィアの真夜中の待ち伏せ》を挟むことで戦場から2体のクリーチャーを除去してテンポ面で優位に立ち、事実上相手の4ターン目を潰した形となっています。仮にここが《伝染病の狼》の起動だったとしても、同じくテンポ面での優位は変わっていません。
クリーチャー同士の戦闘だけで悩んでいる方は、除去呪文をおりまぜていかに自分が得をできるかを考えてみることをオススメします。単体除去であっても複数のクリーチャーにブロックされた後に使用して自分のクリーチャーだけを残すことができれば、その価値は飛躍的に高まります。除去1枚、ひいてはカード1枚の価値をどこまで高めることができるか。そこにコンバット上達のポイントがあるようです。
初めに述べた通り高橋さんは「流れ」や「渡り」といった受けの広いピックよりは、序盤で1色を決めて確実にデッキを強化していくドラフティングを推しています。ドラフトに慣れていないプレイヤーに対して助言を求めると、さらに次のようなアドバイスをくれました。
高橋「もしドラフトの経験が少ないのなら決め打ちを推奨します。初手で引いたレアでも良いし、環境的に強いといわれる色でも、自分が好きな使いたい色でもいいです。下手に流れてくる色に引っ張られてデッキが弱くなるよりはキッチリとしたデッキが完成しますね。当然上とダダ被って負けることはあるが、途中でピックがヨレるよりは高い完成度になります」
――「決め打ちと聞くと被って失敗することばかり考えてしまいますが、自分の経験値が不足していればありなんですね」
高橋「ドラフトはいかにデッキを作るかなので、あちらこちらフラフラしてしまうよりはマシですね。色を決めたら次はマナカーブを意識しましょう。序盤に動けないターンを作らない。クリーチャーではなく除去でもいいので、かならず2~3マナ域を確保します。いくら強くても6マナばかりではゲームを作ることはできないので、4マナ以降は徐々に減らしていきますね」
高橋「この環境では2~3マナ域を揃え、次は質をいかに高められるかがポイントだと思います。今回は1パック目で生物を取れましたが、除去が不足。そのためそれ以降は多少良い生物がいたとしても除去を優先しようと決めました。ピック中は自分のデッキに何が必要か考えてピックしていきましょう」
高橋「今回の世界選手権のように上手い人のピックを見る場合は、初手ではなく6-10手目で何を取るかに注目することをオススメします。その一部は絶対デッキに入るのでそこの流れや考え方は参考になりますよ」
――「でもピックをしているとどうやっても自分の色がないパックと出会ってしまいます。その時はどうすればいいんですか?」
高橋「そういった場合はサイドボード用のカードの確保しましょう。今回でいえば《自然への回帰》や《垂直落下》、《ジャック・オー・ランタン》のところです。必要なカードがないなら色は違ってもサイドボードで使えそうなカード、相手に使われて嫌なサイドカード、それらを使用するためのマナベース補助カードをピックします。色は合っていなくても構いません。サイドボード後に色を増やして使います」
高橋「逆に自分が使えないボムレア(強力レア)を反射的にカットすることは推奨しません。色が決まらずにピックするならまだしも、強いから使われたくないでカットしないように。まずは自分のデッキを完成させてその練度を高めることが重要です。自分のデッキが求めている1枚をピックしましょう」
――「サイドボードのピックも重要なんですね。貴重なお時間ありがとうございました。早速教わったことをMTGアリーナで実践してみます」
今回は高橋さんの実際のピックを中心にドラフトのコツを紹介してきました。流れを読んだり、受けを広くピックすることは理想かもしれませんが非常に難しく、かえってデッキを弱くしてしまうリスクがあります。慣れないうちは決め打ち、1色を決めてカードを確実に集めていくのが高橋流。サイドボードを含めてしっかりピックしていきましょう。
実際高橋さんのサイドボードには《自然への回帰》や《垂直落下》、途中で見た《敵意ある宿屋》用に《廃墟の地》まで用意している徹底ぶりでした。
また、コンバットと聞くとクリーチャー同士の戦闘のみと捉えがちでしたが、除去を絡ませて考えることで世界が広がった気がしました。自分が少しでも得できるように最適なタイミングを見計う必要があります。神が神たるゆえん、それはわずかなアドバンテージも逃さない的確なコンバットにありました。
この記事を通して、ドラフトをより楽しんでいただければ幸いです。