Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2022/12/21)
はじめに
みなさん、こんにちは。
パイオニアによる地域チャンピオンシップの第一波が終わりを迎えました。数週間前には、ブルガリアのソフィアで『ヨーロッパ地域チャンピオンシップ』が開催されています。競技的なプレッシャーというのはすごいもので、このソフィアやアトランタ、そして世界中の地域チャンピオンシップの結果を受けて、パイオニア環境が大きく動いていることが見て取れます。
そこで、今回はここ最近の大きな変化を確認していくことにします。先々週末のPioneer Showcase Qualifierでトップ8に入賞したデッキリストをいくつか見ていきましょう。
パイオニア
イゼットフェニックス
イゼットフェニックスはソフィアで私が選択したデッキです。充分に期待に応えてくれて、11勝4敗でフィラデルフィアで開かれるパイオニアのプロツアー出場権利を得ることができました。
ただ、イゼットフェニックスの結果が目覚ましかったのはソフィアぐらいのものです。ほかの大会では悲惨な結果に終わっているものがほとんどで、全体的な勝率は低くなっていました。
理論上、イゼットフェニックスはパイオニア界の壊れデッキともとれます。タダで墓地から帰ってくるクリーチャーがいて、実質《Ancestral Recall》を使うことができ、目立った弱点がわずかしかないからです。
まず、このデッキは墓地対策の枚数がしっかりとられていると非常に脆くなります。また、緑単やスピリットといった相性の良いところが少ないと、ごくわずかに不利であるラクドスやかろうじて勝ち目のあるロータスコンボが幅を利かせてきます。
デッキの構造上、大量の対策を積んでいるラクドスを倒しつつ、同時にコンボと速度勝負できるような器用さはイゼットフェニックスにはないのです。
現時点で判断するなら、まだ様子を見守りますが、イゼットフェニックスを使うことはおすすめしません。ラクドスがサイドボードの《真っ白》の枚数を減らしたときに、イゼットフェニックスが再び舞い上がる絶好のタイミングとなるでしょう。
緑単信心
緑単信心は使用率が特に高いデッキのひとつでありながら、地域チャンピオンシップでの結果はそこそこでした。一般的に、一番人気のデッキがトップの成績を出すときは、そのデッキが環境で突出して強いことを意味していますが、緑単信心はそのカテゴリーには入れていないようです。
良い引きをして妨害されなければ実に恐ろしいデッキであり、『兄弟戦争』には《大いなる創造者、カーン》の武器を拡張する強力なアーティファクトがいくつか収録されていました。
ただ、マナを引かなさ過ぎても引き過ぎても機能しないというランプにありがちな問題に陥るのが緑単信心であり、サイドボーディングをする余地もまったくありません。語弊のないように言っておきますが、緑単の地力がかなり高いことに変わりはありません。ただ、ことウィッシュボードで戦うデッキにとって、つけこまれる弱点があるのは大きなリスクです。
デッキを選び、リストを構築していくうえで緑単信心の存在は絶対に蔑ろにはできませんが、勝率を最大限まで高めたいのであれば、私は大会に緑単信心を持ち込むことはないでしょう。
ラクドスミッドレンジ
ラクドスミッドレンジは『兄弟戦争』から大きな新戦力、《苦難の影》を獲得しました。《ゲトの裏切り者、カリタス》は緑単信心とのマッチアップでキーカードのひとつであり、本来なら対処が難しかった《茨の騎兵》《老樹林のトロール》に対して怯むことなく除去を差し向けられます。
《苦難の影》はこれと同じ役割を期待できますが、それよりも大事なのは2マナ域ということです!
ラクドスは相手の動きをいなして盤面のアドバンテージを広げ、それを強力なミシュラランドなどでダメージへと変換していくことを得意としており、マナカーブに従ってテンポ良く動くことに大きな意味があります。2マナ域が追加されたことで、揶揄されがちだった3マナだらけの手札からそれなりに改善されることになりました。
ラクドスは世界各地の地域チャンピオンシップで素晴らしい結果を見せており、『チャンピオンズカップ JAPAN & KOREA』のトップ8ではなんと6名が使用していました。これはまったく偶然ではありません。
ラクドスはマナカーブの悪さが大きな問題のひとつでしたが、それでも非常に手堅いデッキであり、マナカーブを改善する新カードが追加されるたびに、ますます強固なデッキになっていったのです。パイオニアで成功を収めたいのであれば、ラクドスは手持ちのデッキにしておく価値があるでしょう。
ロータスコンボ
地域チャンピオンシップでブレイクスルーを起こしたデッキは、ある意味ロータスコンボだったでしょう。このデッキの実力が本物なのか偽物なのか、長らく私は結論が出せずにいましたが、今回の結果を見るに、その答えはおそらく前者なのでしょう!
ロータスコンボは本質的にとても独特なデッキです。スタック上で呪文を連打したり呪禁の土地を用いたりと、一種のストームコンボのようでありながら、トロンのような動きも見せます。
Magic Onlineプレイヤーのsneakymisatoは、このロータスコンボに今までになかった衝撃的なテクノロジーを導入しています。それは《希望守り》です!
《希望守り》は《演劇の舞台》の代役となり、早ければ3ターン目に《睡蓮の原野》1枚だけでコンボをスタートできるだけでなく、《睡蓮の原野》が2枚あるパターンなら《見えざる糸》で《希望守り》をアンタップするたびに実質5マナを生む爆発力があります。
召喚酔いが解けるのを待たなくてはいけないマナクリーチャーを2枚だけ採用するのは、一見すると非常に違和感がありますが、これはおおむね問題ありません。
パイオニアは大きく分けて2つのデッキがあり、そのひとつである遅めのデッキに対しては妨害されづらい5ターンキルは申し分ない速度ですし、もうひとつの緑単信心、白単人間、ミラーマッチといった高速デッキは妨害が最低限しか入っていません。
2ゲーム目以降、相手からすれば《希望守り》がサイドアウトされているかわからず、サイドの入れ替えがかなり難しいはずです!このテクノロジーはとても良いと思いますね。
ロータスコンボは、最近になってサイドボードが洗練されてきています。《原初の災厄、ザカマ》は頻繁に見かけるようになりました。コンボパーツがそろえば《出現の根本原理》よりも枠を食わずに単体でゲームを支配できます。
《真髄の針》は相性の悪い緑単信心、主に《大いなる創造者、カーン》を意識した採用です。ただ、緑信心は《大いなる創造者、カーン》を対策するよりも早く出してくることも多いんですけどね。
話をまとめると、ロータスコンボは人気が高まりつつあり、結果的に近々ではこれまでよりは悪い選択肢になってしまうでしょう。たしかに妨害されづらいデッキではあるのですが、《減衰球》を筆頭とした対策カードがカードプールにあるからです。
ただ、ロータスコンボの対策カードは用途が狭く裏目もあるため、多くのプレイヤーは不採用にしたり枚数を抑えるものです(むしろ抑えるべきです!)。ですから、最近私は自分でもロータスコンボの習得に時間を使っています。痛みも多く伴ってますけどね。
プロツアー・フィラデルフィアの選択肢にロータスコンボを入れるかどうかはまだまだわかりませんが、参入障壁の高いデッキを深く学んでおくことは、近いうちにとても役立つだろうと思います。
モダン
エルドラージトロン
他方、モダンは相変わらずモダンです。数あるデッキのなかから、先日のShowcase Qualifierを優勝したのはエルドラージトロンでした!
leandruがエルドラージトロンに起こした革新は《刻まれたタブレット》の採用です。土地を3つタップして《作り変えるもの》をプレイするのは今のモダンでは通用しないでしょうし、ウルザランドを早く高確率でそろえようと工夫するのは理にかなっています。
また、このデッキリストには興味深い変更がもうひとつあり、メインデッキの《虚空の杯》が1枚だけサイドボードへ移され、《大いなる創造者、カーン》でサーチできるようになっています。このカードが真価を発揮するのは「続唱」対策だと認識してのことでしょう。
ラクドス想起
ラクドス想起について少し言及しておきましょう。モダンで通用するデッキとして立場を確立してきましたが、自分自身で試したところではパッとしない結果でした。このデッキには根底的な問題がいくつかあるように思います。
「想起」と《フェイン・デス》のコンボを軸にしてるため、土地の枚数を抑えてエレメンタル・クリーチャーのピッチコストとなる有色のカードを多く採用せざるを得ません。
その反面、中盤戦までもつれ込んだ場合は《歴戦の紅蓮術士》《死の飢えのタイタン、クロクサ》を余すことなく活用したり、エレメンタル・クリーチャーを素だしするために土地を伸ばしたい展開になりがちです。
明確に相反する2つのゲームプランを内包しているため、理論上良さそうなデッキだと思っても、実際に使ってみると生まれながらに歪な構造なのだと冷静にさせられてしまいます。残念ながら、これはこのデッキの特徴のひとつであり、解消するのは難しいでしょう。
たとえば《表現の反復》を使えれば、中盤戦で土地を伸ばしながらミッドレンジのゲームプランの支えになってくれるかもしれません。色を足さないとすれば、《夜の囁き》や《無謀なる衝動》といった弱めの代替品になってしまいます。
ジェスカイブリーチ
12月3日のShowcase Qualifierでは、比較的一般的な構成のジェスカイブリーチが2つ入賞していましたが、ここでは私がModern Challengeでトップ8に入ったときのリストをご紹介しましょう。
『モダンホライゾン2』が出るずっと前、このアーキタイプに少し触れ、《研磨基地》コンボを決められる強固な構成を摸索していたことがあります。しかし、最近になってまた頭角を現し始め、人気に火がついてきたことを受け、またこのデッキを使うに至りました。
《研磨基地》と《モックス・アンバー》のコンボは、とても脆いうえに面倒なコンボです。特定のカードをそろえるだけでは足りず、墓地をたくさん肥やす必要があり、その間に妨害されるポイントを何度も相手に与えてしまいます。また、コンボだけしかゲームプランがないデッキであれば、相手はそう苦労することはないでしょう。
そこに革新をもらたらしたのが『モダンホライゾン2』の脅威であり、墓地に依存しないミッドレンジのゲームプランを可能にしました。妨害されなければそれだけで勝利を手にできるほど強いプランであるため、相手がやむを得ず作ってしまった隙を突いてコンボを決められるようになったのです。
また、《死の国からの脱出》は単純に強力なカードです。《死の国からの脱出》があれば、モダン最強のキャントリップである《ミシュラのガラクタ》は、さながら《宝船の巡航》です。実際、《死の国からの脱出》をドロー呪文として使ったミッドレンジプランで勝てそうであれば、《ぶどう弾》《研磨基地》《モックス・アンバー》を完全にサイドアウトしてしまうことはよくあります。
《ぶどう弾》は勝利条件としてみると《タッサの神託者》にやや劣ります。コンボを決めるには追加で墓地に3枚必要とすることもあります。ただ、フェアなゲーム展開でドローしたときに《ぶどう弾》のほうがはるかに使いやすく、そしてなによりも《湧き出る源、ジェガンサ》を採用できるようになります。サイド後は消耗戦になり、5/5のクリーチャーが勝敗を決したのは一度ではありませんでした。
「強いカードをとにかく多く入れろ」というのはここ数年のマジック、モダンでも当たり前なことに思えますが、インターネット上の議論を見ていると少し履き違えている印象を受けることがあります。同じカードを引いたときに価値が下がる現象は確かに存在するのです。
《湖に潜む者、エムリー》は確実に除去すべき対象であり、《死の国からの脱出》を始動させますが、初手に2枚は絶対に引きたくありません。アーティファクトが多く引けていない展開でも2枚は要らないでしょう。墓地対策や《真髄の針》で一網打尽にされているときも複数枚引きたくありませんよね。
《ウルザの物語》も強力なカードですが、2枚目の土地として置かなくても良い選択肢を持てることは非常に重要ですし、万が一《血染めの月》を置かれると一気にすべてが対処されてしまいます。
その収録当初から《モックス・アンバー》は幾度となく初手を機能不全にしてきました。実際、ジェスカイブリーチで3枚以上採用する理由はほとんどありません。コンボをするにも《ミシュラのガラクタ》でライブラリーを「切削」し、《モックス・アンバー》を「脱出」させればコンボフィニッシュできます。
要するに、どんなコンボデッキよりも柔軟性があって、サイドボードから対策されづらいコンボデッキが望ましいのです。コンボキルの要素は少しだけに抑え、ゲームが長引いたときにいずれ決められる、あるいは必要なときに探しに行けるようなデッキを私は求めています。
赤単果敢
不気味なことに、この《研磨基地》デッキを除いて《死の国からの脱出》はモダンからその存在を消していました。
それが最近になり、どうやら《第三の道の偶像破壊者》をきっかけにMagic Onlineで果敢デッキが姿を見せるようになりました。《第三の道の偶像破壊者》がモダンの定番カードになるとは考えづらいですが、《死の国からの脱出》を”フェア”な方法で使う方向性は検討に値するだろうと思います。
このリストでは《ミシュラのガラクタ》で果敢を稼ぎながら、極限まで攻撃的で効率的であろうとしているのです。さらに、《稲妻》や《僧院の速槍》+《変異原性の成長》を《死の国からの脱出》で墓地から唱えるコンボで瞬く間に相手を葬り去る、侮りがたい力を持っています。今度のストリームでぜひ試してみたいですね。
今回はここまで。また次の記事でお会いしましょう。
ピオトル・グロゴゥスキ (Twitter / Twitch / Youtube)