はじめに
多くのプレイヤーが長らく待ち望んでいたプロツアー予選が復活しました。プレイヤーズツアー・名古屋2020が最後となっていた大型テーブルトップイベントへ向けて、プレイヤーたちは再び動き出しています。
プロツアーへの最短ルートとされるのは、チャンピオンズカッププレミアム予選(以下、プレミアム予選)を抜けて、その後に開催されるチャンピオンズカップで勝利することです。
このプロツアー予選は一部を除いて、本戦ともにフォーマットはパイオニアで行われます。本稿では毎週末に開催されるプレミアム予選を中心に、テーブルトップでのメタゲームを集計し、参加者たちの思考を読み解いていきます。
それでは早速、直近の大会結果をみていきましょう。
始まりを告げるメタゲーム
7月より始まったプレミアム予選ですが、まずはその週のメタゲームから始めます。郡山ならびに吉祥寺で2つの予選が行われました。
初週
デッキタイプ | 郡山 | 吉祥寺 |
---|---|---|
イゼットフェニックス | 14 | 17 |
ラクドスミッドレンジ | 11 | 12 |
緑単信心 | 7 | 8 |
パルヘリオンシュート | 6 | 2 |
アゾリウスコントロール | 4 | 6 |
ボロスヒロイック | 3 | 1 |
赤単アグロ | 3 | 4 |
人間 | 1 | 4 |
ロータス | 1 | 3 |
青単スピリット | 1 | 3 |
その他 | 19 | 16 |
合計 | 64 | 73 |
こちらがプレミアム予選初週のメタゲームとなります。最上位層はイゼットフェニックスとラクドスミッドレンジの中速デッキであり、続いて緑単信心が追う展開。コントロールやアグロ、コンボなどさまざまアーキタイプが乱立するなかで、アグロを取りこぼさず、さらに干渉手段が豊富で対応力の高い2つのデッキに人気が集まったようです。
開幕間もないこともあり、メタゲームに合わせた防御的なデッキよりも押し付けが強く速度に傾倒したデッキが多く見受けられます。赤単アグロはその筆頭であり、テンポやコンボ、多色デッキを狙った選択。緑単信心やパルヘリオンシュートは対応力は皆無に等しい代わりに、3~4ターン前後にゲームを決めうるコンボデッキとなります。
純粋なコントロール戦略で人気を集めたのはアゾリウスコントロール。ミッドレンジとアグロを狙いましたが、環境序盤ということで構築の適正化、緑単信心の克服と2つの課題を抱えています。それでもなお、《ドミナリアの英雄、テフェリー》は使うに値するカードと判断するプレイヤーが多かったのです。
第2週
デッキタイプ | 三宮 | 挑戦者決定戦 |
---|---|---|
イゼットフェニックス | 13 | 28 |
ラクドスミッドレンジ | 6 | 42 |
緑単信心 | 6 | 20 |
パルヘリオンシュート | 2 | 6 |
アゾリウスコントロール | 5 | 10 |
ボロスヒロイック | 0 | 8 |
赤単アグロ | 1 | 12 |
人間 | 4 | 6 |
ロータス | 2 | 12 |
青単スピリット | 5 | 10 |
その他 | 4 | 62 |
合計 | 48 | 210 |
基本的にはプレミアム予選の結果を集計しますが、第2週は関東近郊でプレミアム予選が開催されていなかったため、第8期パイオニア神挑戦者決定戦も取り扱っています。
前週に比べて大幅に増加していたのはラクドスミッドレンジ。イゼットを抑えてトップへ躍り出ています。得意とするアグロ戦略が多く、逆に苦手とする緑単信心が少なかったことを受けての増加です。クロックの遅さは気になりますが、対応力の高さは群を抜いており、決勝ラウンドを含めて長丁場を戦い抜くだけの安定性とデッキパワーを求めた結果といえます。
さらに苦手としていた緑単信心に対しても改善が見られます。神挑戦者決定戦で話題になった《絶望招来》はマナコストこそ重いものの、信心側のリソースを根こそぎ刈り取ってしまいます。たとえ《ニッサの誓い》や《ラノワールのエルフ》などで誤魔化したとしても、2枚目からは逃れられません。いくら復旧力の高い緑単信心といえども2ターンで6枚のパーマネントを失っては立て直すのは困難を極めます。
加えて、対象のパーマネントがない場合にはライフを攻めつつカードへと繋がるのも見逃せません。《絶望招来》は課題であったクロックの遅さを克服し、ゲームを決める1枚となったのです。
また、ロータスや青単スピリットも増加しており、メタゲームの変化を感じる週末となりました。アーキタイプの多いパイオニアにおいてすべてを読み切ることは難しいものの、上位3つのアーキタイプは概ね固定されています。使用者の多い層に対して相性の良いデッキを持ち込むデッキ勝ちを狙っていたのです。
まとめ
第2週終了時点でのメタゲームは、以下の通りです。
Tier | デッキタイプ |
---|---|
Tier1 | イゼットフェニックス 緑単信心 ラクドスミッドレンジ(増) |
Tier2 | 赤単アグロ アゾリウスコントロール ボロスヒロイック 青単スピリット(増) ロータス(増) |
Tier3 | パルヘリオンシュート 人間 サクリファイスなど |
元々多かったラクドスミッドレンジがさらに増加したことで、アグロは低迷。今後はそれに強いコントロールやコンボにチャンスへ巡ってきます。青単スピリットは緑単信心に加えてロータスが増えることを読んでおり、メタゲームを一歩先取りした選択となります。
続いては実際の大会結果をみていきましょう。
大会結果
チャンピオンズカッププレミアム予選 in 郡山
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
優勝 | コバヤシ リョウヘイ | イゼットフェニックス |
準優勝 | ヒロカワ リョウジ | ラクドスミッドレンジ |
トップ4 | ミヤタ ヒロキ | 緑単信心 |
トップ4 | ジュウモンジ リョウ | ラクドスミッドレンジ |
トップ8 | コバヤシ タツウミ | イゼットフェニックス |
トップ8 | ヤマグチ ミナミ | イゼットフェニックス |
トップ8 | ヤナセ カナメ | イゼットフェニックス |
トップ8 | ワタナベ キヨタカ | 《魂剝ぎ》コンボ |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
参加者64名で開催されたプレミアム予選(郡山)は日本選手権で二度の優勝経験を持つ小林 遼平選手が制しています。規定人数がわずかに足らず1名抜けの厳しい戦いとなりましたが、並みいる強豪を破り、見事チャンピオンズカップファイナルの権利を手にした最初のプレイヤーとなっています。
イゼットフェニックス
イゼットフェニックスは墓地を武器にしたミッドレンジデッキ。軽量火力でボードコントロールしていき、その過程やルーティングなどで肥えた墓地を活用し、《弧光のフェニックス》や「探査」呪文を踏み倒します。
新しい2マナ域として話題になっている《帳簿裂き》の姿はなく、《氷の中の存在》に なっています。撃ち漏らした軽量クリーチャーや信心戦略に効果があり、不利なボードからも逆転できます。
パイオニアは似非パワー9である《宝船の巡航》が4枚使える構築フォーマットであり、墓地活用を戦略の一部に組み込んだこのデッキとは相性抜群。《パズルの欠片》と組み合わせれば、「探査」コストを稼ぎつつ、溢れるほどのカードが手に入ります。
追加ターンをもたらす《時間への侵入》も採用されています。3マナの《時間のねじれ》であり、《感電の反復》と組み合わせればわずか5マナで追加2ターンを確定してくれるイゼットターンもびっくりな仕様です。
チャンピオンズカッププレミアム予選 in 吉祥寺
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
権利獲得 | オカ ヨウスケ | イゼットフェニックス |
権利獲得 | トミタ リュウタロウ | 緑単信心 |
トップ4 | ハシモト サトシ | ラクドスミッドレンジ |
トップ4 | カトウ ケンスケ | 緑単信心 |
トップ8 | イシワタ コウイチ | ロータスコンボ |
トップ8 | ニワ ケイタ | ラクドスミッドレンジ |
トップ8 | イイツカ ユウキ | 青単スピリット |
トップ8 | コバヤシ アキラ | エスパーコントロール |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
参加者73名で開催されたプレミアム予選(吉祥寺)は緑単信心とイゼットフェニックスが突破しています。前日に比べて彩り豊かになったトップ8には、コントロールやロータスなどミッドレンジに強いデッキが残っています。
緑単信心
マナクリーチャーからシンボルの濃いパーマネントを展開していき、「信心」を稼ぎます。集まった「信心」を《ニクスの祭殿、ニクソス》で膨大なマナへと変換し、《収穫祭の襲撃》へと繋げてより強固なボードを築き上げます。《ビヒモスを招く者、キオーラ》と《大いなる創造者、カーン》を使った無限マナパッケージなど攻め手が多彩なアーキタイプです。
似た効果である《集合した中隊》の相性をとってデカカンパニーとでも呼ぶべき《収穫祭の襲撃》。6マナで最大10マナ分の恩恵が受けられる費用対効果に加えて、コンボパーツを揃えたり、タイプの違う脅威を並べたりと状況に合わせて変幻自在に使えます。
また、《茨の騎兵》を着地させようものなら、マナを伸ばしつつ追加の《収穫祭の襲撃》を墓地へ送り込めるかもしれません。「フラッシュバック」があるため消耗戦に強く、ボードの立て直しにも貢献します。
チャンピオンズカッププレミアム予選 in 三宮
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
優勝 | イソガミ カズマ | パルヘリオンシュート |
準優勝 | サカタ ナオヤ | イゼットフェニックス |
トップ4 | サカモト マサアキ | 緑単信心 |
トップ4 | ナカジマ チカラ | 青単スピリット |
トップ8 | ホンダ アツオ | イゼットフェニックス |
トップ8 | タニグチ ヒロキ | アゾリウスコントロール |
トップ8 | ヒガシダ ナオキ | アゾリウスコントロール |
トップ8 | ムラカミ ナイト | ラクドスサクリファイス |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
参加者48名で開催されたプレミアム予選(三宮)はパルヘリオンシュートを使用したイソガミ カズマ選手が優勝しました。アゾリウスコントロールや青単スピリットなどコントロール色の強いアーキタイプが上位に残っており、特にアゾリウスコントロールはミッドレンジ帯の増加を狙い撃ったかたちとなりました。
パルヘリオンシュート
《縫い師への供給者》などで《パルヘリオンⅡ》を墓地へと落として《大牙勢団の総長、脂牙》でリアニメイトし、そのまま攻撃へと向かうダイナミックなコンボデッキがパルヘリオンシュートです。デッキの構造上《大いなる創造者、カーン》に弱く、緑単信心を苦手としています。今回は赤の入ったマルドゥカラーですが、ほかにもエスパーやアブザンなどバリエーション豊かに存在する自由度の高いデッキです。
キーカードがクリーチャーであるため比較的コンボを妨害しやすく、相手のマナが立っている場合は《思考囲い》なしでは見切り発進しにくいデッキでした。ドロー呪文が乏しいカラーであり、ひとたび《大牙勢団の総長、脂牙》を失えば再びコンボパーツを集めるのも至難の業だったためです。
ポイントは《大牙勢団の総長、脂牙》を守るのではなく、再利用するという着眼点。一度除去されたとしても《復讐に燃えた血王、ソリン》や《未練残り》があればすぐさま戦場へと舞い戻ります。《縫い師への供給者》との相性の良さも見逃せません。
第8期パイオニア神挑戦者決定戦
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
優勝 | タカハシ タロウ | ラクドスミッドレンジ |
準優勝 | オガサワラ トモアキ | 緑単信心 |
トップ4 | オイカワ タカアキ | ラクドスミッドレンジ |
トップ4 | コ・イ | アゾリウスコントロール |
トップ8 | オオタニ ヨウスケ | 緑単信心 |
トップ8 | イワモト ユウタ | ラクドスミッドレンジ |
トップ8 | ナカムラ コウキ | ラクドスサクリファイス |
トップ8 | マツモト タクヤ | ジャンドサクリファイス |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
参加者210名で開催された第8期パイオニア神挑戦者決定戦を制したのは現リミテッド神である高橋 太郎選手。決勝ラウンドでは緑単信心×2、アゾリウスコントロールと不利なマッチを覆しての優勝となります。
ラクドスミッドレンジ
1枚で何役もこなすクリーチャーと手札破壊、クリーチャー除去にプレインズウォーカーとミッドレンジの王道をいくラクドスカラーのデッキ。軽量除去が多いことから青単スピリットやボロスヒロイックに強く、クリアになったボードを骨太なクリーチャーで制圧します。この手のデッキにありがちだった引きムラも《鏡割りの寓話》の加入により改善されています。
スタンダードでも時たま見かける《墓地の侵入者》はラクドスミッドレンジのエースクリーチャー。《砕骨の巨人》で対処されないタフネスが嬉しく、仮に除去されようとも「護法」により追加カードを要求します。また、《弧光のフェニックス》に対するナチュラルメタカードであり、舞うことはおろか《宝船の巡航》すらも許しません。
おわりに
今回は初週から第2週までに開催されたプレミアム予選を中心にテーブルトップの大会を振り返りました。パイオニアにはイゼットフェニックスとラクドスミッドレンジを中心にさまざまなアーキタイプが存在しています。プレミアム予選を勝ち抜くには毎週変化するメタゲームの流れを読み、最適なデッキへとたどりつきたいところ。本稿が予選に参加される方の助けとなれば幸いです。
次回は先週末に実施された名古屋と静岡でのプレミアム予選のメタゲームをご紹介したいと思います。
本稿ではデッキの詳細解説は行わないため、それにつきましては以下の記事をご覧ください。トッププレイヤー視点での環境解説がございます。
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