はじめに
みなさん明けましておめでとうございます、晴れる屋メディアチーム所属・認定レベル1ジャッジの島田と申します。
『ジャッジと一緒にルールを学ぼう!』では、ゲームでよく使われているカードや、ジャッジをしていてよく聞かれるルール”のみ”に焦点を絞り、回ごとのテーマに合わせて例を挙げ・極力わかりやすく説明していきます。
※2022/12/29時点のマジック総合ルールに基づいています。
※文章の都合上、表現を簡略化・省略している場合があります。ご了承ください。
※本記事は複数のジャッジが監修していますが、誤りや疑問点を見つけましたらお問い合わせページにてご指摘ください。
謎の単語「オブジェクト」
総合ルールより引用
109. オブジェクト
109.1. オブジェクトとは、スタック上の能力、カード、カードのコピー、トークン、呪文、パーマネント、紋章のことである。
今回のテーマは「オブジェクト」です。「何それ?一度も聞いたことない」という方もいると思います。それもそのはず、この単語がカードのテキストに出てきたことは一度もありません。それがどうゲームに関係するのでしょう?
ここで突然ですが、この4枚のカードをご覧ください。
どれもアーティファクトに関係するカードですが、それぞれ以下のように表現方法が異なります。
・「アーティファクト1つを対象とし」
・「アーティファクト・呪文を唱えるための」
・「アーティファクト・カード1枚を対象とする」
・「発生源がアーティファクトやエンチャントであり起動型や誘発型である能力」
なぜ?その理由は「オブジェクト」の意味を知ることで明らかになります。
それでは始めましょう。
オブジェクトとはなにか
オブジェクトとはずばり「カード、カードのコピー、トークン、呪文、スタック上の能力、パーマネント、紋章」を総称した表現です。
例えば、
・「戦場にいる《王冠泥棒、オーコ》」は「パーマネント」なのでオブジェクト
・《歴戦の紅蓮術士》の戦場に出たときの誘発型能力は「スタック上の能力」なのでオブジェクト
・唱えた《稲妻》は「呪文」なのでオブジェクト
・統率領域にいる《織り手のティムナ》は「カード」なのでオブジェクト
と、ゲームに存在する物の大半がオブジェクトです。
逆にオブジェクトではないのは、以下の物などです。
・「プレイヤー」
・「(カードの上に乗った)カウンター」
・「ダンジョンそのもの」(ダンジョンが誘発させた能力は「オブジェクト」です)
このように、ゲームに登場するほとんどの物がオブジェクトと言って差し支えないでしょう。
カードに「オブジェクト」という言葉が出てこないのは、範囲が広すぎて扱いづらいからだと思われます。「すべてのオブジェクトを破壊する」なんて効果があったら、ライブラリーのカードまで破壊しちゃいますからね(そもそも破壊できるかわかりませんが)。
範囲が広すぎて扱いづらい「オブジェクト」の代わりに、実際のカードではさまざまな表現を使って効果が及ぶ範囲を表します。そこで重要になるのが、先ほど紹介した4つの表現方法になります。
いろんな表現
ここからはいろいろなカードを見ながら、そこで使われている表現がどの範囲にあるオブジェクトを指すのか紹介していきます。
表現その1:カード・タイプ/サブタイプ
総合ルールより引用
109.2. 呪文や能力が「カード/card」「呪文/spell」「発生源/source」「計略/Scheme」という単語なしでカード・タイプやサブタイプを用いてオブジェクトを表現している場合、戦場に出ているそのカード・タイプやサブタイプのパーマネントのことを意味する。
まずこちら。
・「各土地はそれぞれ、それの他の土地タイプに加えて沼でもある。」
・「アーティファクトの起動型能力は起動できない。」
・「あなたがコントロールするエルフ1体をオーナーの手札に戻す:クリーチャー1体を対象とし、それをアンタップする。この能力は、毎ターン1回のみ起動できる。」
これらのカードはそれぞれ、
・「各土地は」
・「アーティファクトの」
・「エルフ1体を」「クリーチャー1体を」
と、カード・タイプやサブタイプだけを使ってオブジェクトを表現しています(土地とアーティファクトとクリーチャーはカード・タイプ、エルフはサブタイプ)。
この場合、効果は戦場にあるオブジェクトだけに影響します。
例として、
・《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》があってもライブラリーの中にある土地は「沼」にならないので、《聖なる鋳造所》を《汚染された三角州》で持ってくることはできない。
・《溜め込み屋のアウフ》がいても、手札の《鏡殻のカニ》の「魂力」を使える。
・《ワイアウッドの共生虫》で墓地にあるエルフを手札に戻すことはできない。
など、ライブラリーや手札、墓地にあるカードには効果が及びません。
また、こういった書き方のカードはどれもカード・タイプやサブタイプで影響が及ぶ範囲を指定しています。
例えば《世界を揺るがす者、ニッサ》の「あなたがマナを引き出す目的で森をタップするたび、追加でを加える。」は、「《森》という名前の土地」ではなく「『森』というサブタイプを持つ土地」を指しています。なので、カード名が《森》ではない《寺院の庭》から出るマナも増えます。意外と「そうなることは知っているけど、なぜかは知らない」ルールではないでしょうか。
表現その2:カード/領域
総合ルールより引用
109.2a 呪文や能力が「カード/card」という単語と領域名を用いてオブジェクトを表現している場合、その領域にありその表現に合うカードのことを意味する。
続いてはこちら。
・「各プレイヤーはそれぞれ、自分の手札からアーティファクト・カード1枚かクリーチャー・カード1枚かエンチャント・カード1枚か土地・カード1枚を戦場に出してもよい。」
・「銀エラの達人を唱えるための追加コストとして、あなたの手札からマーフォーク・カード1枚を公開するかを支払う。」
・「, :あなたの墓地にあるゾンビ・カード1枚を対象とし、それをあなたの手札に戻す。」
これらのカードはそれぞれ、
・「自分の手札からアーティファクト・カード1枚か」
・「あなたの手札からマーフォーク・カード1枚を公開するか」
・「あなたの墓地にあるゾンビ・カード1枚を対象とし」
と、「領域の名前」と「○○・カード」という単語を使ってオブジェクトを表現しています。この場合は単純明快で、指定された領域にあるそれらのカードのことを指します。「あなたの手札から」ならライブラリーや墓地のカードは選べません。シンプルですね。
「○○」と「○○・カード」の使い分けがわかりやすいカードの一例としては《大いなる創造者、カーン》が挙げられます。
伝説のプレインズウォーカー – カーン
対戦相手がコントロールしているアーティファクトの起動型能力は起動できない。
[+1]:クリーチャーでないアーティファクト最大1つを対象とする。あなたの次のターンまで、それはパワーとタフネスがそれぞれそれの点数で見たマナ・コストに等しいアーティファクト・クリーチャーになる。
[-2]:あなたは、ゲームの外部か追放領域にありあなたがオーナーであるアーティファクト・カード1枚を選び、そのカードを公開してあなたの手札に加えてもよい。
最初の能力と[+1]能力は「アーティファクト」なので戦場にあるアーティファクトにしか影響せず、[-2]能力は「ゲームの外部か追放領域にありあなたがオーナーであるアーティファクト・カード」なのでゲームの外部か追放領域にあるカードしか手札に加えられません。
しかも各フォーマットで広く使われており、説明にぴったり。「大いなる創造者」じゃなく「大いなる教育者」と名乗っていただいても構いませんよ。
表現その3:呪文
総合ルールより引用
109.2b 呪文や能力が「呪文/spell」という単語を用いてオブジェクトを表現している場合、スタックにありその表現に合う呪文のことを意味する。
3つ目はこちら。
・「クリーチャー・呪文1つを対象とする。それを打ち消す。」
・「あなたが唱えるスリヴァー・呪文は続唱を持つ。」
・「あなたの各ターンの間、あなたはあなたの墓地からマナ総量が2以下のパーマネント・呪文を1つ唱えてもよい。」
これらのカードはそれぞれ、
・「クリーチャー・呪文1つを」
・「スリヴァー・呪文は」
・「マナ総量が2以下のパーマネント・呪文を」
と、「○○・呪文」という単語を使ってオブジェクトを表現しています。この場合は、スタックにある(もしくはこれから置かれる)それらのカードのことを指します。これもシンプルですね。
「○○」と「○○・呪文」をカード1枚で使い分けている例としては、最近登場した《ラト=ナムの創立者、ドラフナ》が挙げられます。
伝説のクリーチャー – 人間・工匠・アドバイザー
:あなたがコントロールしているアーティファクト1つを対象とする。それをオーナーの手札に戻す。
,:あなたがコントロールしているアーティファクト・呪文1つを対象とする。それをコピーする。(そのコピーはトークンになる。)
上の能力は「アーティファクト」なので戦場にあるカードのみ、下の能力は「アーティファクト・呪文」なのでスタックにある呪文のみ対象にできます。すでに戦場に出ているアーティファクトをコピーできる能力ではないんですね。
表現その4:発生源
総合ルールより引用
109.2c 呪文や能力が「発生源/source」という単語を用いてオブジェクトを表現している場合、どの領域にあるかに関係なく、その表現に合う、能力やダメージやマナの発生源のことを意味する。rule 113.7 および rule 609.7 参照。
最後はこちら。
※総合ルールには計略・カードに関するルールもありますが、今回は省略します。アーチエネミー好きの方はごめんなさい!
・「あなたがコントロールする発生源が対戦相手がコントロールするクリーチャーに戦闘ダメージでないダメージを与えるなら、代わりにその点数に等しい数の-1/-1カウンターをそのクリーチャーの上に置く。」
・「その選ばれた名前を持つ発生源の起動型能力を起動するためのコストは、それがマナ能力でないかぎり多くなる。」
・「, :あなたがコントロールしていて発生源がエンチャントであり起動型や誘発型である能力1つを対象とする。それをコピーする。あなたはそのコピーの新しい対象を選んでもよい。(マナ能力は対象にできない。)」
これらのカードは、それぞれ
・「あなたがコントロールする発生源が」
・「その選ばれた名前を持つ発生源の」
・「あなたがコントロールしていて発生源がエンチャントであり」
と「○○発生源/発生源が○○」という単語を使ってオブジェクトを表現しています。この場合は、とにかく○○に当てはまればどこにあるオブジェクトでもOKです。なので、
・「《損魂魔道士》がいると、《稲妻》《反逆の先導者、チャンドラ》《ゴブリンの鎖回し》の誘発型能力などのダメージは全部-1/-1カウンターに代わる」
・「《選定された平和の番人》で選ばれた名前を持つオブジェクトは、戦場にあっても墓地にあっても手札にあっても起動型能力が重くなる」
・「《調和の織り手》はエンチャントの起動型能力やエンチャントが戦場に出たときの誘発型能力だけでなく、《超常的救出》を唱えたときの誘発型能力もコピーできる」
など、とても広い範囲に影響を及ぼすことができます。《真髄の針》があれば、戦場の《ドミナリアの英雄、テフェリー》にも手札の《耐え抜くもの、母聖樹》にも墓地の《大釜の使い魔》にも対処できます。万能!
その他のあれこれ
ここまで説明したことに加え、オブジェクトに共通するルールがいくつか存在します。
○オブジェクトは「特性」を持つ
これもほぼルールにしか出てこない用語ですね(一応《荒くれたちの笑い声》のテキストに登場したことがあります)。
特性とは「名前、マナ・コスト、色、色指標、カード・タイプ、特殊タイプ、サブタイプ、ルール・テキスト、能力、パワー、タフネス、忠誠度、手札補正子、ライフ補正子」で、オブジェクトはこれらを全部持つことも一部持つこともあります。
「特性」に関しては、今後の記事で詳しく説明します。それまでは「特性ってのがあるんだな」という理解で大丈夫です。
○オブジェクトのコントローラー
ゲーム中に、《剣を鍬に》のライフ回復などでオブジェクトのコントローラーは誰か?という情報が必要なことがあります。
「スタックか戦場にあるオブジェクト」「マナ能力」「まだスタックに置かれていない誘発型能力」「紋章」などは、それぞれのルールによってコントローラーが決められています(普通は出したり唱えたりしたプレイヤー)。
それ以外の「ライブラリーや墓地や追放領域にあるカード」はコントローラーがいません(自分のライブラリーのカードだとしても)。もしそのカードのコントローラーを聞かれた場合、オーナーがコントローラーの代わりになります。
○オブジェクトに「あなた」と書いてあった場合
オブジェクトに「あなた」と書いてあった場合は、それはその時点でのコントローラーを指します(コントローラーがいなかったらオーナー)。
普通はそれだけ覚えていれば問題ないのですが、コントロールを奪ったり、装備品・オーラ・《The Tabernacle at Pendrell Vale》などでほかのカードに能力を与える場合はややこしくなります。
例を挙げます。
例1
Aさんが《最高工匠卿、ウルザ》を出し、能力で構築物・トークンが出た。 トークンのコントロールをBさんが《大魔導師の魔除け》で奪うと、構築物・トークンの能力「このクリーチャーは、あなたがコントロールしているアーティファクト1つにつき+1/+1の修整を受ける。」の「あなた」はAさんからBさんに変わる。
例2
Aさんが《願い爪のタリスマン》、Bさんが《戦争の報い、禍汰奇》をコントロールしている。
Aさんのアップキープ開始時、《願い爪のタリスマン》が持っている《戦争の報い、禍汰奇》の能力がスタックに積まれたところでAさんは《願い爪のタリスマン》を起動した。
解決後、《願い爪のタリスマン》のコントロールはBさんに移る。その後《戦争の報い、禍汰奇》の能力が解決するとき、マナを支払う「あなた」は能力が誘発したときの《願い爪のタリスマン》のコントローラーであるAさん。
ただし「自分のコントロールしていないパーマネントを生け贄に捧げることはできない」というルールがあるため、Aさんがマナを払わなくても《願い爪のタリスマン》はBさんの元に残る。
例3
Aさんが《頭蓋囲い》のついた《羽ばたき飛行機械》をコントロールしている。《羽ばたき飛行機械》のコントロールをBさんが《ダク・フェイデン》で奪った。
このとき《頭蓋囲い》は依然Aさんがコントロールしているので、《頭蓋囲い》の+修正はAさんのアーティファクトを数えて、Bさんの《羽ばたき飛行機械》を強化する。
特にコントロールが突然変わると「あなた」が誰を指しているかわからなくなりがちです。しっかりテキストを見て、どの能力が何に影響するか確認しましょう。
問題
ここまでの説明を踏まえて、問題です。
問1
あなたは《ギャレンブリグ城》の下の能力を起動して6マナを出した。この6マナを墓地の《街並みの地ならし屋》の「蘇生」に使えるか?
問2
相手は《茨の騎兵》をコントロールしている。あなたは《裏切りの工作員》で《茨の騎兵》のコントロールを奪った。この状態で《茨の騎兵》が死亡するとどうなる?
問3
あなたの手札には《エメラルド・ドラゴン》/《耳障りな波長》がある。相手は《世界を壊すもの》を唱え、誘発型能力であなたの土地を破壊しようとしている。この誘発型能力を《耳障りな波長》で打ち消せるか?
おわりに
第5回「オブジェクト」はいかがでしたでしょうか。
今回はかなり抽象的なことについての説明でしたが、なるべく実際の例をたくさん挙げてゲームに役立つように説明したつもりです。その分、ルールとして詳細・厳密ではないことをご了承ください。
「長い」「短い」「次はいつ?」「こんな状況になったらどうなるの?」など、ご意見・ご要望がありましたらぜひお問い合わせページや晴れる屋メディアのTwitterまでご連絡ください。また晴れる屋Discordのルール質問チャンネルでは、いつでもみなさまからのルール質問をお待ちしております。
それでは、次回の記事でお会いしましょう。