スタンダード情報局 vol.116 -《碑出告と開璃》が戦場を去り、そして誰もいなくなった-

富澤 洋平

はじめに

みなさんこんにちは。富澤です。

テーブルトップに続き、オンラインでも『機械兵団の進軍』が実装されました。5月の1週目にはプロツアーも控えており、より一層スタンダードは盛り上がっていきそうです。

今回はオンライン大会の結果を振り返っていきます。

先週末の注目トピックは?

いよいよ『機械兵団の進軍』がオンライン上でリリースされ、新環境が始まりました。カードプールの狭いスタンダードではセットひとつあたりの及ぼす影響は大きく、構築はおろかメタゲームにも作用します。前環境で突如として登場したセレズニアポイズンはまさにその典型といってよいでしょう。

既存のデッキをベースとしつつも、同時に新しいカードや戦略も台頭し、スタンダードは若返りを迎えています。先週末には、デッキパワーに振り切った構築がいくつもみられました。

アグロ

血羽根のフェニックス呪文槍のケンラ侵攻の伝令、ローナ

先陣を切るのはアグロデッキから。赤単アグロやエスパーレジェンズは低マナ域の選択肢が増え、構築に奥行が生まれています。《血羽根のフェニックス》《呪文槍のケンラ》は良質な2マナクリーチャーであり、《血に飢えた敵対者》と違い速攻こそないものの、火力とのシナジーを持ち合わせています。既存の赤単にそのままフィットするかは不明ですが、リソース勝負での選択肢が増えています。

《侵攻の伝令、ローナ》はエスパーレジェンズの潤滑油となり、手札を循環させて必要牌を手繰り寄せることに加え、中盤以降は一転してフィニッシャーとなります。サイズとアンタップ効果も噛み合っており、序盤の壁役としても最適。リソースを稼ぐ手段が乏しく、劣勢を覆すのが難しかったエスパーレジェンズにとって嬉しい新戦力です。

ミッドレンジ

続いては、ミッドレンジです。すでに《偉大なる統一者、アトラクサ》《絶望招来》はミッドレンジ戦略のフィニッシャーとして一定の評価を得ていますが、これらを越えるカードはあるのでしょうか。

原初の征服者、エターリ

注目を集めているのは《原初の征服者、エターリ》です。多人数戦を見据えたデザインかと思いきや、そのカードパワーはスタンダードでも十分通用します。ボロスミッドレンジやランプ、リアニメイトなど中~長期戦を想定したデッキでのフィニッシャーとして採用されています。

《偉大なる統一者、アトラクサ》と違って手札からのプレイも容易で、それでいてカードパワーに不足を感じることもありません。運否天賦ではありますが、瞬間的に3枚分のカードをプレイできるため、ボードへの影響力では《原初の征服者、エターリ》に軍配が上がりそうです。

コントロール

金属の徒党の種子鮫

ここ最近元気のないコントロールでしたが、《金属の徒党の種子鮫》を手にしたことで復権の可能性を秘めています。《金属の徒党の種子鮫》は非クリーチャー呪文とシナジーを形成し、「培養」により戦線を横へ広げていきます。一見すると、「培養」はクリーチャー化にマナを要しテンポが悪いイメージですが、「培養器」状態ならば《集団失踪》《太陽降下》などの全体リセットに巻き込まれにくいなどのメリットもあります。

コンボ

碑出告と開璃爆発的特異性

忘れてはならないのは《碑出告と開璃》です。《爆発的特異性》との2枚コンボは破壊力とお手軽さが相まって話題を呼んでいます。コンボ自体は5マナと比較的少ないマナで準備できるため、アグロに速度負けする心配もありません。

それでは『機械兵団の進軍』期の初週の大会結果をみていきましょう。

4/22(土):Standard Challenge

順位 プレイヤー名 デッキタイプ
優勝 420dragon 多色ミッドレンジ
準優勝 Demian77 ラクドスミッドレンジ
トップ4 Ignotus97 ジェスカイコントロール
トップ4 Swiftclaw_ 赤単アグロ
トップ8 Gobern エスパーレジェンズ
トップ8 stainerson ボロスミッドレンジ
トップ8 MJ_23 ディミーアテゼレッター
トップ8 Sapoa ジャンドミッドレンジ

(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)

4/22(土)のStandard Challengeは多色ミッドレンジが制しています。「版図」をベースとした構築に、各職の優良カードを足したボードコントロール要素の強い構築となります。「バトル」が追加されたことで《偉大なる統一者、アトラクサ》はMaxバリューを引き出せるようになったため、《新ファイレクシアへの侵攻》が採用されています。

メタゲーム

デッキタイプ トップ32 トップ16
エスパーレジェンズ 6 4
赤単アグロ 4 1
ジャンドミッドレンジ 3 1
ラクドスミッドレンジ 2 2
グリクシスミッドレンジ 2 1
マルドゥリアニメイト 2 0
アゾリウス兵士 2 0
その他 11 7
合計 32 16

リセット後にトップメタとなったのはエスパーレジェンズ。ビートダウン戦略でありながら3色のためデッキパワーも担保されてり、未知数の環境において選択しやすかったと思われます。新戦力《侵攻の伝令、ローナ》は手札の質を向上させ、《賢明な車掌、トルーズ》《黙示録、シェオルドレッド》とのシナジーを期待できます。

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赤単アグロ

赤単アグロは、序盤からクリーチャーでライフを攻めていく攻撃的なアーキタイプ。《僧院の速槍》《フェニックスの雛》などの速攻付きのクリーチャーと直接ダメージ呪文の組み合わせにより、ほかのアグロと比べてもダメージ効率の優れたデッキです。《火遊び》《稲妻の一撃》は除去でありながら、最後の数点を削る役割も持ちます。

血羽根のフェニックス呪文槍のケンラギタクシア派の呪文追い

2マナの速攻クリーチャーをゴッソリと抜き、代わって《血羽根のフェニックス》《呪文槍のケンラ》が採用されています。それに合わせてやや非クリーチャー呪文の多い構築となっています。

《血羽根のフェニックス》の真価が発揮されるのは、中盤以降のライフを詰める段階や消耗戦においてです。序盤はライフを削りながら相手のクリーチャーや除去と交換しておき、マナに余裕があればプレイヤーへ《火遊び》をプレイしながら戦場に舞い戻ります。墓地から戻る際は速攻が付与されるため、全体除去の返しなども狙い目です。

また、《墓地の侵入者》《死体鑑定士》は天敵ですが、手札にインスタント火力と十分なマナさえあれば追放をかわせることも覚えておきましょう。

《呪文槍のケンラ》はそのサイズと果敢により攻防に優れたクリーチャーです。軽量呪文が多いデッキと相性が良く、トランプルのためブロックの上からライフを削ってくれます。2マナクリーチャーでありながら、序盤から後半まで活躍できる賞味期限の長いカードです。

ナヒリの戦争術

《ナヒリの戦争術》《引き裂く炎》に代わる《黙示録、シェオルドレッド》対策です。ダブルシンボルのソーサリーと使い勝手は劣るものの、対象によってはカードアドバンテージへと繋がります。これ1枚で2枚分の呪文となる可能性があり、《呪文槍のケンラ》まで採用した果敢寄りの構築では《引き裂く炎》よりも適しています。

過去と未来の剣

赤単アグロにおいて異彩を放つのが《過去と未来の剣》。3マナと赤単アグロにとってはやや重いカードですが、先の《血羽根のフェニックス》といい、中盤以降にリソース勝負ができるカードが選定されています。

ラクドスやグリクシスを意識したプロテクションと、カードのリプレイ効果にばかり目がいってしまいますが、「諜報」を見落としてはいけません。《フェニックスの雛》《血羽根のフェニックス》を墓地へ送り込んだり、《ナヒリの戦争術》のためにライブラリートップを調節したりとほかのカードと細かくシナジーを形成しています。

石術の連射

《引き裂く流弾》と比較されがちな《石術の連射》ですが、スタンダードでは使い勝手の良いサイドボードです。《敬虔な新米、デニック》《策謀の予見者、ラフィーン》《セラの模範》をテンポ良く対処してくれます。

ディミーアテゼレッター

ディミーアテゼレッターは除去や打ち消しなどの非クリーチャー呪文をベースにしたコントロールデッキ。《喉首狙い》《かき消し》でゲーム展開をスローダウンさせ、《勢団の銀行破り》でリソースを伸ばしながらフィニッシャーの定着を狙います。

フィニッシャーは《黙示録、シェオルドレッド》のほかに《金属の徒党の種子鮫》が採用されています。

金属の徒党の種子鮫

青い《メンター》である《金属の徒党の種子鮫》。火力や《切り崩し》で落ちず、同じマナ域のクリーチャーを受け止める高タフネスは魅力です。軽量除去や打ち消しとセットで使っていき、1対1交換を繰り返して、少しずつ有利なボードを築いていきます。

不憫な悲哀の行進青の太陽の黄昏

誘発条件は緩いものの、不安となるのは「培養」のサイズ。そこで《不憫な悲哀の行進》《青の太陽の黄昏》を採用することで、デッキの柔軟性を欠かずに巨大な培養器・トークンを生成できるようにしています。

《金属の徒党の種子鮫》の誘発条件は非クリーチャー呪文とかなり緩いため、ミッドレンジやコントロールのフィニッシャー、サイドボードでのアグロプランなどさまざまな使い道がありそうです。

肉体の裏切者、テゼレット

《肉体の裏切者、テゼレット》はあまり日の目を見てこなかったプレインズウォーカーですが、《金属の徒党の種子鮫》とのシナジーには目を見張るものがあります。常在型能力は《金属の徒党の種子鮫》のために用意されていたといっても過言ではなく、自分と相手のターンで1体ずつ孵化させることができます。

+1/+1カウンターの少ない培養器トークンは「変身」せずに、《肉体の裏切者、テゼレット》の[-2]効果でクリーチャー化し、4/4+αとして戦線を支えていきましょう。

ボロスミッドレンジ

ボロスミッドレンジは《野心的な農場労働者》《鏡割りの寓話》のようなアドバンテージのとれるパーマネントを軸に構築されたデッキです。単体のサイズは小さくとも、1枚で複数のクリーチャートークンや手札を供給を生成してくれるカードが多いため、単体除去で損をしにくく、時間をかけて強固なボードを築いていきます。

パーマネントがデッキの軸であるため、《ギラプールの守護者》《セラの模範》で再利用してアドバンテージを稼ぎ、リソース差による決着を目指します。

ギラプールの守護者

《ギラプールの守護者》は「明滅」効果を持ち、戦場に出たとき効果を持つパーマネントとシナジーを形成します。序盤は《神憑く相棒》《野心的な農場労働者》で自身のリソースを伸ばし、《鏡割りの寓話》《婚礼の発表》を出されれば《第三の道のロラン》を使いまわしたりと、戦況によって用途が変わります。

原初の征服者、エターリ原初の病、エターリ

白系ミッドレンジのフィニッシャーといえば《夜明けの空、猗旺》《聖域の番人》が定番でしたが、このデッキでは《原初の征服者、エターリ》が務めています。ランダム性があるとはいえ、瞬間的に追加で2枚のカードをプレイでき、劣勢な場を切り返す助けとなってくれます。

表面ばかりに目がいってしまいますが、マナを注ぎ込めば「感染」に近い毒クリーチャーへと「変身」します。追放以外では対処できず、トランプルによりチャンプブロックも無効化されています。マナの伸びやすいボロスミッドレンジではピッタリのフィニッシャーですね。

舞台座一家の中庭軍備放棄ジェトミアの庭

このデッキでは不採用ですが、マナベースにテコ入れして《軍備放棄》を採用した構築もあります。《舞台座一家の中庭》《ジェトミアの庭》により2色とも安定供給しつつ、《平地》を水増しして《軍備放棄》の効果範囲を広げています。

蒼紅杯

順位 プレイヤー名 デッキタイプ
優勝 Lemon Nagasako ディミーアリアニメイト
準優勝 Koki Kondo 《碑出告と開璃》シュート
トップ4 pithu グリクシスミッドレンジ
トップ4 garuyoshi noko エスパーレジェンズ
トップ8 ryuumei ラクドスリアニメイト
トップ8 Kazuhiro Noine エスパーレジェンズ
トップ8 TraceOn オルゾフミッドレンジ
トップ8 Ayana T グリクシスリアニメイト

(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)

参加者105名で開催された蒼紅杯ディミーアリアニメイトが制しました。ほかにも《碑出告と開璃》シュートなどコンセプトの新しいデッキが上位にみられました。

メタゲーム

デッキタイプ 使用者数 トップ16
白単ミッドレンジ 11 1
エスパーレジェンズ 9 3
グリクシスミッドレンジ 9 1
ラクドスリアニメイト 8 2
赤単アグロ 7 1
グリクシスリアニメイト 5 1
ラクドスミッドレンジ 5 0
白単アグロ 4 0
その他 47 7
合計 105 16

白単ミッドレンジ、エスパーレジェンズ、グリクシスミッドレンジがほぼ横一線で並んでおり、メタゲームは前環境とよく似た結果になっています。

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《碑出告と開璃》シュート

《碑出告と開璃》シュートは《碑出告と開璃》《爆発的特異性》をキーカードにしたコンボデッキ。戦場に出たとき効果でライブラリトップへ《爆発的特異性》を積み込み、死亡することで10点+10点の一撃必殺となります。

ベースがグリクシスミッドレンジなのでコンボデッキでありながらコントロール力が高く、一直線にコンボを狙うだけでなく、ミッドレンジプランを絡めながら隙を見てコンボを仕掛ける柔軟性を持ち合わせています。

碑出告と開璃爆発的特異性

《碑出告と開璃》はコンボパーツのフィニッシュ部分でありながら、単体で準備から仕込みもこなす非常に優れたクリーチャーです。

一般的なコンボデッキはパーツを引きそれらを順番にプレイしていく必要がありますが、このデッキでは《碑出告と開璃》をプレイし、自死するだけと非常に簡潔です。極論ですが、手札に《爆発的特異性》がなくとも戦場に出たとき効果で引き込んでしまえばコンボの準備は完了するわけです。

仮に除去せずにダメージレースを挑もうにも、5/4に飛行と一定以上のスタッツを持っています。それを除去や打ち消し呪文でサポートすればミッドレンジプランを完遂することも可能です。

除去する際は少しでもコンボの可能性を下げるべく、《碑出告と開璃》の戦場に出たとき効果にスタックしたり、2ドローしてライブラリトップが変わってからを狙いましょう。

耳打ち

コンボパーツを集めるために《さまよう心》《衝動》などのドローソースが採用されていますが、《耳打ち》は警戒すべき1枚です。ライブラリーを掘る枚数は少ないものの、「犠牲」によりインスタントタイミングでクリーチャーを生け贄に捧げられます。つまりは、《碑出告と開璃》でライブラリトップに《爆発的特異性》を置き、次のアップキープに「犠牲」で《耳打ち》をプレイすれば、コンボ達成により20点直撃となるのです。

そのほかの大会結果

4/23(日):Standard Challenge

順位 プレイヤー名 デッキタイプ
優勝 kvza ジェスカイコントロール
準優勝 BONK101 ラクドスリアニメイト
トップ4 fingers1991 ラクドスミッドレンジ
トップ4 Ignotus97 ジェスカイコントロール
トップ8 tim96 グリクシスミッドレンジ
トップ8 rastaf ラクドスミッドレンジ
トップ8 pat0presidente 青単テンポ
トップ8 SoulStrong グリクシスミッドレンジ

(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)

4/23(日)のStandard Challengeはジェスカイコントロールが優勝しています。

ズルゴとオジュタイ

今大会を制したジェスカイコントロールは《金属の徒党の種子鮫》に加えて《ズルゴとオジュタイ》まで採用した意欲作。後者は打ち消し呪文以外ではほとんど対処できず、安全にアドバンテージとダメージを稼いでくれます。

メタゲーム

デッキタイプ トップ32 トップ16
ラクドスミッドレンジ 5 3
エスパーレジェンズ 4 1
赤単アグロ 3 1
グリクシスミッドレンジ 3 3
多色ミッドレンジ 3 1
白単ミッドレンジ 2 0
マルドゥリアニメイト 2 2
ジェスカイコントロール 2 2
ボロスミッドレンジ 3 1
その他 6 2
合計 32 16

トップ8デッキリストはこちら

おわりに

今回は『機械兵団の進軍』期、初週の大会結果をみてきました。どのデッキも魅力的でしたが、特に《碑出告と開璃》シュートは可能性を感じました。コンボパッケージの枚数が少ないためデッキの自由度が高く、今後メタゲームが変化したとしても、常に最適な構築をとれそうです。

それではまた次回の情報局で。

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富澤 洋平 晴れる屋メディアチームスタッフです。最近は《黙示録、シェオルドレッド》に夢中な日々です。 富澤 洋平の記事はこちら

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