Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2021/11/02)
はじめに
やぁ、みんな!
ヴィンテージ・キューブがMagic Onlineに帰ってきて、ソーシャルメディアには素晴らしいキューブのデッキがいくつも投稿される時期が再びやってきた。キューブはマジックのなかでも特に人気のフォーマットのひとつであり、同時にもっとも奥が深いフォーマットでもあると思う。キューブドラフトは、ドラフトしているコンボデッキが形になるのかどうかを見極めながら、ピック最中に戦略替えを行うなどのスキルを求められる。
最高に映えるデッキを組むことだけを考えてキューブドラフトをする人もいるだろう。遊ぶ理由は人それぞれだし、何を楽しいと感じるかは一人一人違うからね。だけど、キューブであっても、自分が座った席のなかで最善のデッキを作りたい、ピックの一手一手を無駄なく使いたい。そういうスタンスで遊ぶのが楽しいと感じる人も少なくないだろう。かくいう自分もその1人だ。
では、キューブはどうやってドラフトすれば良いのだろうか?
まずは、自分がドラフトするキューブの性質を知っておこう。今回の記事では、もっとも人気があるヴィンテージ・キューブを中心に解説していくけど、大体のキューブフォーマットでも思考プロセスは変わらない。
ヴィンテージ・キューブとたとえばモダン・キューブとの最大の違いは、ヴィンテージならコンボデッキ/コンボエンジンが圧倒的に強い環境であり、レガシー・キューブよりもプールが狭い環境ならミッドレンジ/消耗戦に強いデッキが最強だということだ。通常のドラフトではどの色が強いのかを知っておくことが大切だけど、それと同じでキューブドラフトならどのマクロアーキタイプが強いのかを知っておくことが欠かせない。
アーキタイプ
ヴィンテージ・キューブにおける主要なマクロアーキタイプは、コンボ・コントロール・アグロの3つだと思っている。コンボとコントロールは説明不要だろうけど、ヴィンテージ・キューブではコンボでもコントロールでもないものはすべてアグロデッキに集約される。ミッドレンジに位置するデッキは、ほとんどのマッチアップでアグロ的な立ち位置をとることになるからだ。つまり、ミッドレンジデッキは攻めるカードを優先してピックすべきときがあるということになる。
アーキタイプ間でパワーレベルに大きな開きがある環境だったとしても、アグロデッキで勝てないということにはならない。むしろその反対だ。ドラフト環境というのは自然とバランスを取るものであり、キューブドラフトもその例外ではないからだ。誰ともピックを競合することなく見事な赤単をドラフトしたプレイヤーは、結果的にアンプレイアブルになるカードを懸命に争って完成されたコンボデッキに有利に戦えるだろう。
では、そのアーキタイプをひとつひとつ見ていくことにしよう。
キューブドラフトの基本
ドラフトとは断じて個々のカードがものをいうフォーマットではない。より強いカードを持っているかよりも、一貫性のある40枚のデッキでゲームプランを持っていることのほうが圧倒的に重要だからだ。この考え方は通常のドラフトよりもキューブで顕著だと言える。デッキのゲームプランによって、個々のカードの価値が劇的に変わってしまうフォーマットだからね。
この考え方を理解するには、構築戦のコントロールデッキで攻撃的なクリーチャーを入れない理由を考えてみると良い。その考え方をドラフトにも応用するんだ。キューブドラフトは臨機応変に構築戦のアーキタイプを作っていく感覚に近い。それが最高に楽しいんだ!
コンボ
ヴィンテージ・キューブにおいて、コンボはもっともパワフルなアーキタイプだ。《Black Lotus》のような常識外れのマナ加速の恩恵を受けられるデッキでもある。コンボをサポートするカードが多い環境であれば、普通はコンボを目指すことになるだろう。
コンボデッキを狙ううえでひとつ重要なことがある。それは優秀なコンボカードは強気に取ってしまっていいということ。《グリセルブランド》や《吸血の教示者》、あるいは《欠片の双子》でさえ、残るコンボパーツを将来的にとれるとリターンが大きくなる。だから優先的にピックしよう。もちろん、何らかのコンボデッキをドラフトできたとしても、必ずしも強気にとったコンボカードがデッキに入るとは限らない。だけど、もしデッキに合っていれば、デッキの全体を引き締めてくれることは確かだ。
コンボパーツを見分ける簡単な方法は、そのカードを使っている構築戦のデッキを考えることだ。デッキの知識が多いほど、ドラフト中の引き出しは多くなる。適切なカードが取れていれば、《High Tide》のようなデッキであっても驚くほど機能するし、卓のベストデッキにもなり得る。
次なるステップはこれまでより複雑になるけど、それぞれのコンボカード同士のつながりを知ることだ。コンボデッキのなかには、複数種のコンボを組み入れても無理なく機能することがある(特にチューター呪文があるとき)。だけど、なかにはデッキ内のカードすべてが同じ方向を見ていたほうが良いコンボデッキもある。言うまでもなく、チューター呪文はコンボ間の橋渡し役になる。
じゃあ3つのコンボタイプを見ていくことにしよう。
1. スペル軸のコンボ
スペル軸のコンボは《High Tide》《転換》《暗黒の儀式》《炎の中の過去》《思考停止》といったカードがスペル軸コンボのカードの代表例だ。この手のカードはまさにそのデッキタイプでしか役に立ちづらい。
ゲームに勝てるだけの力があるストームデッキを狙ってドラフトするとする。これはキューブにおいてもっとも険しい道のりだと思うけど、その理由はみんなが思いつくものとは少し違うかもしれない。実際、機能するストームをドラフトすることはそう難しくないと思う。コンボを支えるカードも、フィニッシャーになるカードも複数種あるし、それらをまとめあげれば劇的なフィニッシュができる素晴らしいデッキになるだろう。
スペル軸のデッキがドラフトにおいてもっとも険しい道のりだと思うのは、スペル軸のコンボデッキからほかのデッキに移ることがとても難しいからだ。序盤にキーカードをピックする必要があるにもかかわらず、さっきも言ったようにストーム以外のデッキではほとんど役に立たない。だからみんなはドラフト中に創造力を働かせるか、あるいは少ないカードのなかでまったく新しいデッキを作るかになる。
たとえば、別のアーキタイプに移ろうというとき《転換》は《隔離するタイタン》などにマナ加速する手段としても使える。
大型クリーチャーを踏み倒す
《実物提示教育》《騙し討ち》《再活性》《Eureka》。《引き裂かれし永劫、エムラクール》や《グリセルブランド》を戦場に出して勝つデッキはすべてここに含まれる。この手のデッキはストームほど傾倒した構成にする必要はないけど、ただ単に《引き裂かれし永劫、エムラクール》と《実物提示教育》を1枚ずつコントロールに入れるだけではダメだ。
《チャネル》のように膨大なマナにマナ加速するカードもここに含めて良い。ここまで挙げたカードはどれも相性が良い傾向にある。単純に大型クリーチャー+それをズルして前倒しで戦場に出す手段のセットがあれば良いデッキだからね。
この踏み倒し系デッキをドラフトするうえで、とても価値があるカードの種類がある。それはゲームに勝てるだけの重量級でありながら、違うデッキでも採用できたり通常どおりマナコストを払って出せるだけの軽さがあるクリーチャーだ。《墓所のタイタン》や《聖別されたスフィンクス》などがこれに該当する。たとえば《暗黒の儀式》+モックスで《墓所のタイタン》を3ターン目に出せば、プレインズウォーカーで固められたデッキを負かせるはずだ。
ランプデッキはこのアーキタイプに入るし、入るようにすべきだ。というのも、マナ加速デッキは踏み倒し系のカードと相性が良いからだ。強い緑系のデッキは、《絶え間ない飢餓、ウラモグ》のようなパワフルなカードを備えていて、一定の理不尽さを備えている。
“双子コンボ”と1枚コンボ
“双子コンボ”と表現した場合、即座に勝てる2枚コンボを指すことが多い。もちろんここにはオリジナルである《欠片の双子》と《やっかい児》コンボも含まれるけど、これに類するものも含まれる。《欠片の双子》コンボはコントロールに投入でき、見事に調和する。コンボパーツそれぞれに何らかの用途があることが多く、コンボを押し通せばすべてを無視して勝てるからだ。コントロールであることにより、コンボパーツを揃えるだけの時間を稼ぎやすくもなる。
つまり、《欠片の双子》はストーム系のカードほどピックする裏目が少ないということになる。《欠片の双子》はストームやコントロールで使えることはあっても、その逆は成立しないからだ。
《修繕》などは1枚でゲームを決めてしまうため、1枚コンボと呼ばれることがある。それらのカードをこのアーキタイプに含めたのは、その素のカードパワーの高さから、ほぼすべてのアーキタイプにおいて採用できるコンボカードだからだ。
たとえば、緑のデッキが青をタッチしながら《隔離するタイタン》を採用しているとする。その場合、《隔離するタイタン》はマナ加速から出しても良いし、装備品/モックスをコストにして《修繕》から出しても良い。こう考えると《修繕》の使いやすさがわかると思う。
コントロール
キューブでコントロールをドラフトするにあたり、見落とされがちな重要ポイントを指摘しておこう。それはコンボに有利に戦えるコントロールデッキをドラフトする、ということだ。
『ヴィンテージ・マスターズ』は例外だったけど、通常ドラフトでは打ち消し呪文はあまり強くない。だけど、ヴィンテージ・キューブは別だ。序盤から《グリセルブランド》を踏み倒そうとしてくる相手に対して、対策を用意しておかなくてはいけない。だから《意志の力》《否定の力》は最高のカードになるし、《対抗呪文》や《マナ漏出》であってもデッキに入れておきたい優良カードになる。
つまり、キューブでコントロールを組もうと思ったら、青がほぼ必須ということになる。同時に、青が枯渇する可能性があるため、完成度の高いコントロールを組める確率は限定的ということでもある。幸いなのは、コントロール向けのカードをピックしたいデッキが多くないから、遅めの順手でも宝石が見つかる可能性があることだろう。
コントロールは桁外れなコンボデッキに対しても有利に戦える可能性があるアーキタイプである反面、ミッドレンジ/アグロには苦戦しがちだ。ヴィンテージ・キューブのカードパワーは高く、ミッドレンジが繰り出す脅威のほとんどはゲームを勝ち取る力がある。つまり、コントロールは対面のカードの多くに対処しなくてはならない。飛びぬけた脅威をコントロール側も出せればその限りではないけど、どんなカードでも《王冠泥棒、オーコ》になれるわけじゃない。
とはいえ、まとまりのあるコントロールはどんな卓でも構築して嬉しいアーキタイプだね。
アグロ
“フェア”なデッキ。コンボやコントロールにしようと思ったけど形にならなかったとか、初手でパワー9をとってその後は強いフェアなカードをとっていったからとかで、アグロに帰着することが多い。
ここでの重要な考え方は、コンボデッキと当たることを想定して準備を怠らないことだ。当然ここでも打ち消し呪文が有効だけど、《スレイベンの守護者、サリア》や《流刑への道》などをピックしておくことにも価値がある。
コントロールとコンボの両方に強いカードであっても、マナ否定カードには基本的に及ばない。そのため、マナ否定カードは優先的にピックすることになる。カード単体で見れば、マナ否定カードは、強いカードよりもさらにひと回り強いカードと言えるかもしれない。
たとえば、一見すると《ハルマゲドン》は《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》よりも弱いように思えるかもしれない。だけど、自分が白緑で相手がストームだったら、どっちが手札にあると嬉しいだろうか?
速度も有効な戦略のひとつだ。《ゴブリンの先達》から《大歓楽の幻霊》、続けて数枚の火力呪文から《火炎破》と動けば、たいていのコンボデッキを打ち負かせるだろう。コンボやコントロール以外のデッキならおそらくベストであろう赤単は注目のデッキだ。ただし、構築デッキのように組む必要はある。
《反逆の先導者、チャンドラ》や《熱烈の神ハゾレト》のようなタイプのカードばかりとってもダメだ。こういったカードはマナカーブの頂点にあってこそ真価を発揮するものであり、赤いデッキは超攻撃的なマナカーブにすることが何よりも大切だ。序盤のマナカーブを優先してピックするように心がけよう。
今日はここまでにしよう。ここまで読んでくれてありがとう!ぜひキューブを楽しんで欲しい!