Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2021/10/26)
はじめに
今月になってようやく開催された世界選手権。パウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサ/Paulo Vitor damo da Rosaはタイトルを獲得した2019年から、次期世界王者となるプレイヤーを18か月以上も待ち続けていた。そして、その称号をつかみとったのはフェアリーマスター、高橋 優太だった。
大会で唯一イゼットドラゴンを使用したプレイヤーが、唯一ティムール宝物(従来のグルールミッドレンジに打ち消し用の青をタッチしたデッキ)を使用していたジャン=エマニュエル・ドゥプラ/Jean Emmanuel-Deprazを決勝で撃破。決勝に残った2つのデッキを見て、今のスタンダードで仮想敵にすべき戦略はどれなのかと誰しもが迷ったはずだ。
仮想敵はイゼットドラゴン?
振り返れば、ローテーション直後は”イゼットターン対その他大勢”という構図だった。《アールンドの天啓》を唱えさせる前に勝ってしまおうという緑単、優れたマナベースからどんなデッキも思うようにさせまいとするグリクシスコントロール、そこに加勢する白単ウィニー。これら全てのデッキをもってしても、決勝に残った2名のプレイヤーとその独特なデッキ選択には敵わなかった。
とすれば、目下のTier1は決勝に駒を進めた2つのデッキなのだろうか?
チェコハウスが磨き上げたイゼットターンはまさに傑作であり、イゼットカラーにおける正解であるようにも思えた。しかし、優太はスタンダード2022(『イニストラード:真夜中の狩り』導入前の環境)から存在するドラゴン型でスタンダードラウンドで全勝した!
新カードである《感電の反復》と合わせて何度も追加ターンを得るコンボプランではなく、ドラゴン・除去・打ち消しによる昔ながらのテンポプランであり、ゲームフィニッシュを《アールンドの天啓》に依存していない。しかも《アールンドの天啓》は4枚フル投入ではなく、3枚しか採用しておらず、初手に重ねて引かないように、そして幅広く対応できるように枠に余裕を作ろうとしている。
では、このイゼットドラゴンが今の仮想敵だろうか?《くすぶる卵》が『イニストラード:真紅の契り』の発売まで環境を支配するということだろうか?多分そうはならない。
世界選手権は16名が戦う、ごくごく小さなイベントだ。つまり、仮にほかのプレイヤーのデッキ選択を正確に予想できるとすれば、勝てる確率は大幅に上がるということだ。優太は参加者全員が《アールンドの天啓》とそれを悪用するデッキを警戒してくるだろうと予想し、違うアプローチでの構築を試みた。
しかし、だからといって彼のデッキがその他全般のデッキに対して有利だというわけではない。”2つ目の呪文”など、爆発力のある白系の戦略は《ゼロ除算》や《黄金架のドラゴン》をかいくぐって勝てる力があり、緑系のデッキも《蛇皮のヴェール》が絡んだときなどは止めようのないほどの高速クロックを展開することがある。
スタンダード環境はまだ開かれた状態であり、ほとんどの戦略はどんな相手にも戦えるような調整ができる。環境を研究し続けるにあたり、個人的におすすめできるデッキを一部紹介していこう。
注目のデッキ
緑単アグロ
これはティアゴ・サポリート/Thiago Saporitoの緑単アグロのリストだ。Magic Onlineのスタンダードチャレンジでスイスラウンドを1位通過している。
このデッキに魅力は、メインデッキから採用された《蛇皮のヴェール》だ。このカードが有効なマッチアップでは、メインデッキから入っていることで相手に痛烈に刺さる可能性が生まれる。相手はなかなか1ゲーム目から《蛇皮のヴェール》を警戒できないため、一層効果的に使えるようになるからだ。反対に、《蛇皮のヴェール》が刺さらないマッチアップではコンバットトリックとして使えるため、少なくとも1枚のカードとして機能する(先ほどと同じく、1ゲーム目から+1/+1修正のコンバットトリックは警戒されづらい)。
このデッキは1ターン目から盤面を作るアクションがないため、相手の動き次第では後手時に苦戦することもあるが、緑単はクリーチャーのクロックの大きさでそれをカバーしている。《群れ率いの人狼》と《老樹林のトロール》を続けて展開すれば瞬く間にゲームに勝てるし、《エシカの戦車》が盤面に残れば、ご存知のように1枚ですぐに勝利をもたらしてくれる。
単色であり、その色が緑であるがゆえに、サイドボードの選択肢はやや限定的になってしまうが、元々のゲームプランがメタゲームに強いものであれば、選択肢の狭さも気にならないだろう。
黒単アグロ
これはグジェゴジュ・コヴァルスキ/Grzegorz Kowalskiが公開した黒単のデッキリストだ。以前に《雪上の血痕》入りの構成があったが、パーマネント数がごくわずかしなかい青系のデッキを苦手としていたため、今回はやや攻撃的な構成で組まれている。
《セッジムーアの魔女》は発売からあまり使われる機会がなかったが、このデッキにとてもマッチしている。《スカイクレイブの影》が採用されていることからも、遅めのデッキを序盤から攻めていこうという意思が見て取れるね。
《食肉鉤虐殺事件》はアグロに強い全体除去でありながら、クリーチャーを用いない相手にも便利な仕様になっている。クリーチャーが死亡したときに与えるダメージは瞬く間に蓄積していき、れっきとしたフィニッシュ手段になるからだ。トークンを並べる《セッジムーアの魔女》や《蜘蛛の女王、ロルス》とあわされば、その効力は一層増す。
多少選択肢が良くなるとはいえ、緑単と同じ不安を抱えている。サイドボードの選択肢が単色に限定されているんだ。つまり、黒が得意とする除去、全体除去、《真っ白》や《強迫》といった手札破壊が選択肢となる。
手札破壊はあらゆるイゼット系にとても効果的だ。ただし、「予顕」カードを使うデッキはその能力によって手札からキーカードを隠し、来る手札破壊に備えて追放領域に保管しておくことができるから慢心はしないようにしよう。熟練のイゼットプレイヤーはサイドボードからの対策を巧みにかわしてくることがあり、そうなると狙ったように対策は刺さらなくなる。
白単アグロ
これはMagic Onlineのコミュニティ界隈では有名なLennnyというプレイヤーがスタンダードチャレンジで使用した白単アグロだ。彼はその時々のメタゲームに適したデッキを持ち込むプレイヤーであり、対戦することがあればきっと苦労させられると思うよ。
このデッキはマナカーブを重視している。見てのとおり、1マナ域が12枚、2マナ域が12枚採られ、3マナ域は若干数に抑えられている。
スタンダードの白ウィニーにとって《運命的不在》ほど強い除去は長らく存在しなかった。インスタントで、唱える条件がないし、序盤から攻撃めているのであれば2マナで1ドローされるのはあまり気にならない。
この白単アグロはサイド後から強力なカードを投入できるようにしている。4枚の除去、「予顕」を持つ《栄光の守護者》、そして目的に合わせて投入する3マナ域が10枚。相手が高マナ域のカードをサイドアウトして白ウィニーを意識した調整をしてくると1ゲーム目のようにテンポ良く展開しづらくなることがある。そういったことが想定される場合にこれらのカードの出番が回ってくる。
デッキを選ぶ基準
環境は絶えず進化し、デッキリストが日に日に変化していくなかで、他を圧倒する戦略をひとつだけ選び取るのは難しいこともある。こういった条件のなかでは、自分が得意とするデッキからブレないことを常におすすめしている。アグロ・ミッドレンジ・コントロールがプレイアブルであるスタンダードならば、その時々で正しいデッキを見極めようとするのではなく、自分の力を発揮できて、マッチアップごとの戦い方がわかっていて、有効なサイドボードプランを持てるアーキタイプ/デッキ一本に絞ろう。
自分でいえば、それは《表現の反復》デッキになる。《表現の反復》に関してはハビエル・ドミンゲス/JavierDominguezがそのカードの使い方について素晴らしい記事を書いてくれているから、ぜひチェックしてみて欲しい。
自分はコントロールデッキを使いながら、メタゲームの発展を注視し、環境最速デッキの速度を確認していくスタイルだ。それから、《表現の反復》はヒストリックのイゼットフェニックスで使ったときから惚れ込んでいる。次の大型イベントに向けてまずは《表現の反復》デッキを使い込もうと思っている。
こういった事情を踏まえると、自分が専心すべきデッキはイゼットドラゴンだろうと思う。そのイゼットドラゴンの印象を少し触れておこう。
イゼットドラゴン
このデッキの《黄金架のドラゴン》と《くすぶる卵》は素晴らしい。《黄金架のドラゴン》の飛びぬけた強さについては言うまでもないだろう。《くすぶる卵》は2ターン目に出せれば最高だけど、5~6ターン目に出してもよく、あっという間に2点ダメージで盤面を支配してくれる。
イゼット/グリクシスターンを食い物にするデッキがほとんどいないため、対戦する機会がまだまだあると思う。だけど、《アールンドの天啓》デッキに対抗するなら青がベストであり、相性を改善するカードも多く存在している。サイドボードの枠を割くことにはなるけどね。
《心悪しき隠遁者》も素晴らしいカードだ。厄介な打ち消し能力をちらつかせながら序盤から攻撃し、「降霊」すれば戦線を維持しつつ呪文に打ち消し耐性を与えてくれる。
ただし《棘平原の危険》には気をつけよう。手札の内容次第ではあるけど、2ターン目に《心悪しき隠遁者》を出さないほうが良いこともある。「降霊」まで余すことなく利用したいなら青マナを1マナ構えられるタイミングで出そう。
《ストーム・ジャイアントの聖堂》もカードパワーが高い。デメリットは小さく、2枚なら無理なく採用できる。ブロッカーに回してもよし、アタッカーに回してもよし、もっと言えばフィニッシャーにしてもよしの優れモノだ。
現在のカードプールでマナベースが強めのグリクシスカラーも試したが、青と赤だけでも充分にカードが揃っていて、3色目を足す意味はないように思えた。メタゲームが変化し続ける状況でイゼットドラゴンは適応し、進化していけるだろう。
これからメタゲームはどう変わっていくのだろうか。次の大型スタンダードイベントは『イニストラード』チャンピオンシップになる。《エンバレスの宝剣》も《エッジウォールの亭主》も《出現の根本原理》もない新鮮なスタンダード環境を存分に楽しみたい!
ここまで読んでくれてありがとう!