はじめに
みなさんこんにちは。晴れる屋メディアチームの富澤です。
現在のスタンダードは《スレイベンの守護者、サリア》と《船砕きの怪物》が頭一つ抜けたアーキタイプとなり、お互いをメタり合いながら進んでいます。イニシアチブを握るために軽く、ボードへ影響を及ぼすカードを増やし、そしてそれを対処するカードも増えるといったいたちごっこになっているわけです。サリア-カニ論争の先はあるのでしょうか。
今回は日本選手権2021 SEASON3などの大会結果を振り返っていきます。
先週末の注目トピックは?
先週末は日本選手権やRed Bull Untapped予選、MOのStandard Challengeなど複数の競技イベントが開催され、改めてイゼット系デッキの強さが証明されました。なんと4大会中3大会でイゼットが優勝を飾ったのです。
一口にイゼット系といいましても大まかに3つの形に分類されます。この記事では勝ち筋から次の3パターンに分類していきます。
これら3つのアーキタイプはフィニッシャーに違いはあるものの、採用されているカードや戦略は非常に似通っています。いずれもイゼット側は攻めに転じられるだけのマナが揃うまで火力と打ち消しでボードをコントロールし、減った手札を《表現の反復》などで補うものです。特に火力は優秀なものが揃っており、採用するカードの種類や枚数を変更することでメタゲームに応じられるようになっています。
3つの形があるイゼットですが、先週はどの形が勝ったのでしょうか?それでは、イゼットが残した足跡を辿ることとしましょう。
日本選手権2021 SEASON3
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
優勝 | 小林 遼平 | イゼットターン |
準優勝 | 川田 一喜 | イゼットターン |
トップ4 | 永瀬 裕貴 | 白単アグロ |
トップ4 | 森山 真秀 | オルゾフミッドレンジ |
トップ8 | 岡 洋介 | イゼットターン |
トップ8 | 徳山 善彦 | イゼットドラゴン |
トップ8 | 谷口 裕昭 | ジャンドミッドレンジ |
トップ8 | 中道 大輔 | 白単アグロ |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
日本選手権2021 SEASON3を制したのはイゼットターンを使用した小林 遼平選手。同じくトップ8の岡 洋介選手と共同で作り上げたこのデッキは《表現の反復》3枚など細かな調整がかなりみられます。盲目的に4枚採用してしまいがちなスロットに鋭くメスを入れることでほかのカードを採用可能にし、見事優勝を果たしました。
メタゲーム
デッキタイプ | 1日目 | 2日目 |
---|---|---|
白単アグロ | 28 | 13 |
イゼットターン | 21 | 14 |
イゼットコントロール | 15 | 3 |
ジャンドミッドレンジ | 8 | 6 |
緑単アグロ | 7 | 2 |
オルゾフコントロール | 5 | 3 |
イゼットドラゴン | 4 | 4 |
その他 | 37 | 19 |
合計 | 128 | 64 |
白単アグロとイゼットターンが熾烈なデッドヒートを繰り広げる中、確かな存在感を示したのはイゼットドラゴンでした。なんと使用者全員が2日目へ進出するという快挙を成し遂げたのです。上位がアグロとコンボの両極端なアーキタイプになったことで、火力と打ち消し、さらに素早いクロックにより脅威に対応しつつ押し切るイゼットドラゴンは最適な選択肢になりました。対イゼットマッチでは、緑単アグロが一歩下がったことで《消えゆく希望》の採用枚数が減り、クロックが定着しやすくなったのも勝因といえそうです。
トップ8デッキリストはこちら。
オルゾフミッドレンジ
TeamUNITEの森山 真秀選手が配信を通じて練り上げたアーキタイプとなります。攻撃手段の中心はアグロよりも太目のクロックとエンチャントやプレインズウォーカーといった対処手段の限られるパーマネント。端的に言えば《棘平原の危険》の有効な対象を減らし、《ゼロ除算》の的を増やしており、デッキ全体からアンチイゼットを感じることができます。
このデッキのメインクロックとなる《シルバークイルの口封じ》は、高い打点とアドバンテージ能力が魅力の2マナ域。タフネスもしっかり2あるためテンポ損しにくく、定着しやすいクリーチャーとなります。カード名は口封じとなっていますが厳密には指定した呪文を封じるわけではありません。ですが代わりに、3点のダメージと1ドローをもたらしてくれます。
指定するカードとしては自身を対処できる除去や次に相手がプレイしそうな呪文、「履修」により持ってきた「講義」などになります。メタゲームが固まるほどに真価を発揮するカードであり、まさに風穴を開ける存在となったわけです。
続く3マナ域の《婚礼の発表》はクリーチャートークンを生成しつつ3ターン後には自軍にバフをかける自己完結したエンチャントです。その過程でクリーチャーの数が揃えばドローもでき、こちらもアドバンテージを稼いでくれるカードとなっています。
これ1枚で複数のクロックとタフネスの上昇により火力への耐性を付与されてしまうため、イゼット側からすればかなり厄介なカードといえます。《蜘蛛の女王、ロルス》や《エドガー・マルコフの棺》といったクリーチャートークンを生成するカードとも相性が良く、攻防の基点となるカードです。
《魅せられた花婿、エドガー》は緑のクリーチャーにも当たり負けしないスタッツに加えて、除去耐性を持ちます。ひとたび戦場へ降り立てば戦闘だろうと除去だろうと死亡した瞬間にアーティファクトへと転生し、トークン製造機となってしまうためです。デッキ内に吸血鬼はほとんどいませんが、これは《エドガー・マルコフの棺》から生成される吸血鬼トークン用とお考えください。
本来複数枚引きたくない伝説のカードながら《エドガー》の場合は2枚ともプレイすることで能動的に変身できるため無駄になりません。事実上、手札破壊や打ち消し呪文以外での対処は難しく、追放除去擁する白以外にはかなりの脅威となります。
サイドボードに4枚採用された《エメリアのアルコン》は対イゼットターンへの必殺カードであり、戦場にいる限り《アールンドの天啓》コンボを封じるメタクリーチャーとなります。ある程度マナカーブに沿ってクリーチャーを展開していくものの、《削剥》や《安堵の火葬》で簡単にテンポを取られないためにも、可能ならば《剛胆な敵対者》や《婚礼の発表》でタフネスを引き上げてから着地させたいところです。
Standard Challenge #12359650
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
優勝 | Lennny | イゼットターン |
準優勝 | kasa | 白単アグロ |
トップ4 | Jellytussle | 白単アグロ |
トップ4 | SoulStrong | イゼットターン |
トップ8 | bolov0 | 白単アグロ |
トップ8 | sandydogmtg | 白単アグロ |
トップ8 | Misplacedginger | ジェスカイコントロール |
トップ8 | xfile | ジャンドリアニメイト |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
Standard Challenge #12359650はLennny選手のイゼットターンが優勝しました。目を引くポイントは《削剥》を排除し、火力が《轟く叱責》や《悪魔の稲妻》など4点に統一されている点です。さらに《燃えがら地獄》と《霜と火の戦い》も2枚ずつと、かなりボードコントロールに寄せています。対アグロへの意識は高く、中でもマナカーブに沿って展開されると負けに直結しやすい《輝かしい聖戦士、エーデリン》に即応できるように構築されているのです。
Jellytussle選手の白単アグロは3マナ域に《歓迎する吸血鬼》を採用しているため消耗戦に強く、中盤以降も手札が途切れにくくなっています。《粗暴な聖戦士》を4枚採用し、《スレイベンの守護者、サリア》を減らして《クラリオンのスピリット》や非クリーチャー呪文を増やしていることからも、従来の白単アグロよりもミラーマッチで差をつけられるように構築されています。
メタゲーム
デッキタイプ | トップ32 | トップ16 |
---|---|---|
白単アグロ | 10 | 4 |
イゼットターン | 7 | 5 |
緑単アグロ | 4 | 2 |
ジェスカイコントロール | 4 | 1 |
エスパーコントロール | 2 | 2 |
グリクシスコントロール | 2 | 1 |
その他 | 7 | 1 |
合計 | 32 | 16 |
白単アグロとイゼットターンの使用者はその半数近くがトップ8に入りました。両デッキともほかから意識されてさらにお互いをメタりあった上で、です。やはりこの2つのアーキタイプは頭一つ抜けているようです。
トップ8デッキリストはこちら。
ジャンドリアニメイト
xfile選手が使用したのはゴルガリベースのリアニメイトデッキ。《根囲い》をはじめ吸血鬼から生成される血トークンで墓地へ巨大クリーチャーを落とし、《戦墓の再誕》で戦場への早期着地を目指します。
このデッキのメインアタッカーとなるのは《蝕むもの、トクスリル》と《トヴォラーの猟匠》の2枚。伝説のナメクジである《トクスリル》は重いマナコストを裏切らず、高い制圧力を備えています。ターン経過とともに相手の戦場へデバフをかけていき、クリーチャーが死亡すれば自軍へナメクジトークンを生成してくれます。
除去呪文以外での突破は困難であり、さらに除去しようとも《戦墓の再誕》には「フラッシュバック」があるため再度プレイされてしまいます。蝕むものの名に偽りはなく、《トクスリル》が2ターン程度存在していただけで勝勢は大方決まってしまいます。
リアニメイト戦略に欠かせないのは下準備。つまりはクリーチャーなど戦場へ戻すパーマネントをあらかじめ墓地へ落としておくことです。このデッキでは《ヴォルダーレンの美食家》と《税血の収穫者》の血トークン、《根囲い》がその任を担います。
《税血の収穫者》は手札の巨大クリーチャーを墓地へ送り込む捨て役に加えて、序盤の防御カードでもあります。能力のコストとして自身を生け贄に捧げるため、上手くいけば《戦墓の再誕》のコストを一気に2マナ軽減することができます。相手のクリーチャーを除去しつつ、4ターン目に《トヴォラーの猟匠》や《トクスリル》が着地できるかもしれません。
《戦墓の再誕》をいかに早くプレイするかはこのデッキの命題でありますが、先ほどの《税血の収穫者》と同じくマナコストを下げるシナジーをご紹介します。
《よろめく怪異》が戦場にいる状況で《命取りの論争》の追加コストにすることで、宝物トークンを2個生成しつつ《戦墓の再誕》のコストを1マナ下げることができ、都合1マナ得できます。もし相手の戦場にタフネス1のクリーチャーがいるならば《よろめく怪異》の能力で除去しても同様の結果となります。《よろめく怪異》が前のターンからいることが条件になりますが、「あと1マナあれば《戦墓の再誕》を使えるのに…」といった場面で窮地を打開できるかもしれません。
その他の大会結果
Red Bull Untapped 2021 International Stop VI
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
優勝 | Cheng Yu Chang | イゼットターン |
準優勝 | Leo Markowicz | イゼットターン |
トップ4 | Nomiya Yohei | 白単アグロ |
トップ4 | Sangmun Bang | 白単アグロ |
トップ8 | Tiago Duarte | イゼットターン |
トップ8 | Takisaka Yoshiaki | イゼットコントロール |
トップ8 | Thales Augusto | イゼットドラゴン |
トップ8 | SFF | イゼットターン |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
参加者707名で開催されたRed Bull Untapped 2021 International Stop VIはイゼットターンを使用したCheng Yu Chang選手が制しました。イゼットターンに分類はしていますが、メインボードから《黄金架のドラゴン》や《船砕きの怪物》が採用されて《アールンドの天啓》のパーツが減っているなど、ハイブリッド型といえる構築になっています。
メタゲーム
デッキタイプ | 1日目 | 2日目 |
---|---|---|
白単アグロ | 147 | 8 |
イゼットターン | 77 | 12 |
緑単アグロ | 74 | 5 |
イゼットコントロール | 65 | 8 |
イゼットドラゴン | 37 | 6 |
オルゾフコントロール | 33 | 4 |
ジャンドミッドレンジ | 28 | 5 |
ディミーアコントロール | 25 | 1 |
その他 | 221 | 15 |
合計 | 707 | 64 |
決してガードが下がっていたわけではなく、イゼット側がメタゲームに合わせた適切な構築を持ち込めた結果といえそうです。イゼットをメタっていた白単アグロですが、ほかのデッキからもマークされ厳しい結果となりました。
トップ8デッキリストはこちら。
Standard Challenge #12359638
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
優勝 | WrzoBuSeks | エスパーコントロール |
準優勝 | AndyAWKWARD | イゼットターン |
トップ4 | LukasDusek | エスパーコントロール |
トップ4 | LarryBeal | イゼットドラゴン |
トップ8 | Misplacedginger | ジェスカイコントロール |
トップ8 | beraldi | 緑単アグロ |
トップ8 | rastaf | 白単アグロ |
トップ8 | WaToO | ディミーアコントロール |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
Standard Challenge #12359638はWrzoBuSeks選手のエスパーコントロールが優勝を果たしました。従来のディミーアコントロールのアップデート版ですが、フィニッシャーに注目です。
《魅せられた花婿、エドガー》と《ヘンリカ・ダムナティ》、《砂漠滅ぼし、イムリス》は比較的軽いフィニッシャーです。定番となりつつあった《船砕きの怪物》と比べると制圧力こそ劣りますが、早いターンに着地させることでイゼットの土俵に引き込まれる前にゲームを決められるように構築されているようです。
メタゲーム
デッキタイプ | トップ32 | トップ16 |
---|---|---|
白単アグロ | 9 | 6 |
イゼットターン | 7 | 3 |
緑単アグロ | 2 | 1 |
ジャンドミッドレンジ | 2 | 0 |
ティムールミッドレンジ | 2 | 0 |
エスパーコントロール | 2 | 2 |
その他 | 8 | 4 |
合計 | 32 | 16 |
トップ8デッキリストはこちら。
おわりに
今週末にはイニストラード・チャンピオンシップが控えています。プロプレイヤーはどんなデッキ選択をするのでしょうか。また、新しいデッキは登場するのでしょうか。
次回はそれらの情報をお届けしたいと思います。