ルールスなき世界を解析しよう

Piotr Glogowski

Translated by Nobukazu Kato

原文はこちら
(掲載日 2022/3/23)

はじめに

夢の巣のルールス

3月7日、《夢の巣のルールス》が禁止されました。唐突なタイミングのように思えましたが、ようやく禁止されたと感じる人も少なくないでしょう。「相棒」のルールが変更されてもなお、驚異的な強さで幅広く使われ、採用コストはないに等しかった。それはみなさんも痛いほど知っていることでしょう。

今日は、《ルールス》がいなくなって2週間のMagic Onlineの結果を振り返っていきます。

「相棒」というメカニズム

この『イコリア:巨獣の棲処』で登場したメカニズムは、間違いなく史上最大のデザインミス賞に名乗りを上げるでしょう。個人的な意見としてはもっと広範囲にわたる変更、直接的に言ってしまえばこのメカニズムをトーナメントシーンから完全に排除して欲しかったところですが、ウィザーズはカード1枚1枚に対処する形で問題を解決することを選んだようです。

では、残された相棒たちはどうでしょうか?

深海の破滅、ジャイルーダ黎明起こし、ザーダ集めるもの、ウモーリ呪文追い、ルーツリー巨智、ケルーガ獲物貫き、オボシュ

《深海の破滅、ジャイルーダ》《黎明起こし、ザーダ》《集めるもの、ウモーリ》《呪文追い、ルーツリー》《巨智、ケルーガ》「相棒」条件があまりにも厳しく、今後もほぼ見かけることはないでしょう。カジュアルなデッキで稀に見かけるぐらいではないでしょうか。この程度の採用頻度であれば、「相棒」メカニズムが本質的に問題であるとはいえ、環境に選択肢を増やし、ポジティブな影響を与えていると言えるかもしれません。

これらの相棒に比べて《獲物貫き、オボシュ》はわずかに採用率が高いですが、同じく構築の制約が大きく、採用するうまみがそこそこといったところです。

カードプールの増加にともなって、ここまで挙げた相棒たちが耐えがたいレベルまで強くなる可能性は否定できませんが、ほぼあり得ないでしょう。クリーチャー自体がそこまで強くないですからね。

孤児護り、カヒーラ湧き出る源、ジェガンサ

《孤児護り、カヒーラ》《湧き出る源、ジェガンサ》はほぼ無価値のクリーチャーですが、運よく「相棒」条件を自然と達成できるデッキにフィットします。入れないと損だからということで、味気なく使われているのはみなさんもよく知るところでしょう。

カードデザインの視点でみるとかなり残念な結果であり、「相棒」メカニズムのデザインとして最悪な部分が露見していますが、決してゲームバランスを崩していないですし、これからも共存していけるでしょう。面白味はないですが、問題はありません。

空を放浪するもの、ヨーリオン

問題なのは《空を放浪するもの、ヨーリオン》です。(比較的)採用コストが低く、なおかつクリーチャー自体もなかなか強いという2要件が揃っているのは危険であり、《ルールス》と同じくその水準に近い《ヨーリオン》は巷で議論の的になっています。

禁止前の環境では4色ヨーリオンが3つあるトップメタデッキのうちのひとつだというのが一般的な認識でしたから、「《ヨーリオン》は放置して良いのか?」と思われるのも当然でしょう。環境のバランスの観点から、禁止すべきかどうか私なりの結論は出ていませんが、この点については後述するとしましょう。

3マナ域の解禁?

《ルールス》を採用すべく、3マナ域を諦めてきたデッキは多くありましたが、実際に《ルールス》によって使われずにいたカードはそう多くありません

ヴェールのリリアナ

《ヴェールのリリアナ》ファンは多いですが、《ルールス》の存在にかかわらず、うまく時代に追いつけていないと思います。《歴戦の紅蓮術士》《飢餓の潮流、グリスト》《イーオスのレインジャー長》《不屈の追跡者》は、採用されるべきカードかどうかわかりませんが、ミッドレンジでこれまでより多少は使われるかもしれません。

血染めの月

《ルールス》が採用を阻んでいた最大のカードは、おそらく《血染めの月》でしょう。モダンの歴史を通じて見ても、サイドボードに《血染めの月》が採れるなら採るというのが基本でした。黒系の《敏捷なこそ泥、ラガバン》デッキが再浮上するようなら、きっと《血染めの月》の姿がそこにあることでしょう。

敗者

グリクシスシャドウ

死の影巨像の鎚

禁止直後の結果では、《ルールス》デッキの代表格だったグリクシスシャドウとハンマータイムがメタゲームのトップを譲りませんでした。弱体化したのは間違いないものの、決して使えないレベルではありません。

かつてのグリクシスシャドウはまごうことなきモダンのベストデッキでした。最強の1マナの妨害と最強の1マナの脅威を詰め込んだ暴力的なデッキであり、《思考囲い》《湖での水難》によってゲームを消耗戦にもつれ込ませ、2枚分(場合によってはさらなるアドバンテージ!)になる《ルールス》によってゲームを掌握していたのです。

まだまだ強いデッキではありますが、禁止後のベストな構成を見つけるにはもう少し調整する必要がありそうです。

《濁浪の執政》

グリクシスシャドウ

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禁止直後の週末に開催されたSuper Qualifierでは、Magic Onlineプレイヤーであるazaxが上記のリストを使って優勝しました。《濁浪の執政》は実績のあるパワーカードでしたが、《ルールス》と共存できなかったため、ここにきて採用され出したのは不思議ではありません。

azaxの素晴らしい結果には賞賛を惜しみませんが、実際に自分でこのリストを試したところ、残念ながらこの構築アイディアにはいくつかの疑問点が残りました

考慮思考囲い

1つ目は、《濁浪の執政》は手札破壊呪文よりもキャントリップ呪文のほうがはるかに相性が良いということです。キャントリップはドローの枚数が増えるため、結果として墓地に呪文が溜まりやすくなり、《濁浪の執政》を驚異的なサイズで出しやすくなります。反対に手札破壊はお互いのリソースを削るだけであり、《濁浪の執政》のサイズが比較的小さくなってしまいます。《考慮》を採用しているのは、まさにこの問題を解決したいからでしょう。

2つ目の疑問点はマナベースです。赤の1マナ域に加え、手札破壊呪文もあるため、1ターン目は基本的に《血の墓所》をサーチすることになります。青マナの優先度は2番手でありながら、2つ用意しなくてはならず(《湖での水難》を構えたい場合は3枚必要で)、マナベースに過度な負担がかかります。

結論を言えば、この構築がイゼットにかわって《濁浪の執政》の代表デッキになることはないと思います。

《湧き出る源、ジェガンサ》

グリクシスシャドウ

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湧き出る源、ジェガンサ漆月魁渡

同大会で10位に入賞したのはMchlpp。おもしろいことに、禁止前のグリクシスシャドウは《ルールス》《湧き出る源、ジェガンサ》も採用できる構成でした。

メインデッキに2枚採られた《漆月魁渡》は、《ルールス》によって空いた穴を埋めるように、カードアドバンテージや素のカードパワーを必要としていることの表れでしょう。そのほかの点は禁止前とほぼ変わらない構成になっています。このアプローチは個人的に好きですし、もっとも将来性があるのではないかと思います

ハンマータイム

ハンマータイムはこの2週間でわずかに結果を残しています。

ハンマータイム

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イラクサ嚢胞火と氷の剣戦争と平和の剣

グリクシスシャドウと違い、ハンマータイムは《ルールス》によって使えずにいた惜しい3マナ域が多くありました。禁止前ですら、CrusherBotBGや彼に追随したプレイヤーたちが《ルールス》を諦め、サーチできる単体の脅威として《イラクサ嚢胞》や各種「剣」を採用していたほどです。

バネ葉の太鼓

ハンマータイムは《バネ葉の太鼓》デッキであり、なおかつ自然とマナフラッド受けになっていた《ルールス》がいなくなったため、3マナ域がゲームプランに比較的フィットしやすくなっています。ハンマータイムがこの2週間で結果を出したのはわずかですが、公開されたリストは広く《イラクサ嚢胞》を使っており、ときには驚くほどの枚数を採用していました。

現実チップ鋼打ちの贈り物

個人的には青をタッチしたバージョンに目を付けています《現実チップ》のカードアドバンテージ獲得力がますます重要になってきたかもしれないからです。《巨像の鎚》《現実チップ》、「生体武器」などをサーチできる《鋼打ちの贈り物》を再評価するべきかもしれませんね。

グリクシスシャドウもハンマータイムも良いデッキでありプレイアブルですが、禁止直後は勢いが衰えています。弱体化したデッキを喜んで使う人はあまりいないでしょう。しかし、この2つのデッキから距離を置くべきもうひとつの理由があります。4色ヨーリオンです。

勝者(?)

環境トップと認識されてきたデッキのなかで唯一弱体化していないのが4色ヨーリオンです。ただ、ヨーリオンデッキは明確に禁止の影響を受けています。受け身のデッキであるがゆえに、ハンマータイムやグリクシスシャドウはほぼ毎ゲームで《ルールス》を手札に回収する時間が存分にあり、それがマッチの勝敗に大いに影響してきたのです。

ヨーリオンデッキは枠を割けばどんなデッキにも勝てるポテンシャルがありますが、同時にあらゆるデッキに勝つことは到底できません。メタゲームに存在するさまざまなデッキが異なる方向性を向いているため、万能なヨーリオンデッキを組むことは夢物語のようにすら思えます。80枚デッキという条件がサイドカードの効力を下げてしまうため、《ヨーリオン》そのものがこの問題に拍車をかけています。

死せる生原始のタイタンゴブリンの先達解放された者、カーン

《ルールス》が抜けたことによるメタゲームシェアを埋めるように、リビングエンド・ティムール続唱・ドレッジ・アミュレットタイタン・バーン・トロンなど、各種の直線的なデッキがわずかに勢力を拡大している様子があり、これらのデッキはどれもわずかに異なる対策を要求してきます。同時にすべてのデッキに対応することがますます難しくなってきているわけです。禁止前は、ある程度まとまった数のアーキタイプが大きなメタゲームシェアを有していました。

このようにヨーリオンデッキは本質的に不安定さを抱えているため、《ルールス》ありのグリクシスシャドウのように4色ヨーリオンがモダンを支配するのは難しいだろうと思います。仮に支配する状況になったとしても、メタゲーム全体に多様化する流れができ、ヨーリオンデッキに対抗するでしょう。

実際、私の配信のDiscordサーバーでは「最強のデッキだったらわざわざ追加で20枚も枚数を増やすわけがない!」という仲間もいます。私はというと、強力な8枚目の手札を使いたい側の人間であり、不安定さの問題に取り組もうとしています。4色ヨーリオンは広く使われるデッキになるでしょうが、フィールド全体に対して強くすることはできないので、ミラーマッチに焦点を合わせるのが最善の戦略でしょう。

アゾリウスコントロール

アゾリウスコントロールは4色ヨーリオンに苦戦するものの、メタゲームが広範になっている状況では打ち消し満載のデッキはいつも以上に勝てる可能性があります。

ギョーム・ワフォ=タパ/Guillaume Wafo-Tapaがアゾリウスコントロールで継続して変わらず成功しているところを見ると、デッキが強いのかプレイヤーが強いのかわからなくなりますが、彼は先週末のModern Challengeでトップ8に2連続で入っており、さらにほかのコントロールデッキも多く好成績を残しているため、打ち消しを多く積むことが今はとても重要なのではないかと思わされます。

アゾリウスコントロール

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4色ヨーリオン

ここで4色ヨーリオンに話を戻すと、組み方は無数にあります。メタゲームがこれから数週間にわたって混戦していくことを考えると、正しい構成を見つけ出すのは難しいでしょう。アプローチ方法が複数あるなかで、私が現時点で特に関心を持っているのはもっとコントロールデッキに寄せ、《大魔導師の魔除け》をキーカードとするアゾリウスコントロールとのハイブリッド型です。

4色ヨーリオン

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マナベースに大きな負担がかかっていますが、この負荷に耐えられれば打ち消しが豊富な構成になり、弱いカードを抱えすぎるマッチアップを減らしながら機能するデッキになるでしょう。

リビングエンドは禁止に直接的な影響を受けていないデッキのうちのひとつです。《ルールス》を意識する必要がなくなったから墓地対策はこれまでより多少減るだろうという考えもできますが、《ルールス》禁止よりも対策のあり方に大きな変化をもたらしたのは『神河:輝ける世界』の「魂力」土地の登場です。

天上都市、大田原耐え抜くもの、母聖樹

《天上都市、大田原》《耐え抜くもの、母聖樹》《悲嘆》《否定の力》《緻密》《活性の力》《基盤砕き》など、リビングエンドが擁する妨害呪文は驚異的な数になっています。直線的なデッキたちがますます強化され、安定して勝つにはますます多くの対策が求められる。そういった環境に流れていくのであれば、まさしく遅めのデッキに打ち消し呪文を山ほど入れたくなりますね。

メタゲームの行く末は?

結局のところ、《ルールス》の禁止は大変革というよりもメタゲームの再編成でした。初週はハンマータイムとグリクシスシャドウの数が大幅に減り、そのほかのアーキタイプがその穴を埋める形に。そして第2週はコントロールが満載でした。

混戦する多様なメタゲームでは、良いプレイングをし、自分のデッキを知り尽くしているプレイヤーが結果をものにします。いつものことですが、モダン環境がどのように進化していくのか楽しみでなりません。環境を熱い眼差しで見つめ、攻略していこうと思います。

ではまた次回!

ピオトル・グロゴゥスキ (Twitter / Tiwtch / Youtube)

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Piotr Glogowski マジック・オンライン上でkanisterとしてその名を轟かせ、Twitchの配信者としても人気を博す若きポーランドの雄。 2017-2018シーズンにはその才能を一気に開花させ、プロツアー『イクサラン』でトップ8を入賞すると続くワールド・マジック・カップ2017でも準優勝を記録。 その後もコンスタントに結果を残し、プラチナ・レベル・プロとしてHareruya Prosに加入した。 Piotr Glogowskiの記事はこちら