はじめに
みなさんこんにちは。晴れる屋メディアチームの富澤です。
前回は第27回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権で活躍したデッキを中心にご紹介しました。スタンダードを11連勝で飾ったイゼットドラゴンを筆頭に、イゼット系デッキの活躍が目立った大会でもありました。そこから1週間経ち、メタゲームはどのように変化しているのでしょうか。
先週末はスタンダードの大会が目白押しだったので、そのすべてを紹介することはできません。一部を抜粋していきたいと思います。
今回はRed Bull Untapped 2021 International Stop Iと第4回 Sekappy COLOSSEUM MTGアリーナ 2次予選、第18期スタンダード神挑戦者決定戦の大会結果を振り返っていきます。
先週末の注目トピックは?
大会結果の前に現在のスタンダードをおさらいしておきましょう。この章は復習の意味合いが強いため、スタンダードを日常的にプレイしている方は次の大会結果までお進みください。
現在のスタンダードにはビッグ4と呼ばれるデッキから成り立っています。ビッグ4とは、ターンとドラゴンの2つのイゼットデッキ、緑と白の2種類の単色アグロです。これらはどれも突出したデッキパワーを持っており、かわるがわる大会を制してきました。
メタゲームの大枠がこの4つのアーキタイプに固定されたことで、環境は次のステージへと進んでいます。デッキパワーを損なわぬようにメインボードの54枚前後を固定枠として、残りのスロットをほかのデッキ対策へとあてがい始めたのです。
たとえばイゼット系は《アールンドの天啓》を意識した《才能の試験》、アグロ側のタフネス4を対処できる《悪魔の稲妻》や《轟く叱責》などを採用しています。
反対にアグロ側は《蛇皮のヴェール》で単体除去を対策したり、《精鋭呪文縛り》や《傑士の神、レーデイン》で相手を縛ることで戦略自体にブレーキをかけてビートダウンの完遂を目指しています。《豊穣の碑文》や《粗暴な聖戦士》からはアグロ同型への匂いを感じ取ることができます。
もちろんこの4つ以外にもティムールやジャンドのミッドレンジ、青系のコントロールなど新しいデッキも生まれていますが、どれもがこの4つのデッキ意識していることに間違いありません。ここに着目していきますとデッキリストからプレイヤーの意図を汲み取りやすく、スタンダードがより面白くなるかと思います。
前置きが長くなりましたが、それでは大会結果をみていきましょう。
Red Bull Untapped 2021 International Stop I
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
優勝 | Yann Rabay | 緑単アグロ |
準優勝 | Anthony Cuello | 緑単アグロ |
トップ4 | Grimir | イゼットドラゴン |
トップ4 | Ziegor | 緑単アグロ |
トップ8 | Guardianthesecond | ティムールミッドレンジ |
トップ8 | Marco Lima | ティムールミッドレンジ |
トップ8 | Frank Karsten | 白単アグロ |
トップ8 | Fabian Vavrik | 緑単アグロ |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
参加者1000名を超えたRed Bull Untapped 2021 International Stop I。グランプリ級のこのイベントを制したのはメタゲームの筆頭と目される緑単アグロでした。同デッキはワンツーフィニッシュを飾っただけではなく、トップ8の半数に当たる4名が使用していました。
優勝した Yann Rabay選手の緑単アグロはメインボードはバランスよく構築されており、サイドボードもアグロ系とドラゴンを意識したカードが用意されています。《タジュールの荒廃刃》はリミテッドカードと侮りがちですが地上を止め、格闘呪文とも相性の良く、除去されたとしてもテンポを失いにくい守りの要となります。
対象を《黄金架のドラゴン》ばかりに絞りがりな《絡み罠》ですが、白単アグロにもサイドインしていきます。氷雪地形を使用しているため致命的となる《傑士の神、レーデイン》を除去し、さらに《ポータブル・ホール》や《スカイクレイブの大鎚》まで対策できるのです。
メタゲーム
デッキタイプ | 1日目 | 2日目 |
---|---|---|
イゼットドラゴン | 250 | 4 |
緑単アグロ | 217 | 13 |
白単アグロ | 158 | 3 |
ターン系 | 150(内グリクシス38) | 5 |
ティムールミッドレンジ | 93 | 3 |
ディミーアコントロール | 40 | 0 |
その他 | 324 | 4 |
合計 | 1232 | 32 |
初日最大母数となったのはコントロールに位置するイゼットドラゴン。ボードコントロール手段と打ち消し呪文、素早いクロックを持ち合わせた隙のないアーキタイプです。
しかし、2日目進出者をみれば自ずと勝ち組が見えてきます。緑単アグロは実に1日目通過者の1/3を占めていたのです。単色ながらかつてのアブザンアグロのような骨太のクリーチャーとテンポ面に優れた除去があり、《蛇皮のヴェール》など防御手段も用意されています。《アールンドの天啓》こそどうにもなりませんが、その前にゲームを決めるだけの攻撃力を有しているのです。
トップ8デッキリストはこちら。
白単アグロ
フランク・カースティン/Frank Karsten氏(現マジック・プロツアー殿堂)が使用して見事トップ8へ入賞した白単アグロ。緑単より軽い1マナ域から展開していく面で押す攻撃的なアーキタイプであり、単色とは思えない広い干渉領域を持っています。とりわけ3マナ域のクリーチャーはどれも強力であり、サイドボードを含めてメタゲームによって入れ替わります。
今回メインボード4枚ずつ採用されている《輝かしい聖戦士、エーデリン》と《精鋭呪文縛り》はどちらもイゼットターンに強いクリーチャーとなります。とりわけ《輝かしい聖戦士、エーデリン》はタフネスが高く、さらに攻撃クリーチャーがいれば即座にトークンを生成してくれます。かなり押し付けの強いクリーチャーであり、イゼットターン側の防御手段は《ゼロ除算》や《悪魔の稲妻》、後手に限っては《ジュワー島の撹乱》と《消えゆく希望》のみとなります。
攻撃的なクリーチャーであり、除去や装備品でバックアップすれば緑単に対して打点で負けず、マスト除去となります。《精鋭呪文縛り》を絡めて安全に着地させ、そのまま主導権も握ってしまいましょう。
残る3マナクリーチャーはメインボードの《粗暴な聖戦士》と、サイドボードにはさらに3種類採用されています。大きく分けるとアグロなどのパーマネント対策を兼ねる《粗暴な聖戦士》と《スカイクレイブの亡霊》、氷雪地形とコントロールに強い《傑士の神、レーデイン》、全体除去などをケアする《ガーディアン・オヴ・フェイス》といったところです。
緑単アグロとイゼットターンの二大巨頭に効果的な《傑士の神、レーデイン》はメインボードで良くみるクリーチャーでしたが、サイドボードに落としているのが実に興味深い構築です。メインボードはどのマッチアップでも無駄にならず、より自分のデッキの動きを追求した攻撃的な《輝かしい聖戦士、エーデリン》に軍配が上がったようです。
《輝かしい聖戦士、エーデリン》と《光輝王の野心家》の効果を最大限高めるべく、追加の1マナとして《施しの司祭》が採用されています。「護法」があるため除去されにくく、強化すれば先制攻撃により戦闘を有利にすすめてくれる存在です。
カード単体での打点が高く、マナの使い道にもなる《堕ちたる者の案内者》が優先されていますが、白単アグロが増えてイゼットターンが減れば優先度は逆転しそうです。「降霊」すれば全体に「護法」を付与できる点も忘れないようにしましょう。
第4回 Sekappy COLOSSEUM MTGアリーナ 2次予選
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
1位 | LOSTie#07227 | 緑単アグロ |
2位 | NIEKRO#38453 | イゼットターン |
3位 | juntaka#30556 | 白単アグロ |
4位 | Chase#62464 | ティムールミッドレンジ |
5位 | dorarep#40568 | ティムール狼男 |
6位 | yamariri#21131 | イゼットドラゴン |
7位 | Mura#94913 | 緑単アグロ |
8位 | Roda#19748 | 緑単アグロ |
9位 | TaKa#09340 | イゼットドラゴン |
10位 | amb#81901 | イゼットドラゴン |
11位 | yamashowwww#81830 | ティムールミッドレンジ |
12位 | Nage#69201 | 緑単アグロ |
13位 | _sff#19267 | イゼットリーア |
14位 | 2n0r1ax#43575 | 白単アグロ |
15位 | Do!#56572 | タッチ黒白単アグロ |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
第4回 Sekappy COLOSSEUM MTGアリーナ 2次予選は参加者502名で開催され、上位15名のプレイヤーが決勝トーナメントへの参加権利を獲得しました。緑単アグロが最大勢力となったほか、《アールンドの天啓》によって駆逐されつつあったミッドレンジが復活しています。
メタゲーム
デッキタイプ | トップ32 | 予選通過者 |
---|---|---|
緑単アグロ | 7 | 4 |
白単アグロ | 7 | 3 |
ターン系 | 6 | 2 |
イゼットドラゴン | 4 | 3 |
ティムールミッドレンジ | 3 | 2 |
その他 | 4 | 1 |
合計 | 31 | 15 |
決勝トーナメントへのタイブレイカーラインである8-2以上のデッキを見ると、単色アグロ2つがやや優勢となっています。イゼット側は構築をアグロへ寄せる必要がありますが、ミラーマッチで不利となってしまうためバランスをとるのが難しそうです。メタゲームが複雑化してきたことで、攻撃的な戦略と打ち消し呪文を組み合わせたティムールミッドレンジは隙を突くかたちで成功をおさめています。
トップ18デッキリストはこちら。
イゼットリーア
_sff#19267選手が使用し、見事決勝トーナメントへの切符を掴んだイゼットリーア。トッププロである原根 健太選手が自身の配信で調整したお墨付きのデッキとなります。
対アグロを意識してイゼットターンにミッドレンジプランを組み込んだ構築であり、軽い干渉手段を増やして押し負けず、さらに《くすぶる卵》と《溺神の信奉者、リーア》によるボード制圧を主眼に置いています。
生きた《ヨーグモスの意志》こと《溺神の信奉者、リーア》は、その代償としてすべての呪文に打ち消し耐性を付与してしまいます。ですが、生き残れば脅威的なアドバンテージをもたらし、かつ安全に《アールンドの天啓》コンボを決めることが可能なのです。
構築概念はグリクシスリーアと同じく軽いカードを重視しており、戦場に出てすぐに使い回せるように構築されています。呪文を多数唱えるため《くすぶる卵》も相性が良く、序盤の防御、中盤のボードコントロール要員となっています。
《記憶の氾濫》の姿はなく、宝物・トークンを生成しながら墓地へカードを送り込める《予想外の授かり物》が優先されています。マナを増やすことで《溺神の信奉者、リーア》着地後の行動を確保しやすく、また意表をついて《アールンドの天啓》コンボへの到達も可能となります。
アグロに寄せた構築は呪文からも推察できます。緑単アグロのテンポを奪う《消えゆく希望》と、小型クリーチャーで押す白単アグロに刺さる《棘平原の危険》がメインボードから3枚ずつ採用されています。前者は時間を稼ぐだけではなく、《溺神の信奉者、リーア》自身を除去から守ってくれます。《棘平原の危険》はスペルランドでもあるためどのマッチアップでも無駄になりません。
2色になったことでマナベースが安定し、対アグロ性能は向上しています。その反面、黒を抜いたことでミラーマッチにやや不安が残ります。
《強迫》や《真っ白》などのミラーマッチで効果的なカードが抜けてしまっているのは懸念点です。メインボードは《溺神の信奉者、リーア》が軸になっているため打ち消し呪文は最小限しか採用されておらず、サイドボードから《心悪しき隠遁者》で対抗します。
第18期スタンダード神挑戦者決定戦
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
優勝 | 平澤 祥 | ディミーアコントロール |
準優勝 | 十文字 諒 | 緑単アグロ |
トップ4 | 髙野 翔太 | 白単アグロ |
トップ4 | 横川 裕太 | イゼットターン |
トップ8 | 吉田 悠太郎 | ゴルガリミッドレンジ |
トップ8 | 宮國 武蔵 | イゼットターン |
トップ8 | 矢島 広道 | ティムール《ティボルトの計略/Tibalt’s Trickery》 |
トップ8 | 綿屋 陽介 | イゼットドラゴン |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
第18期スタンダード神挑戦者決定戦は平澤 祥選手が優勝し、さらに翌日開催された神決定戦において江原 洸太を破り新たなスタンダード神となりました。トップ8には多種多様なアーキタイプが残っており、どの構築からもメタデッキへのアプローチがうかがえます。
優勝デッキであるディミーアコントロールは、非常にテンポを重視した構築であり、そのすべては《溺神の信奉者、リーア》へと帰結します。そのため1マナ域の呪文が多く、着地後すぐにアドバンテージをとれるようになっているのです。
青いデッキにありがちな確定カウンターはないものの、バウンスを絡めて《強迫》や《真っ白》でまとめて対処してしまいます。特に《真っ白》は対《溺神の信奉者、リーア》への必殺兵器であり、墓地活用を前提に構築されているグリクシスターンには効果的な1枚となります。
また、挑戦者決定戦の準優勝者である十文字 諒選手が使用した緑単アグロ。メインボードは氷雪地形以外すべて4枚の漢らしいリストであり、イゼット系を非常に睨んだ特徴的な構築となっていました。
《蛇皮のヴェール》はわずか1マナで単体除去をはじきつつ、クリーチャーを強化してくれるコントロールへの必殺の1枚。マナコストの割りに効果が非常に大きく、テンポ面で大きくリターンを稼げるカードとなります。アグロ系を睨み《豊穣の碑文》と分割する構築が多いなか、十文字選手は敵はイゼット1本に絞り4枚採用しているのです。除去を使う側からすると1マナ立っているだけで、意識せざるを得ず、ダメージレースも来るってしまうため非常に厄介な呪文なのです。
トップ8デッキリストはこちら。
大会放送リンク:第18期スタンダード神挑戦者決定戦/第18期スタンダード神決定戦
《ティボルトの計略》コンボ
矢島 広道選手が使用したのはなんと《ティボルトの計略》コンボ。前節ではMTGアリーナのBo1ラダーで鬼神のごとく暴れまわり、多くのプレイヤーから恐れられたデッキでした。
しかし、ローテーションにより0マナスペルがなくなったため最速でコンボを狙ったとしても3ターン目以降となります。スタンダードへ再び現れた《ティボルトの計略》をみていきましょう。
このデッキの大当たりとなるのは5種15枚、中当たりが2種7枚といったところであり、1/3以上が当たりに該当します。以前から採用されていた《星界の大蛇、コーマ》や《樹の神、エシカ》に加えて、《タラスク》が採用されているのです。
《タラスク》は速攻と除去耐性を持ち相手のブロッカーを除去しながら一撃でライフの半分を削る暴力的なダメージソースですが、リアニメイトなどでマナコストを踏み倒してしまえばその魅力は半減してしまいます。あくまでも唱える必要がありますが、そのマナコストも9マナと重く、現在のスタンダードではやや悠長なクリーチャーといえるでしょう。
しかし、《ティボルトの計略》の効果はめくれたカードを唱えるため、そのマナコストを踏み倒しつつ能力を失わせません。つまり、ほぼ確実に10点のライフを削りきることが可能なのです。攻撃時に格闘能力が誘発するため、クリーチャーデッキでは対処はおろかブロックすることもかないません。爽快感もあるためコンボ時はぜひとも戦場に出てほしいクリーチャーですね。
大味な技を持つデッキですが、そのほかは至って堅実な構築となっています。《ヤスペラの歩哨》+《厚顔の無法者、マグダ》のマナ加速パッケージから《エシカの戦車》と《黄金架のドラゴン》へと繋ぐ、ミッドレンジプランです。
《エシカの戦車》と《黄金架のドラゴン》は環境をけん引する2種類であり、その強さに誰も疑問に思いません。しかしマナ加速パッケージと組み合わさることでほかのデッキよりも着地するタイミングが早く、ゲームの主導権を握りやすくなっています。これに加え《黄金架のドラゴン》が定着すればそのマナ生成能力により、《星界の大蛇、コーマ》や《タラスク》を手札から唱えることも可能になるのです。
マナクリーチャーが生命線でもあるため目下の懸念は緑単アグロとのマッチアップであり、格闘除去により先手後手が勝敗を大きく左右しそうです。《黄金架のドラゴン》が定着すればより大きなマナ域へと繋がるため、《ドラゴンの火》など駆使して延命を第一にプレイしていきます。
サイドボード後は《怪しげな密航者》によるアドバンテージ戦略も用意されています。基本はルーターですが、一度でも呪文を唱えなければ攻撃するたびにカードを供給してくれます。《棘平原の危険》には弱いものの、変身せずとも手札の質を向上させてくれる優れたクリーチャーとなります。
おわりに
メタゲームは常にプレイヤーによって動かされるものです。お互いを意識しすぎた結果、思いもよらないデッキが勝ちあがることだってあり得えます。現に《ティボルトの計略》コンボは誰も予想だにしないデッキだったのですから。
スタンダードではありませんが、今週末にはRed Bull Untapped 2021 Japan Country Stopが控えていますね。フォーマットはヒストリックになりますので、参加される方はお間違いないように。そして、楽しんでください。
それではまた次回!