第5期統率者神の現場へ。決勝カバレージ&インタビュー

いってつ

たったひとりでつかんだ神の座

マジックを上手くなるにはどうすればいい?勝つためにはどうすればいい?

まずは「練習」だ。ではどうやって練習する?

プロレベルの選手たちは調整チームでメタゲームを分析したり、デッキを調整、練習したりしている。そうでなくても、仲間内で研究会やトーナメントを実施して研鑽に励むプレイヤーは少なくない。

神決定戦では神と挑戦者が知り合いで、お互いのプレイスタイルを熟知している――という場面が頻発する。

それは統率者神でも同じことで、神決定戦では顔見知りのメンツが揃うことが非常に多かったのだ。

一方、過去最多、134人の参加者となった第5期統率者神挑戦者決定戦。その頂点に立ったのはまったく無名のプレイヤーだった。

神決定戦

挑戦者紹介

猫トラテヴェ

トリトンの英雄、トラシオス愚者滅ぼし、テヴェシュ・ザット

第4期統率者神挑戦者のハヤシ ユウヤ選手は今回出場を見送っている。

その一方で、ハヤシ選手を「心の師匠」と仰ぎ、同じ「猫トラ&テヴェ」を使用したアラカワ ショウヘイ選手がハヤシ選手の抜けた椅子に滑り込んだ。

ディスプレイサーの仔猫

猫と冠するだけに、《ディスプレイサーの仔猫》を重視した構築になっている。《ディスプレイサーの仔猫》《愚者滅ぼし、テヴェシュ・ザット》《永遠の証人》《呪文探求者》、マナアーティファクトをブリンクして圧倒的なアドバンテージを獲得して勝利する。

挑戦者決定戦決勝戦ではライフが残り2まで詰められるも、ギリギリのところで《対称な対応》《ディスプレイサーの仔猫》をつかみ、勝利。

指輪、サーダ・アデール

一つの指輪奪い取り屋、サーダ・アデール

《一つの指輪》を使いたい……そうだ、《奪い取り屋、サーダ・アデール》で対戦相手のデッキから借りよう!」

《ロフガフフの息子、ログラクフ》&《愚者滅ぼし、テヴェシュ・ザット》で第1期2期と神挑戦者となっていたマツモト スケナオ選手が選択したのは《奪い取り屋、サーダ・アデール》

旧来は対戦相手のデッキからマナアーティファクトやコンボパーツを盗み取るデッキだったが、《一つの指輪》の登場により、統率領域に強力なドローアーティファクトが置かれているデッキに。

挑戦者決定戦決勝では対戦相手が誰も《一つの指輪》を採用していないとわかり、デッキコンセプトが崩壊。ところが《願い爪のタリスマン》を盗み出し、《通電式キー》《多用途の鍵》で繰り返し起動することで大量のカードをサーチしてみごとな勝利を納めたのだ。

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挑戦者決定戦の場面。
「指輪がないならせめて《師範の占い独楽》を……」と相手のデッキを探すも、目当てのカードは手札にあり、サーチ不可。「ヤッバぁ!」「どーすんだよ」と落胆するマツモト選手。それでもこのあと勝ちます。

パコハルダン

秘儀を運ぶもの、パコ熱心な秘儀術師、ハルダン

対戦相手のデッキからカードを盗み出しながら大きく育っていく《秘儀を運ぶもの、パコ》《荊州占拠》など追加ターン呪文も大量に採用し、戦闘ダメージで対戦相手をねじ伏せていく。

挑戦者決定戦決勝では《マナ吸収》《否定の力》《サイクロンの裂け目》を握ってキープし、見事にティムナ&クラム、ケリクの初動をさばききって勝利した。

神の紹介

トレストの密偵長、エドリック

日本一有名なエドリック使い、ヨシダ トシユキ選手。グランプリなどで開催されていた統率者日本選手権でも3度の優勝経験があり、日本でもっとも統率者戦がうまいプレイヤーの1人といっても過言ではない。

白・赤のカードパワーの高まりで緑が相対的に弱くなってしまった現在でもエドリックデッキにこだわり続けるヨシダ選手。今回、初の防衛戦に挑む。ここにきて《オークの弓使い》という非常に厳しいカードが登場するなど、逆風が続くが果たして。

オークの弓使い

決勝戦の模様

以下、プレイヤーやそのデッキは各統率者名の略称で呼称し、カード名は《》で囲った正式カード名で表す。
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ゲームが始まるまえから戦いは始まっている。

「3人も追加ターンを使うプレイヤーがいる。パコハルダンが危険すぎる」

裁判の前にその争点や証拠を整理する「争点整理手続」のように、卓についた選手たちはそれぞれの展開予想のすり合わせを行う。ゲーム前のシャッフルしている最中だけでなく、集合時間より早く来てお互いのリストを見ながら議論することも。これも統率者神決定戦ではおなじみの光景になりつつある。

対戦相手のデッキからドローしながら大ダメージを与えていくパコハルダンは自分のデッキから追加ターン呪文を唱えてさらなるアドバンテージとテンポを得る。今回のマッチアップではサーダアデールとエドリックからも追加ターン呪文を獲得する恐れがあり、パコハルダンから一度攻撃を受けるだけで壊滅的な状況を引き起こしかねない。

3人がパコハルダンについて話すなか、パコハルダンははにかみつつもだんまり。自身の評価については異論ないようだ。

ゲーム進行はエドリック→サーダアデール→パコハルダン→トラテヴェ。トラテヴェのみが6枚でキープ、ほか3人は7枚でキープ。

ゲーム前、サーダアデールからは《宝石の洞窟》。ゲームが始まり、エドリックからは《フィンドホーンのエルフ》と悪くない立ち上がりだが、パコハルダンからは1ターン目に《花の絨毯》

花の絨毯

青単デッキがいるこのテーブルでこの立ち上がりは犯罪的。エドリック、サーダアデールからは「やべー!」と悲鳴が上がる。無事着地すると「どーすんだこれ……」と頭を抱えてしまう。

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島を置かざるをえない青単、サーダアデール。

エドリックは2ターン目《虹色の眺望》をプレイ。《島》をもってきたい……」。これにはサーダアデールからは「こっちも《島》置きそう」とのことで《島》をサーチ。

致命的なはしゃぎ回り

ターンを受け取ったパコハルダン、《熱心な秘儀術師、ハルダン》をプレイ。これに対応してトラテヴェ、《神秘の教示者》から《致命的なはしゃぎ回り》をサーチする。このサーチはパコハルダンに足踏みさせる。その後《トリトンの英雄、トラシオス》を着地させ、《致命的なはしゃぎ回り》を構えることに成功。

一つの指輪遅延

一方、サーダアデールはトラテヴェから奪った《魔力の櫃》を使って《一つの指輪》をプレイ。これにはエドリックから《遅延》。解決は3ターン後まで持ちこされる。

《致命的なはしゃぎ回り》を目にしたパコハルダンは一旦ステイ。トラテヴェも構えてゴー。

フェアリーの黒幕

しかしパコハルダン、足踏みではなかった。エドリックのドローに対応して《フェアリーの黒幕》!エドリックのドローにタダ乗りしていく。続くターンでサーダアデールのアタックでふたたび《トレストの密偵長、エドリック》の能力が誘発。ここでまたタダ乗りドロー。

ドローを重ねたパコハルダン、決心した様子で《秘儀を運ぶもの、パコ》をプレイ。トラテヴェは手札の《致命的なはしゃぎ回り》を見つめる。《秘儀を運ぶもの、パコ》は着地するが、ここにやむを得ず《致命的なはしゃぎ回り》

誤った指図

しかしこれにパコハルダンから《誤った指図》!これはまずいとエドリックから《激情の後見》が飛び出すが、これも《紅蓮破》で対応!《致命的なはしゃぎ回り》はエドリックの《秘密を知るもの、トスキ》に命中。

有毒の蘇生

しかし空中戦は続く。トラテヴェの《有毒の蘇生》が墓地の《致命的なはしゃぎ回り》をライブラリー上に戻し、《トリトンの英雄、トラシオス》で手札に引き込み、再度《致命的なはしゃぎ回り》《秘儀を運ぶもの、パコ》に差し向ける。 これはさすがに手が無く、《秘儀を運ぶもの、パコ》は一旦退場。

しかし再びターンを受け取ったパコハルダン、《花の絨毯》でマナをまかない、《秘儀を運ぶもの、パコ》が再登場!これは打ち消しも除去もなく、《秘儀を運ぶもの、パコ》の能力を解決!

花の絨毯意志の力精神力

めくれたカードが《花の絨毯》《意志の力》《精神力》!!攻撃しただけでマナ加速、打ち消しを手に入れつつ、サーダアデールのコンボをひとつつぶしてしまった!!

強烈なめくれに、3人はパニックに。パコハルダンの独走を止めなければならない。やはり「争点」はここになった。

ここでトラテヴェは《俗世の教示者》《オークの弓使い》をサーチ。続くエドリックのドローにあわせてプレイし、《トレストの密偵長、エドリック》《フェアリーの黒幕》をうまく対処。

さあ、漁夫の利を得られるかサーダアデール。遅延のとけた《一つの指輪》を唱える。パコハルダンは《意志の力》を構えているが、これには《意志の力》を打たない。

否定の力

なぜなら《否定の力》があるからだ。サーダアデールは自前の《一つの指輪》を追放され、回収不可能になってしまう。それならしょうがない、《奪い取り屋、サーダ・アデール》でパコハルダンのライブラリーから《一つの指輪》を取り上げる。それをそのままプレイ。これが通ればプロテクションを得て《花の絨毯》で対象に取られることもなくなる。

が……だめ!手札から《断れない提案》ではじく。

ふたたびパコハルダンの攻撃。これに対応してトラテヴェから《渦巻く霧の行進》。これは見えていた除去。

渦巻く霧の行進

「このフェイズアウトって、つぎの自分のターンまででしたっけ」。パコハルダンがテキストを確認すると、《意志の力》を行使。そこにはさらにトラテヴェから《激情の後見》。1ターンの猶予を得る。

「では、《時間の熟達》を。」

波止場の恐喝者時間の熟達

なんとパコハルダン、《波止場の恐喝者》から《時間の熟達》!!追加ターンを得て、すぐさまフェイズイン。ここにサーダアデールは《待機》《秘儀を運ぶもの、パコ》を除去。

時間操作神秘の教示者荊州占拠

だがパコハルダンは止まらない。《時間操作》で追加ターンを得て、《神秘の教示者》。これは《荊州占拠》を探しだし、追加ターンへ。

《花の絨毯》でふたたびらくらくと《秘儀を運ぶもの、パコ》を唱えなおし、《花の絨毯》2枚目を設置。そして戦闘へ……

有毒の蘇生狼狽の嵐

この戦闘で《秘儀を運ぶもの、パコ》《有毒の蘇生》《狼狽の嵐》を獲得。《荊州占拠》を唱えてさらにターンを得る。

過ぎ去った季節神秘の教示者荊州占拠

《過ぎ去った季節》で墓地の《神秘の教示者》、追加ターン呪文を獲得。《過ぎ去った季節》はライブラリーに戻る。追加ターンを得たのち、《神秘の教示者》でふたたび《過ぎ去った季節》を手に入れる。これを毎ターンくりかえせるようになり、事実上の無限ターンとなる!

これには3人、手がつきた!

《花の絨毯》から始まり、最序盤から存在感を見せつけたパコハルダン、タテツ キイチロウ選手が第5期統率者神の座についた!!

たったひとりでここまで来た

第5期統率者神となったタテツ キイチロウ選手にインタビューにご協力いただいた。

毎度、優勝者にはたっぷりと聞きたいことがあるのだが、いつも「これから四文屋にいくから手短に!」と言われてしまう。祝杯をあげたい気持ちもわかる。このあとの予定をたずねると、「や、特にないです」。

優勝おめでとうございます!

「ありがとうございます。まだ実感ないですね」

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優勝インタビューにのぞむタテツ選手。

マジックを始めたのはいつ頃ですか?

「『カラデシュ』のころ。他のカードゲームをやっていたんですが禁止改訂が多くて好きなデッキを長く使い続けることが難しく、それならばとマジックのレガシーに参入しました」

今回はなぜパコハルダンというデッキ選択になったんでしょうか。

「このデッキ飽きないんですよね!対戦相手によってハルダンがめくるカードが全然違って、毎回新鮮なゲーム体験になります」

決勝戦でも《花の絨毯》をめくったりと大活躍でしたね。

花の絨毯意志の力精神力

「カード資産がそんなになくて、いろんなデッキを使うってのが難しいんです。使いたいカードがあってもなかなか厳しい。でもパコハルダンなら使える!」

首席議長ゼガーナファイレクシアの変形者幻影の像

クローン入りのゼガーナとかよく使ってましたよ!」

ところで、統率者神に参加したのはこれが初めてですか?

「2回目だったかな?土曜日になかなか休みが取れなくて参加できなかったんです。今回は珍しく日曜日月曜日の開催だったので挑戦してみました」

ここまで結果を残してきたプレイヤーの多くはなんらかの調整コミュニティに所属していましたが、タテツさんはそういったコミュニティにには属していないのでしょうか。

「忙しいということもあるのですが、正直人付き合いも苦手で……どこかのコミュニティに入ったり、お店に通ったりってことはあまりなくて。晴れる屋大宮店に遊びに行くくらいです。今日も知り合いはほぼいないです。超アウェー」

「ただ、とにかく一人回しはします。ほぼ毎日、寝るまでずっと。楽しくていくらでもできます

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神決定戦のタテツ選手。手前の第4期統率者神ヨシダ選手の手札はどうだ?

「一人回しはただ惰性で回すのではなくて、対戦相手はどんな妨害をしてくるか、どんなコンボを仕掛けてくるかとか、実際のゲームのつもりで考えてプレイしています。新しいセットが出たらカードリストをチェックしたり、いまどんなカードが強いのか調べたり……」

統率者戦はどこか練習できる場所を持たないと勝てないフォーマットだと思っていました。

「これを機に統率者戦に興味を持った人はぜひ、臆せず参加してみて欲しいですね。追加ターンを連打する、カジュアルなテーブルでは少々”やりすぎ”なプレイもここでは自由だし、こんなに緊張感のあるゲームを一日中楽しめる機会もそうそうない」

これから統率者戦に挑戦しようという方にメッセージをお願いします。

「統率者戦のイベントは1人でも出られるのがいいぞ!友達作りは正直、得意じゃないです。でもイベントに行けば卓につける。人と遊べるんです。いまためらってしまっている人こそ、統率者戦のイベントに参加してみて欲しいと思います」

人付き合いは苦手で、ずっと1人で練習していたと語るタテツ選手。その言葉と裏腹に、はきはきと夢中になって統率者戦というフォーマット、そのイベントの魅力を語ってくれた。

綱投げ、アキリトリトンの英雄、トラシオス

いっしょに遊ぶ仲間と場所が大切だと語った、第1期2期統率者神ツボイ選手。

織り手のティムナルーデヴィックの名作、クラム

「1日30時間プレイする」という信じがたい練習の末に神の座についた第3期統率者神タカハシ選手。

トレストの密偵長、エドリック

《トレストの密偵長、エドリック》を一途に愛し、トーナメントを愛した第4期統率者神ヨシダ選手。

秘儀を運ぶもの、パコ熱心な秘儀術師、ハルダン

そしていま、人付き合いは苦手だけど、毎日寝るまで練習して、統率者とイベントを愛したプレイヤーが第5期統率者神となった。

今度は彼を中心にまたあらたな物語が生まれることだろう。今度は防衛にのぞむ第6期統率者神決定戦がいまから楽しみだ!

第4期統率者神ヨシダ選手への謝辞

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ゲームの行く末を見守るギャラリー。
その中には先代と先々代の統率者神の姿も。

ヨシダ選手は日本一有名なエドリック使いであり、多くの観戦者が彼の防衛を祈っていたのではないだろうか。

トーナメントがあると聞けばどこへでも出向き、勝とうが負けようが詳細なレポートを見せてくれる。新セットが出ればそのレビュー記事を掲載していた。多くのプレイヤーにとってヨシダ選手の記事やデッキリストは環境感を示すリトマス紙だったのだ。

きっとこれからもトーナメントに現れ、マジックコミュニティのために記事を書いてくれるはずだ!

『統率者マスターズ』のリリースが間近に迫っているが、このたび晴れる屋メディアではヨシダ選手にセットのレビュー記事の執筆を依頼している。統率者デッキに収録される新規カードや注目の再録カードについて語っていただく予定だ。ご期待ください!

それではみなさん、第6期統率者神決定戦でお会いしましょう。

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いってつ 晴れる屋メディアライターです。最近の悩みは記事執筆と動画出演で忙しくて統率者戦が1日2回くらいしか遊べないこと。Commander Format Panel メンバー。 いってつの記事はこちら