はじめに
5月29日付けで禁止制限が告知され、スタンダードにおいて3枚のカードが禁止カードに指定されました。
【お知らせ】2023年5月29日発表の、禁止制限カード告知をお伝えします。今回スタンダード・フォーマットに変更がございます。変更の内容と理由、新たな禁止制限告知の方針について記事にてご説明いたします。 https://t.co/q6kVRMQMy1 #mtgjp
— マジック:ザ・ギャザリング (@mtgjp) May 29, 2023
肩に手を置かれてしまったのは《鏡割りの寓話》と《絶望招来》、そして《勢団の銀行破り》。いずれのカードもミッドレンジ戦略では良く見かけた顔ばかりであり、特にスタンダードを代表するデッキのひとつラクドスミッドレンジでは主力カードとなっていました。
去り行くカードに追悼の意を込めて、新たな禁止カードを振り返っていきます。
スタンダードの変更に伴う禁止制限理念の更新
今回の禁止制限告知ではカードのみならず、「禁止制限理念の更新」についても記載されています。先日の発表以降、スタンダードに安定と活気を取り戻そうという意図が読み取れます。
今後各フォーマット、特にスタンダードを管理する間隔を変更します。我々の目標はより一貫性を持たせるために各フォーマットの変更のほとんどを年に一回にすることです。この告知は秋のプレビューが始まる前に行われます。これはスタンダードだけではなくモダン、パイオニア、レガシー、そしてヴィンテージも同様です。
(「2023年5月29日 禁止制限告知」より抜粋。以下同様。)
まずは禁止カードなど各フォーマットの変更を年1回にするとのこと。ローテーションと前後してフォーマットに不具合がないか確かめる定期メンテナンスが入るようです。時期については秋に発売されるセットのプレビュー前に予定されており、直近では『エルドレインの森』前となります。
年一回の告知に加えて、環境の大きな崩壊に特別に対処するための禁止制限の更新を各セットの発売後3度目の(太平洋時間の)月曜日に行います。これは基本的にプロツアーの後に行われます。
我々はスタンダードに禁止を出すためにこの3週間という期間を使うことは非常に稀であるべきだと考えています。もし新しいカードがいずれかのフォーマットに急激かつ劇的に悪影響を及ぼしても、我々はプレイヤーが一年以上に渡って良くないフォーマットに「留められている」と感じないことが重要であると考えています。この期間は《守護フェリダー》レベルのカードのための、使われることがないように願う緊急手段です。理想的にはスタンダードの更新はプレイヤーのデッキ選択と構築への安心感を一新するために年一回だけであるべきです。
緊急的な禁止措置についても明言されています。こちらはセット発売後3度目の月曜日に実施されるとのこと。ある程度期間があるため、テーブルトップとMTGアリーナ、プロツアーなどの状況を鑑みて行われると思慮されます。
「プロツアーで活躍したカードは軒並み禁止されてしまうのでは」とご心配されている方はご安心ください。ウィザーズ・オブ・ザ・コーストの見解には「スタンダードに禁止を出すためにこの3週間という期間を使うことは非常に稀であるべきだ」とあります。例に上がっている《守護フェリダー》のように支配的なカードやデッキが登場しない限りは心配なさそうです。
禁止カード
それでは禁止カードを見ていきます。
《鏡割りの寓話》/《キキジキの鏡像》
《鏡割りの寓話》は『神河:輝ける世界』で登場した英雄譚。クリーチャートークン生成、手札の入れ替え、フィニッシャーと異なる三要素をひとつにまとめた破格のカードでした。環境にはびこるミッドレンジデッキはいずれも《鏡割りの寓話》ありきの構築となっていました。最低でもクリーチャー2体分になるわけですから、典型的な使うだけで得をするカードだったわけです。
どの効果も強力ですが、とりわけII章がミッドレンジ戦略へ与えた影響ははかり知れません。言ってしまえばミッドレンジとは単体で優れたカードの集合体です。クリーチャーとボードコントロール要素、その他の領域への干渉手段、リソース補充とさまざまな要素が組み合わさり、デッキのていを成しています。状況に合わせた柔軟な対応が魅力ですが、いいとこ取りし過ぎた結果、チグハグな展開もあり得ました。
《鏡割りの寓話》は攻防の起点でありながら、ミッドレンジ戦略の弱点であったマッチアップごとの不要牌や引きムラを副次効果として解消したのです。《鏡割りの寓話》はミッドレンジ戦略を裏目のないひとつ上のステージへと押し上げた立役者でした。
I章、II章ではリソースの拡充でしたが、III章まで辿り着けばフィニッシャーとなります。相性の良いクリーチャーが揃っていたことに加えて、《キキジキの鏡像》が2体並べばお互いにコピーし合うことも可能でした。
《絶望招来》
《絶望招来》は『神河:輝ける世界』で登場したクァドラプルシンボルのソーサリー。異なる3種類のパーマネントか、カードとライフ面でのアドバンテージを獲得できるカードです。黒単ミッドレンジ以降、ほとんどの黒いデッキのフィニッシャー的な立ち位置のカードとなっていました。
《婚礼の発表》や《放浪皇》などのパーマネントがあったにもかかわらず、常に黒いデッキが存在し続けたのは《絶望招来》の処理能力の高さを証明しています。いくら忠誠値を上げようとも、5マナで処理されてしまうわけですから。
ここ最近は《希望の標、チャンドラ》とセットで採用され、相手に絶望を、自身に希望を届けてくれる一種のコンボとなっていました。
《勢団の銀行破り》
《勢団の銀行破り》は『神河:輝ける世界』で登場したドローソース。無色のアーティファクトであり、どのデッキでも採用できました。さまざまなミッドレンジ戦略が共存できたのは、ひとえにこの壊れたアドバンテージエンジンがあったおかげです。《勢団の銀行破り》は青からお家芸であったカードアドバンテージを奪ってしまったほどでした。
《精神迷わせの秘本》とよく似たカードでしたが、機体である点が一線を画していました。序盤に設置しておけばタップアウトの隙を突くクロックとなりますし、中~長期戦では悠々とアドバンテージを稼ぎながら乗り手を確保してくれます。リソース獲得手段でありながらフィニッシャーまで務める自己完結したカードでした。
これらのカードが使用された代表的なデッキとしては『プロツアー・機械兵団の進軍』で大成功をおさめたTeam Handshake製のラクドスミッドレンジがあげられます。
ラクドスミッドレンジは、単体除去や火力でボードを平らにしていく捌きに重きをおいたアーキタイプ。2マナ以下の軽量インスタントを多用しており、テンポ良く対処しながら《税血の収穫者》や《鏡割りの寓話》へ繋げてボードを切り返していきます。特定のカードに依存していないため構築の自由度が高く、メタゲームに合わせたカードチョイスが可能です。
Team Handshake製のラクドスミッドレンジの特徴といえるのがメインボードに4枚採用された《勢団の銀行破り》。積極的にドローを進めてリソースを伸ばしながら、同時に軽量除去でボードを処理していきます。
改めて見返してみると、このラクドスミッドレンジには今回禁止カードとなった《鏡割りの寓話》《絶望招来》《勢団の銀行破り》がそれぞれ4枚ずつ採用されています。トップレベルのプレイヤーが集って最適なカードを選び、構築へと結び付け、さらに圧倒的な結果まで残したわけです。その慧眼たるや驚嘆に値します。
今後のスタンダード
3種類のカードが消えたことで、スタンダード環境は完全にリセットされました。あらゆるゲームレンジに対応できていた無敵のミッドレンジは存在しません。テンポやアグロ戦略の本格復帰となりそうです。
次期環境の筆頭デッキと名高いのはエスパーレジェンズ。《離反ダニ、スクレルヴ》から伝説クリーチャーを連打していき、《策謀の予見者、ラフィーン》が打点へと集約します。単体除去でコントロールしようにも《離反ダニ、スクレルヴ》と《スレイベンの守護者、サリア》といった保護役が揃っており、もっとも安定したアーキタイプのひとつです。
アグロデッキでは赤単と兵士、新鋭セレズニアエンチャントです。どれも最序盤からクリーチャーを展開していき、火力や打ち消し、全体強化などでビートダウンをサポートします。依然として《黙示録、シェオルドレッド》は脅威であるものの、ボードコントロールの優れたラクドスミッドレンジの衰退は追い風となります。
ミッドレンジ戦略が減り、環境の速度が上がれば出だしの遅いデッキの立ち位置は悪化します。「版図」のために悠長にマナベースを整えていたランプデッキ、《婚礼の発表》頼みの白系ミッドレンジがメタゲーム上不利であることは否めません。さらに《勢団の銀行破り》ロスによるリソース面での不安も抱えています。
ですが、《原初の征服者、エターリ》や《多元宇宙の突破》《偉大なる統一者、アトラクサ》とフィニッシャーが充実しているのも事実。構築に手を加える必要はありますが、少しでも環境が遅いほうへと傾けばメタゲームの一角を担う存在となりえます。
デッキではなく色の役割で見ると、《勢団の銀行破り》が去ったことでカードアドバンテージの主役は青へと返り咲くかもしれません。幸いにして青には「フラッシュバック」付きの《記憶の氾濫》があるため、青を軸としたミッドレンジやコントロール戦略が確立される可能性を秘めています。
以下は5月29日(月)時点でのデッキリストであり、禁止制限の影響の小さいクリーチャー戦略を中心に掲載しています。禁止制限告知前のものとなるため、一部《勢団の銀行破り》が採用されている点をご了承ください。
エスパーレジェンズ
赤単アグロ
アゾリウス兵士
セレズニアエンチャント
5色ランプ
(編注:禁止告知前のリストのため《勢団の銀行破り》が入っております)
オルゾフミッドレンジ
(編注:禁止告知前のリストのため《勢団の銀行破り》が入っております)
おわりに
歴代最強ともいえるリソース獲得手段の面々が去ったことで、スタンダードは新たなステージへと歩を進めます。ラクドスとグリクシスの両ミッドレンジは解体を余儀なくされてしまいましたが、一部のカードを差し替えるだけで使用できたり、無傷なデッキも数多く残っています。今後、このフォーマットがどのように変化していくか要注目ですね!
年一回の禁止制限告知ですが、初回は2023年8月7日、『エルドレインの森』のプレビューに先駆けて行われるとのことです。
今回の禁止告知については動画でも解説しているので、ぜひご覧ください!