決勝戦:中嶋 卓也(オルゾフミッドレンジ) vs. 谷口 拓哉(イゼット天啓)
晴れる屋メディアチーム
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By Souta Nakagawa
そう聞かれれば、多くのプレイヤーはこう答えるだろう。『イゼット天啓』だと。だが、第12期関西帝王戦スタンダードにおいて、その常識に挑む者がいた。 トップ8中4名がイゼット天啓を使い、決勝戦にも同デッキが残る中、赤と青の牙城を突き崩すべく対面したのは白単アグロでも緑単アグロでもなく──『オルゾフミッドレンジ』だった。
中嶋が使用するのはオルゾフミッドレンジ。《消失の詩句》や《食肉鉤虐殺事件》など、徹底的な除去で盤面を整理しながら、《光輝王の野心家》や《ヘンリカ・ダムナティ》といった優良クリーチャーでとどめを刺すデッキだ。
谷口が使用するのはイゼット天啓。《アールンドの天啓》と《感電の反復》のコンボを《表現の反復》や《ゼロ除算》で支える、現在のスタンダード環境の最先端、そして頂点を我が物としているデッキだ。
覇道を進む中嶋と王道を貫く谷口。環境を知りつくした者に軍配が上がる戦いを制し、頂点に立つのはどちらか。
先攻、スイスラウンド6位の中嶋は初手をそのままキープした。一方で後攻の谷口はどうにも納得がいかないのか、悩んだ様子で2回のマリガンを経て、ようやくキープを選び、ゲームが始まった。
開幕から2ターン、中嶋が《目玉の暴君の住処》《針縁の小道》と土地を並べていくのに対し、谷口も《ストーム・ジャイアントの聖堂》《山》と、2回マリガンしたとは思えないほど順調に土地を置く。そして3ターン目、最初に動いたのは中嶋だった。《荒廃踏みの小道》をセットした彼が唱えたのは《婚礼の発表》。
吸血鬼・トークンを生み出すだけでなく、裏面で自軍を強化する強力なエンチャントだ。これに対して対応を見せず、返しのターンで《島》を設置するのみにとどまった谷口。だが、ターンをもらった中嶋の吸血鬼・トークンの攻撃でライフを19に削られ、さらに追加の《婚礼の発表》を着地させられたとき、ついに谷口も呪文を唱えた。カード2枚のルーティングと宝物・トークンの生成を同時に行う──《プリズマリの命令》だ。
これにより墓地を肥やしただけでなく、自身のターンで手札を1枚「予顕」した谷口はイゼット天啓の勝利パターンへの道筋を組み立て始める。とはいえ、中嶋率いる吸血鬼軍団を直接止める手立てにはならない。
それどころか、ここを好機と見た中嶋は《光輝王の野心家》を唱え、《婚礼の発表》で3体にまで増えていた吸血鬼・トークンで一斉攻撃を敢行した。これで谷口のライフは15。しかも結婚式当日を迎えた《婚礼の発表》でクリーチャーはますます強化される。ミシュラランドも加われば、自ターンで2桁近い打点が谷口に叩き込まれてしまう。どうにかして状況を覆したい谷口だが、《表現の反復》も虚しく、中嶋の怒涛の進撃が始まった。
起動した《目玉の暴君の住処》は《削剥》で除去されるも、4体のクリーチャーによる攻撃で谷口のライフは5まで減らされてしまう。次いでもう1枚の《婚礼の発表》が裏面になり、緑単ですら慄く巨獣軍団が完成した。
それでも勝機を諦めない谷口は、ここで「予顕」していた《アールンドの天啓》を唱える。だが、鳥・トークンとエクストラターンを得た彼は、それ以上の反撃を見せずにターンを中嶋に渡す。
《感電の反復》と《ゼロ除算》の組み合わせで《婚礼の発表》を2枚バウンスするも、ライフを1まで詰められた谷口。《表現の反復》で対策を練るが、万策尽きたのか、ここで投了した。
谷口 0-1 中嶋
サイドボードとにらみ合い、有効牌と対策牌をそれぞれデッキに投入した中嶋と谷口。双方ともに即座に初手をキープし、2ゲーム目が始まった。
谷口は《ジュワー島の撹乱》、中嶋は《エメリアの呼び声》と、どちらも1ゲーム目同様に2ターン連続で土地をセットしていく中、やはり先に動いたのは中嶋だ。
《目玉の暴君の住処》から姿を現したのは、《光輝王の野心家》。だが、今回の谷口はただ黙って眺めているだけではなかった。
すかさず《棘平原の危険》を唱え、《光輝王の野心家》を盤面どころかゲームから取り除く。中嶋は負けじと《穢れた敵対者》を唱えるも、谷口が《ゼロ除算》でバウンス。次のターンには中嶋が《不笑のソリン》を唱えるも、谷口が《ジュワー島の撹乱》で打ち消し。
3回連続で攻め手を遮られただけでなく、「履修」で持ってきた《環境科学》で土地を引っ張り、《表現の反復》で手札を整えられる。しかも《セレスタス》も谷口の戦場に設置され、次第にゲームのペースが谷口に傾いていく。
ようやく4ターン目に中嶋が《不笑のソリン》を着地させ、[-2]能力で吸血鬼・トークンを生み出す。
対する谷口は二度目の《表現の反復》を唱え、《アールンドの天啓》を手札に加え入れた。そのまま《アールンドの天啓》を「予顕」し、中嶋に強烈なプレッシャーをかけていく。一刻も早くライフを削り切りたい中嶋は《ヘンリカ・ダムナティ》を唱えるが、谷口が握っていた《ゼロ除算》によりまたもバウンスされただけでなく、《アルカイックの教え》が手札に加わる。
ここで食い下がってなるものかとばかりに《光輝王の野心家》を戦場に出した中嶋。彼の吸血鬼・トークンの攻撃で谷口のライフは19、中嶋のライフは22になる。ターンが返ってきた谷口はすかさず《アルカイックの教え》を唱え、カードを3枚引く。そして中嶋の吸血鬼軍団を食い止めるべく姿を見せたのは、《黄金架のドラゴン》!
ドラゴンの炎で《不笑のソリン》を焼きながら宝物・トークンを出した谷口は、勝利の方程式をくみ上げてゆく。イゼット天啓をスタンダード最強たらしめる、凶悪なコンボの布石だ。ここで追い詰めなければ敗北に至ると悟ったのか、中嶋は《ヘンリカ・ダムナティ》を唱えなおす。さらに《光輝王の野心家》に+1/+1カウンターを乗せて攻撃することで、谷口のライフを14まで削る。しかし、ターンをもらった谷口はここで凄まじい動きを見せる。
まずは《感電の反復》を唱え、《予想外の授かり物》をコピーして宝物・トークンを4つ生み出し、4枚カードをドローする。次いで《溺神の信奉者、リーア》を戦場に出した谷口は、墓地に眠る《予想外の授かり物》を「フラッシュバック」で再度唱えなおす。
流石に看過できないとばかりに中嶋が《消失の詩句》でリーアを除去するが、谷口の宝物・トークンと手札がさらに増える。ならばお返しと言わんばかりに、谷口は《ゼロ除算》で《ヘンリカ・ダムナティ》をバウンス。「履修」で《マスコット展示会》を手札に加え入れて即座に唱え、戦場にトークンを並べる。
1ターンで宝物・トークン×6、6枚ドロー、バウンスに加えて「履修」、そして打点をそろえた。油断しているとあっという間に広がるアドバンテージ差──これも、イゼット天啓の強みだ。
一転した苦境に立たされた中嶋は三度目の《ヘンリカ・ダムナティ》を唱えて効果でドローし、吸血鬼・トークンで攻撃。自身のライフを24に増やし、谷口のライフを12に減らしてから、《婚礼の発表》を戦場に出す。
普通であれば盤石の態勢だが、マナと手札が潤沢なイゼット天啓にはまるで足りなかった。《ストーム・ジャイアントの聖堂》を置いた谷口は《感電の反復》でコピーの準備を整えたのち、ここでようやく、長く「予顕」していた《アールンドの天啓》を唱えた!
これにより追加ターンと鳥・トークンを得た谷口は《黄金架のドラゴン》とスピリット・トークン、エレメンタル・トークンで攻撃。中嶋はそれを《光輝王の野心家》と吸血鬼・トークンで防ぐが、飛翔するドラゴンだけはどうにもならず、増えたライフを20点のフラットに引き戻される。
そこから追加ターンに入った谷口は《表現の反復》を唱え、追放した《消えゆく希望》を《ヘンリカ・ダムナティ》に叩きつけ、とどめとなる《ストーム・ジャイアントの聖堂》をクリーチャー化。大挙するクリーチャー群を前にして、中嶋はここで投了を選んだ。
谷口 1-1 中嶋
泣いても笑っても最後の3ゲーム目。谷口、中嶋の両者が2ゲーム目と同様に即座に初手をキープし、決戦の幕が上がった。
先攻の中嶋が《砕かれた聖域》《目玉の暴君の住処》と土地をセットしていく反対側で、谷口は《ストーム・ジャイアントの聖堂》《河川滑りの小道》と並べていく。先ほどまでなら3ターン目には戦いが動き始めていたが、今回は2人とも《針縁の小道》《島》から《セレスタス》と、未だ準備に留まっていた。
戦いが激化し始めたのは、4ターン目からだ。《荒廃踏みの小道》を設置した中嶋が戦場に出したのは、《ヘンリカ・ダムナティ》。効果で1ドローした中嶋はライフを19に減らし、猛攻に備える。
谷口が《表現の反復》で《予想外の授かり物》を取り除き、アドバンテージに繋げたターンの返し、いよいよ中嶋の攻撃は始まった。《ヘンリカ・ダムナティ》が変身して攻撃することで、谷口のライフは17。それに加え、《婚礼の発表》を唱えて吸血鬼・トークンを生み出し、さらに攻勢を強める。
谷口は大きなアクションは見せず、土地をセットするにとどまり、《セレスタス》で夜になる。この機会を逃さず、次のターン、中嶋はクリーチャーの一斉攻撃を仕掛ける。これで谷口のライフは14まで削られただけでなく、《穢れた敵対者》まで召喚されてしまい、ゾンビ・トークンまでもが盤面に現れる。
あわや窮地かと思われたが、はたして谷口は解決策を引き込んだ。中嶋のターンのエンドフェイズに《予想外の授かり物》を唱え、続く6ターン目に谷口が唱えたのは値千金の《家の焼き払い》!
これにより、たちまち中嶋の軍勢は瓦解してしまう。トークンを含めたすべてのクリーチャーが破壊されてしまった中嶋は、どうにか戦況を立て直そうと《不笑のソリン》を唱えるが、《ゼロ除算》によってバウンスされる。それでも、続く《光輝王の野心家》は無事に着地し、《婚礼の発表》を変身させることでどうにか中嶋の攻撃の用意はできた。
ここで《セレスタス》により昼を迎え、ライフを15に回復した谷口は、敵の軍勢を迎え撃つべく墓地の《感電の反復》から《マスコット展示会》を唱えて、倍に増えたトークンを盤面に並べる。
オルゾフミッドレンジからするとサイズ的に対抗が難しいエレメンタル・トークンやスピリット・トークンが並ぶが、中嶋は奥の手を隠し持っていた。《沼》1枚を残して土地をフルタップした中嶋が唱えたのは《エメリアの呼び声》。
これにより修正を受けた5/5の飛行戦力を得ただけでなく、天使以外のクリーチャーに破壊不能までも付与した中嶋は、マスコット達による猛攻をしのいで反撃に打って出る機会を手に入れた。破壊されないクリーチャーであれば、遠慮なく攻撃ができるものだ。《光輝王の野心家》の攻撃をブロックしたスピリット・トークンはあえなく撃破された。
さて、こうなると谷口は別の解決手段を見つけなければならない。もはや予断は許されないと判断したのか、ここで谷口が《アールンドの天啓》を唱えた。それからエレメンタル・トークンで攻撃した谷口だが、ここで変身した《婚礼の発表》で天使・トークンが強化されているのを失念し、反撃で貴重な戦力を失ってしまう。
しかし、ミスを引きずらないまま、ここから谷口は怒涛の勢いで反撃を開始する。《感電の反復》を唱えたのち、手札から飛び出したのはまたも《アールンドの天啓》!
鳥・トークンと2回の追加ターンを手に入れた谷口は、2ゲーム目と同様大立ち回りを披露する!もはやおなじみとなった《表現の反復》から始まり、それで追放した《消えゆく希望》を天使・トークンに。次に《溺神の信奉者、リーア》を戦場に出し、「フラッシュバック」を獲得した《消えゆく希望》をもう1体の天使・トークンに打ち込み、盤面から退場させる。ここで邪魔者のいなくなった鳥・トークンと墨獣・トークンが一気に攻め込み、中嶋のライフは15。
だが、まだ谷口は油断しない。「勝利を確信したときにこそ敗北する」と自分に言い聞かせるように、残る追加のエクストラターンで、谷口は《黄金架のドラゴン》を戦場へと解き放った!
こうなるともはや、中嶋に打つ手はない。全クリーチャーでの一斉攻撃宣言を最後に、中嶋が投了した。そしてここに──イゼット天啓の強さを知らしめる、新たな『帝王』が誕生したのだった。
谷口 2-1 中嶋
『第12期関西帝王戦スタンダード』優勝は谷口 拓哉!おめでとう!!