スタンダード情報局 vol.54 -世界選手権に訪れた大イゼット時代-

富澤 洋平

はじめに

みなさんこんにちは。晴れる屋メディアチームの富澤です。

先週末に第27回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権が開催され、高橋 優太選手が世界王者となりました。おめでとうございます!

かつての《熱烈な勇者》《精鋭呪文縛り》と同じく、優勝者はプレイヤー・スポットライト・カードとしてマジックのカードへと描かれます。どんなカードになるのか今から楽しみですね。

ということで今回は世界選手権の結果を振り返っていきます。

先週末の注目デッキは?

まずは先週末の注目デッキを確認していきましょう!

イゼットドラゴン

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高橋選手が使用して怒涛の11連勝で王座へとたどり着いたイゼットドラゴン。豊富な火力でボードを対処していくコントロールデッキですが、《黄金架のドラゴン》が定着するか否かでまったく別の顔を見せるデッキです。ひとたび戦場へと舞い降りれば打ち消し呪文で守りながら速やかにライフを削る攻撃的な面を持ち合わせ、対処されなければ《アールンドの天啓》を絡めて一気に押し切ってしまえる構築となっています。

では、スタンダード11連勝の秘密に迫りたいと思います。

黄金架のドラゴン

同じカラーボードであるイゼットターンとの違いは攻めに転じる際の必要マナ数になります。ターン側が最低でも《感電の反復》+《アールンドの天啓》で8マナ揃える必要があるのに対して、ドラゴン側はわずか5マナでよく、しかも《黄金架のドラゴン》の特性上隙を生みにくく、対処されなければターン毎にマナ差がついていきます。

アールンドの天啓否認ドラゴンの火

《黄金架のドラゴン》はそれ単体で完走できるだけの性能を秘めており、組み合わせるべきは必ずしも《アールンドの天啓》である必要はありません。打ち消し呪文や火力などで相手の行動を阻害し続けるだけでも良く、状況に合わせて可変的にゲームプランを練り上げられることこそが《黄金架のドラゴン》の強みなのです。

轟く叱責ドラゴンの火

イゼットターン以外でメタゲーム上位に位置するのは緑単、次いで白単の両アグロデッキです。それらに勝つために環境初期には氷雪に寄せて《霜噛み》や5ターン目の《レンと七番》をトークンごと粉砕する《家の焼き払い》が採用されていました。しかし、高橋選手はタフネスの焦点を4に合わせることで《霜噛み》を排除し、さらにカードアドバンテージよりも軽くテンポアドバンテージを取れるカードを優先的に選択しています。

《轟く叱責》《ドラゴンの火》はどちらもゲームのカギを握るタフネス4のクリーチャーに対しテンポを得ながら対処してくれます。それこそ4ターン目には2マナの火力と打ち消し呪文の組み合わせで相手のボードをクリアにし、理想的な戦場で《黄金架のドラゴン》を送り出すことを可能にしてくれています。

心悪しき隠遁者

メインボードに採用された打ち消し呪文は少量であり、イゼットターン相手にはやや不安を覚えますが、サイドボードには《心悪しき隠遁者》がしっかり4枚用意されています。この《心悪しき隠遁者》こそ、クロックと妨害の合わせ持つマスターピースであり、《黄金架のドラゴン》に頼らずにターン側を追い詰めていけるのです。

《心悪しき隠遁者》を放置していてはライフは持たずコンボを始動することもできません。そのためこのクリーチャーのプレッシャーに対して相手は動かざるをえず、メインボードよりも安全に《黄金架のドラゴン》をプレイできるようになります。

第27回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権

順位 プレイヤー名 デッキタイプ
優勝 高橋 優太 イゼットドラゴン
準優勝 Jean-Emmanuel Depraz ティムールミッドレンジ
トップ4 Jan Merkel グリクシスターン
トップ4 Ondrej Strasky イゼットターン

(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)

トップオブトップたちが集まった第27回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権はイゼットドラゴンを使用した高橋 優太選手が優勝しました。ほかの選手たちのデッキを見てもこれまでになかった斬新なアイデアの宝庫であり、スタンダードの躍動を感じるイベントとなりました。

野生の魂、アシャヤ

セス・マンフィールド/Seth Manfieldパウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサ/Paulo Vitor Damo da Rosaサム・パーディー/Sam Pardeeと名だたるプレイヤーが調整した緑単アグロでしたが、結果を残すことはできませんでした。2マナ域から芯の太いクリーチャーでビートダウンしていきますが、過度にメタられた結果《消えゆく希望》《バーニング・ハンズ》などテンポ面で不利なカードが多く採用されていたことが原因だと思われます。

セス選手のサイドボードに採用された《野生の魂、アシャヤ》は面白いクリーチャーです。ミラーマッチでは驚くほどのサイズまで育ち、格闘除去と組み合わさることで一方的な戦場を築き上げます。また、地味ながらクリーチャーが土地になる効果も意味があり、対緑単アグロの必殺兵器として用意された《竜巻の召喚士》を無効化できるのです。

メタゲーム

デッキタイプ 使用者数 4勝以上
イゼットターン 4 1
グリクシスターン 4 3
緑単アグロ 3 0
白単アグロ 2 0
その他 3 2
合計 16 6

メタゲームを見ると《アールンドの天啓》デッキが最多の8名であり、緑と白のアグロデッキが続きます。プレイヤーの思考的には中途半端はミッドレンジやコントロールはイゼットターンを攻略できないため、イゼットターンを使用するか、コンボ前にゲームを決めるアグロへ舵を切ったようです。

しかしタイブレイカーラインを見ると残ったアグロデッキは緑単1名のみと厳しい結果になりました。イゼットターンの高速化、そしてミッドレンジ型のグリクシスターンを追従するには、ボードのダメージソースだけでは不十分だったようです。

全デッキリストはこちら

大会放送リンク:1日目/2日目/3日目

イゼットターン(チェコ式)

イゼットターン(チェコ式)

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イゼットターンは《感電の反復》《アールンドの天啓》を軸にしたコンボコントロール。《アールンドの天啓》がコンボパーツ兼フィニッシャーであるため、そのほかの部分は干渉手段とドロー呪文に割かれています。

アールンドの天啓感電の反復

以前はよりボードコントロールに重きを置き、イゼットドラゴンのクリーチャー部分を《感電の反復》へと置き換えた互換性のある構築でしたが、メタゲームを意識したカードが2枚メインボードにあります。

予想外の授かり物感電の反復

チェコ勢が目を付けたのは《予想外の授かり物》です。これまでも2枚前後の採用はありましたが大胆に4枚まで増やした構築は初めてであり、合わせて《感電の反復》も4枚投入されています。

《感電の反復》《アールンドの天啓》《家の焼き払い》などフィニッシャーのコピーが用途の大半であり、手札にダブついた際の使い道があまりなく、そのため2枚程度しか採用されていませんでした。稀にアグロに対して火力やバウンスなどをコピーすることもできますが、コンボに必要なマナが増えてしまいます。《記憶の氾濫》との相性が悪く、効果の割りに用途が狭いカードという認識でした。

しかし、《予想外の授かり物》《感電の反復》の組み合わせはそれ自体が新たなコンボとなりました。追加コストを含めると手札自体は1枚分しか増えませんが、宝物トークンを4つ生成する爆発的なマナ加速を可能にしたのです。

《予想外の授かり物》を安定してプレイできるようになったことでアグロに対して従来間に合わなかったはずのコンボが間に合うようになり、ミラーマッチではマナ差をつけることでコンボを仕掛ける際に有利となったのはいうまでもありません。手札でダブついた《感電の反復》は追加コストとしても捨てるのにもピッタリです。ドローを進め、マナを増やす《予想外の授かり物》はイゼットターンの求めていたカードだったのです。

才能の試験悪魔の稲妻

チェコ勢が意識したメタゲームがわかりやすい2枚がメインボードにあります。《才能の試験》はミラーマッチにおいて《感電の反復》《アールンドの天啓》を打ち消して追放することで、コンボ自体を完全に破壊してしまいます。手札に複数枚の《アールンドの天啓》がある場合は、「予顕」することで被害を最小限に抑える必要があるのです。

《悪魔の稲妻》はクリーチャーに対する除去カードですが、やや重めです。しかし、環境を定義するタフネス4のクリーチャーを対処できる貴重な火力であり、さらには「予顕」することで《アールンドの天啓》のように振る舞い対戦相手をミスリードすることもできるのです。《感電の反復》との相性も良く、「予顕」しておけば3マナで2体のクリーチャーを対処でき、相手の攻めを切り返すことに一役買ってくれます。

グリクシスターン

グリクシスターン

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こちらはイーライ・カシス/Eli Kassisガブリエル・ナシフ/Gabriel Nassifヤン・メルケル/Jan Merkelマット・スパーリング/Matt Sperlingの4名が持ち込んだ3色の《アールンドの天啓》デッキ。《強迫》《真っ白》などミラーマッチで効果的なカードをタッチした構築であり、《溺神の信奉者、リーア》によってそれらを使い回してアドバンテージを確固たるものとします。

先ほどのイゼットターンがより直線的なコンボへと進んだのに対し、こちらのグリクシスターンは新たなオプション《溺神の信奉者、リーア》によるミッドレンジタイプへと進化しています。

溺神の信奉者、リーア消えゆく希望

《アールンドの天啓》コンボとは別軸の勝ち手段である《溺神の信奉者、リーア》は墓地にあるインスタント/ソーサリーを使い回せるため、生存期間が長ければ長いほどアドバンテージを稼いでくれます。しかも1ターンに1枚なんてケチな制約もなく、マナのある限り使い回せる贅沢仕様なのです。

全体的に軽いマナ域の呪文が多く採用されているのは、着地してすぐに使い回してアドバンテージを稼ぐためです。《消えゆく希望》は要の1枚であり、対戦相手のクリーチャーを対象としてテンポを稼ぐだけでなく、自身の《溺神の信奉者、リーア》を除去から守ることにも使えます。除去よりも用途が広く、かつ軽いため相性の良いカードですね。

また、《溺神の信奉者、リーア》が戦場にいればすべての呪文に打ち消し耐性を付与してくれます。安心して《アールンドの天啓》をプレイできますが、《ゼロ除算》だけには注意を。こちらは呪文自体を手札へ戻すため無効化できません。先に《強迫》で露払いしてするなどしてから本命を通しましょう。

セレスタス

《セレスタス》はマナ加速すであり、先に《アールンドの天啓》へとたどり着けるようになるミラーマッチで差をつけるカードです。色マナを安定させてくれる同時に、昼夜を入れかえることでアドバンテージ源にもなります。ミラーマッチではお互いに打ち消しを構えて隙を伺っていくため何も呪文をプレイしないターンもあり、自動的に手札の質を高めることへ繋がります。捨てたカードも《溺神の信奉者、リーア》で再利用できるため、隙のない構築になっていますね。

マインド・フレイヤー竜巻の召喚士

サイドボードでは2種類のクリーチャーが目を引きます。《マインド・フレイヤー》《セレスタス》のマナ加速先としては最適で、相手のダメージソースを減らしながら自軍の守りを固めてくれる除去以上の効果をもたらす1枚。タップアウトを狙えば、たとえ返しのターンに除去されたとしても奪ったクリーチャーの攻撃を1ターン防ぐことができます。《溺神の信奉者、リーア》と同じく《消えゆく希望》と相性の良いクリーチャーであり、奪ったクリーチャーをブロックで潰しつつ本体を使い回していきましょう。

《竜巻の召喚士》も緑単アグロに対して強力な1枚。アグロ相手に《アールンドの天啓》にとってかわるフィニッシャーであり、プレイできれば自分以外のほとんどすべてのパーマネントを戻すことができます。テンポアドバンテージを獲得できる大型クリーチャーであり、着地後は攻守が入れかわります。

アゾリウステンポ

アゾリウステンポ

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茂里 憲之選手がただ1人持ち込んだアゾリウステンポ。白単アグロから1マナ域を削り、打ち消し呪文などのインスタントトリックへ置き換えたデッキです。早い攻め手と妨害要素があるため、重いソーサリーが軸のイゼットターンを意識したアーキタイプとなります。従来の《精鋭呪文縛り》《一枚岩の防衛》が加われば、このデッキの支配下から逃れる術はありません。

剛胆な敵対者光輝王の野心家

攻めの主軸は2マナのクリーチャーにあり、最序盤に展開してダメージを稼いでいきます。特に《光輝王の野心家》は戦場に出るターンが早ければ早いほど+1/+1カウンターをバラまいてくれるため、積極的にプレイしていきたいところ。逆に《剛胆な敵対者》は中盤以降に真価を発揮するクリーチャーであり、フィニッシャーにもなり得ます。

心悪しき隠遁者一枚岩の防衛

防御枠は4枚であり、《精鋭呪文縛り》《傑士の神、レーデイン》は白単アグロが相手の行動を制限するために採用しているクリーチャーですね。

《心悪しき隠遁者》はイゼットターンのサイドボードでよくみるクリーチャーですが、生きた《神秘の論争》ともいうべきこのクリーチャーはこのデッキでこそ輝きます。ダメージソースでありながらわずか1マナで相手の呪文を対処する攻防一体のクリーチャーであり、ダメージを与えて相手の時間を減らすことで最小限のマナで動かざるを得ない状況を作りだしてくれるのです。だからこそ軽量打ち消し呪文は戦略的に合致しており、《一枚岩の防衛》は見た目以上にクリティカルに刺さるのです。

幽体の敵対者

ただの瞬速持ちと思われがちな《幽体の敵対者》ですが、その実かなり応用力の高いクリーチャーです。対戦相手のクリーチャーをフェイズアウトさせることで攻防を差し止めるだけではなく、自軍をフェイズアウトさせて除去から守れるのです。守りつつ攻め手を追加できるため、コントロール相手には見た目以上の活躍をしてくれます。

おわりに

世界選手権ではイゼット系のデッキが活躍し、アグロデッキは負け組へと追いやられていました。しかし、後に開催された$5K SCG Tour Online Championship Qualifierでは緑単アグロが結果を残しており、メタゲームは混沌としているようです。

今週末には 第18期スタンダード神挑戦者決定戦をはじめ、多くの大会が控えています。次回はそれらの情報をお届けしたいと思います。

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富澤 洋平 晴れる屋メディアチームスタッフです。最近は《黙示録、シェオルドレッド》に夢中な日々です。 富澤 洋平の記事はこちら

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