はじめに
みなさんこんにちは、晴れる屋メディアチーム所属・認定レベル1ジャッジの島田と申します。
「ジャッジと一緒にルールを学ぼう!」では、ゲームでよく使われているカードやジャッジをしていてよく聞かれるルール”のみ”に焦点を絞り、回ごとのテーマに合わせて例を挙げ・極力わかりやすく説明していきたいと思います。
この記事が少しでもみなさまのルール理解に繋がり、ひいてはマジックの楽しさを増すことに繋がれば幸いです。
※2022/9/8時点のマジック総合ルールに基づいています。
※文章の都合上、表現を簡略化・省略している場合があります。ご了承ください。
※本記事は複数のジャッジが監修していますが、誤りや疑問点を見つけましたらお問い合わせページにてご指摘ください。
本文…の前に
前回記事の公開後、編集担当の方とテーマの話をしました。
編集「次回のテーマは何にしましょう?アンケートを参考にすると『誘発型能力』はどうでしょうか」
島田「それでいきましょう!」
と安請け合いをして総合ルール「603. 誘発型能力の扱い」を確認すると…あれ、思ったより長い…?
「状況起因処理」のルール文章が約3,800字なので、2倍以上の長さ。これを1つの記事ですべて説明するとおそらく20,000字越え、これ以上読む人のハードルを上げるのはマズい!
というわけで、今回は前後編でお送りいたします。また、過去の回よりも省略が多いです。「知りたいルールが載ってない!」「もっと深堀りしたいのに!」という方には大変恐縮ですが、後編をお待ちいただければ幸いです。
「誘発型能力」とは?
総合ルールより引用
113.3c 誘発型能力は誘発条件と効果を持ち、「……とき/when」「……たび/whenever」「……時/at」を含む(通常はそれらから始まる)「[誘発条件], [効果]」という書式で書かれている。誘発イベントが発生するたび、その次にいずれかのプレイヤーが優先権を得る時にその能力はスタックに積まれ、打ち消されるか解決されるかその他の方法でスタックから離れるまでスタックに残る。rule 603〔誘発型能力の扱い〕参照。
改めまして、今回のテーマは「誘発型能力」です。
誘発型能力とはMTGに4種類ある能力の1つで、「誘発する条件が満たされたら」「自動で効果が起こる」という形式の能力です。
代表例を挙げます。
「忍耐が戦場に出たとき、プレイヤー最大1人を対象とする。そのプレイヤーは自分の墓地からすべてのカードを自分のライブラリーの一番下に無作為の順番で置く。」
「プレイヤー1人が各ターンの自分の2つ目の呪文を唱えるたび、帳簿裂きは謀議する。」
「あなたのアップキープの開始時に、あなたのライブラリーの一番上のカードを公開し、あなたの手札に加える。あなたはそれの点数で見たマナ・コストに等しい点数のライフを失う。」
どれも前半が誘発する条件、後半が効果を指しています。また、追加の要素(「毎ターン1回しか誘発しない」「打ち消されない」など)が書かれている場合もあります。
誘発型能力は「誘発するとき」と「スタックに積まれるとき」それぞれに特徴があるので、順番に見ていきましょう。わかりづらそうな部分では例を挙げます。
誘発するときの特徴
・条件が満たされたら自動で誘発する。”このときはまだスタックに積まれない。”
例:《催眠の宝珠》がアンタップステップに誘発しても、アンタップステップにはタイミングがないのでまだスタックに積まれない。アップキープになって初めてスタックに積まれる。
・誘発したら、誘発元とは別で存在する。”後から誘発元を除去したり手札に戻しても、すでに誘発した能力は消えない。”
例:《再利用の賢者》が戦場に出て、アーティファクトを破壊する能力がスタックに積まれた。その状態で《再利用の賢者》を《邪悪な熱気》で除去しても、能力は消えないのでアーティファクトは破壊される。
・1回条件が満たされるごとに1回誘発する。
例:「あなたが攻撃するたび」の場合、攻撃は同時に行われるので1体で攻撃しても3体で攻撃しても1回だけ誘発する。一方で「クリーチャー1体が死亡するたび」の場合、《至高の評決》で4体のクリーチャーがまとめて死亡したら能力は4回誘発する。
・「その能力は追加でもう1回誘発する」のような効果は、”実際に誘発する前に”回数を計算して、その回数誘発する。
例:《パンハモニコン》が2枚あるときに能力が1回誘発する場合、「1回誘発しようとする」→「それぞれの《パンハモニコン》が+1回する」→「最終的に合計3回誘発する」となる。
・「○○になるたび」が条件の能力は、○○ではない状態から○○状態になったときに初めて誘発する。
例:「タップ状態になるたび」の場合、アンタップ状態からタップ状態になったときだけ誘発する。タップ状態のものをタップ状態にしたり、最初からタップ状態で戦場に出たときには誘発しない。
・軽減効果や置換効果で条件が発生しなかったら能力は誘発しない。
例:「ダメージを与えるたび」の場合、ダメージをすべて軽減されたら能力は誘発しない。
・「これは毎ターン1回しか行えない」という条件がついた能力は、そのターンにその処理をまだしていないときだけ誘発する。
例:《ディープ・ノームの地形術師》で1度土地を出したら、そのターンはもう誘発しない。土地を出さなかったら、そのターン次に条件を満たすとまた誘発する。
・「起動」や「唱える」とは別物なので、《真髄の針》や「刹那」では止まらない。
・「アップキープの開始時に」「終了ステップの開始時に」などタイミングで誘発する能力は、そのタイミングが来たときにまとめて誘発する。
・裏向きになっているなどで、すべてのプレイヤーに見える状態ではない物の誘発型能力は条件が満たされても誘発しない。
スタックに積まれるときの特徴
こちらも文章だけだとわかりづらい部分があるので、途中で例を挙げます。
・誰かが優先権を得たら、先に状況起因処理をチェックし、次に誘発型能力のコントローラーはそれをスタックに積む。
・(普通の)誘発型能力のコントローラーは、誘発したときに誘発元をコントロールしていたプレイヤー。
・誘発型能力がモードを持つ場合、コントローラーはスタックに積むときにモードを決める。「対象にできるクリーチャーがいない」など、不適正なモードは選べない。選べるモードがなかったら、その能力はスタックから取り除かれる。
・誘発型能力が対象を取る場合、スタックに積むときに対象を選ぶ。適正な対象がなかったら、その能力はスタックから取り除かれる。
・誘発型能力が複数の対象にダメージやカウンターなどを割り振る場合、スタックに積むときに割り振りを決める。
・複数の誘発型能力を同時にスタックに積む場合、以下のように順番を決める。
1. アクティブプレイヤー(自分のターンであるプレイヤー。以下「AP」と呼びます)は、自分がコントロールしている誘発した能力を好きな順番でスタックに積む。
2. ノンアクティブプレイヤー(自分のターンではないプレイヤー。以下「NAP」と呼びます)は、自分がコントロールしている誘発した能力を好きな順番でスタックに積む。
3. 改めて状況起因処理をチェックして、処理する。
4. ここまでの工程で新しく能力が誘発したら、それをスタックに積む。
5. また状況起因処理のチェックと新しい能力の誘発を繰り返し、全部処理したら該当するプレイヤーが優先権を得る。
※《厳しい試験官》だけは1・2のタイミングではなく、2をやったあとに誘発するという特別なルールがあります。このカードを使う場合は覚えておくといいです。
積み方の具体例
Aさんはクリーチャーをコントロールしておらず、墓地に《悲嘆》と《意思切る者》がいる。
Bさんは《血の芸術家》と《若き狼》をコントロールしていて、墓地に《ゲラルフの伝書使》と2体の《スランの医師、ヨーグモス》がいる。
Aさんのターン、Aさんは《死せる生》を唱えて解決した。
1. 《血の芸術家》と《若き狼》が生け贄に捧げられ、《悲嘆》と《意思切る者》と《ゲラルフの伝書使》と2体の《スランの医師、ヨーグモス》が戦場に出てきてそれぞれの能力が誘発する。
2. まず状況起因処理をチェックし、《スランの医師、ヨーグモス》を片方墓地に置く。
3. Aさんから先に、《悲嘆》と《意思切る者》の能力をAさんの好きな順番でスタックに積む。
4. 次にBさんは《血の芸術家》(2回分)と《若き狼》と《ゲラルフの伝書使》の能力をBさんの好きな順番でスタックに積む。
5. ほかに処理することがなくなったので、Aさんが優先権を得る。能力が解決される順番は、Bさんが一番上に積んだものから。
実際のゲームを想像すると、わかりやすくなったでしょうか。総合ルールには「それらの能力は2段階の工程を経てスタックに置かれる。」と書いてあるのですが、全然2段階じゃないような…
ここまでが誘発型能力の基本的な特徴です。
多すぎて覚えられないよ!という方は、とりあえず
「誘発しても即スタックに積まれるわけではない」
「一度誘発した能力は、誘発元を除去しても取り消せない」
「お互いの能力が同時に誘発したら、基本的にターンではない人の能力が先に解決される」
「誘発した能力の対象を選ぶのはスタックに積まれたとき」
あたりを先に覚えればゲームに生かしやすいかと思います。
特殊な誘発型能力たち
誘発型能力の中には、ここまで説明したルールになかった特徴を持つものがあります。種類が多いので、前編では「『場合』の誘発型能力」と「行動を選べる誘発型能力」を紹介します。
「場合」の誘発型能力
「場合」の誘発型能力とは、例えば以下のような能力です。
「あなたの終了ステップの開始時に、あなたが腐乱を持つクリーチャーをコントロールしていない場合、腐乱を持つ黒の2/2のゾンビ・クリーチャー・トークン1体を生成する。」
「あなたのターンの戦闘の開始時に、このターンにあなたがインスタントかソーサリーである呪文を3つ以上唱えていた場合、 あなたの墓地から弧光のフェニックスを戦場に戻す。」
途中にある緑色の「~~場合」という部分が英語だと「if~~」と書かれているので、このルールは「if節ルール」とも呼ばれます。
「場合」の誘発型能力の特徴は、誘発するときに加えて解決するときも条件をチェックすることです。
たとえば《ネファリアのグール呼び、ジャダー》の場合、まず終了ステップの開始時に「腐乱」持ちがいないかをチェックし、いたらそもそも誘発しません。さらに、能力が解決するときにも再度「腐乱」持ちがいないかをチェックします。もしこのタイミングで「腐乱」持ちがいたら、新しいゾンビは出ません。
2回チェックするので、普通の誘発型能力より厳しく感じますね。
行動を選べる誘発型能力
「行動を選べる」とは、たとえば以下のような能力です。
「茨の騎兵が死亡したとき、あなたの墓地から他のカード1枚を対象とする。あなたは茨の騎兵を追放してもよい。そうしたなら、対象としたカードをあなたのライブラリーの一番上に置く。」
「あなたがクリーチャーでない呪文を唱えるたび、あなたはカード1枚を引いてもよい。そうしたなら、カード1枚を捨てる。」
途中に「~~してもよい」のように行動を選べる部分があり、選んだ結果によってそれ以降の効果が変わります。
こういった誘発型能力は、条件を満たしたらまず誘発してスタックに積まれます。その時点ではまだ「する/しない」は選びません。
実際に能力が解決するときに、初めて「する/しない」を選びます。その後、どちらを選んだかによって効果が決まります。
上記2つの特徴を併せもった有名なカードとしては《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》が挙げられます。
「山が1つあなたのコントロール下で戦場に出るたび、あなたが他に少なくとも5つ以上の山をコントロールしている場合、クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。あなたは『溶鉄の尖峰、ヴァラクートはそれに3点のダメージを与える。』を選んでもよい。」
こうして見ると特殊な要素てんこ盛りですね。ルールを頻繁に聞かれるのも納得です。
問題
ここまでの説明を踏まえて、問題です。
問1はパウパー、問2はレガシーでよく聞かれる質問です。ルールは共通なので一度覚えればどのフォーマットでも安心!
問題1
あなたは《古術師》をコントロールしていて、「反復」で《儚い存在》を追放している。
あなたのアップキープに「反復」の《儚い存在》を唱えて、《古術師》を対象にした。戦場に戻った《古術師》の誘発型能力で《儚い存在》を手札に戻せるか?
問題2
あなたの手札には《はらわた撃ち》があり、相手は《秘密を掘り下げる者》をコントロールしている。
相手のアップキープに《秘密を掘り下げる者》の変身する能力が誘発した。あなたは、相手がライブラリーの一番上のインスタントやソーサリーを公開してから、変身する前に《はらわた撃ち》で《秘密を掘り下げる者》を除去したいと思っている。それは可能か?
おわりに
第3回「誘発型能力(前編)」はいかがでしたでしょうか。次回、もしかしたら「誘発型能力(後編)」の前に別のルール記事が挟まるかもしれません。気長にお待ちください。
「長い」「短い」「次はいつ?」「こんな状況になったらどうなるの?」など、ご意見・ご要望がありましたらぜひお問い合わせページや晴れる屋メディアのTwitterまでご連絡ください。
また晴れる屋Discordのルール質問チャンネルでは、いつでもみなさまからのルール質問をお待ちしております。
それでは、次回の記事でお会いしましょう。