スタンダードへの立ち返りと地域チャンピオンシップに参加して

Piotr Glogowski

Translated by Riku Endo

原文はこちら
(掲載日 2023/03/28)

スタンダードの復活

ここ数週間の週末で、日本やヨーロッパ、そしてそのほかいくつかの場所で『地域チャンピオンシップ』が開催されました。パンデミック以降で初めて、紙のスタンダードが大々的に復活したのです。

MPL制度のあった時代と世界中でのちに起きたロックダウンの間、スタンダードは、そうですね…あまり良くない状態でした。それには多くの理由があります。

王冠泥棒、オーコむかしむかし創案の火荒野の再生

『エルドレインの王権』から始まった終わりの見えないような一連の禁止制限告知はしばらく止まりませんでしたし、かつてスタンダードが競技的に行われる主な場のひとつであったMPLは、そのシステムの外側のプレイヤーたちを孤立させてしまいました。それに加えて紙のトーナメントが減ったことで、競技レベルでこのフォーマットをプレイする気がない人たちをも置き去りにしてしまっていたのです。

プロツアー・ファイレクシア』について話しておくと、私は10-6の35位で終えました。これにより、5月にミネアポリスで行われるプロツアーへの招待を得ることができていたのです(旅行の様子はこちらのvlogで!)。

今の競技システムにおいて地域チャンピオンシップに参加する大きな動機となるのは、プロツアー権利の獲得です。すでにこれを有していた私にとって、ナポリの地域チャンピオンシップへ準備するモチベーションはとても高いとは言えませんでした。それにもかかわらず、長らくスタンダードを積極的に追っていなかったなかで、ほぼ一週間を費やして配信でこのフォーマットに没頭することができました。今回はそこで得た考えについてシェアしたいと思います。

黙示録、シェオルドレッド鏡割りの寓話絶望招来

まず、大部分においてスタンダードは楽しいです。たとえ環境を支配している戦略が、シナジーのあまりないほぼ質の高いカードで構成されたミッドレンジデッキだとしても、そのゲーム体験はとても深く面白いです。はっきり言って、これはスタンダードフォーマットにおける永遠の課題ですが、環境を支配している戦略はシナジーのあまりないほぼ質の高いカードで構成されたミッドレンジデッキです。だとしても、今のスタンダードのゲーム体験はとても深く面白いです。さまざまなミッドレンジデッキがある中でも環境にはそれなりの多様性が見て取れます。

要塞化した海岸堡種子中枢英雄の公有地

そして最近は、1マナのカードをプレイできるかによって生死がかかっているようなアグロデッキに、より良いマナベースの改善が見られ、私はこれをとても気に入っています。《要塞化した海岸堡》《種子中枢》、それから少し限定的ですが《英雄の公有地》などのカードたちは、グッドスタッフ系のミッドレンジデッキを偶発的に強化しすぎることなく、アグロデッキのマナベースを容易なものにしています。

地域チャンピオンシップでの選択と調整

大会で使用したのは「セレズニアポイズン」で、佐藤 レイが『チャンピオンズカップファイナル サイクル2』で優勝に輝いたのを見てこのデッキを選びました。セレズニアポイズンはほぼセット限定構築のデッキです。

「毒性」のメカニズムを持ったカードすべてをプレイできるように設計されているのですが、プレイアブルなカードはわずかなため、使えるものはすべて使うことになります。近頃のキーワード能力は大体セット限定なので、さらなる「毒性」のカードは今後期待できません。

スタンダードにおいて、このデッキのコアは今のままずっと変わらないでしょう。昔のブロック制が懐かしくなりますね。いくつかのセットの間でメカニズムに厚みが出て、強力なテーマを中心に組まれたデッキは時間とともにアップグレードされたり、さらなるオプションを得ることができました。残念ながら、私たちはもうそういう世界には生きていません。

カードデザインについて思いを巡らせたところで、そうはいっても、トーナメントで使うデッキを決める必要があったのです。そして「毒性」デッキを試してみたところ、すぐに気に入って決断しました。グリクシスに対してしっかりと戦えて、一般的なアーキタイプや未知なアーキタイプに対しても上手く先手を打てるプランがあったからです。このデッキ選択が最善の選択であったか、または今後もなりうるか主張する気はありませんが、このデッキを研究するのは楽しかったし、とても興味が沸いていたのです。

ダニの突撃別館の歩哨

レイのリストにはあまり好きになれなかった細かい部分がいくつかありました。《ダニの突撃》は自分の好み的にややリミテッドレベルすぎると感じ、《別館の歩哨》はグリクシス相手に《死体鑑定士》《キキジキの鏡像》を追放したときに裏目になることが頻繁にありました。

そこで私は、スタンダードリーガルで自分のクリーチャーを対象にするすべてのカードを何度も試しました。《敬慕される腐敗僧》と大きなシナジーを生む隠れた宝石を見つけ出したかったのです。不思議なことに、オーラ呪文がクリーチャーを対象に取ることを忘れていて思い出すのにずいぶん時間がかかってしまいました!

無鉄砲

有用なカードはないか目を通していると《無鉄砲》が目に留まり、試してみるととても気に入りました。本当に多くの点で役に立つのです!

・攻撃が通しやすくなります。ダニ・トークンや《這い回る合唱者》にエンチャントすれば、《税血の収穫者》やゴブリン・シャーマン・トークン、《死体鑑定士》に対して損をしないアタックをしかけられます。

・トランプルで1でもダメージが通れば「毒性」は機能するので、エンチャントされたクリーチャーが実質的にブロックされない能力を持っているかのような状況にもよくなります。

《無鉄砲》《絶望招来》のバリューを下げるのにも役立ちます。《無鉄砲》のドロー効果はクリーチャーが墓地に置かれたときではなく、このエンチャントが墓地に置かれたときに誘発するからです。

・また、無駄なくマナを使っていきたいこのデッキには《ミレックス》《種子中枢》といったマナフラッド受けになるカードが豊富にあり、《タイヴァーの抵抗》のためにマナを温存しておきたいこともしばしばあります。《無鉄砲》を採用することでデッキ全体のマナカーブが低くなるので、そういった点でも役立っているのです。

セレズニアポイズン

この(自称)天才的テクニックのピースを見つけていたにもかかわらず、ナポリではたった3-4という記録で大会を終えました。2日目に進むこともできなかったのです。大会前日にTwitterでデッキリストを公開したのですが、私の個人成績が振るわなかった一方で、トリスタン・リーンダーズ/Tristan Leendersが同じ《無鉄砲》入りのリストで13位に入ったのを見られたのは嬉しかったです。

そのほか大会注目デッキ紹介

エスパーレジェンズ/準優勝

英雄の公有地

ナポリで現れたエスパーレジェンズは間違いなく「本物」で、とても高い勝率を記録しました。このデッキは多くの点で非常に優れていますが、私にとってもっとも印象的だったのはそのマナベースです。伝説のテーマに沿いつづければ、《英雄の公有地》はアンタップインで好きな色のマナを出すペインレスランドです。それに加えて、クリーチャーを守るマナフラ受けにもなるのです!安定したマナは勝利をもたらします。

皇国の地、永岩城天上都市、大田原見捨てられたぬかるみ、竹沼

もう1つこのエスパーの興味を引く点は、『神河:輝ける世界』の「魂力」土地の使い方です。8枚も「魂力」土地を採用して、かつこれらの「魂力」のコストを絶えず1-2マナに軽減できればとても良い初手ができやすく、序盤の土地づまりを起こすこともそうそうありません。中盤、終盤になれば《天上都市、大田原》《皇国の地、永岩城》はただ使えるだけでなく、かなり効率のよいスペルになります。

スペル間に明白なアドバンテージやシナジーを生み出すわけでもないのに伝説をテーマにしてデッキを組む、というのは珍しいことです。ですがその代わりに、とんでもないマナベースを築いているのです。

もう一度言いますが、デッキ構築において安定性は何物にも勝るのです。そして、エスパーこそ私がその進歩を注視しているデッキの一つです。4色目をタッチすることさえも大いに可能で、まだまだ発展途上に見えるのです。

グリクシスミッドレンジ/優勝

マイケル・ロフルボック/Michael Rohrbockは、このフォーマットにおけるデフォルトのベストデッキと言ってもいいグリクシスミッドレンジでこのトーナメントを優勝したのですが、実は彼はこのアーキタイプにいくらか真新しい変化を加えています。

切り崩し墓地の侵入者黙示録、シェオルドレッド

パワフルではあるものの時に扱いづらい《勢団の銀行破り》の枚数を少なくして、対アグロ用に最適な除去スペルである《切り崩し》をメインから最大限に採用しています。大量の除去スペルや3枚の《黙示録、シェオルドレッド》、さらには《墓地の侵入者》によって、彼のバージョンはアグロ対面でも後れを取らないようになっているのです。

いくつか特定のカード選択に関して賛成できない部分がある人も多いかもしれませんが、それもこのアーキタイプの地力と柔軟性の高さをとてもよく表しています。グリクシスはおそらく最強デッキの一角でありつづけると思いますが、デッキを毎週こまめにチューニングすることが依然としてとても大切になるでしょう。

白単ミッドレンジ/20位

私は白単ミッドレンジを今までにほんの軽くしか触ってないのですが、そのスピードにうんざりしてしまいました。生きながらえることと相手の脅威を除去することにはとても長けているのですが、危機を脱してから実際に勝負に勝ち切るまでにずいぶん時間がかかりますし、試合が膠着することもあります。このデッキを使えば、時間切れと引き分けになるリスクがついて回ることが最初から分かりきっていました。

廃墟の地解体爆破場

私より勇気のある(またはプレイングの速い)人たちにとっては、ファブリツィオのデッキリストにはとても興味深い発展が見られます。マナベースが13枚の平地であることを利用して(《解体爆破場》を含め)実質7枚の《廃墟の地》を採用しているのです。エスパーやグリクシス、セレズニアポイズンは決まって基本土地を1-2枚しか入れておらず、このような基本土地の重要性を軽視したデッキのマナベースが咎められるのはよくあることです。

たとえ白単ミッドレンジのこの大会における勝率が最高ではなくとも、誰もがこの《廃墟の地》による妨害をこれから念頭に入れておく必要があります。より多くのデッキが容易に付け込まれないために、追加で1-2枚の基本土地を取り入れるのに並々ならぬ苦労を目にすることでしょう。

おわりに

5月の『プロツアー・ミネアポリス』はもう一度スタンダードで行われます。このフォーマットを引き続き注視し、『機械兵団の進軍』の発売前であっても情報を最新にアップデートしながらフォーマットに自分を慣れさせていくつもりです。スタンダードは常に私にとってのアキレス腱のように感じるので、改善するために最善を尽くしていきますよ!

それではまた次の記事でお会いしましょう!

ピオトル・グロゴゥスキ (Twitter / Twitch / Youtube)

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Piotr Glogowski マジック・オンライン上でkanisterとしてその名を轟かせ、Twitchの配信者としても人気を博す若きポーランドの雄。 2017-2018シーズンにはその才能を一気に開花させ、プロツアー『イクサラン』でトップ8を入賞すると続くワールド・マジック・カップ2017でも準優勝を記録。 その後もコンスタントに結果を残し、プラチナ・レベル・プロとしてHareruya Prosに加入した。 Piotr Glogowskiの記事はこちら