対策を乗り越えろ!~サイド後の向き合い方~

増田 勝仁

はじめに

お疲れ様です。てんさいチンパンジー(@tensai_manohito)です。

最近はスタンダードのローテーションが変更されたり、禁止改訂のあれやこれやが発表されたりといろいろありましたね。

自然の怒りのタイタン、ウーロ荒野の再生

個人的には禁止を出さずに環境が固定されるよりは、定期的に禁止を出して環境を動かしてもらえたほうが嬉しいので、今回の施策にはおおむね賛成しています。ただ、ある程度はプレイヤーの自浄作用に任せつつ、可能なら禁止ではなく解除する方向で環境を動かしてほしいなとは思います。帰ってこい、《自然の怒りのタイタン、ウーロ》《荒野の再生》…!!

ちなみにここまでの前置きと記事の内容は関係ありません。今回は「対策を乗り越えろ!」というテーマであれこれ語ります。

対策を乗り越えろ!

私自身、コンボデッキ好きで現在に至るまでフォーマット問わずさまざまなコンボデッキに触れてきました。そのなかで共通する課題が「相手の対策をいかにして乗り越えるか」ということです。

ヴェクの聖別者血染めの月虚空の力線減衰球

コンボデッキはメイン戦での勝率が高い反面、サイド後の勝率が落ちる傾向にあります。それは、メイン戦には対策カードがなく、サイド後には対策カードが投入されるからです。当たり前です。この「サイド後の対策」を一切苦にしないコンボデッキは存在しません。

なので、コンボデッキ側も”対策の対策”を講じて対抗するのが一般的です。しかし、コンボデッキはメインが最強!”対策の対策”はデッキを弱くする行為です。可能ならば行いたくはありません。デッキが弱くなった結果、結局負けてしまっては”対策の対策”の意味がありません。サイドボード後にデッキを弱くしないためにはどうすればよいのでしょうか?

有事対策

というわけで、今回は「どのように相手の対策を乗り越えていくのか」「そのためにはどういった考え方が求められるのか」といったその考え方や方法について掘り下げていきます。

例としてモダン環境のコンボデッキを想定した話が中心になりますが、話の本質は環境やアーキタイプによらないものなので、「普段はモダンをやってない」「コンボデッキなんて興味ない」という方も最後までお付き合いください。また、基礎的な内容が中心になるので「そんなん知っとるわ!」という方も生暖かく見守っていただけると幸いです。

対策の対策【理論編】

“対策の対策”として代表的な3つの考え方について、それぞれ掘り下げていきます。

1. 対策カードを除去する「対策の除去

2. 対策カードを回避する「対策の回避

3. 対策カードを無視する「対策の無視

1. 対策カードを除去する「対策の除去」

血染めの月自然の要求

一番分かりやすく、基本となる考え方です。対策カードが想定されるのであれば、その対策カードを対策すればよいのです(例:《血染めの月》を破壊する《自然の要求》など)。対処するカードが明確なら、またそれを対処するカードも明確というわけです。

しかし、この考え方は分かりやすいぶん、罠もあります。それは「対策の除去」だけを引いた場合を考慮しなければならない、ということです。

本来、”対策の対策”は元の戦略とは噛み合わない場合が多いです。いわば不純物です。そういった不純物がデッキに入った場合、どうなってしまうのでしょうか。

相手が対策カードを引いた/引いていない場合、自分が”対策の対策”カードを引いた/引いていない場合、それぞれの組み合わせである4つのケースに分けて考えてみましょう。

① 相手:対策カードを引いた&自分:対策の対策カードを引いた
(例:相手が《血染めの月》を引いたが、自分も《自然の要求》を引いた)

② 相手:対策カードを引いた&自分:対策の対策カードを引いていない
(例:相手は《血染めの月》を引いたが、自分は何も引いていない)

③ 相手:対策カードを引いていない&自分:対策の対策カードを引いた
(例:相手は何も引いていないが、自分は《自然の要求》を引いた)

④ 相手:対策カードを引いていない&自分:対策の対策カードを引いていない
(例:相手は何も引いていないし、自分も何も引いていない)

対策カードに対して、それを除去する方法は”対策の対策”のなかではもっともメジャーですが、同時にもっともリスクが高い方法ともいえます。噛み合うことが前提になっていて、③のように噛み合わないパターンも存在します。この場合、自分だけがマリガンしているような状況で、あきらかに何もしなかった場合よりも状況が悪いです。

では、どうすればよいでしょうか。これは完全に回避することはできません。しかし、その被害を小さくすることは可能です。それは、③のような状況にならない・無駄になりづらい”対策の対策”を採用することです。

羅利骨灰四肢切断

たとえば、《羅利骨灰》は”対策の対策”でありながら、本命が出てこなかったとしても除去としての運用が可能です(ちょっと重いことには目をつむりましょう)。《四肢切断》《月の大魔術師》のようなヘイトクリーチャーを睨みつつ、対象クリーチャーが出てこなかったとしても《敏捷なこそ泥、ラガバン》《帳簿裂き》のように普通のクリーチャーに対しても唱えることができます。

これは”対策の対策”だけではなく、通常の対策カードを採用する場合でも同様です。

神聖なる月光大祖始の遺産トーモッドの墓所

《神聖なる月光》のようにキャントリップがついている対策カードは、不要であれば別のカードに変換できるため、初手近辺にあっても無駄になりづらいです。《大祖始の遺産》はドローがついており、基本的には《トーモッドの墓所》よりも優先したいです。

もちろん、《トーモッドの墓所》は「0マナ」「起動時にマナもかからない」「相手だけを対象にとれる」ので、それらがメリットになるデッキ(イゼット果敢など)や《虚空の杯》でX=1を指定したい(=《大祖始の遺産》が使えない)場合などはその限りではないです。

役割を明確にし、メリット・デメリットを考慮した上でデッキに合った対策カードを選びましょう。

2. 対策カードを回避する「対策の回避」

いわゆるアグレッシブサイドボーディングです。対策されるカードを抜くまたは減らして、別軸の勝ち手段を用意します。また、単にフィニッシャーを追加する場合もこれに含まれます。

相手が対策カードを採用して勝手に弱体化している状態で、自分は別軸の勝ち手段を持っているというアドバンテージは非常に大きいです。

さきほど、例に挙げた状況に当てはめると、

【③ 相手:対策カードを引いていない&自分:対策の対策カードを引いた

これの逆の状態を無理やり引き起こしているといえます。

例1

屍呆症エメリアの盾、イオナ

独創力コンボを使用。相手が《屍呆症》を唱えて《残虐の執政官》を指定。しかし、《エメリアの盾、イオナ》をサイドインしていたため、結果的に《不屈の独創力》が腐らずに使えて勝利!

ただし、これはそのプランが一般的になればなるほど効力も下がります。

例2

屍呆症不屈の独創力

独創力コンボを使用。相手が《屍呆症》を唱えて《不屈の独創力》を指定。相手はサイド後に追加のクリーチャーをサイドインしていること見越していた!結果、《残虐の執政官》《エメリアの盾、イオナ》も出せずに敗北…

しかし、これは相手の考え方とのじゃんけんになってしまうので、正解がありません。

屍呆症

《屍呆症》側:相手のクリーチャーが《残虐の執政官》だけなら《残虐の執政官》を指定するのが正解。追加でクリーチャーをサイドインされているなら《不屈の独創力》を指定するのが正解。

(※《不屈の独創力》を抜いても、《残虐の執政官》が残っていると素出しされる可能性があるため、可能ならば《残虐の執政官》を抜きたい)

不屈の独創力

独創力コンボ側:相手が《屍呆症》《残虐の執政官》を指定するなら、追加のクリーチャーをサイドインするのが正解。相手が《屍呆症》《不屈の独創力》を指定するなら、追加のクリーチャーをサイドインしないのが正解(真の意味での正解は《不屈の独創力》のサイドアウトですが…)。

また、「対策の回避」を実施した上で自分のデッキは元の動きそのまま!とはなりません。問題はアグレッシブサイドボーディングにより、メイン戦の状態よりデッキパワーは落ちるということです。アグレッシブサイドボーディングは自分のデッキが100%→80%になっている状態で、相手のデッキが100%→50%になっていることを良しとする対策です。結果、それが敗因になることもありえます。

例3

不屈の独創力エメリアの盾、イオナ

独創力コンボを使用。相手が《屍呆症》をサイドインしてくる想定でこちらも《エメリアの盾、イオナ》をサイドイン。しかし、《屍呆症》は唱えられず。そのまま《不屈の独創力》を唱えたところ、《エメリアの盾、イオナ》が戦場に出た。

タルモゴイフタルモゴイフ

が、相手の戦場には《タルモゴイフ》が2体並んでおり、返しにそのまま殴られて敗北…《残虐の執政官》が出ていればライフを回復した上で《タルモゴイフ》に殴り返されずに済むので勝っていた!(=《エメリアの盾、イオナ》をサイドインしたことによる敗北)


アグレッシブサイドボーディングは必ずしもやり得!というわけではありません。例3のように相応のリスクもあります。しかし、リスクなしに”対策の対策”を行おうというのもまた無理な話です。どこかでリスクを負わなければなりません。

それが「対策の除去」なのか「対策の回避」なのか。どちらが優れているかはデッキ次第・構成次第なのでこれ以上は掘り下げません。【実践編】でいくつか例を挙げてますので、それを参考に自分のデッキはどの対策が良いか?を考えてみてください。

ちなみに、同じ対策の当たるタイプのアグレッシブサイドボーディングはあまり意味がありません。というかそれはアグレッシブサイドボーディングではなく、ただの自爆です。可能なら避けましょう。

例4

死せる生虚空の杯衝撃の足音

リビングエンドを使用。相手が《大祖始の遺産》《忍耐》のような墓地対策をサイドインすることを想定して、《死せる生》《衝撃の足音》を入れ替えた。が、相手の対策が《虚空の杯》だったため、結局《衝撃の足音》も上手く使えず敗北…。

これもデッキの性質によりますので、よく考えて対策カードは選びましょう。

3. 対策カードを無視する「対策の無視」

言葉の通りです。対策を無視します。それは対策じゃないだろ!と思う方もいらっしゃるかもしれません。なるほど、たしかに対策ではありません(?)。ただ、さきほどの表を思い出してください。

② 相手:対策カードを引いた&自分:対策の対策カードを引いていない

④ 相手:対策カードを引いていない&自分:対策の対策カードを引いていない

自分が”対策の対策”をサイドインしていない場合に起こり得る組み合わせは、上記の2パターンのみです。④のように、お互いに何も引かないパターンも存在します。

血染めの月万物の姿、オルヴァール

コンボデッキのなかでもコントロールに近いタイプほど、この「対策の無視」が上手くいきます。最近だと独創力コンボがそれにあたるでしょう。独創力コンボに対して《血染めの月》《万物の姿、オルヴァール》など、有効な対策カードは存在します。

鏡割りの寓話

しかし、《血染めの月》が貼られても《鏡割りの寓話》があればトークン生成&宝物生成で突破可能ですし、《万物の姿、オルヴァール》も特別なカードを取らずともプレイ次第で突破することは可能です(詳しくは以前書いた記事の「《万物の姿、オルヴァール》を乗り越えろ!」の部分を参照)。

利用できるデッキはぜひとも利用しましょう。といっても、“何もしない”のですが…。

対策の対策【実践編】

相手がどういったアプローチでどういった対策カードを採用しているのかを想定しつつ、自分がどのような”対策の対策”を行うのかについて、例を挙げながら解説します。

「対策の除去」「対策の回避」については対策すべきカードとその役割について、「対策の無視」についてはその可否について掘り下げていきます。

例:アミュレットタイタンの場合

「対策の除去」:《静寂をもたらすもの》対策の《四肢切断》《血染めの月》対策の《白鳥の歌》

「対策の回避」:《血染めの月》対策の《桜族の長老》《ワームとぐろエンジン》

「対策の無視」:可能

アミュレットタイタンは典型的なコンボデッキです。必要に応じて”対策の対策”を講じるのがよいでしょう。

四肢切断白鳥の歌

「対策の除去」は見たままです。対策カードに当たる除去や打ち消しで対処します。

桜族の長老ワームとぐろエンジン

「対策の回避」の《桜族の長老》《ワームとぐろエンジン》はそれぞれ性質は異なりますが、「対策の回避」という面では同じタイプの対策方法といえるでしょう。前者は《血染めの月》が貼られても動けるように《森》を確保する用、後者は《血染めの月》が貼られても唱えられる&フィニッシャーとして活躍します。

「対策の無視」については、アミュレットタイタンには対策を越えてゲームを終わらせる速度があるので、対策を無視することもある程度は可能です。《血染めの月》はキツいけど、それに対抗するカードを追加すると自分の本来の動きができなくなってしまう…というジレンマに悩むくらいなら、いっそ割り切るのも有効!ということです。

例:独創力コンボの場合

「対策の除去」:《血染めの月》対策の《損耗+摩耗》《自然の要求》

「対策の回避」:《血染めの月》対策の《豊かな成長》《一攫千金》《屍呆症》対策の《引き裂かれし永劫、エムラクール》《エメリアの盾、イオナ》

「対策の無視」:可能

独創力コンボはコンボデッキではあるものの、コントロールデッキの側面が強いです。そのため、「対策の回避」「対策の無視」が得意なタイプであるため、無理して「対策の除去」を行う必要はありません。

摩耗+損耗

特にイゼットマークタイドのようなフェアデッキ相手に《摩耗/損耗》のような役割の限定したカードをサイドインすると、それが腐って負けやすいです。

なので、基本的には「対策の無視」をしつつ、相手が《血染めの月》にオールインするようなデッキ・構成の場合だけ「対策の回避」を行う、というのがスマートでしょう。

例:リビングエンドの場合

「対策の除去」:《虚空の杯》《虚空の力線》《大祖始の遺産》対策の《基盤砕き》《活性の力》

「対策の回避」:なし

「対策の無視」:不可能

リビングエンドはメインボードが非常に強固なコンボデッキです。中途半端な対策はメインから採用されている《悲嘆》《否定の力》で乗り越えられます。これらをメインから採用できるということが、デッキ強度の高さを物語っています。

基盤砕き活性の力

しかし、メイン戦での勝率が非常に高い反面、サイド後が苦しくなるタイプのデッキです。固定パーツが多いため、「対策の回避」のようなアグレッシブサイドボーディングもほぼ無理です。素直に「対策の除去」によって元のコンセプトを維持するしかありません。

「対策の無視」についても同様です。無視したら負けます。こればっかりはデッキの性質上、仕方ないことです。

おわりに

「対策を乗り越えろ!」については以上です。

一概に対策といってもそのアプローチはさまざまです。どの対策にも良し悪しがありますが、それを加味した上で対策の方法が選べるとよいですね。サイド後の考え方やカードの取捨選択に本記事が参考になれば幸いです。

増田 勝仁(Twitter)

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増田 勝仁 リミテッドよりも構築フォーマットを得意とし、ひとたび好みのデッキを見つけるとただひたすらに使い続ける。そのやり込み具合は日本でもトップクラスで、誰よりもデッキへの理解が深く、プロからも一目置かれているプレイヤーだ。「日本一」の称号を求めて戦う「日本選手権2019」でトップ8に入賞し、舞台をオンラインへと移した「日本選手権2021 SEASON1」では使い続けたナヤフューリーで悲願の優勝。マジックの歴史にその名を刻んだ。 増田 勝仁の記事はこちら