世界選手権を振り返って

Matti Kuisma

Translated by Riku Endo

原文はこちら
(掲載日 2022/12/23)

導入

10月、私は31人のほかの選手たちとともに『第28回マジック世界選手権』でプレイする栄誉を得た。

私はリーグのリーダーボードによってトーナメントへの参加資格を得たわけだが、これについてはとても誇らしく思っている。3つのセットチャンピオンシップではいずれも目立った結果を出すことはできなかったが、安定した好成績を収めることでマジック最高峰の大会への参加権利を獲得したのだ。

今回が私にとって個人で臨む初めての世界選手権で、最高峰の選手たちと競えるこの機会にとても興奮していた。

調整とドラフト

私のここ数年の成功の多くは、Team Handshakeの素晴らしいチームメイトのおかげであり、彼らの多くもまた今回の大会への参加資格を得ていた。その数、実に32人中9人(!!)、全体の4分の1以上を占めていた。

調整時に同じ一つのグループにメンバーが多すぎると、デッキ選択と調整においていびつな動機を生み出すと感じたため、調整段階で私たちはまず2つの仮グループに分かれた。ディスコ―ドに8人のポッドドラフト用の共通サーバーを持っていたのだが、これが大会のドラフト部門のための貴重な練習になった。

ハイレベルな大会のドラフトを一般的なFNMやアリーナのドラフトと比べた場合、顕著に違うのは環境の優良カードの競争率が高いことだ。強いカードがパックからすぐに消える状況では、卓を一周する弱いカードをどうすれば強く使えるかを深く理解していることが求められる。

通常、リミテッドで”弱い”とされるカードは本質的に弱いわけではない。ほかのカードに比べると、有効に使えるデッキの幅が狭いだけだ。平凡なカードを強く使える術を持ち、空いている色を見極めることのほうが、ハイレベルな大会でははるかに重要になる。

フォーマットとしての『団結のドミナリア』に深くふれるつもりはない。次のセットがすでに出ているし、『団結のドミナリア』はもうそれほど関係がないからだ。しかしながら、チームメイトのジュリアンが投稿していた全コモンのティアーリストは、私たちが学んだことの要約として役立つだろう。

大会前にもっともやりやすいフォーマットを選ばなければならなかったとしたら、リミテッドだっただろう。けれども、私のドラフトは計画通りにはいかなかった。

焦熱の交渉人、ヤヤ

最初のピックは《焦熱の交渉人、ヤヤ》で、強力な神話レアでドラフトを始められてハッピーだった。しかし、次のパックですでにトラブルの予感がした。コモンの1枚抜けた、赤のカードが1枚もないパックを渡されたのだ。

トレイリアの噴出邪悪を打ち砕く稲妻の一撃

《トレイリアの噴出》《邪悪を打ち砕く》が残っていたので、ピックされたカードが《稲妻の一撃》であることは明らかだった。そのため、赤が多く流れてくることはなさそうであり、ほかの色を探し始めるべきだった。

さらに悪いのは、自分の右のプレイヤーが赤を取っているなら、その人は青か白との組み合わせでデッキを組むであろうということだ。それはつまり、このパックで私がどちらのカードをピックしても、右隣の人と同じ色になりそうなことを意味していた。赤黒はあまりよくないし、赤緑は赤の組み合わせとしてほかの2色より劣っている。

締めつける瘴気

結局私は《トレイリアの噴出》を取り、その後いくつか青のカードを取った。しかし、私の右にいたリード・デューク/Reid Dukeは結局青赤に行き、青いカードも早々に枯渇してしまった。5枚目のピックでとても良いカードだと思っている《締めつける瘴気》を見て、黒が空いているシグナルかもしれないと思った。青黒コントロールにおいては特に良いカードだ。この全体除去とすでにピックしていた青のカードを組み合わせてアーキタイプを変更したいと願ったのだが、残念なことに黒も空いていなかった。

ベナリアの信仰繋ぎメサの騎兵

最初のパックの終盤近くで、《ベナリアの信仰繋ぎ》《メサの騎兵》といったわくわくはしないがプレイアブルな白のカードを取ることができ、ほかの選択肢よりも白が空いていることがわかった。全体として、ドラフトの最初のパックは私にとって大失敗だった。2パック目と3パック目はまだましで、どうにかまともだが面白味のない赤白のアグロデッキを組み上げることができた。

自分の能力をほぼ最大限活用したように感じたし、いくつかの良いサイドボードのアイデアも思いついたのだが、3連続の接戦に勝つには不十分で、0-3という最悪な形で大会をスタートした。

今回のドラフトにおけるパワーレベルはかなり高く、最初のパックであちこち別の色へ浮気する必要のなかったプレイヤーたちは素晴らしいデッキを作っていた。

翼套の司祭塵と化す

例えば、私の右隣にいたリード・デュークは青赤を組むにはイージーな席であったようだし、そのさらに右隣のネイサン・ストイア/Nathan Steuerは《翼套の司祭》からスタートして後に2枚目も取り、とんでもない防衛デッキを作り上げていた。

私はというと、マッチアップにも恵まれていなかったように感じる。3人のうち2人の対戦者は私のタフネス1のクリーチャーたちを咎める複数の手段を有していた(例えば《塵と化す》といったような)。

落胆していたというのは控えめな表現なくらいだっただろう。しかし、チームメイトの成功はいくらか痛みを和らげてくれた。4つのポッドすべてでドラフト用ディスコードにいたメンバーが3-0しており、私たちのドラフトの練習はしっかりと報われたのだ。

振り返り:スタンダード編

世界選手権のスタンダード部門でもっとも印象深かったのは、おそらく参加者の約70%がエスパーミッドレンジを選択したことだろう。次点で人気だった2つのデッキを選択したのはそれぞれ2人しかいなかった。

鏡割りの寓話

私たちのチームはエスパーがもっとも人気なデッキになるであろうことを予期していた一方で、これほどまでの割合を占めるとは思ってもみなかった。スタンダードにおいて《鏡割りの寓話》は明らかに最高のカードで、それを使うためにジャンドかグリクシスを選択する人々がもっといるだろうと考えていた。

私とカール・サラップ/Karl Sarap、サイモン・ニールセン/Simon Nielsenが最終的にエスパーを選択した理由は、私たちのエスパーのリストがほかの黒のミッドレンジのデッキに対してかなり互角に戦えると感じていたのと、ジャンドとグリクシスを倒そうとする人々が使う、そのほかすべてのデッキを倒せるからであった。

ほとんどの型のエスパーに対してやや有利の可能性があったことから、最初はグリクシスがもっとも人気なデッキだろうと考えていた。しかし、本当に攻略しようとすれば、グリクシスはかなり倒しやすいデッキであることが分かってしまった。そして、グリクシスに対して有利と考えていたあらゆるデッキは、いずれも同じ問題にたどり着いた。対エスパーだ。

この問題に対する唯一の例外は、ジュリアン・ウェルマン/Julian Wellmanが最終的に選択した《傲慢なジン》を入れたイゼットスペルだったが、このデッキでさえ最初は同様にこの問題を抱えていた。

初期型がすでにグリクシスやもろもろのデッキに対して大きく有利である一方で、対エスパーが私の手からこのデッキを遠ざけた。

墓所の照光者溺神の信奉者、リーア

しかし、ジュリアンはこのデッキの調整で大仕事をやってのけた。《トレイリアの恐怖》のような、最初は不可欠だと思われていた不要牌を少しずつ抜き、《墓所の照光者》《溺神の信奉者、リーア》といった極めてこのデッキに合うカードを入れた。最終的にジュリアンのイゼットスペルは、相手のリスト次第ではグリクシスに対してもいくらか有利で、エスパーに対しても腕の拮抗しているプレイヤー同士なら五分五分に近くなったと思った。

ところで、以前私が書いた記事を読んでいたら、デッキ選択に関していえば私が現実的な判断を重んじることをご存じかもしれない。結果的にはより個人的に使いやすいデッキで行くことに決めたのだが、イゼットスペルとエスパーはどちらも良い選択肢のように思えて、かなり拮抗していた。

もし、もっとイゼットスペルを練習する時間があったら、おそらくエスパーではなくそちらを選択しただろう。ベースがすでに良く、知られていないデッキを使えばその場で相手に問題を引き起こすことで優位に立てるからだ。

トップレベルの選手たちでさえ、まったく練習していないマッチアップにおいては最適な戦略やサイドボーディングを見つけるのに苦労する。だからこそ、イゼットスペルのようなデッキはどんなデッキかわかっていたチーム内の調整よりも、トーナメントではさらに良い結果を出しやすい。

しかし、初期のイゼットスペルは私にはあまり見込みがあるように思えなかった。最新型の良さに気づいたのは、デッキ提出締め切り日の前日あたりのことであり、その時点でデッキを変えるには少し遅すぎた。もし使っていたとしたら、対戦相手だけでなく自分自身も困らせていただろう!というのも、このデッキはプレイングが難しく、私の直感ともうまく合わないように感じたのだ。

エスパーもプレイングが簡単というわけではなかったが、少なくともよくあるゲーム展開で、生まれる選択肢も練習で何度も経験したものだった。とはいえ、エスパーのリストにほんの少しでも自信が足りなければ、代わりにイゼットスペルを選んでいただろうし、ジュリアンがこのデッキでうまくいったことについても驚きはない。

眼識の収集かき消し

私たちのエスパーと一般的なリストを分けていたのは《眼識の収集》がメインデッキから入っていて、代わりに《黙示録、シェオルドレッド》が抜けている点であった。また、一般的なリストは先手後手に大きく依存していたため、私たちは後攻におけるベストカードの一つである《かき消し》が欲しくなった。

後攻で勝つには、相手の3マナをカウンターして自分の3マナを着地させるのが一番いい方法だったのだ。カウンターを警戒してなにもプレイしてこない相手に対して、相手ターン中に行動を起こせる《眼識の収集》《かき消し》との相性が良かった。そのほかのミッドレンジデッキに対してもとてもいいカードだと感じていた。

黙示録、シェオルドレッド

一方、ミッドレンジミラーでは《黙示録、シェオルドレッド》はむしろ弱く感じた。たしかにそれだけでゲームに勝てることもあったが、2マナの除去で処理され大きなテンポロスにつながることがほとんどだった。結果を出せたエスパーは、この問題に対して2つの異なるアプローチをしていた。

私たちが最終的にたどり着いたように《黙示録、シェオルドレッド》を完全に抜くか、相手の除去を使い切らせようとするかだ。後者のアプローチの例として、ルーカス・ホネイ/Lukas Honneyのリストがあげられる。《黙示録、シェオルドレッド》が4枚フルに入っており、それをさらに《下支え》で守る形だ。

結果としてスタンダード部門は2-3で終えた。私たちのデッキはこの大会においてはとても良かったように思えるが、土地詰まりが少し多すぎたのと、いくつか最善ではないプレイをしてしまった。大会中の自分のプレイングについてはおおむね満足しているが、最終ラウンドの八十岡翔太とのミラーマッチは完敗だった。

振り返り:エクスプローラー編

エクスプローラー部門において私たちが選んだ武器は、《異形化》《銅纏いののけ者、ルーカ》を使って《産業のタイタン》を踏み倒すことを軸にしたティムール異形化だった。

このデッキは最速3ターン目に《産業のタイタン》をプレイして爆発的なスタートを切ることが可能で、《鏡割りの寓話》《エシカの戦車》のような強力なカードたちが「相棒」の《空を放浪するもの、ヨーリオン》と組み合わされれば、ロングゲームも戦えるようになっていた。

孤児護り、カヒーラ空を放浪するもの、ヨーリオン

実は、このデッキの初期型では《空を放浪するもの、ヨーリオン》の代わりに《孤児護り、カヒーラ》を「相棒」にしていた。この型は青単スピリットやパルへリオンに対しては有利だったが、ラクドスサクリファイスやラクドスミッドレンジに対しては不利であった。

フタを開けると、ラクドスサクリファイスが2番目に人気なデッキであったのに対し、ミッドレンジ型はたった1人しか使っていなかった。一方パルへリオンは1番人気で、青単スピリットは3番目。ゆえに、もし事前にメタゲームが分かっていたなら、間違いなくカヒーラ型を使っていただろう。

しかしながら、大会の中心にいたのはイーライ・カシス/Eli Kassisとそのチームメイトが使った青単スピリットだった。調整段階では私たちもこのデッキを気に入っていたが、大きな弱点を一つ抱えていた。《波乱の悪魔》だ。

波乱の悪魔発火の力線

大会で人気になると予想的中したラクドスサクリファイスは、私たちのスピリットデッキに対しては大きく有利だった。しかし、イーライのチームは《発火の力線》を入れる革新的なアイデアをひらめいたことで、対赤黒サクリファイスにも十分に戦える、大会で間違いなく一番良いデッキに仕上げたのだ。

私はというと、エクスプローラー部門は4-2で多少巻き返し、最終順位を24位で終えた。

産業のタイタン正義の戦乙女

エクスプローラーでのハイライトは宮野 雄大の使うセレズニアエンジェルとのクレイジーな試合だ。1本目ではすべての《産業のタイタン》を場に出し、《キキジキの鏡像》でコピーまでできたが、一方で宮野の《正義の戦乙女》たちはライフを大量に回復しパンプしていたので、ボードが停滞した。私たちはお互い効果的な攻撃ができなかった。

アクロス戦争

やっとのことで《アクロス戦争》で盤面を打開する糸口を見つけても、場にはお互い大量のクリーチャーがいるせいでアリーナでの戦闘フェイズは非常に混乱した。クリーチャーは3列にもなり、新たにクリーチャーのブロックをクリックするたびに場所が入れ替わった。何十ものブロックをクリックしていたら時間を使い切り、どういうわけか、自分が思っていたよりも多く相手のクリーチャーを生き残ったままにするミスもやらかしてしまった。

それでも勝つことができたが、その時点で300を超えるライフを有していた彼にリーサルダメージを与えるのに長い時間を要した。結局そのミスが高くつき、1試合目で自分の持ち時間の半分以上を消費することになったのだ。

女王スズメバチ鏡割りの寓話

2本目では、このマッチアップにより適していると思ったので《産業のタイタン》《女王スズメバチ》に替えた。《女王スズメバチ》《キキジキの鏡像》とのコンボを成立させて、負けることはないだろうと思えたが、彼はとんでもない量のライフを得続けた。

まず分かったのは、昆虫・トークンでは大量のダメージを与えるのに不向きだったことだ。特にアリーナはすべてのトークンをひとまとまりにしてしまうので、そのうちの数体で攻撃したいときは1体ずつそれらをクリックしなければならない。すべてのトークンで攻撃すると、返しのターンに攻撃されて負けるのでフルアタックもできなかった。

アクロス戦争

ある時点で1体も攻撃するべきじゃないことに気づいて、《アクロス戦争》を引くのを待ち始めた。相手のクリーチャーを攻撃させてから昆虫・トークンでトレードして、リーサルになる反撃を恐れずに次の自分のターンに残ったすべてのクリーチャーで攻撃し始めることができるからだ。

しかし、《アクロス戦争》を引くことはなく、結局3本目のために数分を残して降参せざるを得なかった。ここが不条理な点だった。通常の手段では自分が負けるはずはなく、最終的には勝利が保証されていたはずだったのだ。ただ、時間内にそうすることができなかった。

入念な栽培異形化産業のタイタン

3本目では彼を素早く倒す必要があったので、《産業のタイタン》に戻した。スタートは良好で、3ターン目に《入念な栽培》から出たトークンに《異形化》を使って、空の盤面に《産業のタイタン》を着地させた。さらに、次のターンには《アクロス戦争》で相手の唯一のクリーチャーを奪えた。

その後については、何が起きたのかよく覚えていない。というのも、とにかくパニックになっていて、あまり考えずにとにかく頭に最初に浮かんだプレイをした。

翼の司教正義の戦乙女集合した中隊

たしか雄大は《集合した中隊》をプレイしたのだが、そうしたら《翼の司教》《正義の戦乙女》が出てきてライフを大量に回復して盤面も強固になってしまい、時間切れになってしまった。より良いプレイをする時間があれば勝てたような気もするが、今となってはわからない。

この試合は今までプレーした中でも屈指のクレイジーな試合だった。終わった時には試合のめちゃくちゃさから笑いたい気持ちが半分、プレイが遅すぎる自分を怒鳴りたい気持ちが半分だった。

対面でのマジックと今後

たとえ大会が自分の望んでいたようにはいかなくても、友人であるカール・サラップとネイサン・ストイアがうまくいったのを見られたのはよかった。リモートで家からプレイするのではなく、ラスベガスに行ってプレイできたのも本当に嬉しい。

オフラインの大会はとにかく特別で、それが戻ってきたのも喜ばしかった。もっとも良かったのは、過去数年間すべてのオンライントーナメントに一緒に取り組んできたTeam Handshakeのメンバーたちと、ついに直接会えたことだ。

世界選手権後、私はソフィアでの地域チャンピオンシップに参加しないことにした。単純に疲れ切っていたのだ。行くのも簡単ではないし、プロツアーへの参加資格はすでに得ていて、パイオニアを練習する時間もなかった。だから、不参加は結果的に簡単な決断だった。

しかし、私やサイモン・ニールセン、ステファン・シュッツがエクスプローラーにおいてユニークな《ゴブリンの罠探し》のコンボデッキで次のアリーナチャンピオンシップへの道を切り開いたように、私たちのチームは最近の予選ウィークエンドではかなりうまくいっている。なので、次のナポリでの地域チャンピオンシップには行こうと考えていて、2023年最初の月はかなり忙しくなりそうだ。

けれどもまずは、ウインターブレイクを取って、真剣なフォーマットではなくいくつかのクリスマスキューブドラフトに目を向けてリラックスするつもりだ。それじゃあみんな、メリークリスマス、そしてよいお年を!

マッティ・クイスマ (Twitter)

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Matti Kuisma ワールド・マジック・カップ2016でチームの一員としてトップ8に輝いた、フィンランドのプレイヤー。 プロツアー『霊気紛争』で28位入賞を果たしたものの、2016-17シーズンはゴールドレベルに惜しくも1点届かなかった。 2017-18シーズンにHareruya Hopesに加入。2017年は国のキャプテンとしてワールド・マジック・カップに挑む。 Matti Kuismaの記事はこちら