はじめに
みなさんこんにちは。晴れる屋メディアチームの富澤です。
前回はスタンダードへ新風を吹き込ませたオルゾフミッドレンジやジャンドリアニメイトをご紹介しました。《シルバークイルの口封じ》はプレイヤーの読みも影響する面白いクリーチャーであり、上手くいけばライフとカード両方のアドバンテージを獲得できる破格の性能となっています。そんな名カードがまだまだスタンダードには潜んでいるはずです。
今回は日本勢の大活躍に終わったイニストラード・チャンピオンシップの大会結果を振り返っていきます。
先週末の注目トピックは?
先週末に開催されたイニストラード・チャンピオンシップはスタンダードとヒストリックの混合フォーマットで開催されました。予選を突破したプレイヤーしか参加できないため必然的にレベルは高くなり、デッキ公開制度を生かした構築も散見されます。
このデッキ公開制度は相手のデッキすべてが判明するというものです。これによりお互いに入っているカードを知った上でゲームを進めていくため、全体除去をケアしたり、キーカードのプレイを未然に防ぐといった攻防へと発展していきます。また、同じマナ域や用途の似たカード、除去の種類を散らすことで動きに幅を持たせると同時に、相手のプレイに関して普段以上に裏目が生じるようになります。イゼットターンならば「予顕」の種類を増やすことも大きなプレッシャーとなりますね。
例えば日本勢が持ち込んだイゼットターンには《黄金架のドラゴン》が1枚だけ採用されていますが、これは相手からすればケアするには枚数が少ないもののタップアウトした隙を突かれて定着すれば大きなリターンを与えてしまうことになります。自分の動きを優先すべきか、妨害するために構えるべきか。その狭間で揺れ動く人間心理を突いた構築でもあり、相手からすればどのカードをどこまでケアすべきか即応するのは難しくなります。見えているが故に無視できず意識してプレイしてしまうことこそ公開制度を逆手にとった1枚挿しの利点になります。
前置きが長くなりましたが、それでは大会結果をみていきましょう。
イニストラード・チャンピオンシップ
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
優勝 | 市川 ユウキ | イゼットターン |
準優勝 | サイモン・ゴーツェン | 黒単ゾンビ |
トップ4 | 熊谷 陸 | イゼットターン |
トップ4 | 斉藤 徹 | イゼットターン |
トップ8 | 赤池 庸 | イゼットターン |
トップ8 | ザカリー・キューネ | イゼットターン |
トップ8 | クリスティアン・ハウク | 緑単アグロ |
トップ8 | 高橋 優太 | イゼットターン |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
参加者251名で開催されたイニストラード・チャンピオンシップですが、Team Cygamesに所属する市川 ユウキ選手の優勝となりました。同じくトップ8に入賞した熊谷、高橋、斉藤3選手とも共通のデッキを持ち込んでおり、チームとしても大きな成果をおさめています。
同チームが持ち込んだイゼットターンは《黄金架のドラゴン》や《溺神の信奉者、リーア》、《燃えがら地獄》、《家の焼き払い》など1枚挿しが多いリストとなっています。
クリスティアン・ハウク選手が使用した緑単アグロは《レンと七番》を切り詰めて、代わりに《ウルヴェンワルドの奇異》を採用したよりダメージレースに特化した構築となっています。イゼットのタップアウトの隙を咎めるだけではなく、速攻によりアグロマッチでもライフレースを大きく狂わせる無視できない存在といえますね。
また、サイドボードにある《アヴァブルックの世話人》はミラーマッチの膠着を打破するキーカード。自軍を強化しつつ本体は呪禁のため格闘除去されず、さらに変身すれば自身のパーマネントすべてに呪禁を付与してくれます。6マナとやや重いため複数枚の採用は難しいものの、長引けば間違いなく勝負を決めてくれることでしょう。《不自然な成長》と違いクリーチャーであるため攻防にも参加できるのもポイントです。
メタゲーム
デッキタイプ | 使用者数 |
---|---|
イゼットターン | 96 |
白単アグロ | 51 |
緑単アグロ | 25 |
オルゾフコントロール | 13 |
イゼットコントロール | 9 |
イゼットドラゴン | 9 |
エスパーコントロール | 7 |
グリクシスコントロール | 7 |
ジャンドアグロ | 5 |
ジェスカイドラゴン | 4 |
その他 | 26 |
合計 | 252 |
細かく分類していますが、大枠で見れば参加者の半数近くはイゼットをベースにしたデッキを選択しています。その理由の一つは間違いなく環境最上級のドローである《表現の反復》があげられ、同じコントロールでもエスパーなどに対してアドバンテージ面で有利に立つことができます。コントロール寄りのアーキタイプを構築するならばイゼットをベースにすべしと考えたプレイヤーが多かったわけです。
次いでパーマネントでイゼットの動きを縛りビートダウンする白単アグロが続きます。《パラディン・クラス》からの《スレイベンの守護者、サリア》といったハメパターンが存在しているにもかかわらず、イゼット系にかなり水をあけられています。参加者の多くはその動きを想定した上、イゼットの方がバランスに優れ有利と判断したようです。
トップ8デッキリストはこちら。
黒単ゾンビ
トップ8に輝いたサイモン・ゴーツェン選手が持ち込んだのは黒単ゾンビ。『イニストラード:真紅の契り』により大きく強化されたこのアーキタイプは、白単アグロに匹敵する早いクロックとゾンビの名に相応しい粘り強さを兼ね備えています。
《滅びし者の勇者》こそこのデッキの最重要クリーチャーであり、その成長速度はすぐに火力の圏外となり、序盤に除去し損なうと瞬く間にライフを削られてしまいます。特に《滅びし者の勇者》から《ネファリアのグール呼び、ジャダー》の動きは強力であり、ほかにゾンビがいなかったとしても毎ターンサイズアップすることが可能となります。
《ネファリアのグール呼び、ジャダー》は単体で見ても3点分の打点となりますが、毎ターンゾンビトークンを生成することでさまざまなシナジーを形成する潤滑油的な存在。例えば《不吉なとげ刺し》や《踊り食い》のコストや《食肉鉤虐殺事件》を絡ませての間接的なダメージソース、《蜘蛛の女王、ロルス》の忠誠値などに使えます。
黒単ゾンビがほかのアグロと同じく展開力だけが武器ならば、そこまで脅威ではなかったかもしれません。このデッキにはほかにはない除去耐性やリソース確保手段が組み込まれています。《首無し騎手》はボード全体に除去耐性を付与してくれるクリーチャーであり、《家の焼き払い》や《ドゥームスカール》といった全体除去を牽制してくれます。このクリーチャーを先に対処しない限り、相手はボードをクリアにできないわけですから。ただし誘発条件が死亡であるため《棘平原の危険》には注意が必要です。
《アンデッドの執事》は打点こそ低いものの、死亡時にクリーチャーを回収することができる厄介な能力を有しています。どのクリーチャーを回収してもアドバンテージはとれるわけですが、できることならば《首無し騎手》で再度戦線に除去耐性を付与したり、《不吉なとげ刺し》で追加のカードを引くなど次のリソースへと繋がるクリーチャーを選択しましょう。
序盤にライフが詰められればあとはいかにして削り切るか。そこで役に立つの《食肉鉤虐殺事件》です。本来は防御的なカードですが、アグロデッキで採用すればフィニッシャーへと早変わり。全体除去の前のターンで設置するのが理想になりますが、アグロ相手には《首無し騎手》とセットで使用しても面白い結果となります。ライフを吸いつつ相手の戦場を一掃し、こちらにはゾンビトークンが残るのですから。
青単テンポ
石村 信太朗選手が持ち込んだのはまさかの青単色のテンポデッキ。軽いクロックを打ち消し呪文とバウンスで補助し、ダメージレースの刺しきりを狙うタイトなアーキタイプとなります。クリーチャーが全体的に軽く、瞬速持ち、さらに打ち消し呪文も多めに採用されています。
1マナに並ぶのはレガシー級のクリーチャーである《秘密を掘り下げる者》と青を代表する氷雪カード《隆盛するスピリット》の2種類。条件付きながらどちらも序盤から2点以上の打点が刻め、ダメージレースをリードする存在です。これらが無事定着し、かつ打点があがった状態になれば、あとは打ち消し呪文で守ったり、瞬速のクリーチャーでクロックを増強していくことになります。
《幽体の敵対者》は1マナ域に続くクロックとしても十分な性能でありながら、中盤以降は追加マナを支払うことで貴重な干渉手段となります。クリーチャーなどを「フェイズ・アウト」させて相手の除去から自軍を守ったり、逆にライフ損失を防いだりすることができるのです。そのうえで支払ったマナの回数分自身強化されるため攻撃役にも適しています。
《竜亀》の持つ能力は一時しのぎながら対戦相手のターン中にプレイすることで攻撃の手を止めつつ、クロックの増強が図れます。何よりも青のクリーチャーながらタフネスが5と高く、《エシカの戦車》すらも止まる仕様。コントロールマッチでは火力で落ちにくいクロックとなるため、見た目以上に厄介なクリーチャーといえます。
《夢鎖の霊》をリミテッドカードと侮るなかれ。序盤から積極的にライフを削り、打ち消し呪文で相手の反撃の目を摘むこの戦略は最後の一押しが肝心ともいえます。そこで活躍するのが先ほどの2種類のクリーチャーと《夢鎖の霊》。飛行や到達持ちをタップすることで無理矢理ダメージを通したり、アグロ相手にはアンタップを阻害することでクロックの減少が見込めるのです。
青単色であるためボードへの干渉手段は限られてしまい完全な除去こそありませんが、これらを使って一時的にダメージレースをズラすことで、上手く先に削りきれるように構築されているのです。
数ある打ち消し呪文の中でも新加入の《霊灯の罠》に注目です。シングルシンボルの使いやすいデザインであり、戦場にスピリットがいればわずか2マナでプレイできるかつての《マナ漏出》を彷彿とさせる強力な仕様となっています。この2マナこそポイントであり、現環境では2マナで警戒する打ち消し呪文は《ジュワー島の撹乱》となっているため、1マナ残したところで《霊灯の罠》で対処されてしまう可能性があるのです。マナコストが同じため読みきれず、非常に厄介なカードとなります。
サイドボードにはアグロマッチを改善する《オリークの誘惑》が採用されています。3マナ以下限定ながら《支配魔法》の一種であり、特に《輝かしい聖戦士、エーデリン》など3マナ域に脅威が集中している白単アグロには絶大な効果が見込める1枚となります。
その他の大会結果
Red Bull Untapped 2021 International Stop V
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
優勝 | Iyanaga Junya | イゼットターン |
準優勝 | Dominick Paolercio | ディミーアコントロール |
トップ4 | Marco Wish | ゴルガリミッドレンジ |
トップ4 | sandydogmtg | 緑単アグロ |
トップ8 | Kondo Shogo | 緑単アグロ |
トップ8 | Yamamoto Kentarou | ディミーアコントロール |
トップ8 | Dominik Stamenov | イゼットターン |
トップ8 | Roman Kopytin | 白単アグロ |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
参加者595名で開催されたRed Bull Untapped 2021 International Stop Vは元世界王者の彌永 淳也選手が制しました。イニストラード・チャンピオンシップと同じく1枚挿しが多く、対応する側が難しい構築となっています。
メタゲーム
デッキタイプ | 1日目 | 2日目 |
---|---|---|
白単アグロ | 113 | 14 |
イゼットターン | 102 | 11 |
緑単アグロ | 85 | 15 |
イゼットコントロール | 34 | 4 |
ディミーアコントロール | 24 | 3 |
オルゾフコントロール | 21 | 0 |
黒単コントロール | 20 | 1 |
イゼットドラゴン | 18 | 2 |
その他 | 178 | 14 |
合計 | 595 | 64 |
ここにきて存在感を見せているのが緑単アグロです。《隆盛な群れ率い》は求めていた最序盤の攻撃的なクリーチャーであり、サイズアップも見込めるように《ウルヴェンワルドの奇異》とセットで採用されています。
トップ8デッキリストはこちら。
Standard Challenge #12361890
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
優勝 | Ignotus97 | イゼットコントロール |
準優勝 | _Falcon_ | 白単アグロ |
トップ4 | Hamuda | 白単アグロ |
トップ4 | Funnyman31399 | ディミーアコントロール |
トップ8 | melody_5233 | オルゾフミッドレンジ |
トップ8 | Sorento04 | 緑単アグロ |
トップ8 | Valorj | 緑単アグロ |
トップ8 | orantspro | 緑単アグロ |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
Standard Challenge #12361890はイゼットコントロールが優勝を果たしました。しかし、ここにきてイゼット一強に待ったをかけるべく、単色アグロが増加しています。環境変化直後には緑単アグロは取り残された感もありましたが、複数のイベントで入賞することでしっかりと強化されているとわかりました。
メタゲーム
デッキタイプ | トップ32 | トップ16 |
---|---|---|
緑単アグロ | 8 | 5 |
白単アグロ | 6 | 3 |
ディミーアコントロール | 4 | 2 |
エスパーコントロール | 3 | 1 |
その他 | 11 | 5 |
合計 | 32 | 16 |
トップ8デッキリストはこちら。
Standard Challenge #12361901
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
優勝 | Phill_Hellmuth | ディミーアコントロール |
準優勝 | Terribad | エスパーコントロール |
トップ4 | O_danielakos | ティムールミッドレンジ |
トップ4 | MissTrigger | 緑単アグロ |
トップ8 | Jaberwocki | イゼットターン |
トップ8 | Folero | イゼットターン |
トップ8 | Lennny | イゼットターン |
トップ8 | Ignotus97 | イゼットコントロール |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
Standard Challenge #12361901はディミーアコントロールが優勝しました。メインボードから《強迫》を4枚、《才能の試験》2枚を採用したイゼットをメタった構築となっています。前日のアグロ祭りを狙い撃つがごとく、ボードコントロールに特化したエスパーコントロールも入賞しています。
メタゲーム
デッキタイプ | トップ32 | トップ16 |
---|---|---|
緑単アグロ | 7 | 4 |
イゼットターン | 5 | 3 |
白単アグロ | 4 | 0 |
イゼットコントロール | 3 | 1 |
ディミーアコントロール | 3 | 2 |
エスパーコントロール | 3 | 1 |
その他 | 7 | 5 |
合計 | 32 | 16 |
トップ8デッキリストはこちら。
おわりに
トッププレイヤーが持ち込んだイゼットターンが大きな戦果をあげたことで、今後枚数に工夫を凝らした構築が増加するかもしれません。刻一刻と変化し続けるスタンダードですが、次回はどんなデッキが登場するのでしょうか。
次回もスタンダードの情報をお届けします。それでは!