The Last Sun 2021直前! ~スタンダード環境解説~

増田 勝仁

◆はじめに

お疲れ様です。てんさいチンパンジーです。

今回はThe Last Sun 2021(以下、TLS2021)に向けてスタンダードの環境解説になります。TLS2021に参加する人も観戦する人も、改めて現在のスタンダード環境を振り返っておきましょう。

◆メタゲーム雑感

まずは直近の大型イベントである『イニストラード・チャンピオンシップ』のメタゲームを振り返ります。

イゼット天啓が約38%、イゼットコントロールとイゼットドラゴンを含めると約4割のプレイヤーがイゼット系のデッキを選択しています。「イゼットが最強!」というのが多くのプレイヤーの共通認識であり、TLS2021でも最多勢力になることは間違いないでしょう。

続けて白単アグロ、緑単アグロとアグロ組が約3割を占めます。白単アグロはイゼット天啓を睨みつつ緑単アグロに対しても有利とされており、メタゲーム上は非常に良さそうな選択に思えます。

しかし、実際の結果はボロ負け。

燃えがら地獄くすぶる卵

現在の白単アグロはプレインズウォーカーや機体を使った別角度の攻め手を持たないため、愚直にクリーチャーを並べて殴ることしかできません。要するに対処が非常に楽であり、イゼット天啓はサイドに《燃えがら地獄》《くすぶる卵》といった、対クリーチャー性能の高いカードを用意することで相性を逆転させてきます。

緑単アグロはイゼット天啓に対してはやや有利とされており、しかも対白単アグロにおける《燃えがら地獄》のようなクリティカルなカードが存在しない点もポイントです。逆に白単アグロの《スカイクレイブの亡霊》《粗暴な聖戦士》といったクリーチャーを苦手としており、この辺りの相性差が顕著なデッキです。

トーナメントでは上のラインになればなるほどイゼット天啓に当たりやすくなる = 緑単アグロの勝ちやすいフィールドになりますが、逆にトーナメントの序盤にコケると白単アグロに当たりやすくなり、そのままずるずると滑っていきやすいです。

アールンドの天啓スレイベンの守護者、サリアエシカの戦車

さらにオルゾフコントロールやジャンドトレジャーと続きますが、上記3つのデッキと比べると使用者数も少なく、成績も奮いませんでした。やはり、TLS2021でも意識するべきはイゼット天啓・白単アグロ・緑単アグロの3デッキになるでしょう。

◆主要デッキ紹介

本項では環境に存在する主要デッキについて見ていきます。それぞれのデッキについての概要、サンプルリスト、注目カードを紹介します。

イゼット天啓(イゼットコントロール/イゼットドラゴン)

メタゲーム雑感でも触れた通り、現在のスタンダードで最強のデッキは?と聞かれた場合、多くのプレイヤーがイゼット天啓と答えるでしょう。

感電の反復アールンドの天啓

『イニストラード・チャンピオンシップ』でも堂々の使用率No.1で、トップ8に6人を送り込みました。《アールンドの天啓》《感電の反復》のコンボは直接相手を破壊するわけではありませんが、逆転不可能なリソース差やライフ差をつけるため、スタンダードにおいては事実上の即死コンボです。

また、同カラーのコントロールデッキ(イゼットコントロール/イゼットドラゴン)の中では、もっともインパクトのあるコンボを擁するイゼット天啓に優位性があるとされています。ただ、イゼット天啓にも《黄金架のドラゴン》《船砕きの怪物》が採用されたり、イゼットドラゴンやイゼットコントロールにも《アールンドの天啓》《感電の反復》が採用されたりと、その境界は曖昧です。

そのため、今回は個別にではなくイゼット天啓として紹介します。

イゼット天啓

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注目カード

《表現の反復》

表現の反復

現在のMTGを象徴する、イゼットカラーの最強ドローソースです。スタンダードリーガルではあるものの、レガシーでまで使用されるレベルの強さです。

2マナで山札の上から3枚見て2ドローするカードを使わないで「事故った~」などとは、口が裂けても言えません。形は違えど、これもまた《自然の怒りのタイタン、ウーロ》です。負けたときに正しく”言い訳”をするためにも、使える間は使いましょう。

《ゼロ除算》

ゼロ除算

スタンダードではそのカードプールの狭さやローテーションの存在から極端なコンボデッキが存在することは稀です。必然的に強力なカードはマナコスト相応のものが多く、《ゼロ除算》はその”重い”カードに対して強いカードです。

手札を消費せずにターンをパスさせられるため、リソースを保持した状態でコンボの準備を進めたいイゼット天啓の中盤を埋めるのにうってつけです。イゼット天啓のコンセプトそのものもそうですが、《ゼロ除算》の存在も環境から鈍足ミッドレンジを締め出している要因と言えるでしょう。

《予想外の授かり物》

予想外の授かり物

最近のイゼット天啓の特徴として、《予想外の授かり物》の増量が挙げられます。ミラーマッチではマナ差をつけることが重要なのは言わずもがな、スピード勝負になりがちな対アグロもマナ加速からの《溺神の信奉者、リーア》がゴールになるため、あらゆるマッチアップで重宝します。このカードを先に通したほうが圧倒的に有利になるため、多くのリストは《記憶の氾濫》よりも優先して採用しています。

白単アグロ

有望な信徒剛胆な敵対者精鋭呪文縛り

現環境2番手の正統派アグロデッキです。『イニストラード・チャンピオンシップ』では負け組になってしまいましたが、それは意識が向きすぎていたからであり、デッキ自体は間違いなく高いポテンシャルを持っています。「アグロデッキが強いときはレア度が高い」と言われますが、現在の白単アグロはレアのオンパレード。それだけカードパワーが高いことの裏付けです。

白単アグロ

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注目カード

《スレイベンの守護者、サリア》

スレイベンの守護者、サリア

使用可能なフォーマットすべてで実績のあるクリーチャーです。対コントロールではもちろんのこと、現在の緑単アグロは意外と非クリーチャーカードが多く(《レンジャー・クラス》《エシカの戦車》など)、ミラーマッチでも先制攻撃が接触するクリーチャーたちに睨みを効かせます。

先手2ターン目の《スレイベンの守護者、サリア》で除去を縛ってからの《精鋭呪文縛り》《輝かしい聖戦士、エーデリン》に繋げる動きは、スタンダードとは思えないレベルの影響力があります。

《輝かしい聖戦士、エーデリン》

輝かしい聖戦士、エーデリン

このカードを端的に表すと、タフネスが4になった《ゴブリンの熟練扇動者》です。じゃあ強い!タフネス4のカードをインスタントで退かすには3マナ級の火力が必要になりますが、3マナの除去は取り回しの悪さから多くて2枚程度しか採用されていないケースがほとんどです。そのため、適正ターンに唱えられた《輝かしい聖戦士、エーデリン》はほぼ除去されず、結果として巨大クリーチャー&トークンをばら撒き、そのまま相手の顔面を粉砕します。

《勇敢な姿勢》

勇敢な姿勢

《くすぶる卵》《溺神の信奉者、リーア》といった白単アグロの苦手とするクリーチャーに対して強く出られる除去です。それだけであれば《運命的不在》でも良いかもしれませんが、この手の除去は自分が押している展開だと腐りがちになってしまいます。しかし、《勇敢な姿勢》であれば問題ありません。押しているときは破壊不能モードとして使えるため、あらゆる場面で活躍が期待できます。

緑単アグロ

単色アグロ両翼の片翼で、白単アグロ同様、レア度が高いのが特徴です。アグロデッキが強い時代の特徴として、“レア度が高い”以外にも”土地が強い”というのも挙げられます。

ハイドラの巣不詳の安息地

クリーチャー化する土地(通称ミシュラランド)もそうですし、《ラムナプの遺跡》《ハシェプのオアシス》のような特殊なものも含まれます。現代はデカくなった《変わり谷》こと《不詳の安息地》のおかげで除去への耐性が非常に高いです。

緑単アグロ

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注目カード

《群れ率いの人狼》

群れ率いの人狼

最強の2マナクリーチャーです。単色デッキにのみ許されたシンボルから繰り出される圧倒的なサイズと能力で、なぜこれが2ターン目に出てくるのかと疑わしくなるレベルです。簡単にドローするな。簡単にトランプルをつけるな。

《老樹林のトロール》

老樹林のトロール

シンボルの濃さはカードパワーの象徴です。4マナと言われても信じるレベルの高ステータス&トランプル&除去耐性で、適正ターンに唱えられるだけで泡を吹いて倒れるレベルのインパクトがあります。倒せばマナ加速された挙句、最終的には本体と同スペックのクリーチャーに戻るため、除去するのがバカバカしく感じます。

《エシカの戦車》

エシカの戦車

スタンダードにはコンボデッキが存在しない環境が多く、フェアなリソースのトレードが多いです。戦場に単体では除去しきれない脅威をばら撒き、本体はリソースも稼ぐ除去耐性持ち。つまりこのカードは強いです!(…)《老樹林のトロール》同様、適正ターンに唱えられれば相手の顔面が歪みます。《エシカの戦車》に限らず、緑単アグロはこの手の”わかりやすく強い”カードが多いのが良いですね。

ジャンドトレジャー/ティムールトレジャー

ヤスペラの歩哨厚顔の無法者、マグダ黄金架のドラゴン

典型的な両腕を振り回したデッキです。事故と爆発力はトレードオフ!というのを体現しており、ブン回ったときの爆発力はほかを寄せつけません。反面、「多色マナベース」「マナ加速要員」「フィニッシャー」とバラバラの要素をバランスよく引かなければならないため、マリガンの厳しさや両面ランドのプレイ順番など、使用者への負荷が高いのも特徴です。

ジャンドトレジャー

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注目カード

《裕福な亭主》

裕福な亭主

《ヤスペラの歩哨》《厚顔の無法者、マグダ》と異なり除去で妨害されない貴重な初動です。4~5マナ域が強力な現代のスタンダードにおいて、妨害されないマナ加速である宝物・トークン生成は単なるマナクリーチャーよりも強力な場面が多いです。《削剥》で宝物・トークンが割られたときは諦めましょう。そんな日もあります。

《結ばれた者、ハラナとアレイナ》

結ばれた者、ハラナとアレイナ

中盤以降に価値を失った《ヤスペラの歩哨》《裕福な亭主》に再び息を吹き込むクリーチャーです。役目を終えたマナ加速クリーチャーたちが突如として無視できないクロックで殴りかかってきます。紹介したリストには入っていませんが、特に《隠棲した絵描き、カレイン》から繋げたときの爆発力は凄まじく、一度本体を除去し損ねると周囲のクリーチャーがすべて《タルモゴイフ》になります。

《イマースタームの捕食者》

イマースタームの捕食者

これもまた役目を終えた《ヤスペラの歩哨》などを上手く利用したクリーチャーです。単体であれば《削剥》でも倒せるクリーチャーですが、一度でも破壊不能モードで守れる状況で戦場に着地したのなら、以降は一生倒せないレベルの硬さがあります。地味に墓地に触る能力も厄介で、《感電の反復》《溺神の信奉者、リーア》に睨みを効かせます。

オルゾフコントロール

魅せられた花婿、エドガー蜘蛛の女王、ロルス雪上の血痕

対クリーチャー最終兵器と言わんばかりの除去と1:X交換をするクリーチャー/プレインズウォーカーのオンパレードです。性質上、白単アグロには滅法強いものの、最大勢力のイゼット天啓に相性が悪いのがイマイチです。メタゲーム次第では大化けする可能性を秘めているため、アグロが多いフィールドと読むならベストデッキになり得ます。

オルゾフコントロール

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注目カード

《ひきつり目》/《よろめく怪異》

ひきつり目よろめく怪異

なんだこの貧弱なクリーチャーは…と思うかもしれません。私は思ってます。実際に貧弱ではあるのですが(…)、こと対白単アグロに限っては話が変わってきます。これらのクリーチャーに接触するだけで簡単に1:2交換を取られてしまうため、小粒クリーチャーたちはうかつに攻撃もできません。

《不吉なとげ刺し》

不吉なとげ刺し

なんだこのリミテッドクリーチャーは…と思うかもしれません。私は思ってます。実際にリミテッドクリーチャーではあるのですが(…)、《ひきつり目》《よろめく怪異》といった無視されると悲しいクリーチャー達を能動的に墓地送りにしつつ追加のリソースを稼ぐ上に自身は接死持ちということで、意外と戦場への影響力は高いです。忘れがちですが相手を対象にすることもできるので、最後の詰めとしても使えます。

《食肉鉤虐殺事件》

食肉鉤虐殺事件

環境最強の全体除去と言っていいでしょう。特に腐りにくさに関してはほかの全体除去とは比べ物にならないくらい優れています。対アグロ全般は除去として機能するのは当然ですが、対イゼット天啓のようなクリーチャーを並べてこないマッチアップではX=0で設置して追加のダメージ源としても運用できます。

ディミーアコントロール

中略影の評決砂漠滅ぼし、イムリス

いつの時代にも存在するコテコテのコントロールデッキです。歴史上、”コントロール対決は黒(手札破壊)が入っているほうが強い”と言われてきましたが、現代スタンダードは一味違います。

イゼット天啓(というか《表現の反復》)の差は見た目以上に大きく、《表現の反復》を唱えられた返しに《強迫》を唱えても「何をやっているんだ…」と悲しい気持ちになってしまいます。それでも対クリーチャー性能はイゼットよりもディミーアの方が上であることは間違いありません。イゼット天啓がミラーマッチで強い《黄金架のドラゴン》などのクリーチャーを増やしてきた今こそ、黒い除去を擁するデッキの出番です。

ディミーアコントロール

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注目カード

《船砕きの怪物》

船砕きの怪物

イゼット天啓では《アールンドの天啓》+《感電の反復》のオマケとして扱われていますが、ことディミーアコントロールでは立派なフィニッシャーです。イゼット天啓からコンボ的な要素を廃し、その枠をすべて除去・手札破壊・打ち消し・ドローソースに割り当ててているため、より《船砕きの怪物》が戦場に定着しやすい&除去から守りやすいです。

《多元宇宙の警告》

多元宇宙の警告

イゼット天啓がミラーマッチを意識して《予想外の授かり物》《才能の試験》を取り始めた辺りから《記憶の氾濫》の価値は下がっており、最近では採用されないケースも増えてきました。その代わりに使われるようになったのがこの《多元宇宙の警告》です。

「予顕」しておくことで空いたターンに唱えやすく、タップアウトの隙を作りにくいので相手の《予想外の授かり物》《才能の試験》をケアしながら動けるのが優れています。

《レイ・オヴ・エンフィーブルメント》

レイ・オヴ・エンフィーブルメント

白単アグロ専用の強烈な除去です。《スレイベンの守護者、サリア》の存在から1マナと2マナの差は非常に大きく(2マナだと先手2ターン目に出された《スレイベンの守護者、サリア》を倒せないため、そのまま押し切られやすい)、1マナかつインスタントというのは取り得る最大値です。しかも白単アグロでもっとも除去しにくいとされる《輝かしい聖戦士、エーデリン》まで対処可能ということで、対白単アグロを考えるならこれ以上ないベストなサイドカードです。

結局、何を使えばいいの?

感電の反復アールンドの天啓

大本命は間違いなくイゼット天啓ですが、その強さに比例するように現在のスタンダードでもっとも難しいデッキでもあります。スタンダードに慣れていない方にとってはあまり選択したくないデッキですし、ミラーマッチを避けたいと思う気持ちも分かります。

モダンに集中したい/スタンダードに時間を割けない/ミラーマッチを避けたいなどの理由でデッキを選びたい方には緑単アグロがオススメです。

蛇皮のヴェール

基本的にはマナカーブ通りに呪文を唱えるのが正しいことが多く、クリーチャー同士の戦闘も相手よりサイズが大きいことが多いため比較的悩む場面は少ないです。《蛇皮のヴェール》がイゼット天啓に対して強力なため、イゼット天啓を意識するならこれを増量するのがよいでしょう。

今回は以上です。お疲れさまでした。私もTLS21に参加するので当たった方はよろしくお願いします。

増田 勝仁 (Twitter)

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増田 勝仁 リミテッドよりも構築フォーマットを得意とし、ひとたび好みのデッキを見つけるとただひたすらに使い続ける。そのやり込み具合は日本でもトップクラスで、誰よりもデッキへの理解が深く、プロからも一目置かれているプレイヤーだ。「日本一」の称号を求めて戦う「日本選手権2019」でトップ8に入賞し、舞台をオンラインへと移した「日本選手権2021 SEASON1」では使い続けたナヤフューリーで悲願の優勝。マジックの歴史にその名を刻んだ。 増田 勝仁の記事はこちら