『神河:輝ける世界』がモダンにもたらした変化

Piotr Glogowski

Translated by Nobukazu Kato

原文はこちら
(掲載日 2022/2/28)

はじめに

さて、今回のテーマですが、『神河:輝ける世界』がすでにモダンに与えている影響について見ていきましょう。

「魂力」土地

コンセプト的には『ゼンディカーの夜明け』の「モードを持つ両面カード」に近いですが、ライフを支払わずにアンタップインできるという意味では今回の「魂力」土地のほうが強いでしょう。唯一の欠点は伝説のタイプを持つことです。特定の色の基本土地を数枚入れられるデッキでは、その色に応じた「魂力」土地をマナベースに無理なく組み込めないか考えるべきでしょう。

グリクシスシャドウのようにかなりタイトなマナベースのデッキが採用するのは骨が折れるかもしれませんが、Magic Onlineのリーグ戦やチャレンジのデッキを見てわかるように、比較的色拘束の緩いデッキはどれも色のあった「魂力」土地を1枚入れてみようと試みています。

反逆のるつぼ、霜剣山皇国の地、永岩城見捨てられたぬかるみ、竹沼

《反逆のるつぼ、霜剣山》《見捨てられたぬかるみ、竹沼》はシンプルにマナフラッド受けの効果を持っています。ほかにとれるアクションがあるのであれば、「魂力」として使うことはないでしょう。

《反逆のるつぼ、霜剣山》《レンと六番》と見事なシナジーであり、毎ターン能動的な動きをとり続けることができます。他方、《見捨てられたぬかるみ、竹沼》はリソース戦において《夢の巣のルールス》を使い回す便利さを持ち合わせます。

天上都市、大田原

《天上都市、大田原》は少々限定的であり、上記の2枚ほど終盤戦にトップデッキして強い効果ではありません。何かしらをバウンスできるだけでも何もしない土地より強いのは確かなのですが、ある独特な用途から《天上都市、大田原》は重宝されます。その用途とは《時を解す者、テフェリー》をバウンスすることです。

「魂力」は起動型能力であるため、打ち消されることもなければ、《時を解す者、テフェリー》の常在型能力による制約にも引っかかることもなく、相手のターンは無敵だと思われたプレインズウォーカーを突如として退場させられるのです。

《時を解す者、テフェリー》が悩みの種だった続唱デッキにとって、時を操る魔道士を確実に対処できる新しいツールが手に入ったのはとても喜ばしいことでしょう。《天上都市、大田原》が環境に存在するだけでも、続唱デッキの相手はこれまで以上に慎重にプレイしなくてはなりません。

耐え抜くもの、母聖樹

《耐え抜くもの、母聖樹》は単なるマナフラッド受け効果ではなく、癌を摘出する除去であり、その意味で ほかの「魂力」土地とは少々異なります。除去の対象となったパーマネントのオーナーは基本土地タイプを持つ土地、つまりトライオームやショックランドなどをサーチできるため、一般的なマナベースのデッキであれば《母聖樹》によってマナスクリューに陥ることはありません。

《母聖樹》は緑のあらゆるデッキに数枚入ってもおかしくありません《スランの医師、ヨーグモス》デッキは《真髄の針》をはじめとする厄介なカードへの解答として欲しい1枚でしょうし、リビングエンドや《衝撃の足音》デッキは《虚空の杯》などを割るカードとして採用できるでしょう。ただ、《母聖樹》が土地であることを利用すれば、さらにこの土地の強さを引き出すことができます

アミュレットタイタン

《耐え抜くもの、母聖樹》にとってうってつけの居場所のひとつになるのが、アミュレットタイタンです。PuntThenWhineは《母聖樹》を4枚採用したデッキリストで『神河:輝ける世界』参入後初のPTQを優勝しています。

アミュレットタイタン

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原始のタイタンシミックの成長室耐え抜くもの、母聖樹

アミュレットタイタンは比較的土地をサーチしやすいデッキであり、なおかつ滞りなく6マナまで伸ばすことが最重要課題であるため土地はできるだけ多く採用したいデッキです。その条件に《耐え抜くもの、母聖樹》が見事に合致します。ハンマータイムに対し、《原始のタイタン》でバウンスランドと《母聖樹》をサーチすれば、《解呪》を構える態勢がとれます。《母聖樹》で1ターンを稼げれば、ゲームの流れを変えられることでしょう。

血染めの月月の大魔術師

《母聖樹》にはもうひとつありがたい使い道があります。アミュレットタイタンにとって《血染めの月》は天敵のひとつでしたが、《母聖樹》ならば低い機会費用でこのエンチャントへの対策を多く詰め込めるのです。そのため、《母聖樹》が登場した今、アミュレットタイタンへの対策を用意するなら除去されづらい《月の大魔術師》をおすすめします。

4色ヨーリオン

《耐え抜くもの、母聖樹》を悪用するには《レンと六番》も有効です。

4色ヨーリオン

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4色ヨーリオンはトップメタ以外のデッキに対して苦労させられてきました。ベルチャーは悪夢のようなマッチアップですし、トロンに対抗するには苦労します。アミュレットタイタンは汎用性の低い対策を要求してきますが、サイドボードに枠を割くほどアミュレットタイタンを重視することはなかなかできません。

耐え抜くもの、母聖樹レンと六番

《レンと六番》で毎ターン《耐え抜くもの、母聖樹》を使い回せれば、これらのマッチアップにあっさり勝てます。さらに、ハンマータイムにも有効なカードであるため、4色ヨーリオンにとって《母聖樹》ほど幅広い相手に対応してくれるサイドカードはほかにありません。メインデッキにも1~2枚採用できるものであるため、追加でサイドボードの枠を割かずとも苦手なマッチアップに対してわずかでも勝率を上げることができます。

《母聖樹》《レンと六番》のループはトロンやアミュレットタイタンにとっても脱出困難ですが、完全な土地破壊になってしまうベルチャーにとっては致命的です。

踏み鳴らされる地

ベルチャーは、その対策のひとつとしてサイドボードに《踏み鳴らされる地》を1枚採用し、一発目の《耐え抜くもの、母聖樹》でサーチできるようにするか検討すべきでしょう。ショックランドがデッキ内にあると《小道の再交差》が機能しづらくなるので、裏目もあって難しい採用になります。それでも《ゴブリンの放火砲》の起動で致死量のダメージを与えられる可能性はありますから、一度検討してみる価値はあるはずです。

「魂力」土地のなかで、もっとも環境にインパクトを与えるのは《耐え抜くもの、母聖樹》でしょう。その存在によって、いくつかのアーキタイプを諦めるプレイヤーはいるでしょうし、特定のデッキに対しては完璧な解答にもなり得るからです。そのほかの「魂力」土地は使い勝手の良い土地として主に使われていくことでしょう。

ハンマータイムと「換装」

ハンマータイムは、モダンにおいて抜群の安定感とデッキパワーを維持してきたアーキタイプのひとつ。このハンマータイムが新セットから新戦力を何枚か獲得しています。

獅子の飾緒

《獅子の飾緒》の登場により、ハンマータイムは《夢の巣のルールス》の「相棒」条件に反しない《イラクサ嚢胞》のような存在を手に入れることになりました。《巨像の鎚》ばかりを引いてクリーチャーが足りない場合、《石鍛冶の神秘家》からクリーチャーをサーチできるのは最高でしょう。

墓地対策効果もさまざまな場面で便利なこと間違いなしです。全くの画期的なカードだというわけではないですが、過去に《夢の巣のルールス》を諦めてまで欲しかったカードに非常に似ていますから、《獅子の飾緒》は便利でしょうし、ハンマータイムのデッキリストに居場所を見つけるだろうと思います。

現実チップ

これまでは《獅子の飾緒》が「換装」カードとして話題になることが多かったですが、今現在話題を集めているのは《現実チップ》です。ハンマータイムを使う多くのプレイヤーたちがこのカードのために青をタッチした構成に移行し始めています。

敏捷なこそ泥、ラガバン古きものの活性思考囲い

ハンマータイムにとって色のタッチは容易であり、実際これまであらゆる色にタッチしてきた実績があります。《敏捷なこそ泥、ラガバン》《磁力窃盗》のために赤を、《古きものの活性》《夏の帳》のために緑を、そして《思考囲い》のために黒をタッチし、なかでも黒はもっとも一般的かつ成功した形でした。

青をタッチした意欲的なリストもあったのですが、ひとつもどかしい問題がありました。青白は白の組み合わせのなかで唯一色のあったキャノピーランドがなく、構築時点からマナフラッド耐性が低かったのです。

シガルダの助け純鋼の聖騎士

この2週間で青タッチへの関心を再熱させたのが《現実チップ》でした。その「換装」コストはかなり高いですが、《シガルダの助け》《純鋼の聖騎士》を使えばタダで「換装」できます。たったの2マナで《未来予知》の効果が使えるとすれば、それは間違いなく最高でしょう。

モダンリーグで《現実チップ》入りの構成を試しましたが、実際に効果的なのかどうかは何とも言えない印象でした。確かに《巨像の鎚》《影槍》、単体で脅威になる《獅子の飾緒》、カードアドバンテージエンジンである《現実チップ》を柔軟にサーチできる楽しさはあり、《鋼打ちの贈り物》を再び採用しようと思わされたほどでしたが、自分にこう問いかけることが多くありました。「なぜ素直に《巨像の鎚》をサーチしないのか?」と。そのマッチアップがテンポで争われるのであれば、3マナという高すぎる「換装」コストを払う暇はないでしょう。

ハンマータイム

ハンマータイム

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呪文貫き

その反面、青をタッチしたことで使えるようになった別のカードたちに感銘を受けました《呪文貫き》は相手がマナを払ったうえでその努力を水の泡にするものであり、《思考囲い》とは異なるタイプのプレッシャーに相手をさらすことになります。テンポが全てであるゲーム展開においてはマナを払わせることが大きな意味を持ち、事実ハンマータイムはそういったゲーム展開になりやすいデッキです。

アゾリウスの造反者、ラヴィニア翻弄する魔道士

《アゾリウスの造反者、ラヴィニア》《翻弄する魔道士》はヘイトベアとして効力が高い印象ですし、多くのデッキに刺さります。キャノピーランドの不在を補って余りあるほど《現実チップ》がロングゲームへの耐性をつけてくれるのであれば、青をタッチするリターンは大きいと思いますし、将来的にはタッチ黒と肩を並べるようになるのではないでしょうか。

新たな強力除去、《冥途灯りの行進》

冥途灯りの行進

《冥途灯りの行進》は新しい除去であり、事前の予想を超える活躍ぶりでした。自然と《虹色の終焉》と比較されていますが、《冥途灯りの行進》のほうが1マナ余計にかかります。コスト軽減能力は本当に危険な場面でしか使えないものであり、無視しても構わないメリットです。たとえば《稲妻》《火葬》とでは雲泥の差があることは誰の目にも明らかであり、《冥途灯りの行進》《虹色の終焉》は比較対象になりません。

《冥途灯りの行進》の強みは、インスタントであること、そして《ウルザの物語》をたった1マナで追放できることの2点です。《虹色の終焉》がどれだけ強かろうと、ソーサリースピードというのは裏目があります。特に純正のアゾリウスコントロールにとっては、「疾駆」の《敏捷なこそ泥、ラガバン》を処理する追加の手段として重宝されるでしょう。

さらに、《冥途灯りの行進》《ウルザの物語》への解答として使えることから、メインデッキから投入できる最善の《ウルザの物語》対策として《広がりゆく海》と枠を争えます。事実、私の現在の4色ヨーリオンのリストでは《広がりゆく海》を一切カットし、このより柔軟な除去を入れるようになっています。

居場所を求める《月罠の試作品》

月罠の試作品

《月罠の試作品》は瞬間的に親和への関心を再燃させましたが、まだブレイクスルーには至っていません。《バネ葉の太鼓》4枚と合わせれば、《思考の監視者》だけでなく《ウルザの物語》《肉体の裏切者、テゼレット》といった強力な4マナ域へとジャンプアップさせてくれますが、数々の課題をクリアしなくてはなりません。

メムナイト羽ばたき飛行機械

《メムナイト》《羽ばたき飛行機械》を多く採用する一方で、比較的高マナ域のマナ加速先のカードを採用すれば、非常にアンバランスな手札になりかねません。マリガンをしたり、序盤の展開に介入されれば、手札で唱えられないボムカードが立往生してしまうでしょう。《ウルザの物語》がいずれ生け贄に捧げられてしまうのも問題に拍車をかけています。

この問題が解決可能なものなのか、あるいは《バネ葉の太鼓》8枚体制には必然的なのもなのか、その答えはわかりません。今わかるのは、親和をはじめとするアーティファクトデッキが良い構成が存在するとすれば、その発見には多くの時間を要するだろうということだけです。

《バネ葉の太鼓》8枚体制ほど試せていないですが、《月罠の試作品》の使い道はほかにもあります。クリーチャーを不採用にしたアーティファクト軸のデッキで《最高工匠卿、ウルザ》へのマナ加速手段として使い、そこにマナの大食いであるソプターコンボを内蔵させるのです。ひとつサンプルリストを紹介するならこのようなものになるでしょうか。

アゾリウスソプターコンボ

アゾリウスソプターコンボ

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『神河:輝ける世界』はモダンに新鮮な空気を吹き込むセットとなりました!多くのアーキタイプが重要なアップデートや選択肢を得たのです。プレイヤーたちによる新カードの研究が進めば、から成図やメタゲームは発展し続けていくことでしょう。

ピオトル・グロゴゥスキ (Twitter / Twitch / Youtube)

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Piotr Glogowski マジック・オンライン上でkanisterとしてその名を轟かせ、Twitchの配信者としても人気を博す若きポーランドの雄。 2017-2018シーズンにはその才能を一気に開花させ、プロツアー『イクサラン』でトップ8を入賞すると続くワールド・マジック・カップ2017でも準優勝を記録。 その後もコンスタントに結果を残し、プラチナ・レベル・プロとしてHareruya Prosに加入した。 Piotr Glogowskiの記事はこちら