『機械兵団の進軍』後に現れたモダン&パイオニアの変化

Piotr Glogowski

Translated by Nobukazu Kato

はじめに

ミネアポリスで開かれた『プロツアー・機械兵団の進軍』は決して最高とはいえない大会でした。8勝8敗に終わり、次のバルセロナのプロツアーを権利をもらうにはあと1勝足りなかったのです。つらいですね!

不幸中の幸いというべきか、プロツアーが終わったのでスタンダードとドラフトに専念する必要がなくなり、ようやくモダンとパイオニアに帰郷できます。この2つのフォーマットには『機械兵団の進軍』と『機械兵団の進軍:決戦の後に』から面白そうなカードがたくさん入ってきていました!さぁ羽根を広げて遊びましょう!

モダン

独創力コンボ:《方程式の改変》

方程式の改変

一見すると《方程式の改変》《霊気の疾風》の下位互換のように思えます。しかし、モダンほど軽い呪文が多いフォーマットであれば、2マナ以下ならどんな呪文でも消せるというのは、実のところかなり守備範囲が広いのです。

モダンの《不屈の独創力》デッキではサイドボードに《方程式の改変》を多く採用したリストが急増していて、メインデッキにまで数枚入れているリストも散見されるほどです。《対抗呪文》とはいえないまでも、多くのマッチアップでそれに近しい働きをします。

衝撃の足音原始のタイタン不屈の独創力血染めの月

打ち消したいカードといえば《衝撃の足音》《死せる生》《原始のタイタン》、ミラーマッチの《不屈の独創力》などが思い当たりますが、それだけでなく《方程式の改変》は打ち消し合戦にも《表現の反復》にもイゼットマークタイドの《血染めの月》にも対抗できます。

《ドワーフの鉱山》をたくさん投入している《不屈の独創力》デッキにとって、無色1マナで色拘束が厳しくない妨害は非常にありがたい存在です。

ハンマータイム:《救済の波濤》

救済の波濤

Youtubeの動画で詳しく話しましたが、《救済の波濤》はハンマータイムにとって優秀な選択肢のひとつになりました。特に白単型の場合、《鍛冶屋の技》では守り切れない場面でも《救済の波濤》なら防いでくれることがあります。

激情活性の力悲嘆残虐の執政官

目立ったところでいえば、《激情》《活性の力》といった複数を対象にとる呪文にも対応できますね。プレイヤーへの呪禁もあるため、《思考囲い》《悲嘆》への防御札にもなります(《悲嘆》《不死なる悪意》で使いまわそうとしている相手には特に刺さるでしょう!)それだけでなく、プレイヤー自身が呪禁になることで《残虐の執政官》の効果を1ターン回避でき、独創力デッキに対して勝敗を分かつ一手に十分なりえます。

《鍛冶屋の技》と比べて《救済の波濤》は明確な上位互換ではないですが、ハンマータイムを使うプレイヤーたちは《救済の波濤》を多く入れる形を評価しているようです。何ら驚きではないですね!

鱗親和:《打ち砕かれた尖塔、オゾリス》

鱗親和は長らくTier2近辺をうろうろしていて、たまにModern Challengeでトップ8に入賞していましたが、優勝することはほとんどありませんでした。総じてデッキパワーがやや物足りなかったのです。しかし、その状況を打破したかもしれないのが新しいオゾリスです。

打ち砕かれた尖塔、オゾリス

Magic OnlineプレイヤーであるLordEggは一度ならず何度も鱗親和でトップ8に入賞しています。《硬化した鱗》の効果が盤面にあるかどうかでは大きな違いがあり、その2種目となるカードを手に入れたのはただ事ではないのです。《継ぎ接ぎ自動機械》《電結の荒廃者》《歩行バリスタ》は単なるサイズが大きいクリーチャーではなく、これまで以上に《硬化した鱗》効果の恩恵にあずかりやすくなりました。まぁ、このデッキを使うと《活性の力》に苦い顔させられるのは相変わらずなんですが。

4色オムナス:《復活した精霊信者、ニッサ》

復活した精霊信者、ニッサ

灯を失い、ファイレクシアンでなくなったニッサは『機械兵団の進軍:決戦の後に』の注目のカードの1つです。配信仲間であるYungDingoは3マナのカードアドバンテージ源である《発現する浅瀬》《鏡割りの寓話》の代わりにニッサを4色オムナスに採用していました。

ニッサが戦場にいれば、フェッチランドを使うたびに2マナを発生させるだけでなく、確定で呪文を1枚もたらしてくれます。途切れることなくフェッチランドを供給する《レンと六番》と抜群の相性です。モダンのエレメンタルデッキは中盤から終盤にかけてマナフラッドに悩まされがちです。ニッサは後続のアクションを確約し、その純粋なカードアドバンテージを勝利へと結び付けてくれるのです。

先ほど挙げた3マナ域のカードと比べると、ニッサは少し使い方に注意を要します。ほかの選択肢と違い、フェッチランドを切ったタイミングに対応して除去されてしまうと、アドバンテージを得られない可能性があるからです。ただ、その裏目に見合う見返りはあるように思います。

スゥルタイシャドウ:《イコリアへの侵攻》

「バトル」というカードタイプはスロースタートになっており、構築戦で大きな話題を呼んでいません。だからこそ、ちょっと変わった使い方だったとしても、バトルを駆使したデッキリストを見るのはわくわくするものがあります。このデッキリストはModern Challengeを優勝したものであり、使い手はxfile。独創的な構築で毎回驚かせてくれるMagic Onlineプレイヤーです。

イコリアへの侵攻吸血鬼の呪詛術士

《イコリアへの侵攻》に加えて《吸血鬼の呪詛術士》が採用されており、コンボができるようになっています。(X)=2で《イコリアへの侵攻》を唱え、《吸血鬼の呪詛術士》をサーチし、それを生け贄に捧げることでバトルからすべてのカウンターを取り除き、変身させられるのです。

イコリアへの侵攻

タフネス8の《イコリアの頂点、ジローサ》《邪悪な熱気》に焼かれず、簡単には除去されません。ブロッカーを無視できるため相手の命は長くなく、大型サイズになった《死の影》《タルモゴイフ》と共闘すれば勝利は目前です!

タルモゴイフウルヴェンワルド横断

嬉しいことにバトルは新しいカードタイプなので、なんらかの形で墓地へ落ちれば《タルモゴイフ》がこれまで以上に大きく育ちます。「昂揚」もいっそう達成しやすくなりましたね。

ベルチャー:《無謀な始末》

最後に紹介するモダンのデッキリストは、Magic Online界のベルチャーマスターであるBob49のものです。昔ながらのベルチャーですが、私がまったく気に留めていなかった《無謀な始末》を2枚追加してあります。

無謀な始末

実際、このデッキでは《ゴブリンの放火砲》を探し出せる2マナの《ギャンブル》です。もっとも、ランダム性のあるカードなのでストレスを感じる場面もありますが、《ゴブリンの放火砲》を見つけなければ機能しないデッキなので、そのリスクに見合う価値はあるでしょう!

パイオニア

このように『機械兵団の進軍』にはモダンに影響を与えたカードがいくつか存在しています。ただ、パイオニアに起きた変化はこれ以上すごいことになってますよ!

ロータスコンボ:《希望の標、チャンドラ》

希望の標、チャンドラ

GinkoHSは《首謀者の収得》《副陽の接近》による勝ち筋を廃し、《希望の標、チャンドラ》へと乗り換えています。

全知バーラ・ゲドの復活

《出現の根本原理》から《全知》を置き、ライブラリーの大半を引ききったら《バーラ・ゲドの復活》を使って《希望の標、チャンドラ》をループさせます。《バーラ・ゲドの復活》が3枚あると無限ダメージが入るのです。

まず《希望の標、チャンドラ》を出し、《バーラ・ゲドの復活》を唱えたら墓地の《バーラ・ゲドの復活》を2枚回収。《希望の標、チャンドラ》の忠誠度をフルで使ってプレイヤーにダメージを飛ばし、《バーラ・ゲドの復活》でその《希望の標、チャンドラ》を手札に戻す。これでループが完成します。

単体のカードとしてみた場合、《希望の標、チャンドラ》《首謀者の収得》に比べると引いてうれしいカードですし、サイドボードの枠を1つ空けることができます。この構成はかなり将来性を感じさせますね。

緑単信心:《ポルクラノスの再誕》

ポルクラノスの再誕

《ポルクラノスの再誕》緑信心が抱えていた弱点をいくつか解決できるので、ようやくメインデッキの自由枠を固定させるカードが登場してきたように思います。軽いマナコスト、高い「信心」、《ビヒモスを招く者、キオーラ》を誘発させるパワー、マナフラッド受け、優れたブロッカー性能、変身時には絆魂でゲームを安定化。これだけの性能を誇るカードが3マナであり、マナクリーチャーが生き残れば最高のマナの使い道になります。仮にマナクリーチャーが生存できなかったとしても、ゲームの流れに後れをとらないタイミングで唱えられるマナコストです。

このリストにはほかにも『機械兵団の進軍』から《イクサランへの侵攻》を採用しています。《ポルクラノスの再誕》に比べれば今後も採用され続ける可能性は低そうですが、キャントリップしつつ盤面に残りやすい「信心」カウントであり、その点は評価すべきでしょう。

老樹林のトロールビヒモスを招く者、キオーラ

緑信心はバトルを変身させやすいデッキでもあります。ダメージで勝つことはそう多くないですし、《老樹林のトロール》《ポルクラノスの再誕》なら一撃で《イクサランへの侵攻》を倒せます。《ビヒモスを招く者、キオーラ》が盤面にいれば変身したときに1ドローまでつくので、さらに倒しがいがありますね!

独創力コンボ:《火山の悪意》

火山の悪意

非常にわかりやすいアップデートです。《火山の悪意》《火の予言》の明確な上位互換。この変化で甚大な影響を受けるのは《覆いを割く者、ナーセット》でしょう。[-2]能力を使ってしまうと《火山の悪意》の一発で落ちるようになってしまいました。

ラクドスサクリファイス:《囚われの黒幕、オブ・ニクシリス》

囚われの黒幕、オブ・ニクシリス

まるでパイオニアのサクリファイスデッキのために作られたような《囚われの黒幕、オブ・ニクシリス》《大釜の使い魔》《波乱の悪魔》のダメージ/ドレインをカードアドバンテージと+1/+1カウンターへと変換させます。

かつて《フェイに呪われた王、コルヴォルド》が似た役割で採用されていましたが、マナコストが重く、緑をタッチする必要がありました。《オブ・ニクシリス》はカードパワーこそ劣るものの、フィニッシャーに据えてもおかしくない確かな利点があります。

魔女のかまど大釜の使い魔

ただ、リーグで《オブ・ニクシリス》を少し使ってみたところ、そのパフォーマンスは期待とかけ離れたものでした。ラクドスサクリファイスはシナジーパーツをすべてそろえたときに破壊力を発揮するデッキです。《魔女のかまど》《大釜の使い魔》が揃わなければ一気にデッキパワーは落ち、《オブ・ニクシリス》はそういう展開で役立ちません。いわばオーバーキルのカードなのです。

《オブ・ニクシリス》を採用する理由があるとすれば、「シナジーパーツを安定してそろえやすいから、さらなるパンチ力が欲しい」と考えている場合でしょう。緑信心相手ならそういう状況になるかもしれません。

フェイに呪われた王、コルヴォルド

本来ならゲームの主導権を緑信心に握られてしまうような展開でも、《オブ・ニクシリス》ならゲームを支配できる可能性があります。ただ、そのほかの大半のデッキに対して《オブ・ニクシリス》は物足りない印象です。《フェイに呪われた王、コルヴォルド》と同じく、《オブ・ニクシリス》は一部のプレイヤーが目を向けるマイナー枠に収まり、ゆくゆくはデッキリストから抜けていくような気がしています。《フェイに呪われた王、コルヴォルド》がたどった道と同じですね。

グルール機体:《古の放漫トカゲ》

古の放漫トカゲ

配信者のD00mwakeは《領事の旗艦、スカイソブリン》に代えて《古の放漫トカゲ》を入れたグルール機体でPioneer Challendeでトップ8に入賞しています。《古の放漫トカゲ》は最大値が大きく、これだけ大きいクリーチャーを除去するのに苦労するデッキもあるでしょう。ただ、彼が採用したのは好奇心からだと思います。「召集」で出した巨大な恐竜を《無謀な嵐探し》で速攻を与えるのは最高に気持ち良いでしょうね!

《侵攻の伝令、ローナ》コンボ

侵攻の伝令、ローナモックス・アンバー撤回のらせん

名は体を表すようにComboMANは《侵攻の伝令、ローナ》《モックス・アンバー》《撤回のらせん》無限マナコンボを使っています。《モックス・アンバー》を好きなだけ唱えなおし、そのたびに《侵攻の伝令、ローナ》をアンタップさせます。コンボが決まってしまえば、デッキ内のプレインズウォーカーでフィニッシュします。

大いなる創造者、カーンレンと次元壊し歓喜する喧嘩屋、タイヴァー

まずそのプレインズウォーカーの色マナを無限に生成し、《侵攻の伝令、ローナ》でそのプレインズウォーカーをバウンスして何度も唱えなおすのです。《大いなる創造者、カーン》なら[-2]能力で《霊気貯蔵器》を手札に加えるだけ。《レンと次元壊し》ならひたすら[-2]能力で《大いなる創造者、カーン》を探します。《歓喜する喧嘩屋、タイヴァー》は[+1]能力で《侵攻の伝令、ローナ》をアンタップして好きなだけルーティングできるようになります。

正直いうと、このコンボは少し複雑なうえ《侵攻の伝令、ローナ》を引き込み、盤面に生存させなくてはならず、なかなか骨が折れます。《撤回のらせん》も単体で使って強いカードではないでしょう。

この構成に関しては、プレインズウォーカーの比重が大きすぎるのではないかと感じています。たしかに《歓喜する喧嘩屋、タイヴァー》はデッキの方向性にかみ合っています。《侵攻の伝令、ローナ》に速攻を与えられますし、除去されてもリアニメイト効果でコンボに再チャレンジできます。ただ、このローナデッキはコンボをそろえることに特化しているため、妨害がほとんどなく、プレインズウォーカーを守りづらいのです。プレインズウォーカーが10枚も入っていると考えると、これは少々問題でしょう。

別の問題として、このコンボは単純に除去に耐性がありません。《歓喜する喧嘩屋、タイヴァー》《致命的な一押し》を乗り越えることはできても、《撤回のらせん》に対応して除去を打ってきたらどうするのでしょう。

とはいえ、このデッキはたしかにポテンシャルがあるように思います。最速で3ターン目にコンボがきまり、構築の幅も無限大です。調整するプレイヤーたちがどのように舵を切っていくのか楽しみにしています。

ボロス召集:《イーオスの遍歴の騎士》

イーオスの遍歴の騎士敬慕されるロクソドン無謀な奇襲隊

これはリーグで5-0していたデッキであり、ここ数週間私も使ってみて素晴らしい結果を残しています。《イーオスの遍歴の騎士》に加えて《敬慕されるロクソドン》《無謀な奇襲隊》を採用していて、クリーチャーを横に並べるリターンとなるカードを安定して引けるように構成されています。そのほかのカードはできるだけたくさんのトークンを並べるように特化させた選択になっていますね。このデッキの初動には目を疑うようなものもありますよ!

上機嫌の解体炎樹族の使者羽ばたき飛行機械

このデッキは強力な初動を決めることに勝負をかけています。《上機嫌の解体》というたった1マナで3体もトークンを出せるカードがあるため、理想的な初手なら「召集」の5マナ域を最速で2ターン目に唱えられるのです。《炎樹族の使者》《羽ばたき飛行機械》はマナのかからないクリーチャーであり、爆発力に拍車をかけています。マリガンは積極的に行い、できれば3ターン目までに強い動きができる手札を求めていきましょう。もっとも、このデッキを警戒していない相手になら、そういった強い初動を頻繁に決められるはずです。

クラリオンのスピリット混沌の学部長、プラーグ軍勢の忠節者

この「召集」戦略は多種多様な構成があり、横に並べるための呪文もとどめを刺すための呪文も選択肢が豊富にあります。ただ、リーグに何度か参加してみて個人的に気に入っているのは、除去に不利な交換、もしくは等価交換してしまうクリーチャーを使わず、相手にやりづらくさせるアプローチです。たとえば《クラリオンのスピリット》《混沌の学部長、プラーグ》《軍勢の忠節者》などですね。除去に強いクリーチャーを選択すれば、「召集」をさせまいと相手は単体除去を使おうにも、それを超える数のクリーチャーを並べられるのです。

このデッキはここまで驚くほどの強さを示してくれていますが、全体除去に弱いのは確実です。サイドボードにはこの問題を多少なりとも解決すべく新カードの《ゴバカーンへの侵攻》を入れていますが、それでも《一時的封鎖》《絶滅の契機》はなかなか防ぎきれません。《イーオスの遍歴の騎士》を連続で唱えれば持久戦も臨めますが、そうしようにもまずは盤面にクリーチャーが並んでないといけないですからね!

湧き出る源、ジェガンサ婚礼の発表

《炎樹族の使者》を使っているのに《湧き出る源、ジェガンサ》がサイドボードにいるのは疑問に思ったかもしれません。これは消耗戦で《炎樹族の使者》の代わりに《婚礼の発表》を入れようというときにサイドボード戦で「相棒」として使いたいのです。


『機械兵団の進軍』以降、パイオニアで一番のお気に入りのデッキは「ボロス召集」になりました。今後数週間でどんな変化をしていくのか楽しみにしたいと思います!

ピオトル・グロゴゥスキ (Twitter / Twitch / Youtube)

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Piotr Glogowski マジック・オンライン上でkanisterとしてその名を轟かせ、Twitchの配信者としても人気を博す若きポーランドの雄。 2017-2018シーズンにはその才能を一気に開花させ、プロツアー『イクサラン』でトップ8を入賞すると続くワールド・マジック・カップ2017でも準優勝を記録。 その後もコンスタントに結果を残し、プラチナ・レベル・プロとしてHareruya Prosに加入した。 Piotr Glogowskiの記事はこちら