「とにかく仲間が大事です」。第3期統率者神決定戦を振り返る。

いってつ

神になるべき選手

前回の統率者神決定戦。誰も想像できなかった、ツボイ選手による神防衛でコミュニティは湧いた。統率者戦に偶然なし。勝つべきプレイヤーが勝った。そのことを自ら証明して見せたのだった。

しかし、ツボイ選手だけが「神にふさわしい」のだろうか?「いや、俺こそが神の座にふさわしい」。そんなプレイヤーとデッキが集まった第3期統率者神挑戦者決定戦。

神決定戦も3回目となると強豪プレイヤーがはっきりしていて、「●●さんは今日はいつものじゃないらしい」「✕✕さんはやっぱりエドリック」なんて声が聞こえてくる。

織り手のティムナルーデヴィックの名作、クラム

結果は……最強統率者の一角と呼ばれる《織り手のティムナ》&《ルーデヴィックの名作、クラム》、その研究で第一人者のひとりといえる、タカハシ選手が神・ツボイ選手を破り、第3期統率者神の座についた!

今回は大波乱の挑戦者決定戦と、神決定戦の模様を振り返りながら、タカハシ選手へのインタビュー、神の座を退いたツボイ選手への謝辞をお送りする。

準決勝振り返り

準決勝第1ゲーム

予選ラウンドを1位通過したBIG MAGIC所属矢田選手が1番手につくこのテーブル。2番手3番手には前大会でも予選突破していた強豪、ムカイ選手とタナカ選手。そして4番手には予選ラウンド13位ながら、2位のマルヤマ選手が棄権して順位繰り上げとなったコイワ選手が座る。

意志を縛る者、ディハーダ

奇しくも棄権した選手、繰り上げになった選手ともデッキは新顔《意志を縛る者、ディハーダ》であった。

新顔の統率者が神の座を奪ってしまう……そんな展開もよぎるが、2番手の《ロフガフフの息子、ログラクフ》《求道の達人、サイラス・レン》が無慈悲の2ターン目《むかつき》

そのまま完走。ゲームエンドとなった。むごい。むごすぎる。競技的な統率者戦の環境を象徴するような幕引きであった

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《むかつき》を解決させたムカイ選手(右)。
対戦相手は行く末を眺めるしかない……

準決勝第2ゲーム

現役のレガシー神、ヴィンテージ神であるタカノ選手が統率者神の座も狙うこのテーブル。その隣には”エドリックのひと”こと、ヨシダ選手が掛ける。

トレストの密偵長、エドリック

長年《トレストの密偵長、エドリック》を使い続け、GPで開催された統率者戦トーナメントで3度の優勝経験がある強豪。

ともに有名な強豪プレイヤー。このマッチには注目が集まっていたが――誰が予想できただろう、この1ゲームが決勝に与えた影響を。

このテーブルで唯一赤を擁するスギヤマ選手の《親指なしのクラーク》《千の顔の逆嶋》の初動を挫くと、ゲームはヨシダ選手とタカノ選手の一騎打ちの様相となった。

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《ギタクシア派の調査》でヨシダ選手(左)の手札を見るタカノ選手(右)

星界の大蛇、コーマセラの高位僧死儀礼のシャーマン

追加ターン呪文と強力なクリーチャーでライフを詰めに行きたいエドリックだが、タカノ選手の《織り手のティムナ》&《トリトンの英雄、トラシオス》もクリーチャーを厚くとった構成で、《星界の大蛇、コーマ》《死儀礼のシャーマン》《セラの高位僧》が立ちはだかる。

ザルファーの魔道士、テフェリー運命のきずな帳簿裂き

ヨシダ選手が《ザルファーの魔道士、テフェリー》着地させ、ライブラリーのカードを全て引き、《運命のきずな》で無限ターンを獲得したかのように見えたが……今度は自軍の《帳簿裂き》が呪文を2つ唱えることを許さない。ライブラリーアウトを防ぐために毎ターン《運命のきずな》を唱える必要があるが、もう1つ呪文を唱えると「謀議」でドローしてしまうからだ。

一方、タカノ選手は《種子生まれの詩神》で毎ターン起き上がる《死儀礼のシャーマン》でヨシダ選手のライフを確実に詰めていく。

ゲームを動かそうと、たくさんのクリーチャーで攻撃したところ、《ザルファーの魔道士、テフェリー》が死亡。タカノ選手からインスタントタイミングで呪文を2つ唱えられてしまい、「謀議」が誘発……

225分にもわたる超ロングゲームをエターナルフォーマットの神が制した。ヨシダ選手の無限ターンが成立するよりずっと早く手札に《Demonic Consultation》《タッサの神託者》を揃えていたが、大局を見据えてコンボには走らなかった。この冷静沈着で焦らないプレイングが勝利をつかんだ。

準決勝第3ゲーム

ここで大きなあおりを受けたのが第3ゲームだ。

選手には「早くとも15時15分開始」と連絡されていたのだが、第3ゲームに参加する選手に送られたメッセージはこんな調子だった。

14:40「2ゲーム目が進行中です。3ゲーム目は早くとも15:15開始となります」
14:58「早くとも15:30開始となります」
15:23「ゲームが続いているため、早くとも15:45開始となります」
15:38「ゲームが続いているため、早くとも16:00開始となります」
15:53「ゲームが続いています。終了次第、小休憩のあと3ゲーム目を開始します。店内にてお待ちください」

第3ゲームが始まったのは予定から大幅に遅れ17時45分だった。選手は緊張状態の中で長時間の待機を強いられてしまったのだ。

樹の神、エシカ欄干のスパイ隠遁ドルイド

さて、マッチアップを見てみよう。1番手のタナカ選手は《樹の神、エシカ》《樹の神、エシカ》といえば、伝説のクリーチャーを詰め込み、《連続突撃》《刃を咲かせる者、ナジーラ》での無限戦闘コンボを目指せるデッキである。しかし前の晩に公開された《樹の神、エシカ》のデッキには土地カードが1枚も採用されず、代わりに《欄干のスパイ》《隠遁ドルイド》の姿が見える。

なんと統率者戦でスパイデッキが結果を残している。信じられない。

「今後エシカデッキは過剰に警戒されるようになるんだろうな」そう談笑するのは《織り手のティムナ》&《ルーデヴィックの名作、クラム》を選択したハヤシ選手とタカハシ選手だ。ふたりは普段からいっしょにデッキ調整を行っている戦友だが、ここでは神への挑戦権を争うことになった。

ゲームはやはり1番手のエシカから動いた。3ターン目に《異界の進化》《欄干のスパイ》サーチを匂わせる。が、これは打ち消される。

再びゲームが動くのは2ターン後。2番手のティムクラが《法務官の掌握》で3番手のティムクラから《むかつき》を奪う。《最後の賭け》で追加ターンを得て《むかつき》を唱える。

むかつき記憶の裏切り

《むかつき》でめくれたカードはマナ加速カードが少なく、完走は厳しそうにも見えたが、《記憶の裏切り》も介して勝利は目前に見えた……が、

《汚れた契約》いきます」

《ライオンの瞳のダイアモンド》切らなくていいの?」

「いい、いい」

汚れた契約ライオンの瞳のダイアモンド

《汚れた契約》を唱え、優先権を離さず《ライオンの瞳のダイアモンド》を起動すると、
色マナ3点とカードが1枚手に入る。

全員が優先権をパス。《汚れた契約》の解決に入ってしまう。極度の緊張状態で長時間待機させられてしまった疲労が出てしまったか。ハヤシ選手、ライブラリーをめくり始めたところで《ライオンの瞳のダイアモンド》を起動し忘れたミスに気づく。

結果、走り切れず。そしてターンを受け取ったタカハシ選手。タカハシ選手はハヤシ選手の《最後の賭け》に対応して《汚れた契約》《タッサの神託者》を引き込んでいた。《むかつき》が通るのだからこれが通らないわけがない。《タッサの神託者》《Demonic Consultation》のコンボでそのまま勝利した。

決勝

ロフガフフの息子、ログラクフ求道の達人、サイラス・レン織り手のティムナトリトンの英雄、トラシオス織り手のティムナルーデヴィックの名作、クラム

神に挑戦する3人がそろった。

準決勝鮮やかな2キルを見せた《ロフガフフの息子、ログラクフ》《求道の達人、サイラス・レン》ムカイ選手。(以下ログレン)

超ロングゲームを制し、三冠の神の座に手をかけた《織り手のティムナ》《トリトンの英雄、トラシオス》タカノ選手。(以下ティムトラ)

丸さの極み、ムードメーカーながら冷静なプレイが光る《織り手のティムナ》《ルーデヴィックの名作、クラム》タカハシ選手。(以下ティムクラ)

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決勝直前。
左からタカノ選手、タカハシ選手、ムカイ選手。

そして、初代神にして現役の神、今回も愛機《トリトンの英雄、トラシオス》《綱投げ、アキリ》を使用するツボイ選手。(以下トラアキリ)

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テーブルにつくツボイ選手

ゲームはティムトラから始まる。しかし、もっとも早そうなのはログレンだ。ティムトラの《アゾリウスの造反者、ラヴィニア》を除去するなどかなり不穏。

これを受けてティムトラ、《トリトンの英雄、トラシオス》を着地させると《訓練場》まで唱えてしまう。

訓練場トリトンの英雄、トラシオス

ツボイ選手「それはだめだ。トラシオスLv.100になってしまう……」

これはトラアキリが打ち消す。その直後《有毒の蘇生》で自分のフェッチランドを戻す、後ろ向きなプレイ。

ディープ・ノームの地形術師リスティックの研究

ここで漁夫の利を得ているのは4番手のティムクラ。《ディープ・ノームの地形術師》でうまく土地を伸ばすことに成功している。《無のロッド》《溜め込み屋のアウフ》《石のような静寂》《石のような静寂》を搭載しているティムトラにも強気で立ち回れそうだ。《リスティックの研究》まで着地させ、もはや4番手ゆえの出遅れは感じさせない。手札にも《汚れた契約》《偏向はたき》がある。

Wheel of Fortune忍耐精神壊しの罠

しかしここでログサイから《Wheel of Fortune》。ティムトラの《忍耐》、トラアキリの《精神壊しの罠》、ティムクラの強力な手札を捨てさせることに成功。

堂々たる撤廃者

ところがターンを受け取ったティムクラから《堂々たる撤廃者》が飛び出す!こうなっては《耐え抜くもの、母聖樹》《天上都市、大田原》の魂力などでなければコンボへの介入はできなくなってしまう。

精霊界との接触

そのまま《願い爪のタリスマン》を唱える。かなり危険な雰囲気だ。しかし、トラアキリが優先権を得ると《精霊界との接触》の魂力!《堂々たる撤廃者》を一時的に追放することに成功。ティムトラから《否定の力》が飛び出し、《願い爪のタリスマン》を打ち消すことに成功する。

しかしティムクラまだまだ止まらない。《ジェスカの意志》で赤マナを増やしつつ、《悪魔の意図》《思考停止》を獲得!さらに《イーオスのレインジャー長》まで戦場に送り込む!《イーオスのレインジャー長》の能力を即起動。そして《死の国からの脱出》まで持っている!ブリーチコンボのパーツが揃った!勝った!

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第3期統率者神はティムナ&クラムのタカハシ選手!おめでとう!

ヒーローインタビュー

新たな神はどんなプレイヤー?

タカハシ選手のゲーム中の姿は非常に印象深い。

競技に準ずるイベントでありながら、彼は常にゲームを楽しんでいたのだ。ボディランゲージを交えた活発なコミュニケーション。冗談を飛ばす余裕。そして同時にシビアな場面では冷静で確実なプレイングを見せていた。

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神の到着を待つ3人。
タカハシ選手はカメラを見つけるといつもポーズをとってくれる。

「統率者戦は同じデッキ同じプレイヤーでも同じゲームにならないのがいいなと思います。あと、仲間でわちゃわちゃコミュニケーションをとりながら、それでいて競技的に遊べるのも」

タカハシ選手は統率者戦の魅力をこう語る。

Discordなどを活用したリモート対戦でも統率者戦を楽しんでいるタカハシ選手だが、マジックとの出会いは多くのプレイヤーと同じくスタンダードからだという。

「いまは統率者戦ばっかりですけど、はじめはスタンダードを遊んでいました。レガシーにも参入しましたが、晴れる屋のイベントでタカノシゲキ選手に全然勝てなくてやめちゃった(笑)。で、行きついた先が統率者戦」

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インタビュー中のタカハシ選手。
統率者戦でタカノシゲキ選手への雪辱を果たす。

織り手のティムナルーデヴィックの名作、クラム

「ティムクラを選んだ理由は……”強いから”ですね。高速化している環境にもあっています。《ロフガフフの息子、ログラクフ》《愚者滅ぼし、テヴェシュ・ザット》とかも試しましたけど、ティムクラが一番納得できました」

統率者神挑戦者決定戦の予選ラウンドでは1時間で勝利できるデッキを選択する必要がある。ティムクラ自身も2~3ターン目にコンボに入れるポテンシャルを持ちながら、自分より早い黒赤系デッキにも対応できる。実際、前回の決勝ではタカハシ選手が1ターン目に《むかつき》を唱えている。

「競技的な統率者戦に興味がある人には、”とりあえずやってみてほしい”ですね。誰かのデッキのコピーをまずは回してみるといいと思います」

「あとは……とにかく一緒にやれる仲間が大事です。仲間は大切にしてください」
いつも遊んでいただいているみなさんには感謝です。ありがとうございます

競技的な統率者戦に挑戦したい人へのメッセージをいただいた。

ツボイ選手も「周囲に育てられて神になれた」とコメントしていたが、タカハシ選手もまた、コミュニティへの感謝を述べていた。

配信でのヒーローインタビューでもタカハシ選手のきさくなキャラクターが見てとれる。やじのようなコメントを飛ばしているのはみんな知り合いで、「ガラの悪い連中ですよ!」と冗談を飛ばしている。タカハシ選手もまた、コミュニティに愛されたプレイヤーだったのだ。

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新たな神とその仲間たち。傍らには神の座を譲ることとなったツボイ選手ほか強豪選手が並ぶ。

ありがとう、ツボイ選手

「めっちゃ待たされて全然ご飯食べてないんですよ!」とのことで、ヒーローインタビューは早々に終了し、神を仲間の待つ飲み屋へ見送ることとなった。

僕も機材の片づけをしていると、なんとツボイ選手の方から声をかけていただいた。

「一日お疲れ様です。短い間でしたが本当にお世話になりました」

どこまで丁寧で大人なプレイヤーなのだろう!お世話になっているのはむしろこちらの方だ。インタビューに応じていただいたり、記事の執筆動画の出演と、ツボイ選手には多大なご協力をいただいている。

初代統率者神がこの方で本当に良かったと僕は感じている。統率者ガチ・カジュアル問題など、統率者戦ではネガティブな話題が盛り上がってしまうこともある。そんななか、ツボイ選手はカジュアルなイベントにも足を運ばれ、一方で競技的なイベントに「神」として参加されていた。ガチ・カジュアルどちらの世界でも積極的に交流され、コミュニティを盛り上げてくださった。ここ1年の日本での統率者戦の盛り上がりに大きく貢献した一人なのだ。

第1期の決勝や第2期の防衛戦では青色吐息で手を震わせながらプレイする場面もあったが、この日のツボイ選手は終始穏やかな面持ちであった。初代の神ということもあり、ツボイ選手にはプライベートな場でも重圧を感じさせてしまっていたかもしれない。本当にお疲れ様でした。そして、ありがとうございました。

「いえいえ。また神になれるようにがんばります!」

そう、これからはタカハシ選手が、ツボイ選手はじめ数多くの強豪に立ちはだかる壁となる。

次はいったいどんなプレイヤーが神となるのだろう。あるいはタカハシ選手が防衛を果たすのだろうか。

それではみなさん、第4期統率者神決定戦でお会いしよう。

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いってつ 晴れる屋メディアライターです。最近の悩みは記事執筆と動画出演で忙しくて統率者戦が1日2回くらいしか遊べないこと。 いってつの記事はこちら