プロツアートップ8!~仲間と手にした最高の勝利~

Javier Dominguez

Translated by Riku Endo

原文はこちら
(掲載日 2023/05/20)

はじめに

やあ、みんな!

まず、僕自身を含めた多くのプレイヤーにとって、プロツアーはとても特別な体験だ。何年にもわたってたくさんプレーしてもなお、とてもスペシャルなんだ。

MPLの時代が終わってから新しいシステムが始まって、自分が次のプロツアーである、プロツアー・ファイレクシアの権利を得ていないことに気づいた。その前にあったセットチャンピオンシップで4度(!)も権利のかかった試合で負けていたので、次のプロツア―へ行ける見通しは決して良くなかった。

幸いなことに、ソフィアでの地域チャンピオンシップで権利を得たことでプロツアー・ファイレクシアに参加できるようになった。そのとき、こういったイベントで良い成績を残すラストチャンスのように感じた。11-5でこの大会を終えたことで、ミネアポリスでのプロツアー・機械兵団の進軍への権利も得ることができた。

最後のチャンス

今回のプロツアーでは、次のバルセロナでのプロツアーのために8-8以上の成績を収める必要があった。バルセロナは僕の故郷にとても近いし、これに参加する権利を得ることが明確なゴールだった。

プロツアーへの準備

プロツアーへの準備は大会の一部だといっても過言じゃない。準備段階があまりフォーカスされないそのほかのイベントとの最大の違いのひとつだとさえいえるだろう。

この大会では、光栄なことにTeam Handshakeのメンバーと協力することになった。オンラインのセットチャンピオンシップ時代を支配していたこのチームは、印象的で若く、才能あるプレイヤーたちであふれている。彼らは将来たくさん勝つであろうプレイヤーというだけじゃなく、すでに多くの勝利を掴んでいる。加えて、アンソニー・リー/Anthony Leeや僕自身のように経験を積んだベテランもいる。

プロツアー・ファイレクシアでも彼らとともに準備をしており、1つのイベントを通して1つのことが続いていた。ありがたいことに、彼らは新しいスラングを僕に教えてくれていたのだ。

調整の大部分は実際の旅に先立ってオンラインで行われたが、僕たちは調整の締めくくりとして古典的なプロツアーハウスも計画していた。

構築戦

税血の収穫者勢団の銀行破り鏡割りの寓話黙示録、シェオルドレッド

比較的早い段階で、自分が使うのは黒赤Xデッキになることがはっきりした。エキスパートといわれてもいいくらいに長い間《税血の収穫者》《勢団の銀行破り》《鏡割りの寓話》《黙示録、シェオルドレッド》を使い込んできたからだ。そのほかの選択肢はあまり魅力的でなかったし、黒赤デッキに関する疑問は、答えを得るには長い時間がかかるくらいには難しく、それを自分が知っていることが役に立つと思った。

選択肢は3つ。ラクドスグリクシスリアニメイトだった。

ギックスの残虐偉大なる統一者、アトラクサ

リアニメイトについては、徹底的にこのアーキタイプを研究していた“tangrams”としても知られるデイヴィッド・イングリス/David Inglisがいた。彼が選択肢としていまいちと判断したので、ほかの人にとってはより容易に決断できた。

死体鑑定士

《死体鑑定士》が(上記の3つの選択肢における)マッチアップにおいて極めて強いので、ラクドスかグリクシスか決めるのは厄介だった。

一般的な見解として、グリクシスは3つの候補内での対戦では優れている。とはいえ、多くのタップインランドを含む3色のマナベースが、アグロデッキに対してかなり分を悪くしている。いつもそうなるわけではないが、タップインランドの問題は2ターン目に除去を唱えるための2マナがないことよりもはるか深くにまで及んでいた。注意深く見てみると、グリクシスは8ターン目でさえタップインランドのせいで《死体鑑定士》から《絶望招来》を唱えられずに負けることがあった。

希望の標、チャンドラ

もちろんそれでも候補3者のマッチアップにおいてはよかったが、こういった負けがラクドスに対するはっきりとした有利が自分たちの考えていたよりも小さなものであるとわかった。それに加えて、ラクドスが《希望の標、チャンドラ》を採用したことで、たとえグリクシスがアドバンテージにおいて有利になった試合からも挽回できるようになった。

僕たちがこれらの調整に取り組んでいる中、アンソニーが《夜を照らす》のアイデアをもたらしてくれた。

夜を照らす

《夜を照らす》はラクドスがグリクシスとの2つの候補のうち、明らかな勝者であることを強固なものにした。このカードはクリーチャー主体のデッキに対するまともな除去であるだけでなく、《希望の標、チャンドラ》と非常に相性のいい強力なフィニッシャーでもある。

このカードが墓地にあり、8マナある状態で手札に《希望の標、チャンドラ》があるなら、チャンドラを唱えて忠誠度能力[+2]でマナを加え、《夜を照らす》の「フラッシュバック」で忠誠カウンター7を払って唱えると、合計14点のダメージを与えることができる。すでに《絶望招来》を唱えているデッキであれば、これでほとんどゲームエンドだ。面白いことに、今回のプロツア―を通してこのいわゆる《火の玉》を誰かに放つことは一度もなかったのだけれどもね。

この《火の玉》にもなるカードについて僕はかなり懐疑的だったが、本来グリクシスがラクドスより有利である白単に対して、ラクドスが何試合かこのカードをプレイするとすぐに十分強いことが分かった。白単は単純にこのカードに対して対応することができなかったのだ。

候補だったデッキのマッチアップについて理解するために行ったことといえば、ただただ数えきれないほどネイサン・ストイア/Nathan Steuerと対戦することだった。あるマッチアップにおいて彼と対戦することの重要な利益の1つは、基本的に彼を打ち負かすのは不可能なので、彼が使っているデッキに対してうまくいくプランがあったなら、それは同じタイプのデッキリストを使っているほぼほぼ誰にでも通用するということだ。

チャンドラのコンボを共有しても、最終的にチームメイトの中にはこのアーキタイプについて異なる見解を持つ人もいた。比較的大きいグループがこの75枚のリストを選択して、それから小さな違いのあるバリエーションを選んだ人がいた。たとえば、4枚目の《喉首狙い》の代わりに2枚目の《夜を照らす》を採用する、といったように。こういった小さな変更については、大会のあとでさえどれが良かったのか知るのはほとんど不可能だ。マッチアップ次第である部分が大きいし、対戦する相手だってみんな違うからだ。

そしてこれが僕たちの最終的なデッキリストだ。

腐敗した再会

基本的な部分以外だと、《腐敗した再会》もまたこのイベントのために僕たちが用意したテクノロジーの一部分だ。実際の大会本番では一度も使わなかったが、調整では申し分なくプレイアブルであることが証明されていた。

リミテッド

今回の旅に出るまでに、自分が思っていたよりかはドラフトをしなかったのだが、ドラフトの練習でもっとも役立ったのはただカール・サラップ/Karl Sarapのドラフトとプレイを見ることだった。カールは確実に世界でもっともドラフトが上手いプレイヤーの1人で、彼のこのセットのドラフトにおけるプロセスを理解できたことは、今回のドラフトにおいて成功するカギとなった。そして僕のMTGアリーナにある残りジェム数からすると残念なことに、彼は僕をうまく言いくるめていろんな「相棒」を試させるのにも長けていたんだ……あまり上手くいかなかったが。

それ以外には、オンラインでこのフォーマットについて長時間のディスカッションもしたし、何度かチーム内でドラフトもしたがあまり勝てなかった。

このセットでは両面カードがあるせいで、オンラインのドラフトでプロツアーのドラフトをうまく再現することはできなかった。知らない人たちのために説明すると、プロツアーではどのパックもピックする前に出た両面のカードを全員が公開して、それからドラフトを続ける前にすべてのカードをスリーブに入れる。ピック前に公開された両面カードがピックされたかどうかは、どの色が空いているのか、また空いてないのかを強く示唆する。僕はこれらの両面カードのピックに関する経験則をより活用していたように感じた。

Deadly DerisionMeeting of MindsPreening Champion

概して、黒がベストカラーだけど青にも質の良いコモンがたくさんあるという考えに至った。もっとも悪い組み合わせがなにであるかについては意見がまとまらなかったけど、僕の基本的なプランは白を避けてできるなら黒に入ることだった。今回の黒はとても選択肢の多い色だからね。

Day 1

まったくの予想通り、結局2回白をドラフトした。

次元壊しの掌握

最初のパックではまず右隣のプレイヤーが両面の黒の神話を引いていたのに対し、自分のパックはというと《次元壊しの掌握》1枚が唯一のグッドカードなほどとても弱いパックだった。しぶしぶそれをピックすると、青と白が極端なほど空いていることが分かり、かなり強い青白のデッキを組むことができた。

空中ブースト

自分のデッキで想像以上に活躍したカードの1枚といえば《空中ブースト》だ。僕はこういった類のカードのことを“マルシオカード”と呼んでいる。マルシオカードというのは、一見あんまり良いように見えないけど、実際は見かけがはるかに良さそうなほかのカードを上回るほどのテンポを与えてくれるカードのことだ。このドラフトではより強いカード(2枚目の《次元壊しの掌握》だったかな?)を選ばずにこのカードをピックした。実際に《空中ブースト》でゲームに勝つことは何度もあった。

このドラフトを3-0したことで、バルセロナ行きを確定させるには続く13試合で5勝すればよかったので、かなり順調だった。

この日はTeam Handshakeのチームメイトでもあるイーライ・ラヴマン/Eli Lovemanとのミラーマッチを含め何試合かフィーチャーマッチをして、7-1でDay 1を終えた。トップ8に向けても上々の結果で、バルセロナのプロツア―への参加資格を得るためにはあと1勝すればいいだけだった。喫した負けは八十岡翔太のエスパーに対してのもので、7試合目のニコ・ボニー/Nico Bohnyとの対戦では《喉首狙い》の素晴らしいトップデッキがあったりと全体を通してかなり上手くいった。

Day 2

プロツアーにおけるDay2のポッド1はいつだってとんでもなく困難で、今回も例外ではなかった。今回は同じ卓にTeam Handshakeのメンバーが4人いて、彼ら全員がプロツアーハウスの調整中に僕を打ち負かしていた人たちだった。だから、かなり大変だろうということは分かっていた。

太陽降下

ドラフトは《太陽降下》からスタートしてとにかく白のカードを数枚とった。残りのピックをオープンな状態にしておけるよう誘導しようとして、結果的には《植物の喧嘩屋》が2枚入った白緑を組んだ。除去不足ではあったが、+1/+1シナジーが豊富なおかげでしっかりとしたゲームプランのあるデッキになった。

チームメイトの2人、ネイサンには負け、サイモン・ニールセン/Simon Nielsenには勝ち、ドラフトを何とか2-1でしのいだ。可もなく不可もないデッキだったことを考えると結果は十分に受け入れられるものだった。その時点で9-2だったので、バルセロナ行きの権利は獲得していてトップ8に向けてもいいポジションにいた。それでも、過去には同じように9-2からトップ8を逃したことも何度かあったので、集中してプレーを研ぎ澄ませることを意識した。

そのあとはデッキがうまく回って2勝して、ネイサンとの再度の対戦で初めて彼に勝つことができた。ネイサンとは2人で何度もミラーマッチを研究していたからか、この試合には妙な親近感があった。このマッチアップにおける手の内もお互い知り尽くしていたしね。けれども、それがある意味僕をリラックスさせてくれた。

そしてデッキも応えてくれて、トップ8を決めることができたんだ!

新しいシステムでは、12勝するとその時点でトーナメントから除外されてスイスラウンドが終わるのを待つことになっている。おかげでその日はお祝いしてリラックスすることができた。抱えていたプレッシャーがはっきりと自分の体のコンディションに影響を与え始めていたので、その点でも都合が良かった。

とにかく眠りにつきたかったので、土曜日のチームでのディナーも軽く済ませた。決勝トーナメントに向けてより良い状態で臨みたかったからね!

Day 3

僕の準々決勝はそう長くはかからず、デイヴィッド・オルセン/David Olsenのランプデッキに喫した負けも納得のいくものだった。かなりアンラッキーな試合だったとも思うし、プレイングもあまりよくなかった。相性が全体的にあまりよくなかったのもある。自分の大会は終わってしまったが、最初に8-8を目標に掲げていたことを考えると、トップ8は大成功だし、とても誇らしい!

その後は大会に出ていた友人たちと楽しく過ごしてネイサンが優勝するのを見届けた。ネイサンについて言うと、彼が成し遂げていることはただただすばらしい。彼が大会を勝ち上がっていくのを見るのはとてもワクワクするし、優勝後のインタビューで彼が発した言葉は心に響くもので、この先も素晴らしい思い出として残り続けるだろう。

もし、今現在彼がベストなプレイヤーじゃないとしたとしても、世界中で最も優れたプレイヤーの1人であるのは明らかだ。それでも彼は進化し続けようとすることをやめていない。マジックへの情熱に満ち、さらに理解を深めようとしていて、それが他者へ伝播している。彼と議論をすると自分ももっとうまくなりたいと思わせてくれる。ある程度年を取った男として、自分にそのような火が灯るのはある種若くなったような気分になる。

大会後には僕たちはお祝いの食事をしてそれから…チームドラフトをした!昔を思い出すだけでなく、0-3というスペシャルな記録を出したにもかかわらずネイサンとエイブ・コリガン/Abe Corriganのおかげでチームドラフトで優勝することができた。

今回のプロツア―は僕にとってとても記憶に残る大会になった。久しぶりにトップ8に入れただけでなく、ある意味初めてトップ8に入ったような感覚があった。新しい時代での冒険は、まだ始まったばかりだ。

このトップ8は自分がまだ大きな結果を残せることを意味するものにもなった。チームメイトや友人の助けなしでは成し遂げられなかったし、本当に感謝している。この1週間に起きた小さな冒険とエピソードの数々は僕たちが胸にしまっておくもので、かけがえのないものだ。大会でうまくいっていなかったらなおさらだっただろう。

素晴らしい人たちと冒険に満ちた生活を送れる幸運に今も恵まれていることを嬉しく思っている。いまさらだけど、今でもそのことが微笑ましい。

ここまで読んでくれてありがとう!

ハビエル・ドミンゲス (Twitter / Twitch)

この記事内で掲載されたカード

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Javier Dominguez スペインを代表するプレイヤー。 グランプリトップ8入賞は6回。【グランプリ・パリ2014】と【グランプリ・ロッテルダム2016】で優勝も経験している。 プロツアーでもその力を発揮し、【プロツアー『戦乱のゼンディカー』】と【プロツアー『破滅の刻』】では9位に入賞を果たすなど、輝かしい戦績を誇る。【ワールド・マジック・カップ2016】では母国スペイン代表のキャプテンを務めた。 Javier Dominguezの記事はこちら