決勝進出デッキ@世界選手権
みなさんこんにちは。晴れる屋メディアチームです。
現在第28回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権が開催中ですが、14回戦を経て、決勝トーナメントへ進む4名が決まりました。
決勝トーナメントは10月31日3時30分よりスタンダードで行われます。どのプレイヤーが栄光を掴むのでしょうか。
本稿では決勝戦に先駆けて、決勝トーナメントへ進んだ4つのデッキをご紹介いたします。
エスパーミッドレンジ同士を比較してみる
戦前のメタゲームが示した通り、決勝トーナメントへ進出した内の3つはエスパーミッドレンジに括られるアーキタイプでした。2マナ域から展開し、《策謀の予見者、ラフィーン》と《婚礼の発表》でバックアップしていく攻撃的なミッドレンジです。
ですが、一口にエスパーミッドレンジといってもプレイヤーが変われば思考も狙いも変化します。しかも世界選手権という閉鎖的なメタゲームにおいてはより精鋭化するものです。打倒エスパーミッドレンジを掲げたエスパーミッドレンジが構築されているのです。
トップ4に残ったイーライ・カシス/Eli Kassisとヤクブ・トート/Jakub Tóthはチームメイト同士であり、ほとんど同じ構築を使用しています。ここでは彼らのデッキとカール・サラップ/Karl Sarapのデッキを比較して構築の違いを見ていきます。
共通項
3つのデッキに共通するのは、4枚の《策謀の予見者、ラフィーン》と3枚の《放浪皇》、1枚の《虚空裂き》に26枚の土地とのみ。《策謀の予見者、ラフィーン》と《放浪皇》こそがこのアーキタイプの骨子となる部分です。
また、プレイヤーごとに1枚増減しているカードが4種類あります。《敬虔な新米、デニック》と《婚礼の発表》は3枚以上、《邪悪を打ち砕く》と《冥府の掌握》は2枚以上必ず採用されています。
《敬虔な新米、デニック》は《しつこい負け犬》などを《死体鑑定士》や《墓地の侵入者》から守るとともに、絆魂によりダメージレースをリードしてくれる存在。たとえ除去や相打ちで墓地へ落ちたとしても、「降霊」により使いまわせます。
特徴的なのは採用枚数が増える一方だった《勢団の銀行破り》をごっそり排除して、クリーチャーや干渉手段へと変更している点。ミラーマッチの後手番では脅威をさばき続けることが求められるためプレイするタイミングがほとんどなく、ほかのミッドレンジからは《削剥》や《豪火を放て》の的となってしまいます。
エスパーミッドレンジのメインボードから《勢団の銀行破り》が消えたのは、まさに世界選手権ならではの構築だったのです。
イーライ・カシスとヤクブ・トート
イーライ・カシス
ヤクブ・トート
イーライ・カシスとヤクブ・トートのデッキはメインボードでは2枠分しか違いがありません。イーライ・カシスは《敬虔な新米、デニック》の4枚目と《復活したアーテイ》の2枚目を優先し、ヤクブ・トートは《しつこい負け犬》の3枚目と《婚礼の発表》の4枚目を選択しています。
2人の構築は呪文による可変的な受けのゲームプランを排除し、2-3-4マナのクリーチャーラインを厚く取り、ボードによる押し付けを前面に出した構築です。《復活したアーテイ》は除去であり、打ち消しであり、クロックなのです。
このデッキでは序盤の安定感に加えて、中盤以降も単体でプレッシャーをかけられるクリーチャーが複数採用されています。3枚ずつの《黙示録、シェオルドレッド》と《夜明けの空、猗旺》です。前者はドローする度にライフを動かし、相手の《策謀の予見者、ラフィーン》にブレーキをかけてしまいます。
後者は打ち消し呪文には弱いものの、貴重な追放除去である《放浪皇》に対するメタカード。制空権を支配し、警戒により軽快なクロックを刻みます。仮に除去したとしても+1/+1カウンターをばら撒かれるか代わりのパーマネントを用意されてしまいます。つまるところ相手はそのすべてを対処するか、割り切ってダメージレースを挑まなければならないのです。
エスパーミッドレンジのキーとなるのは《策謀の予見者、ラフィーン》と《婚礼の発表》、そして《黙示録、シェオルドレッド》。干渉手段はこれらを意識したものばかりが選択されています。
1本挿しの《かき消し》はデッキ公開制度を活かした採用といえます。アンタップ状態の土地が2枚ある限り、《かき消し》の虚像に怯えるわけです。《虚空裂き》はテンポ感こそ悪いものの万能除去であり、読まれにくいカードです。クリーチャー除去をケアしてプレインズウォーカーやエンチャントを展開したところに、刺さることもあるでしょう。
ここまで一貫しているのは先手の強い動きを押し付けて、対処を迫り続ける構築。《敬虔な新米、デニック》などの2マナのタフネス3クリーチャーは《策謀の予見者、ラフィーン》のバックアップがあれば《しつこい負け犬》と相打つ心配がなく、ダメージレースを大きくリードしてくれます。
《屍術の俊英、ルーデヴィック》も同様にタフネスが高く、最速パターンの《策謀の予見者、ラフィーン》と相性の良いクリーチャーです。「降霊」や「奇襲」こそありませんが、「切削」過程でうっかり《しつこい負け犬》が落ちようものならもうけもの。
また、消耗戦時には一度対処された《黙示録、シェオルドレッド》や《策謀の予見者、ラフィーン》などへ擬態できます。ほかの2マナ域のようにカード複数枚分にカウントはできませんが、見た目以上に広いゲームレンジで活躍できるクリーチャーなのです。
カール・サラップ
対して、受けに特化しているのがカール・サラップのエスパーミッドレンジです。クロックを最小限にとどめて干渉手段がかなり増量されています。
目を引くのは4枚の《かき消し》と3枚の《眼識の収集》です。前者は先手後手問わず相手の行動に大きく制限をかけるコントロール手段。ミッドレンジにとって追加の2マナは非常に重く、《対抗呪文》と変わりありません。
インスタントトリック多めの構えるデッキであり、残したマナを有効活用できるように《眼識の収集》が採用されています。これまでは《勢団の銀行破り》が定番でしたが、ミラーマッチの後手番では常に《かき消し》や《冥府の掌握》などを構え続ける必要があり、一瞬でもタップアウトしようものなら《策謀の予見者、ラフィーン》や《婚礼の発表》の着地を許してしまいます。つまるところ、エスパーミッドレンジのミラーマッチにおける後手番は《勢団の銀行破り》の設置タイミングがかなり限られてしまいます。
構えた分のマナを無駄にしないようにインスタントである《眼識の収集》を優先しているのです。ときには追加の《夜明けの空、猗旺》や《絶望招来》のような自分のデッキにないカードすら使える可能性もあるわけですから。
後述するネイサン・ストイアのグリクシスミッドレンジがメインボードから《削剥》を採用しているのを見るに、《豪火を放て》など対策手段の当たらないアドバンテージソースを獲得したかったのもあるでしょう。
後手番をかなり意識した構築であるため、隙の大きく先手後手で強さの変わる《黙示録、シェオルドレッド》やプレインズウォーカーはサイドボードに置かれています。
ネイサン・ストイア/グリクシスミッドレンジ
世界選手権で唯一エスパーミッドレンジ以外でトップ4まで進んだのがネイサン・ストイア/Nathan Steuerの使用するグリクシスミッドレンジ。ほかの3名がやや直線的なゲーム展開を想定しているのに対して、グリクシスミッドレンジは多彩な干渉手段でゲームコントロールを目論みます。遅いゲームレンジを想定しており、相手のリソース手段を徹底して潰す構築となっています。
1~2マナの干渉手段を用いて的確に相手の脅威へ対処し、返す刀で《鏡割りの寓話》や《黙示録、シェオルドレッド》をプレイしてボードの優位を確立します。脅威の撃ち合いとなれば《絶望招来》が勝負を決めてくれるのです
《切り崩し》と《かき消し》を合わせて計5枚採用しており、後手番でも《策謀の予見者、ラフィーン》によるマウントを許しません。マナ交換比率の優れたカードを多用しているため、後手番でもさばき損なわないように細心の注意が払われています。
いわゆる《勢団の銀行破り》ゲーに対して《削剥》が用意されています。2~3マナ域のクリーチャーと《勢団の銀行破り》の両方に睨みをきかせています。相手のドローソースは潰し、自身は《勢団の銀行破り》や《死体鑑定士》で悠々とアドバンテージを稼いでいくのです。
干渉手段豊富なグリクシスミッドレンジですが、ときには脅威の着地を許してしまいます。《夜明けの空、猗旺》のような死亡時に誘発する能力を持つカードは天敵といえます。サイドボードの《ローナの渦》は《夜明けの空、猗旺》を綺麗に対処し、おまけにプレインズウォーカーも対象にとれる効果範囲の広いカードです。
判断の難しいカードとしては《燃え立つ空、軋賜》があげられます。飛行の乏しいグリクシスミッドレンジにあっては貴重な《策謀の予見者、ラフィーン》に対するブロッカーとなります。
仮に除去されようものなら、宝物トークンでマナ加速して《絶望招来》や打ち消し呪文を構えながら《黙示録、シェオルドレッド》の展開へと繋がります。くれぐれも《放浪皇》で追放されないように注意しましょう。
決勝トーナメント開始まで残り数時間をきりました。栄光を掴み取るのはエスパーミッドレンジか、それとも孤軍奮闘のグリクシスミッドレンジか。画面越しに見守りましょう。