◆はじめに
お疲れ様です。てんさいチンパンジー(@tensai_manohito)です。
最近はスタンダードのイベントが多かったこともあり、スタンダードにお熱でした。が、残念ながら成績はあまり奮いませんでした。
直近の大会成績
・日本選手権2021 FINAL(3-3で予選落ち)
・第5回Sekappy Coloseum(7-3で予選落ち)
・第19期スタンダード神挑戦者決定戦(3-4で予選落ち)
勝った負けたで一喜一憂するのもそこそこに、「なぜ勝てなかったのか」「どうすればよかったのか」とウンウン唸る毎日でした。
今回はその反省について、直近の私が参加したイベントで使用したデッキと1月25日の禁止制限告知で《ゼロ除算》《アールンドの天啓》《不詳の安息地》が禁止に指定された件、そして現在のスタンダード環境を例に取り、カードの評価・価値とはどういうものかについて考えていきます。
◆カードを評価する・価値を測る【考え方】
カードの評価は相対的なものです。
たとえば《灰色熊》。
2マナ2/2というスペックは残念ながら構築級ではないとされています。それは、2マナ2/2より優れたサイズ・マナレシオを持ったクリーチャーが存在するからです。《タルモゴイフ》は《灰色熊》と同じ2マナですが、サイズはだいたい4/5を越えますし、《漁る軟泥》もまた《灰色熊》と同じ2マナですが、墓地対策と自身の強化を備えています。
《タルモゴイフ》と《漁る軟泥》は《灰色熊》の上位互換と言えるでしょう。つまり、《タルモゴイフ》と《漁る軟泥》が存在する限り、よほどの理由がないと《灰色熊》が使われることはないということです(ややこしくなるので《熊の女王、アイユーラ》はいったん忘れて下さい)。
が、仮に《タルモゴイフ》と《漁る軟泥》どころか存在する2マナのクリーチャーすべてのステータスが2/2未満かつ効果もない、《さまようもの》と同程度のクリーチャーしかいないのであればどうでしょうか。その場合、《灰色熊》はもっとも優れた2マナ域として使われるでしょう。
要するに、比較対象があって初めてそのカードの価値を測ることができます。そして、その比較対象はエキスパンションの追加や禁止などのカードプールの変化によって常に変化していきます。
相対的な評価、そしてカードの価値を測ることは、ローテーションの存在するスタンダード攻略の鍵になります。なので、まずは現環境最強デッキの白系ミッドレンジと、旧環境最強デッキのイゼット系コントロールに採用されているカードを例にとりつつ、カードを評価・価値を考えていきましょう。
◆カードを評価する・価値を測る【実践】
《婚礼の発表》/《婚礼の祭典》
《栄光の頌歌》の弱点である「クリーチャーがいないと意味がない」という弱点を自身で補ったデザインです。単体で無視できないレベルのプレッシャーを掛けつつ、頭数がそろっていればドローにもなるということで、ミッドレンジ対決では無類の強さを発揮します。
“リミテッドでのボムレアは構築級”という格言(?)の通り、当初の《婚礼の発表》はそれくらいの評価でした。しかし、登場当初の環境はイゼット天啓一強時代。《アールンドの天啓》+《感電の反復》は決まれば手札や地面のクリーチャーを無視できる凶悪なコンボです。そんな中で多少リソースを稼いで小粒クリーチャーをばら撒いたところで、試合への影響はほとんどありません。
そもそも3マナ以上の脅威は《ジュワー島の撹乱》と《ゼロ除算》の2択を迫られるため、環境に存在できたのは本命のイゼット天啓と、2マナ以下からプレッシャーをかけられる白単アグロ、緑単アグロくらいでした。そのため、《婚礼の発表》を使うようなミッドレンジデッキは存在こそするものの、目立った活躍はありませんでした。
時は流れ数か月後。
《アールンドの天啓》《ゼロ除算》が禁止指定され、《婚礼の発表》の評価は大きく変化しました。環境からコンボが締め出され、アグロvsコンボという構図からアグロvsミッドレンジvsコントロールという由緒正しい姿に戻りました。
そうなると、《婚礼の発表》が行う「単体で戦場を形成」「リソースを稼ぐ」というフェアで強力な動きが注目されるようになったのです。その結果、現在のオルゾフミッドレンジやセレズニアミッドレンジなど、白系のミッドレンジデッキは環境トップクラスのシェアを誇るアーキタイプにまで成長しました。環境の変化に伴って価値が変化した良い例です。
《永岩城の修繕》/《修繕する建築家》
発想は《婚礼の発表》と近いものがあります。要するに単体でリソースを稼ぎ、無視できないレベルの脅威を展開する。ミッドレンジが強いとされる環境に存在する“出し得&唱え得”カードです。
エンチャントという性質上、対処が難しい点も《婚礼の発表》に似ており、”同じような役割のカードが2種あるとデッキになる”という格言の通り、《永岩城の修繕》もまた環境を代表する強パーマネントです。
似たような性質はそれだけに留まらず、《永岩城の修繕》も《婚礼の発表》も2ターン目にクリーチャーを唱える構造と相性が良いです。《永岩城の修繕》はそのクリーチャーに実質除去耐性を付けていますし、《婚礼の発表》は手前にクリーチャーが出ていれば4ターン目にドローすることができます。
《永岩城の修繕》も《婚礼の発表》同様に、仮に環境にイゼット天啓のようなコンボ・コントロールデッキが存在した場合は、日の目を浴びることはなかったでしょう。
《黄金架のドラゴン》
言わずと知れたスタンダード最強クリーチャーの1体です。唱えただけで緊張が走り、ひたたび戦場に出ると椅子に座り直し、攻撃後はその圧倒的な制圧力から戦場が一気に冷えます。
《ゼロ除算》が環境から締め出されたことで、《黄金架のドラゴン》をリソース損などの憂いなく退かすには《軽蔑的な一撃》のような確定打ち消しに頼るしかありません。《勇敢な姿勢》のような除去で対処した場合は宝物・トークンが生み出され、後続の《黄金架のドラゴン》が通った際に貴重な”リソース”として数えられてしまいます。
《ゼロ除算》の禁止によって価値が上がったのは《黄金架のドラゴン》に限りません。《イマースタームの捕食者》や《秘密を知るもの、トスキ》など、優秀な除去耐性を持っているものの、《ゼロ除算》には無力だった重いクリーチャーの価値は全体的に上がったと考えられます。
《くすぶる卵》/《灰口のドラゴン》
対アグロ/コントロールのメイン/サイド問わず優れた2マナ域で、イゼット系デッキの能動的な軽量プレッシャーです。
《くすぶる卵》は《ゼロ除算》の禁止によって価値を落としたクリーチャーです。《ゼロ除算》があったころは手札を減らさずに呪文カウントを稼げたため、比較的楽に7マナカウントを達成できました。「《ゼロ除算》→《環境科学》+《削剥》」や「《ゼロ除算》→《予想外の授かり物》」のようなパターンで、2ターン目に設置した場合、《ゼロ除算》を経由すれば4ターン目には反転に成功する展開も少なくありませんでした。
しかし、《ゼロ除算》が禁止に指定されたことで、上記のようなパターンはなくなりました。優れた3マナ域が減った結果、2+2+4や2+2+2+2のような組み合わせで反転を狙うことが多くなり、結果として反転が1ターン遅くなるケースが多くなりました。この遅れは対コントロールならばまだしも、対アグロに関しては致命傷です。
そのため、前環境の感覚で「アグロに耐性を上げるために《くすぶる卵》を使おう!」と思って採用しても、いざ使ってみると意外と強くないな…という感想を抱いた方は少なくないでしょう。反転のために必要な呪文の数が増えたのであれば、それは当然の感想です。重要なのは「なぜそう感じるようになったのか?」ということに疑問を持って掘り下げることです。
もちろん、《くすぶる卵》自体の強さが変わったわけではありません。《プリズマリの命令》や《炎血の発想》のような3マナ域を組み合わせることで、反転の速度自体は担保できます。しかし、今度は《プリズマリの命令》や《炎血の発想》自体の強さに是非があり…と、カードの評価はそれ1枚に留まりません。このトレードオフをどこまで許容するのか。答えは出ないのでこれ以上は掘り下げません(?)
《感電の反復》
かつてのイゼット天啓の負けパターンに「《感電の反復》が腐った!」ということはないでしょうか。そして現在のイゼットコントロールを使っていて、その頻度がさらに増えたと感じることはないでしょうか。
《感電の反復》でコピーした呪文が《ゼロ除算》に消される心配がなくなったので、《感電の反復》は強くなったという見方もでます。しかし、その一方で最強の相方である《アールンドの天啓》を失いました。
《予想外の授かり物》をコピーするだけでも確かに強力ですが、それだけでは前述の通り、腐る頻度が上がってしまいます。《アールンドの天啓》というゴールをコピーする価値が高かったからこそ、道中のドローソースである《予想外の授かり物》もコピーする価値がありました。《予想外の授かり物》をコピーするのは目的ではなく手段です。これが目的になってしまったら本末転倒です。
環境に変化こそあれど、《感電の反復》自体は変わらず強力な呪文です。そのため、失った《アールンドの天啓》の代わりに《錬金術師の計略》を採用するなど、《感電の反復》の強みを見失わない構造が重要になります。
《予想外の授かり物》
《予想外の授かり物》もまた《アールンドの天啓》の禁止によって弱体化したカードです。
《予想外の授かり物》は手札を1枚捨てて2枚ドローするため、リソースは増えません。テキストを読み上げました。なので、単純に手札を増やす目的であれば《多元宇宙の警告》や《記憶の氾濫》を使ったほうがよいでしょう。
《予想外の授かり物》の評価ポイントは“力を貯める”ということです。1ターンをパスして宝物・トークンという”力”を貯めるためのカードです。なので、その”力”を発揮できなければ、なんとなく動いたその1ターンは、実はターンをパスしただけに成り下がってしまいます。
要するにデッキのドローソースとして《予想外の授かり物》を普通使いするのは誤りということです。もちろん、目的がマナジャンプからの《感電の反復》+《アールンドの天啓》のようなビッグアクションであればそれは正しいですが、現在のスタンダードでそれが正当化されるデッキは存在しない認識です。《暁冠の日向》+《マグマ・オパス》のジェスカイ日向オパスがギリギリそれに当てはまるかもしれませんが、現在のシェア率から考えてもこれが優れたデッキであるとは言い難いでしょう。
《溺神の信奉者、リーア》
《黄金架のドラゴン》や《エシカの戦車》といったカードと同列のスタンダード最強クリーチャーの一角です。厳密には《エシカの戦車》はクリーチャーではないですが、ややこしくなるのでツッコまないで下さい。
《溺神の信奉者、リーア》が戦場に出た返しに押し込めなかったが最後。《ヨーグモスの意志》よろしく、圧倒的なリソース差で相手を押し潰します。《溺神の信奉者、リーア》のデメリットである打ち消し無効ですが、《ゼロ除算》の存在がそれを補っていました。「打ち消せなければ打ち消さなければいいじゃない」とばかりに墓地から《ゼロ除算》を唱える姿ははっきり言って異常でした。
しかし、《ゼロ除算》の禁止によってそのパターンはなくなりました。そのため、《溺神の信奉者、リーア》を維持してコントロールしきるという点では弱体化したと言えます。
が、逆に言えば弱体化したのはそのケースにおいてのみです。結局のところ、《溺神の信奉者、リーア》がもっとも活躍するであろう対アグロにおいて、《溺神の信奉者、リーア》を除去する手段というのは限られています。対コントロールにおいてはそもそも《溺神の信奉者、リーア》は活躍しづらく、《ゼロ除算》で相手の重い呪文を弾くというパターンはほとんどありませんでした。
《溺神の信奉者、リーア》を《ゼロ除算》で守るというパターンは失われましたが、果たしてそのパターンがどれだけの頻度で発生したのか。《消えゆく希望》で守るのとそれは何が異なるのか。本当に弱体化したのでしょうか?
結局、《溺神の信奉者、リーア》+除去という組み合わせは対アグロに必勝レベルの威力を持っていることに変わりありません。《ゼロ除算》がなくなることは《溺神の信奉者、リーア》の評価が落ちる要因の1つではありますが、それがあまり影響しないケースも存在します。ある一面での弱体化が別の面でも同様に弱体化したとは言えないというのが、これもまたカードの評価の難しい話です。
◆振り返りと今後の展望
ここまでの話を総合して、直近のスタンダードイベントで私が使ったデッキがどう見えるかを改めて考えます。
考えるべきは「①何がダメだったのか」「②どうすればよかったのか(改善は見込めるのか)」の2点です。
ジェスカイコンボ:日本選手権2021 Final
ジェスカイコントロール:第5回 Sekappy Colloseum
ジェスカイコントロール:第19期スタンダード神挑戦者決定戦
私が直近のイベントで使用したデッキは、すべてジェスカイカラー(白い要素は《セジーリの防護》や《勇敢な姿勢》のみでほぼ純正イゼット)のコンボ・コントロールデッキを使用しました。
イゼットカラーのコントロールには優秀なカードがそろっています。《表現の反復》は現代MTGきっての最強ドローソースですし、《溺神の信奉者、リーア》はスタンダード屈指の制圧力を持っています。カード単体でみれば優れたものが多いですが、では何が問題だったのか。
それは低マナ域の弱さにあります。
イゼット系コントロールが《ドラゴンの火》《否認》《表現の反復》という1:1交換ができるカードに一喜一憂しているのに対して、白系ミッドレンジが《光輝王の野心家》《婚礼の発表》《放浪皇》とそれぞれが単体で勝ち得るレベルの脅威を順々に連打できます。
イゼット系コントロールはそれらの脅威に「対処できて五分、対処できなければ負け」なのに対し、白系ミッドレンジは「対処されて五分、対処されなければ勝ち」です。あまりにも立場が違い過ぎます。
また、デッキリストの公開/非公開の差も大きいです。リスト非公開では白系ミッドレンジはある程度自分都合でキープ/マリガンを判断できますが、イゼット系コントロールはそうはいきません。
《ドラゴンの火》と《否認》では相手によって効き目が異なるため、マリガン後にどちらを戻してよいかの正解がありません。結果、リスト公開時に比べて1本目の勝率が非常に低く、第19期スタンダード神挑戦者決定戦では全7試合中、実に5試合はメイン戦を落としていました。
これは《ゼロ除算》ような裏目のないリソース交換カードが禁止された影響が非常に大きいです。《ゼロ除算》は《ジュワー島の撹乱》との相性もよく、相手の適切な行動を抑制する効果もありました。適正ターンに突っ張ったら《ジュワー島の撹乱》に当たりますし、ケアして次のターンにずらしたら今度は《ゼロ除算》に当たってしまいます。
結果、低マナ域を《否認》や《ドラゴンの火》といったムラのあるカードに頼らざる得なくなってしまったイゼット系コントロールは大幅に弱体化しました。そして、現在のカードプールでの改善は難しいと考えています。
いくら《表現の反復》や《溺神の信奉者、リーア》が強力なカードであっても、これらはリソースを引き伸ばすだけのカードです。これらで唱えるカードが並であったり、これらを唱えるための下準備が不十分であった場合、その強さを十分に生かすことができません。
現行のプールに優れた低マナ域がないという問題はどうやっても解決しようがないため、イゼット系コントロールは除去コントロールへのアンチデッキという立ち位置が限界なように思えます。除去コントロールのようなデッキが流行った際にはまた日の目を浴びる可能性はありますが、オルゾフミッドレンジのような押しの強いミッドレンジが高いシェア率を誇っている限りは活躍は難しそうです。
イゼット系コントロールがイマイチだったという結論が出た以上、白系ミッドレンジを使うことがベストだったかなというのが反省です。ことスタンダードに関してはリソースの獲得とフィニッシャーが分断された構成よりも、単体の脅威+リソース獲得がセットのほうがよいというのは歴史が証明しています。
要するに《表現の反復》《記憶の氾濫》《溺神の信奉者、リーア》よりも《婚礼の発表》《エシカの戦車》《放浪皇》のほうが勝利に繋がる、というイメージです。また、低マナ域は相手によらず能動的なカードで埋めたほうがマリガン判断で悩む場面が少なくなるため、メイン戦での勝率を担保できます。つまり《否認》や《ドラゴンの火》ではなく、《光輝王の野心家》のほうが優れているということです。
これらの反省を踏まえて考えたデッキが次のセレズニアミッドレンジです。
セレズニアミッドレンジ
現在のスタンダード環境で最強クラスの白と緑のパーマネントをこれでもか!と詰め込んだ典型的な白系ミッドレンジです。
低マナ域を単体脅威の《光輝王の野心家》や4マナジャンプに繋がる《ヤスペラの歩哨》《裕福な亭主》《ドーンハルトの主導者、カティルダ》で埋めつつ、3~5マナ域の強力なパーマネントの連打を狙います。緑のマナ加速は《エメリアの呼び声》を強く使えるのも大きなメリットで、これはオルゾフミッドレンジにはない強みです。
未テストのためサイドボードにまで手が回りませんでしたが、《鎮まらぬ大地、ヤシャーン》や《監禁の円環》辺りを採用するのがよさそうです。
◆おわりに
今回の記事は以上になります。
ほとんどのプレイヤーは特に意識せずにカードを評価する・価値を測っていると思います。しかし、それを改めて言葉にして説明できるかと言われるとなかなか難しい話です。
大事なのは正否ではなく是非です。考えた結果が正しいか間違っているかではなく、考えようと思ったことが重要です。
私自身、本記事で偉そうにいろいろと述べましたが、これを受けて「なるほど」と思う方もいれば「それは違うのでは」と思う方もいるでしょう。それで構いません。本記事が「カードを評価する・価値を測る」ということを考えるきっかけになったり、考え方の手助けになれば幸いです。
増田 勝仁(Twitter)