Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2022/6/26)
宣誓
2か月ほど前、地元で紙のモダンの大会に出たところ、散々な結果に終わりました。家に帰って配信をはじめると、私はモダンで二度と《空を放浪するもの、ヨーリオン》を使わないと宣誓し、その気が変わらないように大袈裟にも《ヨーリオン》を売り払いました。
この記事では、なぜ私がそうするに至ったのかを解説し、ヨーリオンデッキにも数多くの欠陥があるのだと批評していきます。ますます大きくなる禁止論への一種の回答だと思ってもらって良いでしょう。私はこれまで散々ヨーリオンデッキを使ってきたので、ヨーリオンデッキのパワーレベルがなぜこれほど過大評価されやすいのか、よく理解できる立場にあると思います。
記事の趣旨の観点から、エレメンタルヨーリオンと《表現の反復》を含む4色ヨーリオンを「ヨーリオンデッキ」とひとくくりで呼称することにします。この2つのアーキタイプはゲームプランにほとんど違いがありませんからね。
《空を放浪するもの、ヨーリオン》は壊れているのか?
「相棒」メカニズムは登場してからまだ2年しか経っていませんが、もっと長い年月のように感じます。《夢の巣のルールス》がほぼすべてのフォーマットで禁止されてからというもの、残る「相棒」のなかで最強なのは《空を放浪するもの、ヨーリオン》です。
この「相棒」というメカニズム自体、あるいは代表格となる「相棒」をすべて排除したほうがモダン、はたまたマジック全体にとって好ましいのではないかという議論は散々されてきましたので、ここではこれについて深入りしません。
お互いにリソースがほぼ枯渇するようなゲーム展開では「相棒」の存在が明確なアドバンテージになります。ですが、《空を放浪するもの、ヨーリオン》の「相棒」条件は極めて重いものだと私は考えています。
4色コントロール、あるいはその通称である「マネーパイル(札束)」はさまざまな感情を喚起します。モダンの経験値が浅いと、ヨーリオンデッキに負け、その値段を調べ、金にものを言わされたと思いがちです。
しかしその反面、Magic Onlineの大会結果にヨーリオンデッキは一定数いるものの、私が思う環境の真のベストデッキ(《夢の巣のルールス》禁止前はグリクシスシャドウとハンマータイム、今で言えばイゼットマークタイド)より立場が上になることはないでしょう。
ヨーリオンデッキのカードはどれも強力であり、クリーチャーベースのデッキに対してめっぽう強くなっています。表面上はわかりやすい弱点が見当たらず、劇的に刺さる対策カードもありません。《安らかなる眠り》がわかりやすく刺さるドレッジとは違うのです。
デッキ全体でアドバンテージを稼いでいくヨーリオンデッキを本質的に対策することは難しく、アーキタイプによっては絶対に対抗できない可能性すらあります。相性を改善しようにもわかりやすい表面的な対策が存在しないのであれば、いらだったり絶望して《空を放浪するもの、ヨーリオン》はどうしようもないと思ってしまうのも無理はありません。
《血染めの月》や《倦怠の宝珠》はヨーリオンデッキを対策できるとまやかしの希望を売り込んできますが、4色ヨーリオンのような戦略に対してはカードで迎え撃つのではなく、デッキ構築の段階から構造的・戦略的に対策すべきです。
ヨーリオンデッキの主な強みと弱み
強み
個々のカードの質の高さ、アドバンテージ力。モダンでも強さが際立つ《レンと六番》。除去によって盤面を継続的に支配する力。モダンでもっとも使用者の多いイゼットマークタイドに対して有利。フィニッシュをクリーチャーに頼っているデッキとの消耗戦に強い。
そして忘れてはならないのは、「想起」インカーネーションと《儚い存在》に寄せている4色ヨーリオンは、盤面にクリーチャーを並べるデッキに対して非常に良い相性を誇るということです。それは部族デッキや、マナクリーチャーを出そうとするデッキが当てはまります。この手のデッキに対して《儚い存在》で能力を使い回す動きは絶望的であり、こういったデッキが姿を消した一因でしょう。
《儚い存在》+《孤独》(あるいは《激情》)に脆いにもかかわらず、唯一生き残っているのがハンマータイムとヨーグモスコンボです。ただ、ハンマータイムでさえもメインデッキから《呪文貫き》や《鍛冶屋の技》といった防御呪文を入れるようになってきています。
弱み
弱点に話を移すと、ヨーリオンデッキは極めて受け身な盤面コントロールデッキです。クロックは並べず、カードアドバンテージで勝ちます。盤面のコントロールに意味がないマッチアップでは、サイドボードから反撃し、適切な妨害で戦えるようにしなくてはいけないのはヨーリオン側です。
モダンにはマイナーな戦略が無数にあり、それぞれを単体で見ればマッチアップしなさそうな相手であっても、合計で見ればメタゲームの大きな比重を占めているため、大会のどこかで何度かぶつかることになります。そのどれもが勝とうと思えば勝てるデッキなのがもどかしいところですが、《計算された爆発》デッキ、トロン、ベルチャー、バーン、ヴァラクートのどれに当たることになるのかはわかりません。
少数派のデッキすべてに対してゲームプランを用意しておくのは不可能であり、ヨーリオンデッキはラガバンデッキやハンマータイムに対してわずかな有利を得るために、高い代償を払っているのです。無警戒だったデッキに当たれば、勝てる確率はもれなく低くなります。
実際のところ、Magic Onlineのチャレンジであれ、どんな規模の紙の大会であれ、数少ないトップTierのデッキだけでメタゲーム全体が構成されることは考えづらいです。
事実、先週末のMOCSファイナルでは、大胆かつ的確なメタゲームの読みから《願い》入りのタイタンシフトを持ち込んだプレイヤーが8人中2人いました。4人のプレイヤー(つまり全体の半数)が4色ヨーリオンを持ち込んでいますが、純正のヴァラクートに当たるとほぼ即敗北決定です。ウィリアム・クルーガー/William Kruegerは大胆なメタゲーム読みを見事に的中させ、大会を優勝しました!
メタゲームの端にいるデッキを無視することができないのは、ヨーリオンデッキに限ったことではありません。最大勢力のデッキに多少なりとも有利に戦えるのは心そそられますが、その代償として、不運なペアリングになったら大会全体が台無しになることを受け入れなくてはなりません。その大会のメタゲームで”その他”のカテゴリーに属するデッキが30%近い場合はなおさらです。
この点が、そのほかのトップTierデッキとヨーリオンデッキが明確に違うところです。リビングエンドは私がベストデッキのひとつだと高く評価しているアーキタイプですが、非常に能動的かつ強力なゲームプランを備えており、妨害を挟む力がありながら運に大きく左右されることもなく、やりたいことを相手に押し付けることができます。完璧な引きをしたリビングエンドに太刀打ちできるデッキはありません。
ラガバンデッキ(主にイゼットマークタイドやグリクシスシャドウ)は中速のゲームを得意としますが、生き残った猿を数枚の妨害でバックアップすればそのまま勝ち切る力を持っています。パワフルさと柔軟性の両方を持っているのは、フォーマットのベストデッキに共通しやすい点です。ヨーリオンデッキは後者、つまり柔軟性に欠けています。
ここまで解説してきたヨーリオンデッキの弱みこそ、エレメンタル型よりも4色コントロール型のほうがまともだと思う理由です。エレメンタル型は盤面のコントロールにほぼ全力注入する代わりに、妨害の軸がややズレている《対抗呪文》の採用を見送っています。《儚い存在》とインカーネーションのパッケージは非常に強いものの、用途が限りなく限定的なのです。
繰り返すようですが、《発現する浅瀬》《儚い存在》《激情》のコンボは、今求められている解決策ではありません。《表現の反復》より《発現する浅瀬》のほうがカードアドバンテージ源として優れているという見方もあるようですが、私はその考えには同意できませんね。
不安定なヨーリオンデッキ
デッキ構築段階からくる不安定さに加え、ゲーム中にもヨーリオンデッキは問題を抱えています。ライブラリーの枚数が多ければ、どうしても土地事故に見舞われやすくなるのです。
(ドローすることで)ライブラリーから土地の枚数が減るごとにライブラリー内の土地と呪文の比率が変わりますが、60枚デッキのほうはヨーリオンデッキよりもその変化率が大きくなります。80枚のうちの1枚と、60枚のうちの1枚では意味が違うためです。そのため、わずかな差とはいえ、60枚のほうが自動的にマナフラッド/マナスクリューを起こしづらいのです。その違いは微々たるものですが、無意味ではありません。
それから、ヨーリオンにはカードアドバンテージこそ多くあるものの、ライブラリーの上からドローするものが中心でカードを選ぶ余地があまりありません。ヨーリオンが土地の枚数を切り詰めているのは、この弱点を和らげるためです。
ヨーリオンデッキにとってゲームが思うように運んだとき、あたかも神になったような気分に浸れます。ところが、序盤に《レンと六番》が引けなかったり、除去されてしまったり、マリガンせざるを得なかったり、あるいは将来性のある土地2枚の手札をキープしたら3枚目を引けなかったりすると、一気にどうしようもない状況に陥ります。
ヨーリオン vs. ラガバンの考察
前述したように、ヨーリオンデッキを一番簡単に倒すなら戦略的に有利なデッキを選ぶべきです。しかし、実はもうひとつ勝つ方法があります。それは、上達することです。
ヨーリオンは(少なくともモダンでは)マナカーブが重めのデッキであり、基本的にソーサリースピードの呪文を1ターンに1枚唱えていくしかありません。そのため、プレイヤーの介入余地が小さく、命運をそのときの手札に大きく委ねることになります。
これが特に顕著なのは消耗戦です。リソースを削り合うマッチアップでは、《激情》や《孤独》をピッチで使う動きが弱く、敗北に直結するため絶対に避けなくてはなりません。エレメンタル・インカーネーションを0マナで使うのが現実的でないとすれば、1ターンにとれる選択肢は数少ないでしょう。
半年ほどヨーリオンデッキをリーグやチャレンジで使い倒した結果、このデッキはプレイヤースキルに比例しづらいと気づきました。それがもっともわかりやすいのが、ヨーリオン対ラガバンのマッチアップです。
ヨーリオンは、マナカーブの低いテンポデッキに強いと考えられています。一度通ってしまうとラガバン側が対処しづらい脅威がたくさんありますし、ヨーリオン側はトップデッキから《火炎舌のカヴー》系の脅威を無限に引いてくるため終盤戦に優位があるからです。しかし、現実は必ずしもそんなにうまくいきません。
ラガバン側の脅威は、後手時のヨーリオンのデッキ構築、サイドボーディング、マリガン判断に大きなジレンマを生じさせます。ヨーリオン側が軽い除去を減らしてしまうと、《敏捷なこそ泥、ラガバン》に負けます。反対に軽い除去ばかりになっても、《濁浪の執政》や《表現の反復》を含む遅めの手札にあっさり負けるでしょう。1ターン目に《孤独》をピッチスペルで使えば、1枚のカードに対してデッキ内の呪文を2枚消費するハメになり、(先ほど解説したように)その時点でマナフラッドに近づくことになります。
本来ならヨーリオンは終盤戦を支配するはずです。これはおおむね正しいのですが、絶対ではありません。ラガバンデッキはヨーリオンよりもマナカーブが圧倒的に低く、ドローの操作ができます。
ヨーリオン側がラガバン側よりもカードアドバンテージを稼ぐことは珍しくありませんが、数字上のカードアドバンテージで勝っていてもそれが勝利に直結するとは限りません。最終的にフェッチランドを大量に抱えたり、肝心の切り札があっさりと対処されてしまうこともあるからです。
ラガバンデッキが《表現の反復》を連鎖させ(60枚デッキなら一層実現しやすい)、終盤戦でもカードアドバンテージで勝る展開はヨーリオン側にとって想定外の事故とは言えないでしょう。
常識的に考えれば、ヨーリオンデッキはラガバンデッキに有利がつくはずですし、私も基本的にそうだと思います。ただ、有利にも程度の問題があり、楽に勝てるマッチアップではありません。その相性判断には大切な注意書きがあり、「ラガバン側の乗り手によるところが大きい」のです。
ヨーリオンデッキはラガバンデッキよりもマナコストが重く、安定性が低いものの、デッキパワーは高くなっています。反対にラガバンは1枚1枚のカードパワーこそわずかに劣れど、勝てるだけのツールが不足なく揃っています。マナコストが重いことから、このマッチアップではヨーリオンデッキの技術介入度は比較的低めです。
他方、ラガバンデッキは1~2マナのカードで埋めつくされているため、いくらでもプレイングの最適化を図ることができます。まさにこれが表れていたのが、2月のMOCSにあったグリクシスシャドウを駆るデイヴィッド・イングリス/David Inglisとの一戦です。
彼は素晴らしいプレイヤーであり、3ゲーム目では見事にヨーリオンデッキの鈍さを突き、こちらの手札には必要なものが揃っているのに投了するしかないというところまで追い込まれました。この試合をきっかけに《空を放浪するもの、ヨーリオン》に幻滅し始め、このデッキは本当に強いのかと疑問を持ち出しました。
このように、ラガバン側のデッキ構築は勝率に大きく影響していると私は思います。ヨーリオンは基本的には有利なのですが、圧倒的な差はなく、技術介入度はかなり低いです。ラガバンを相手に戦っていると、いつも運に見放されているなと感じるかもしれませんが、それはドロー操作やキャントリップを巧みに使い、必要とあらば脅威を焦らずに展開していく相手と戦っているからなのです。
また、ヨーリオンは想定外のマッチアップでの弱さを埋め合わせるには、最多使用率のデッキに対して勝率が50%をわずかに超える程度では足らない、ということも気に留めておく必要があるでしょう。
現在は新しい脅威である《帳簿裂き》を入れたグリクシスシャドウを使っています。《夢の巣のルールス》がいなくとも、ヨーリオンデッキ、特にエレメンタル型とマッチングしても嫌な気分はしません。
ヨーリオン側がバランスの悪い手札のときに、そこを的確に《思考囲い》や《湖での水難》で相手を締め上げ、《死の飢えのタイタン、クロクサ》やサイドボードの《戦慄の朗詠者、トーラック》で最終的に勝つという展開にしやすいからです。MOCSの試合でデイヴィッド・イングリスにやられたことを対戦相手に再現できていますね。
ここまでの話は、コミュニティ内で交わされるヨーリオンデッキへの議論と相反しません。ヨーリオンの強さの認識はコミュニティごとに大幅に違います。カジュアルでまったりと遊ぶ場所なら、ヨーリオンは難攻不落の脅威であり、禁止が必要だと感じるでしょう。流行を追っている有名なプレイヤーやMagic Onlineのグラインダーたちと話すと、それとは違う見方をすることが通常です。
もし一般的な紙の大会のレベルがMagic Online よりもやや低いなと感じるのであれば、それこそがヨーリオンが多くの紙の大会を支配していて、Magic Onlineではイゼットマークタイドがいまだに王者である理由でしょう。プレイングに自信があって、特定のデッキを学ぶための時間があるのであれば、4色ヨーリオンに長期的に取り組むのはおすすめしません。手堅いデッキではありますが、もっと上を目指せます。
今のところ、《空を放浪するもの、ヨーリオン》を二度と使わないという誓いを破るつもりはありません。ヨーリオンがベストな選択だというタイミングもあったかもしれませんが、この誓いのおかげで成績は良くなっている印象ですし、これからも良くなっていきそうです。
ただ、私の後ろ髪を引くような変化が4色ヨーリオンに起きています。一部のプレイヤーが、あまりにも重かった《エラダムリーの呼び声》の枠に《ウルヴェンワルド横断》を入れ、同時に《ミシュラのガラクタ》もセットで採用し始めたのです。
さらに、《耐え抜くもの、母聖樹》と《レンと六番》のコンボは特定のマッチアップでキーカードになりますが、《ウルヴェンワルド横断》は《耐え抜くもの、母聖樹》へアクセスしやすくしてくれます。
《ウルヴェンワルド横断》は脳内よりも実践では弱く感じるのが常ですが、《ミシュラのガラクタ》と《表現の反復》、それから大量のフェッチランドの構成は面白そうです。多少なりともライブラリーの枚数を減らせる方法として興味がありますね。
というわけで、《ウルヴェンワルド横断》が最終的にダメだとわかったとしても、《ミシュラのガラクタ》を入れるのは試してみたいですね。
おわりに
とはいえ、競技的に突き詰めていないコミュニティにとって4色ヨーリオンへの印象が私と違うとすれば、モダンにとってプラスになるデッキと言えるのでしょうか?実際のデッキパワーがどうであれ、「相棒」がマジックの大会から永久追放されても私は喜ぶと思います。「相棒」に関する議論は終わりなく続いていくでしょう。紙の大会には紙の大会の事情がありますからね。
ヨーリオンデッキに楽に勝てるデッキはラガバンデッキに苦戦しやすいものばかりであり、新しいデッキの台頭を難しくしているのも確かでしょう(ただ、それはプレイヤーたちが勝利を目指し、競技的なデッキが最適化されていくと避けられないことであり、フォーマットやデッキ特有の問題というよりはマジックがそういうものなのです)。
そういった側面もありますが、4色ヨーリオンが環境のTier0デッキだと憂いているのであれば、私がこう断言しましょう。ヨーリオンデッキは大きな欠陥があるTier1デッキのひとつであり、間違いなくイゼットマークタイドやリビングエンドに遅れをとっている、とね。