なぜラクドスミッドレンジが、スタンダードにおけるベストデッキたりえたのか

Matti Kuisma

(※この記事は5/30の禁止制限告知前に執筆されたものです。)

Translated by Riku Endo

原文はこちら
(掲載日 2023/05/30)

プロツアー・機械兵団の進軍でのチームとしての勝利

またお会いしましたね。

プロツアー・機械兵団の進軍』で私のチーム(Team Handshake)は支配的ともいえるパフォーマンスをして、実にトップ8に4人が入った。これらの4人はスイスラウンドを上位4位で終えており、そのうちの1人であるネイサン・ストイア/Nathan Steuerは決勝トーナメントを勝ち、日曜に優勝をつかみとった。これはマジック史上におけるどのチームと比べてもベストパフォーマンスの1つである。

チームのほかのメンバーたちの成績も悪くなかった。スタンダード部門におけるチーム全体の合算勝率は67%で、近年の競技マジックにおいて素晴らしい偉業だ。私たちのチームが成功を収めた要因の1つはデッキ選択の上手さにある。どのフォーマットにおいてもチーム全員が同じデッキを提出することは稀なのだが、今回は全員がラクドスを使うことに決めた。

鏡割りの寓話

ところで、ウィザーズはまもなくスタンダードにおける禁止改訂の告知を予定している。私たちのプロツアーの結果が告知に至った唯一の理由でないことは明らかだが、《鏡割りの寓話》の退場を早めなかったら驚くだろう(禁止にならなかったらなおさらだ)。

では、わたしたちはどのようにしてラクドスを選ぶに至り、何がラクドスをこれほどまでに優れたデッキにしているのか?私たちはどのようにして予想したメタゲームに対してデッキ調整をしたのか?どうすればベストデッキを自分で見定めることができるだろうか?

今回はこれらについて、解き明かしていくとしよう。

なぜラクドスミッドレンジなのか?

『機械兵団の進軍』からの新カードについてとそれらがスタンダードをどのように変えたのか話す前に、このセットが出るまでに何が起きていたかについて簡単におさらいしていくとしよう。『ファイレクシア:新たなる統一』発売後のスタンダードはグリクシスがトップメタになることから始まった。グリクシスはこのフォーマットにおいて今に至るまでしばらくの間、強力であり続け、10月の世界選手権で優勝したのもこのデッキであった。

鏡割りの寓話黙示録、シェオルドレッド絶望招来勢団の銀行破り

グリクシスは単純にこのフォーマットにおけるもっとも強いカードたちと使い勝手のいい解答手段を使うことができる。《鏡割りの寓話》《黙示録、シェオルドレッド》《絶望招来》《勢団の銀行破り》《喉首狙い》《かき消し》などだ。

Razorlash Transmogrant

しかしそのあと、《剃刀鞭の人体改造機》用いたグリクシスの倒し方が発見された。グリクシスはこのカードに対処することが本当に難しい。このカードが最初に現れたのはトラルフ・セヴラン/Thoralf Severinとニコ・ボーニー/Nico Bohnyが持ち込んだエスパーに入れられたもので、このエスパーは地域チャンピオンシップで猛威を振るった。

それからはグリクシスを使うプレイヤーの多くが、青いカードに見切りをつけて、より均整の取れたマナベースを支持していくのを目にした。これによって、《剃刀鞭の人体改造機》への脆さは軽減され、ラクドスミッドレンジが新セット発売を前にしてもっともポピュラーなデッキとなった。

では、『機械兵団の進軍』によってどう変わったのだろうか?

侵攻の伝令、ローナ

私たちにとってまず明確だったことは、チーム内ですでにエスパーを支持する人が誰もいなかったということだ。このデッキは新しく《侵攻の伝令、ローナ》を手にはしたが、抱えていたどの問題もあまり解決することができていなかった。むしろ、より悪化している部分さえあるように見えた。

私が思うには、エスパーはグリクシスに長期戦で勝とうとするミッドレンジではなく、《黙示録、シェオルドレッド》に重点を置いた極めて積極的なデッキでありたいはずだ。《侵攻の伝令、ローナ》はゲームの展開を遅くしてしまい、《鏡割りの寓話》を使う側に時間を与え、カードアドバンテージを得る準備が整ってしまう。単体除去に対しても弱く、なかでも《切り崩し》に対処されてしまうのは重要な点だ。

スレイベンの守護者、サリア

対照的に、エスパーにおいて軸となるカードは《スレイベンの守護者、サリア》だと考えている。攻撃的なクリーチャーで、相手に除去を打たせるか、さもなければゲームプランを大いに狂わせる。《鏡割りの寓話》《勢団の銀行破り》《絶望招来》は追加のマナを払う必要があるととても使い勝手が悪くなる。

《スレイベンの守護者、サリア》のような攻撃的なクリーチャーをマナカーブ通りにプレイして相手に除去呪文を使わせることで、自分の《黙示録、シェオルドレッド》を生き残りやすくして試合に勝つ。このように《スレイベンの守護者、サリア》はショートゲームにおいて優れているのであり、ロングゲームではむしろ役に立たない。つまり、《侵攻の伝令、ローナ》とは相性が良くないのだ。

Lithomantic Barrageぎらつく氾濫

エスパーの新しいカードがパッとしないだけでなく、赤黒系のデッキはエスパーに対して非常に有効なツールをいくつか手に入れた。《石術の連射》はその最たるもので、《離反ダニ、スクレルヴ》《策謀の予見者、ラフィーン》、そのほかへの明確な解答になる。《ぎらつく氾濫》もまた多くの状況で破壊的で、《離反ダニ、スクレルヴ》が絡む動きに対しては特に有効だ。《石術の連射》《ぎらつく氾濫》は、兵士に対しても驚くほど効く。

Guardian of Ghirapurマイトストーンとウィークストーン原初の征服者、エターリ

そのほかのデッキのなかだと、白単がいくつかの赤黒系デッキとのマッチアップ相性の良さから魅力的に見えた。《鏡割りの寓話》《原初の征服者、エターリ》のために赤にタッチしているものであったり、《ギラプールの守護者》《マイトストーンとウィークストーン》をブリンクしているものであったりと、いくつかのリストを試した。しかし、最終的にはどれもいまいちであった。特に、《偉大なる統一者、アトラクサ》を採用したリアニメイト系のデッキのような、ゲーム終盤により重きを置いたデッキにやられやすかったのだ。

Topiary Stomper力線の束縛Herd Migration

引きが良ければ赤黒系に強い5色ランプも試したが、安定性に問題があり、打ち消しにも苦戦した。このアーキタイプに関しては研究の余地があることは間違いない。いつか誰かが素晴らしいリストを見つけ出すかもしれない。ただ、プロツアーに向けた調整には時間的制約もあり私たちにはそれができなかった。

そうなると、残されたのは多様な赤黒系のデッキだった。なかでも、グリクシス、リアニメイト、純粋なラクドスが候補となった。

死体鑑定士閑静な中庭

リアニメイトは長い間私たちにとって最有力候補であり、調整過程でチームキャプテンのデイヴィッド・イングリス/David Inglisが支持していた。私たちが最も気に入ったのはほぼ純粋な赤黒デッキで《死体鑑定士》のためだけに青にタッチしていた。このアーキタイプの重要な発見は《閑静な中庭》である。アンタップインで《死体鑑定士》を唱える際の色事故を防いでくれるだけでなく、ゲーム終盤に《偉大なる統一者、アトラクサ》を素出しする際にも助けとなってくれる。

原初の征服者、エターリ

そのほか多くのリアニメイト使いのプレイヤーたちは《原初の征服者、エターリ》を場に出して満足していたようであったが、この恐竜には十分なパワーが感じられないことが頻繁にあり、私たちにとっては許容できなかった。リアニメイトはそのほかの赤黒系と比べると動きのぎこちなさという代償も負っており、”自分のやりたいこと”ができたときでさえ必ずしも勝てないことがあった。そうなると、このデッキを選択する意味は何だろうか?

グリクシスに対して弱いと感じたのも、リアニメイトへのさらなる追い打ちとなった。グリクシスの打ち消しがこのマッチアップに大きな影響を与えており、7マナのカードを唱えようとするリアニメイトに対して極めて有効だった。

しかしながら、《ファイレクシアの肉体喰らい》がチーム内で完全にノーマークであったことは認めなければならない。プロツアーを準優勝で終えたケイン・リアンハルト/Cain Rianhardが使ったようなリストは試さなかったし、準優勝という結果を見れば、このアプローチは正解だったのかもしれない。

リアニメイトに見切りをつけたあとに残された問いは、「より欲張ったグリクシス」か「引き締まったラクドス」のどちらを使いたいかということだった。どちらのデッキもそのほかの選択肢よりシンプルにパワフルで、かつ挽回することにも長けている。

その気になってこれらのデッキを倒そうと思ってもそう簡単にはいかず、いわゆる”相性の悪い”マッチアップも実際はそれほど悪いわけではない。赤黒デッキの強みは信じられないほど安定している点と、《鏡割りの寓話》《勢団の銀行破り》《絶望招来》といったカード単体の素のパワーの高さによって、マリガンを重ねてもほかのデッキよりもはるかに容易に巻き返せる点だ。

希望の標、チャンドラ夜を照らす

これら2つのデッキへの重要な追加カードは、新セットで登場した《希望の標、チャンドラ》である。長期戦における力強い後押しとなるこのカードと《夜を照らす》は画期的な組み合わせであり、試合の長引きやすい対白単において真価を発揮し、これら2枚のコンボによる直接火力で相手を倒してしまえることもある。

強迫

グリクシスにするかラクドスにするかの選択についてだが、大部分においてはどちらも全く同じだ。しかし、私たちはこの環境における《強迫》を本当に気に入っていた。マナベースがより優れており、実際に1ターン目に唱えやすいほうをより好んだのだ。

後攻で相手の《鏡割りの寓話》《かき消し》を当てるのはとてもよかったが、赤黒系同士の対戦では試合がもつれることが多く、条件付きの打ち消しではときに足手まといになっていることがたしかにあった。とりわけ《強迫》によって、対戦相手がこちらの手札に《かき消し》があることを知っている状況では。

剃刀鞭の人体改造機

《剃刀鞭の人体改造機》の存在ももちろんラクドスを選ぶに至った理由の1つだ。グリクシスに精通したプレイヤーであれば間違いなく《炎恵みの稲妻》《苦痛ある選定》といったいくつかの解答をデッキに入れただろう。しかし、いつだって限定的な解答を使う側よりもパワフルな脅威を使う側に回ったほうがいい。

デッキのチューニング

調整の最終段階は最良のリストと各マッチアップにおけるプランを見つけるステップだ。参考までに、こちらがネイサン・ストイア/Nathan Steuerとハビエル・ドミンゲス/Javier Domínguez、そして私が大会で使用したリストだ。

そのほかのチームメンバーのリストもとても似ているが、最後の数枚に違いが出ている。これについては後ほど少し説明しよう。

鏡割りの寓話絶望招来勢団の銀行破り黙示録、シェオルドレッド

デッキの核となるのは《鏡割りの寓話》《絶望招来》《勢団の銀行破り》、そして《黙示録、シェオルドレッド》で、そのほかのほぼすべてがこれらを中心に展開する。

先ほどこのデッキにおいて《強迫》がとても気に入っていたと述べたが、これらのカードたちこそその理由だ。上記の核となるカードたちと合わせて使って相性が良く、相手のこれらに対して使っても有効で、赤黒系同士の対戦においてかなり優位に立つことができるのだ。

大会後にはチームメイトのほとんどが、メインデッキに2枚ではなく強気に3から4枚採用すべきだったと意見が合致した。トリスタン・ワイルドラルー/Tristan Wylde-LaRueは日曜に大会会場で行われたサイドイベントのプロツアー予選で4枚すべてをメインデッキに採用して、バルセロナで行われる次のプロツアーへのセカンドチャンスをものにした。《強迫》については、どれほど多くの重要なタスクを担っているか大げさに言うのが難しいくらいだ。

数ある中でも《強迫》は…

強迫

・相手のキーカード(《鏡割りの寓話》《絶望招来》《勢団の銀行破り》)を捨てさせる。

・解答がなければそのまま試合に勝ってしまうような、自分のキーカードを守ってくれる(《削剥》から《勢団の銀行破り》を、《喉首狙い》から《黙示録、シェオルドレッド》を守る、などなど)。

こちらが脅威や解答をどのように準備しておくべきか、重要な情報を与えてくれる。たとえば、相手の手札に《黙示録、シェオルドレッド》があったなら《喉首狙い》を取っておく、といったように。

・マナカーブを下げて軽い呪文でより決定的な1対1交換をたくさんできるようになり、(残ったマナで能力を起動できるため)《勢団の銀行破り》を4枚採用するのが容易になる。

黙示録、シェオルドレッドドロスの魔神

ラクドスミッドレンジのリストの多くが《黙示録、シェオルドレッド》を4枚採用して、さらには《ドロスの魔神》まで何枚か入れている。しかしそれだと動きが重くなりすぎて、《絶望招来》に対して特に弱くなるように感じた。脅威となる4マナでも6枚も採用すれば、取れる選択肢が4マナをプレイしてあとは相手が解答を持っていないことを祈るしかないといった状況にあまりに多く陥ることになる。そんなときに《喉首狙い》《絶望招来》を相手が持っていたら、取り戻せないほどのテンポロスに苦しめられることになる。

では、2-3枚の《黙示録、シェオルドレッド》の採用にとどまるのであればどうか。しばらくは手札に抱えておいて、対戦対手がリソースをすでに使い果たしたであろうというような、ここぞというときにプレイする。そうでなければ、少なくとも《黙示録、シェオルドレッド》がトークンや《勢団の銀行破り》などによって相手の《絶望招来》から守られているときにプレイすべきだ。

試合によってもたらす影響が大きく異なるため、《黙示録、シェオルドレッド》の最適な採用枚数について全会一致の同意を得るのは不可能だ。けれども、私たちのチームは2枚か3枚のどちらかであるということについては同意していた。

墓地の侵入者

もう1つの特筆すべき特徴は、《墓地の侵入者》を減らしている点だ。大会までの標準的なリストでは4枚採用されており、私たちのチーム以外で最も成績の良かったラクドスのプレイヤー2人、ダニエル・ゲッチェル/Daniel Goetschelとウィリー・エデル/Willy Edelも大会で4枚採用していた。

しかしながら、チームの大多数がこのカードはどのマッチアップにおいても特にインパクトがないと感じた。ごくまれに重要になるといった感想で、墓地対策カードの活躍がもっとも期待できる対リアニメイト戦でさえ、パフォーマンスが振るわないように見えた。血・トークンや《鏡割りの寓話》のⅡ章、そして《墓地の侵入者》自身(!)の効果によって、《ギックスの残虐》のⅢ章と同じターンにリアニメイトしたいカードを捨てることで、《墓地の侵入者》が手玉に取られるが多々あった。

ギックスの残虐偉大なる統一者、アトラクサ

最後の1つは間違いなくもっとも決まりが悪い。ドローステップに除去されるだけでなく、「護法」の誘発によって《偉大なる統一者、アトラクサ》を捨てられ、メインフェイズに《ギックスの残虐》でリアニメイトされる。こんなプレイをされてしまうと冷静さを保つのは難しい。

このカードの採用枚数については意見が割れ、あえて2枚より少なくした人はいなかったが、それすらも考慮してはいた。ただ、チーム外のあらゆる人たちはこのカードをとても気に入っていたので、もしかして自分たちが間違っているのではないかと心配になった。それもあって、さらに枚数を削るのには気が進まなかった。また、たとえどのマッチアップにおいても印象的でないとしても、同時にどのマッチアップにおいても酷いというわけでもなかったので、何枚かはまだ入れておくのが良いという結論に至った。

切り崩し削剥喉首狙い夜を照らす

除去の枚数や種類の組み合わせについても完全な同意には至らなかった。どれが最適な構成かはっきりしなかったのだ。チームのほぼほぼ全員が3枚の《切り崩し》と1枚の《削剥》を、3-4枚の《喉首狙い》と1-2枚の《夜を照らす》と組み合わせてはいた。4枚目の《喉首狙い》にするか2枚目の《夜を照らす》を採用するかは、そのバーンスペルのフィニッシャーとしてのポテンシャルを、《黙示録、シェオルドレッド》《策謀の予見者、ラフィーン》のような脅威に対して《喉首狙い》が持つ効率性と比較してどれほど評価するかに行き着く。

もしメタゲームにエスパーが多く存在すると予想するなら、4枚目の《喉首狙い》を入れることをオススメする。一方で、白単や5色ランプが多いなら、代わりに《夜を照らす》を入れるのがいい。メインデッキに2枚目の《削剥》を入れるのもとても理に適った選択だろう。

反逆のるつぼ、霜剣山

意見を異にしなかったことは《反逆のるつぼ、霜剣山》を2枚採用する点だ。一般的な考え方に従えば伝説の土地は1枚だけ入れるべきだが、調整中の試合で《反逆のるつぼ、霜剣山》を「魂力」で用いる場面が頻繁に発生したので、2枚目も採用したくなった。トークンがダメージレースに勝つのを助けてくれるだけでなく、相手の《絶望招来》へ捧げる素材としてもうってつけだ。

《絶望招来》のことを考えると、赤マナしか出せないのはマナソースとして非常に悪いのだが、《反逆のるつぼ、霜剣山》を2枚両方とも引いたときでも、では《山》を2枚引くほうがずっといいのか、というとそうはならない。それに、余分なほうは《鏡割りの寓話》か血・トークンのルーティングで捨ててしまえばいいのだ。

腐敗した再会未認可霊柩車

私たちがサイドボードに入れたもう一つの特筆すべき、そしてあまり見ないテクノロジーは《腐敗した再会》だ。対リアニメイトへの対策カードとしてこのカードは選んだのは、干渉されないからだ。《未認可霊柩車》には《強迫》《削剥》も有効だが、このカードには効かない。宝物・トークン1つでキャストできる軽いインスタントなので、相手にとって《ギックスの残虐》のⅢ章へ進むのがとてもリスキーで恐ろしくなる。

ヴェールのリリアナ剃刀鞭の人体改造機

カール・サラップ/Karl Sarapは《ヴェールのリリアナ》1枚と《剃刀鞭の人体改造機》1枚をメインデッキに入れた私たちとはわずかに違うリストを使用した。グリクシスだらけであると予想しない限りは《剃刀鞭の人体改造機》をメインデッキから入れるのにはあまり興味をそそられないが、《ヴェールのリリアナ》はほとんどのマッチアップでサイドボードから入ってくるので、メインから採用するアイデアはかなり良さそうだ。

土建組一家の調達者

トリスタン・ワイルドラルー/Tristan Wylde-LaRueとデイヴィッド・イングリス/David Inglisはデッキにもう1枚2マナクリーチャーを入れるために《土建組一家の調達者》を1枚採用しており、良さそうではあるもののそこまでわくわくもしない。宝物・トークンには《絶望招来》《希望の標、チャンドラ》に早くアクセスできる利点はあるのだが。

洗練されたラクドス

チームで種々の赤黒系デッキについて議論を交わした際、オースティン・バーサヴィッチ/Austin Bursavichはラクドスミッドレンジがほかのバリエーションに比べて“非常に滑らか”“無駄がない”と指摘した。これを聞いたとき、彼が何年か前に私が書いた記事で述べたことと非常に似たことを意図しているのだと思った。もし前にこの記事を読んだことがなければ、読んでみてほしい。私が今まで書いた記事の中でおそらくもっとも有用な記事だと個人的に強く感じているからだ。

この記事の最後の部分で私は、本文のなかで言及した評価基準がどのデッキを使うべきか理解するために必要な、いくつかの最良の指標になると述べている。その評価基準と照らしてみると、ラクドスミッドレンジは”ベストデッキ”の完璧なモデルともいえるデッキであった。選択肢になったほかのデッキよりも不運に打ち勝てるのだ。

鏡割りの寓話勢団の銀行破り切り崩し

たとえば、ラクドスの最適パフォーマンスゾーンはかなり広い。全体的にマナカーブは比較的低めで、軽めのカードの中には《鏡割りの寓話》《勢団の銀行破り》のように更なる土地を求めて掘り進めることができるカードがあるし、基本的にどのカードも土地を引くまで凌ぐのを助けてくれる。《切り崩し》はマナコストにおける有利トレードができるカードであり、こういったカードは相手が自分よりマナを多く持っている状況を生き延びるにはとても重要だ。

夜を照らす反逆のるつぼ、霜剣山見捨てられたぬかるみ、竹沼

土地を多く引いてしまっても、そこから立て直す方法もある。《鏡割りの寓話》や血・トークンでルーティングしてしまえるし、シンプルに《勢団の銀行破り》《絶望招来》でドローを重ねてもいい。特大の《夜を照らす》で試合を終わらせることもできるし、《反逆のるつぼ、霜剣山》《見捨てられたぬかるみ、竹沼》を「魂力」で呪文のように使うこともできる。

ゼンディカーへの侵攻太陽降下偉大なる統一者、アトラクサ

ラクドスミッドレンジは環境に存在するほかのデッキに比べて、事故が起きる可能性がはるかに低いのだ。たとえば5色ランプやリアニメイトは、異なる種類の土地の適切な組み合わせで引けるかにかなり依存している。5色ランプは生き延びるために除去スペルを引かなければならず、また遅くなりすぎないようにランプ呪文も必要で、さらには土地を伸ばしたあとにゲームを巻き返すためのマナコストの重いカードも必要になる。このなかのどのパズルのピースが欠けても、とても困ることになる。一方で、ラクドスに入っているカードはそのほとんどが比較的軽く、対応を迫るカードでかつ強力なので、あらゆる組み合わせがうまく機能しやすい。

ギックスの残虐

リアニメイトはときに重いクリーチャーを捨てることに成功しても、そのあとリアニメイトするための《ギックスの残虐》を一切引かないことがある。ラクドスにはこういった問題はまず起きない。デッキ内の特定のカードに依存してもいなければ、唱えられない7マナのカードを何枚も引くリスクもまったくないからだ。

鏡割りの寓話勢団の銀行破り

またすでに先ほど述べた通り、ラクドスはカードアドバンテージを得ることに非常に長けていて、マリガンをしても簡単に巻き返せる。《鏡割りの寓話》《勢団の銀行破り》があったなら、マリガンしたことをほとんど気にすら留めないだろう。5色ランプや兵士で5枚までマリガンして勝つより、ラクドスで同様にマリガンして勝つほうがはるかに簡単だろう。

さらに言えば、ラクドスのマナベースはこの環境においておそらく白単に次いで2番目に優れている。大量のアンタップイン2色土地が入った2色のマナベースは”非常に滑らか”としか表現しようがない。

結論

良いデッキにするために派手にする必要はなく、シンプルにもっとも効率のいい解答ともっとも強力な脅威を組み合わせたほうが強くなるときもある。『機械兵団の進軍』から登場した新しいサイドボードカードは効率的で、ラクドスミッドレンジをそのほかすべてから一線を画すものにしている。

もし近いうちにスタンダードをプレイするつもりなら、このデッキを強くオススメする。もしこのデッキを倒そうとするなら…そうだな、幸運を祈っているよ。運も必要になるだろう!

しかしながら、このフォーマットにおいてこのデッキはそんなに長くリーガルではいられないだろう。故に今回はサイドボードガイドを省略させてもらった。それでもこの記事が、どのようにしてラクドスを今回の大会におけるベストデッキと定義したのかを分析したケーススタディとして興味深いものであることを願っているし、読んでくれたあなたにとって、今回行ったように今後自分でデッキを見極めるためのレッスンとなれば幸いだ。

それでは、また。

マッティ・クイスマ (Twitter)

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Matti Kuisma ワールド・マジック・カップ2016でチームの一員としてトップ8に輝いた、フィンランドのプレイヤー。 プロツアー『霊気紛争』で28位入賞を果たしたものの、2016-17シーズンはゴールドレベルに惜しくも1点届かなかった。 2017-18シーズンにHareruya Hopesに加入。2017年は国のキャプテンとしてワールド・マジック・カップに挑む。 Matti Kuismaの記事はこちら