Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2022/9/30)
最新のトレンドを追え
数週間前、『団結のドミナリア』が発売されました。モダン視点でみれば、特別強いセットとは言えませんが、モダンで通用するカードがいくつか収録されています。
もっとも、こうなることは予想できていました。『モダンホライゾン2』によって新規カードの参入障壁がとても高くなってしまったからです。
ただ、影響力のないカードばかりというわけではありません。ここ数週間の結果をみるに、すでにいくつかのトレンドが観測されています。今日はモダンに起きた最新の変化を見ていきましょう!
部族
まずは人気部族のロードトリオから。部族デッキというのは着想・構築しやすく、マジックの歴史とともに存在してきました。なかでも《ランドヴェルトの大群率い》は新カードとともに環境一発目のモダンチャレンジを優勝しています!
ゴブリン
《ランドヴェルトの大群率い》は既存の《人目を引く詮索者》コンボデッキに溶け込みました。横並びのビートダウンによる勝ち筋を追加するとともに、除去耐性をもたらし、そして何よりもデッキのマナカーブ低下に貢献しています。
PlayToNguyenはゴブリンで目覚ましい結果を残し続けていますが、実際に自分で回してみると、たしかにデッキは新戦力で改善しているものの、いくつかの根底的な問題は解決されていないとすぐに直感しました。
ゴブリンは強い1マナ域が多くなく、マナカーブが比較的高くなっています。でありながら、マナフラッドへの耐性はあまりありません。部族シナジーを発生させるにはクリーチャーをたくさん並べなくてはなりませんし、数少ない肝となるクリーチャーを処理されてしまうと、大量の土地と《モグの戦争司令官》が並ぶだけの結果に陥りかねません。そうなればどんな相手も倒せないでしょう。
また、カードアドバンテージ源が豊富にあるデッキではありますが、手札に増やせるのはゴブリンだけ。マナスクリューのときにはあまり役立ちません。こういった事情から、土地23枚を採用しながらも《霊気の薬瓶》を4枚入れるという奇妙な構成になっています。
きっかり必要な分の土地だけを引き、1ターン目の《霊気の薬瓶》が場に残り、すべての要素がそろえばゴブリンは凄まじいデッキになります。相手のライフを攻めながらも、コンボフィニッシュが狙えるのです。
その反面、展開につまづき、劣勢に陥りやすいデッキでもあります。不利な状況から《人目を引く詮索者》コンボで勝利をかすめ取ることもあるでしょうが、基本的にゴブリンは逆転しづらいデッキです。
マーフォーク/エルフ
マーフォークとエルフは強力なロードを手に入れたにもかかわらず、結果がついてきません。ただ、これは想定内のことです。『モダンホライゾン2』で《邪悪な熱気》《虹色の終焉》という最高の1マナ除去が登場し、軽量クリーチャーの除去がかつてなく楽になっているからです。
ご存知のとおり、《激情》や《孤独》もあり、《儚い存在》とのコンボはクリーチャーを複数並べる戦略は使いたくないと思わせるほど強力なものです。
それだけでなく、《敏捷なこそ泥、ラガバン》が環境にいるため、どのフェアデッキも後手1ターン目に対処できるカードを多く採用しようという動機があります。さらには《レンと六番》も存在し、2体のクリーチャーを焼きながらも盤面に残ってしまいます!
2マナのロードが盤面に生き残り、その横に部族クリーチャーが並んで初めて動き出すデッキにとって、今のモダンはあまりにもクリーチャーを生存させづらい環境なのです。
盤面で押していれば《ヴォーデイリアの呪詛抑え》はさらに優勢にしてくれる優秀なカードですが、そもそも今のモダン環境でどうやって盤面をとるのでしょうか?
マーフォークがピッチカウンターを大量に入れて攻勢をバックアップしたり、エルフが理想的なドローでなおかつ妨害されずにゴブリンのようなコンボフィニッシュを決めたりできる可能性はあるにしても、部族デッキが上位のTierまで登り詰めるには、今直面している問題を部分的にでも解決できる強力な1マナ域が必要でしょう。
ヨーグモスデッキの《若き狼》のようなカードがあると良いかもしれません。シナジーのあるコンボパーツでありながら、《敏捷なこそ泥、ラガバン》や《邪悪な熱気》をためらわせる役割がありますよね。
どんなカードが理想的なのか確信はありませんが、同じ部族トークンを連れてくる1マナ1/1のクリーチャーなどでしょうか?部族デッキは興味をひく存在であり続けるでしょうが、Tier2のゴブリンは別としても、競技性や実用性の面では難がある、というのが現時点での私見です。
スケープシフト
この数週間、似た構成のティムールスケープシフトが一定の人気を集めています。《白日の下に》型スケープシフトは長らくメタゲームの脇役でしたが、ここにきて原点に回帰し、《風景の変容》を全力でドローで引き込もうとする純正のスケープシフトへと変化しています。
特にティムールカラーのスケープシフトは4色ヨーリオンを狩ろうとしている印象があり、《白日の下に》が《時を解す者、テフェリー》でロックされないように《風景の変容》を引きにいこうとするのは理にかなっていますね。
《風景の変容》がなくとも勝ち筋を担保するものとして《イリーシア木立のドライアド》が投入されていますが、最後にティムールスケープシフトの姿を見たときからの大きな変化は《レンと六番》と《表現の反復》であり、絶対に土地が詰まらないように工夫してあります。
《差し戻し》もしばらく見ないカードでしたが、このデッキはしっかりと土地を伸ばしていき《風景の変容》や《イリーシア木立のドライアド》を機能させることに命運がかかっていますから、このデッキならおそらく最高の妨害呪文でしょう。《差し戻し》は「続唱」デッキに対して実質的な打ち消しとして機能するのも評価ポイントです。デッキの本質であるコンボからかけ離れることなく、きっちりと妨害できる良い選択でしょう。
このデッキが再浮上したのは『団結のドミナリア』発売の数週間前のことでした。新しいカードがなくとも、何ら問題なく機能するデッキだったのです。発売後は《衝動》をピン挿しするリストもありますが、遠くない日に抜けていくでしょう。
Will Kreugerが大胆かつ的確なメタゲーム読みでMOCSを優勝してから赤緑タイタンシフトの使用者がわずかに出てくるようになりましたが、ティムールスケープシフトはおおむねそのアップデート版として細々とではあるものの、広大なメタゲームの一部として根付いていくのではないかと予想しています。
4色ヨーリオンを狩ろうともくろむデッキの多くは、イゼットマークタイドに対して一貫したゲームプランを用意できていない現状ですが、このカラーリングなら《夏の帳》を絡めつつ《風景の変容》を一発通すだけなのでそれなら充分可能でしょう。もっとも、《血染めの月》の悩みは尽きませんけどね。
ラクドスエレメンタル
ラクドスエレメンタルもまた、昨今のモダンチャレンジで立場を確立しているアーキタイプのひとつです。「不死」系のカードと《悲嘆》を1ターン目に組み合わせる動きは、《悲嘆》と《儚い存在》のそれには及びません。《不死なる悪意》なら4/3の《悲嘆》を戦場に残して盤面を有利にできますが、カードアドバンテージの面で言えば等価交換ですからね。《激情》は1ターン目に出しても微妙なことが多いですが、逆転の一手としては頼りになるでしょう。
とはいえ、ミッドレンジにとってこれほどテンポアドバンテージを得る動きができるのは非常にありがたいことです。私自身、このデッキの酸いも甘いも知っているわけでないですが、「想起」エレメンタルによるパワープレイ、《血染めの月》、手札破壊とが見事に混ざり合い、柔軟に機能するミッドレンジだという印象です。
また、《ダウスィーの虚空歩き》はリビングエンドに劇的に刺さります。《ダウスィーの虚空歩き》の召喚酔いが解け、絶対に攻撃しないようにすれば、除去や《死せる生》に対応して生け贄に捧げられる状態を作り出せます。
生け贄に捧げて墓地に送れば、《死せる生》の効果で戦場に戻り、《死せる生》が解決されるときにそれを虚空カウンターを載せた状態で追放できます。すると、ラクドスエレメンタル側は盤面と墓地を再び入れ替えながらも、《ダウスィーの虚空歩き》を戦場に維持できるのです。
この相互作用は見たこともないと気づきづらいですが、リビングエンドと対戦するときは《ダウスィーの虚空歩き》でアタックしないようにしましょう。この拘束から相手はなかなか抜け出せないはずです。
《力線の束縛》
『団結のドミナリア』のなかからモダン的にもっとも重要な新カードは《力線の束縛》でしょう。ですが、このカードについて話す前に、イゼットマークタイドについて少し話しておかなくてはなりませんね。
ここしばらく使用率がトップ(かつおそらくベストな)デッキであったイゼットマークタイドは、環境における戦い方をおおいに規定してきました。
《敏捷なこそ泥、ラガバン》に1~2回殴られてしまうと、それ以降に除去できたとしても、あっという間に脱出不可能なテンポのブラックホールに飲み込まれます(相手に先に動かれてしまう後手だとなおさらです)。除去1枚で圧倒的劣勢になるためクリーチャーによるブロックは選択肢に入りません。《レンと六番》のような2マナの解答は《対抗呪文》や《呪文貫き》でさばかれてしまうことがほとんどです。
後手時に《敏捷なこそ泥、ラガバン》で敗北が確定してしまう機会をできるだけ少なくするには、この海賊の猿をさばく解答をたっぷりと採用しなくてはならず、多くのフェアデッキにとってそれは1マナの除去の枚数を増やすことを意味します。
なおかつ、「疾駆」があるため除去はインスタントスピードのものがベストです。対象が限定的なソーサリー除去はゲームが進んでも手札で溜まってしまうことがあり、手練れのイゼットマークタイドのプレイヤーに対しては《虹色の終焉》が実際に腐りがちです。
そして、イゼットマークタイドには重要な脅威がもうひとつあります。それがほかならぬ《濁浪の執政》です。《濁浪の執政》の強さの大部分は、テキスト欄にこそ書かれていませんが、多くの除去に当たらない実質的な呪禁にあります。この猿とこのドラゴンのどちらも納得できる形でさばける除去は存在せず、それこそがイゼットマークタイドの脅威の強みなのです。まぁ、みなさん嫌というほど知っていると思いますけど。
単体除去は手札にダブつくと急速に価値が下がりますし、ゲーム序盤は《敏捷なこそ泥、ラガバン》の除去を優先して見つけなくてはならないため、マナあるいはカードの損失なく《濁浪の執政》を除去することは白ですらほぼ不可能でした。
《孤独》で《濁浪の執政》を除去しようとしても、非効率を覚悟で5マナ払うか(しかも《対抗呪文》で痛い目を見るリスクあり)、「想起」で2枚消費しカードアドバンテージ面で不利に立ちながら、後続の《表現の反復》で負けるリスクを背負うかになり、素だしでも「想起」でも裏目があります。
《時を解す者、テフェリー》は《濁浪の執政》への解答になりますが、先ほど言ったようにソーサリースピードの除去、かつ《対抗呪文》よりもマナコストが重いカードであり、理想的な解答ではありません。
ここでようやく《力線の束縛》の出番です!
《敏捷なこそ泥、ラガバン》と《濁浪の執政》の除去問題を根本的に解決はできないものの、《力線の束縛》は解決に向けた大きな一歩になります。
後手1ターン目に《敏捷なこそ泥、ラガバン》は除去できませんが、2~3ターン目には1マナの瞬速でプレイでき、ダブルアクションを取れれば相手のペースに追いつくことができるため、《敏捷なこそ泥、ラガバン》に1~2回攻撃されてもゲームエンドにはならなくなります。
1マナの瞬速除去から《濁浪の執政》を守るのは難しく、タイミングを見極めてこのドラゴンを展開・防衛することがゲームの焦点になってくるでしょう。
もちろん、環境に存在するのはイゼットマークタイドだけではありません!それ以外のマッチアップでも、《力線の束縛》は非常に手堅く、効率的な除去呪文です。土地以外のパーマネントを対象に取れるため、実質的に触れないのは《ウルザの物語》と《戦慄の朗詠者、トーラック》のみでしょう。
《忘却の輪》系除去なので《耐え抜くもの、母聖樹》にアクセスできるデッキに脆いのは無視できないデメリットで、《力線の束縛》はアミュレットタイタンや《レンと六番》に痛い目にあわされるでしょう。そういったケースを除けば、「版図」条件を達成できるデッキにとって《力線の束縛》は最高の除去になるはずです。
《不屈の独創力》コンボ
《不屈の独創力》コンボにとって《力線の束縛》は大歓迎すべき1枚です。これまで《濁浪の執政》やカウンターの置かれた《帳簿裂き》を除去できるのは《残虐の執政官》ぐらいなものでした。そして、偶然にもこのアーキタイプは「版図」を達成できる構成だったのです。
《仕組まれた爆薬》や《血染めの月》に対する保険が増えるのも悪くありません。また、幅広く対応できる除去はコンボコントロールデッキにとって喜ばしいものでしょう。結果を出してるリストのなかには《力線の束縛》を入れてない構成もありますけどね!
少なくとも、《力線の束縛》は《時を解す者、テフェリー》に加えて白を足す大きな理由になります。《不屈の独創力》コンボで《時を解す者、テフェリー》を足すにあたり、マナベースへ負荷がかかってしまう点が気がかりでした。《聖なる鋳造所》は基本的に弱く、このデッキは《レンと七番》や青の1マナの呪文を唱えようとするデッキでした。《聖なる鋳造所》の価値が上がったのは無視できない改善点でしょう。
5色続唱
3ターン目より前に唱えられる除去は、「続唱」デッキにとってぜひとも欲しい戦力です。《力線の束縛》はほぼどんなマッチアップでも使いやすい除去ですが、《虚空の杯》や《時を解す者、テフェリー》といったサイド後のパーマネント型の対策も処理でき、「続唱」戦略の脆さを解消してくれています。
「版図」条件が《力線の束縛》で達成が必要になり、《ドラコの末裔》は3ターン目までにできるアクションとして再登用されています。ただ、個人的にはリストに残り続ける力があるのか疑問です。《力線の束縛》よりもマナベースへの要求値が高く、2ターン目に唱える以外ではそれほど強くありません。それだけでなく、無色であることからどのピッチスペルのコストにも充てることができないのです。
ただ、《力線の束縛》が「続唱」デッキに与える影響は絶大です。これまでよりも早く、多く、より良く相手に介入できるようになりました。ただ、ひとつだけ合点がいかないことがあり、それは定番のリストが「魂力」土地2枚を含めて23枚しか土地を入れていないことです!「版図」達成に5色をそろえる必要があり、マナベースに負荷がかかるのであれば、24枚、あるいは25枚でも良いのではないかと思います。
もうひとつ付け加えると、ラクドスが隆盛し、《力線の束縛》が登場しているため、もし私が「続唱」デッキを選ぶならメタゲームの立ち位置的に《衝撃の足音》デッキになるかもしれません。ラクドスと《ダウスィーの虚空歩き》が人気を集めているのであれば、強化されたサイデッキを選ぶのが1つの手だと思います。
4色ヨーリオン
《力線の束縛》の活躍の場は、定番の4色ヨーリオンにも及びます。《力線の束縛》は1マナまで軽減できないと理想的ではないので、MentalMisstepは3枚目となるトライオームを採用し、「沼」タイプも追加しています。
「版図」のために追加する土地として《ゼイゴスのトライオーム》を選ぶのは非常に賢明ですね。1ターン目に《聖なる鋳造所》をサーチ、2ターン目に《ゼイゴスのトライオーム》を並べれば、1ターン目に《虹色の終焉》と《邪悪な熱気》のどちらかを唱えられるだけでなく、2ターン目に《力線の束縛》を構えられるマナ基盤になるのです。
《力線の束縛》は『団結のドミナリア』のなかでベストカードであり、モダンにおける脅威の選択に影響を与えていくだろうと思います。デッキ構築にかかる制約は少々珍しいものですが、時間が経てば正解が見つかっていくことでしょう。
グリクシスシャドウ
Grand Open Qualifier Parisを優勝したDaniele Frontuto、おめでとうございます!この数週間をみるに、これまでと比べるとわずかにイゼットマークタイドの存在感が薄れてきています。ただ、先ほど《力線の束縛》の話をきいたみなさんならこの変化に納得できることでしょう。
もしこの傾向が続くようであれば、大きく追い風を受けるデッキはグリクシスシャドウでしょう。グリクシスシャドウは環境全体に対してごくわずかに有利に戦えるデッキだと認識していますが、青赤系のテンポミラーで苦労していました。グリクシスにとって《濁浪の執政》の処理が難しいからです。
《終止》はあまりデッキに入れたくないカードであり、メインデッキに0~1枚にして「イゼットマークタイドとは当たらないぞ」という心意気で挑むプレイヤーには敬意を払います。そもまた選択肢のひとつですね!
ただ、《力線の束縛》で環境に白の除去が増えることになるので、私なら2枚目の《戦慄の朗詠者、トーラック》を絶対に採用しますね。
もちろん、グリクシスシャドウにとって弱点を突こうとしてくる当たりたくないデッキは一部存在します。バーンはライフを払うマナベースに対してつけ込みやすく、たまに当たるトロンは《湖での水難》をあざ笑うでしょう。グリクシスシャドウが良い選択肢になる週末はあるはずですが、慎重に判断するようにしてください。
おわりに
イゼットマークタイドが数週間結果を出せずにいたとしても、蔑ろにしていいデッキではありません!地力があって柔軟性高く戦えるデッキですからね。ただ、《力線の束縛》が除去の選択肢に入ったことで、相性の悪いマッチアップになる可能性があるのは確かです。
進化するデッキや形を変えて再浮上した既存のデッキもあり、モダンの風景は少しずつ変化し続けています。モダンは絶えず変化しているものの、その変化の程度は小さなものです。
ただ、スタンダード向けセットの発売でモダンが変化するペースはこの程度が妥当でしょう。カードパワーは低めでもマイナーな戦略を強化するものがありつつ、1~2枚カードパワーの高いものが収録されているぐらいですからね。
ではまた次回お会いしましょう!