はじめに
その昔、緑単のコンボといえばアーティファクトを使用したものが主でした。
今ではもう使われない……ということはありませんが、アーティファクトを探す手段に乏しい緑単にとって、運頼みの要素が大きいことは否定できません。ただ『運命再編』で《ティムールの剣歯虎》が登場したことで、クリーチャーのみでのコンボが可能に。これによってコンボパーツを集めること自体は容易になりました。
とはいえまだまだ前提条件や必要マナが多く、ほかの色のコンボと比べると大振りでした。しかし、『ゼンディカーの夜明け』のリリースで状況が大きく変わります。《野生の魂、アシャヤ》の登場は、緑単のコンボを格段にコンパクトなものにしました。
今では緑単のコンボデッキの多くがこのコンボを取り入れています。前回の《飢餓のドミヌス、ゾパンドレル》のデッキにも採用しました。
というわけで今回ご紹介するのは《野生の魂、アシャヤ》
……ではなく《放浪の吟遊詩人、イーサーン》です。
《放浪の吟遊詩人、イーサーン》を知ろう
緑単ファンのみなさまこんにちは。晴れる屋のきよそねです。今回は自分がもともと愛用している《放浪の吟遊詩人、イーサーン》の競技志向なデッキをご紹介します。前回が「力」なら今回は「技」。緑単のテクニカルな側面をお見せしましょう。
《放浪の吟遊詩人、イーサーン》は『基本セット2015』で登場した伝説のクリーチャー。『基本セット2015』は外部のゲームデザイナーがデザインしたカードが何枚か収録されており、イーサーンもその中の1枚。デザイナーはFalloutのエグゼクティブプロデューサーなどで知られているBrian Fargo氏です。
能力は前回の《飢餓のドミヌス、ゾパンドレル》とは対照的にテクニカルなもの。能力を起動するたびに詩句カウンターが増えて、詩句カウンターの数と同じマナ総量のクリーチャーをデッキから戦場に出します。
つまり、クリーチャーだけで成立するコンボであれば、イーサーン1枚でそろえることができるのです。こうした0枚コンボを有するという点においては《山賊の頭、伍堂》や《厚顔の無法者、マグダ》と似ていますね。
この特徴は、非クリーチャー呪文に対する妨害に偏ったcEDHの環境において有利に働きます。コンボパーツを探す必要がなく、対戦相手からの妨害も受けにくいため、安定してコンボを成立させることができるためです。
統率者+1枚コンボで勝てる《鋭い目の航海士、マルコム》や《刃を咲かせる者、ナジーラ》はcEDHの世界でも一線級。ならば、0枚コンボで勝ててしまうのは最強なのでしょうか?
実際にはそうではありません。0枚コンボを有する統率者はそれぞれ弱点を抱えています。《放浪の吟遊詩人、イーサーン》の弱点は速度。能力を5回起動する必要があるうえ、召喚酔いの影響を受けるため、コンボが成立するのは平均して5ターン目以降になります。これはcEDHでは間に合わないことも多いでしょう。
ではどうするのか。自分が遅いなら周囲も遅くすればよいのです。
かつての《放浪の吟遊詩人、イーサーン》は毎回のサーチでコンボの下準備をする必要があり、妨害カードのサーチとの両立が困難でした。《野生の魂、アシャヤ》の登場によって4マナ(《アルゴスの古老》)と5マナ(《野生の魂、アシャヤ》)以外は妨害カードをサーチすることが可能に。
そのほかにもいわゆる「スタックス」と呼ばれる置物も駆使して、《放浪の吟遊詩人、イーサーン》が勝てるレンジまでゲームを引き延ばします。
デッキリスト
以上を踏まえて組んだのがこちらのリストです。いくつかのカードをピックアップして紹介していきましょう。
アーティファクト対策
《溜め込み屋のアウフ》と《無のロッド》はクリーチャーデッキの定番カード。競技的な統率者戦ではアーティファクトによるマナ加速をするデッキが多く、場合によっては1枚で機能不全に陥らせることも。
《根の迷路》と《刻み角》はアーティファクトをタップインさせる能力。1ターンのみのテンポダウンではありますが、その1ターンが欲しいのがイーサーンという統率者。《ライオンの瞳のダイアモンド》は止められないことには気をつけましょう。
コスト増加
周囲の減速といえばやはりこれ。コンボルートによっては呪文を1枚も唱える必要がないため、自身が受ける影響は小さなものです。不用意に置いて、ほかのプレイヤーのコンボをサポートしてしまわないよう注意も必要です。
《倦怠の宝珠》《クローサの拳カマール》
緑は優秀なETB能力を持ったクリーチャーが多く《倦怠の宝珠》はむしろ緑対策として機能することも珍しくありません。しかし、《タッサの神託者》《波止場の恐喝者》《呪文探求者》といった強力なカードを止められるのであればお釣りがくるでしょう。
《野生の魂、アシャヤ》の登場によって無限マナ自体はETB能力なしで成立するようになりました。無限マナ成立後は森になったイーサーンを《アルゴスの古老》でアンタップして再起動。《クローサの拳、カマール》をサーチし、無限マナをつぎ込んで勝利します。
ドルイドコンボ
ありとあらゆる方法で酷使されてきた《献身のドルイド》ですが、《ジアーダの贈り物、ラクシオール》の登場で緑単でも無限マナが出せるように。緑単ではアクセスしづらいアーティファクトが相方ですが、1マナなので《ウルザの物語》でサーチ可能です。
無限マナを出した後はイーサーンを起動して《ハイラックス塔の斥候》→《ティムールの剣歯虎》とサーチすることで、《クローサの拳カマール》にたどり着くことが可能です。
使いこなすために
《放浪の吟遊詩人、イーサーン》に詩句カウンターが乗るのは起動型能力の「コスト」です。そしてカウンターの数は能力の解決時にカウントします。そのため、3回目の能力の解決前にアンタップして再度起動することで、3マナと4マナのクリーチャーではなく、4マナのクリーチャーを2枚サーチすることが可能です。頻繁に使うテクニックではありませんが、覚えておくと思わぬタイミングで役に立つことがあります。頭の片隅に置いておきましょう。
このほかにも細かいテクニックの多いデッキです。ひたすら一人回しをして、デッキの動きを身につけましょう。ちなみにこちらのリストでは戦闘をせずに勝利することも可能です。みなさんもぜひ考えてみてください。
また「自分が遅いなら周囲も遅くすれば良い」と書きましたが、考えなしに妨害することは負けにつながります。ゲームが長引くほど有利になるコントロール、クリーチャー主体のデッキなどが卓にいる場合は、妨害カードを置くことが彼らにとって有利に働くためです。
とはいえ、こうした駆け引きはなかなか難しいものです。対戦後は積極的に感想戦をして、今後の判断の参考にしましょう。
というわけで、今回は《放浪の吟遊詩人、イーサーン》で緑単の「技」の側面についてご紹介しました。また次回《ヤヴィマヤのうろ穴》でお会いしましょう。