『指輪物語:中つ国の伝承』リミテッドを分析しよう!

Marcio Carvalho

Translated by Riku Endo

原文はこちら
(掲載日 2022/07/20)

はじめに

やあ、みんな。マルシオ・カルヴァリョ/Marcio Carvalho(@KbolMagic)だ。今回は『指輪物語:中つ国の伝承』の第一印象について話していこうと思う。

そのあとに、これから大会に参加しようと考えている人や地元のお店でカジュアルに遊ぼうと考えている人たちに向けて、このフォーマットにおいて何が強いと考えているかを話そうと思う。

指輪があなたを誘惑する

まずは新キーワードの「指輪があなたを誘惑する」から見ていこう!

最初はこの効果について、必死に追い求めるようなものじゃなく「ゲットできたら嬉しいおまけ程度の能力」になるだろうと考えていたのだけれど…これについては完璧に間違っていたよ。

良いデッキをさらに強いデッキに押し上げるには、いかに早く安定して指輪の能力を2段階目にできるかにかかっていると考えている。これによって自分のクリーチャーが残りの対戦中、実質《マーフォークの物あさり》になる。また盤面次第では、自分のクリーチャーがブロックされない状況を作ることだってできる。

2段階目の能力に到達したプレイヤーは、はるかにスムーズにデッキを回せるようになり、非常に大きなアドバンテージを得ることになる。ルーティング効果でデッキを回して、相手より多くの呪文を唱えることができるようになるんだ。リミテッドにおいて、相手より多く呪文を唱えられれば勝てるなんて明らかだよね?

「指輪」の能力をなんとか4段階目まで得ることができたなら、それは自分のクリーチャーがマスト除去の脅威になるということで、除去されなかったならすぐさまゲームを終わらせてしまうだろう。だけど覚えておいてほしいのは、さっきも述べた通り指輪の能力を実に輝かせているのは2段階目ということだ。

悲惨な最期イシルドゥアの宿命の一撃ゴンドールの使者

忘れられがちだが、もうひとつのボーナスとして指輪所持者は1段階目の能力によって伝説になっている。このセットには《悲惨な最期》や伝説のインスタント、《ゴンドールの使者》などのように、伝説のクリーチャーに関する効果を持ったカードがたくさんあるので、これが非常に重要になってくる。

色ごとの強さ

もっとも重要な能力について理解したところで、色別に見ながら『指輪物語:中つ国の伝承』のリミテッドでは何が優れているのかを見ていこう。

まずはこのフォーマットの王様である、黒から始めよう!

黒の強さについては文句のつけようがない。コモンとアンコモン両方とも選択肢が非常に豊富なことが、黒を飛びぬけたベストカラーにしている。問題は黒の強さをもはや誰もが知っていることだ。選択肢が多いとはいったが、同じ卓内でほかのプレイヤーたちと競合しすぎればピックは難しくなる。黒をドラフトするなら気を付ける必要があるだろう。

以下が黒の注目カードだ。

《いとしいものを取り返す》

いとしいものを取り返す

ソーサリースピードの《殺害》というだけでも優秀ではあるが、「指輪があなたを誘惑する」の効果がこのカードを最高峰とは言わないまでも、ベストコモンの1枚に押し上げている。

《褐色国のクレバイン》

褐色国のクレバイン

《空中生成エルドラージ》か『機械兵団の進軍』の《羽づくろう勇者》を覚えているだろうか?彼らがそのセットのスターであったように、このカードもコモンのベストクリーチャーだ。3マナ1/1の飛行で2/2のボディを生み出すか、すでにいる「動員」されたクリーチャーを強化してくれる。まさに黒のデッキに欲しいカードだ。

《ゴラムへの拷問》

ゴラムへの拷問

俺はプレリリースでこのカードを《悲嘆》と呼び始めていた。もちろん誇張ではあるけど、このカードはいろいろなことができる。もともと評価はしていたものの、ただただとてつもないから今はさらに高く評価しているよ。4マナで相手の手札を確認しつつベストカードを奪い、加えてパワー2のクリーチャーを用意してくれるなんて素晴らしい。ぜひとも見逃さないでくれ!

《ウルク=ハイの狂戦士》

ウルク=ハイの狂戦士

「指輪があなたを誘惑する」を持つもう1枚のカードだ。安定して指輪に誘惑されるかどうかで、自分のデッキがうまくいくかが決まるなんて知らなかったから、初見ではこのカードをなんてことない3/2だと考えていた。今ではこのカードのことを日に日に好きになっているよ。

《東方人の先陣》

東方人の先陣

相手のクリーチャーとトレードできるサイズを持っていて、軍団・トークンも残してくれる理想的な2マナだ。

《シェロブの待ち伏せ》

シェロブの待ち伏せ

個人的に過小評価されていると思っているカードだ。最初の内はこのフォーマットの1マナのコンバットトリックは好きではなかったけれど、相手のベストクリーチャーである指輪保持者を待ち構えて、自分の小さいクリーチャーで相討ちを取るのに最適だ。

《カザド=ドゥームのトロール》

カザド=ドゥームのトロール

「土地サイクリング」を持つカードはどれも優秀だけど、そのなかでも特に気に入っている。ほとんどブロックされず、黒にはコモンに《サムの捨て身の救出行》があり、サイクリング後に回収することができる。

サムの捨て身の救出行

《サムの捨て身の救出行》についてここで話しておくと、指輪の誘惑をどれくらい優先すべきか理解するまではあまり使っていなかった。

バルログの鞭打ち

《バルログの鞭打ち》もまた、別のセットに入っていたならただの使いやすい除去くらいのカードだったかもしれない。けれど、このセットの黒には生贄に捧げても構わないクリーチャーがたくさんいるので、黒であればどのデッキにも入れたいくらいだ。

ご覧の通り、デッキに入れてもいいかなくらいのレベルのカードに言及しても、まだまだ黒のコモンについては話せることがある。それくらいこのセットの黒を高く評価しているし、黒はほかのどの色と組み合わせても良いと考えている。

次は赤について見ていこう。赤は黒と完璧にマッチしていて、フォーマットで最高の組み合わせかもしれない。

赤にはとても良い組み合わせが2つあって、赤白人間赤黒動員だ。それじゃあ解き明かしていこう。

《角笛城での結集》

角笛城での結集

このカードは一見《急報》のソーサリー版のように見えて悪くはないが、それだけなら何も特別じゃない。けれど、赤白人間デッキでは動力源となるカードでおそらくもっとも取りたいコモンだ。

すべての人間に速攻を付与できることで《ウェストフォルドの領主、エルケンブランド》《ローハンの王、セオデン》と組み合わせて強烈な一撃を与えることもできるから、序盤でも終盤でも役に立つ。このアーキタイプにとって間違いなく赤のベストコモンだ。

《容赦なきロヒアリム》

容赦なきロヒアリム

「指輪があなたを誘惑する」の文字がなければただの平凡なカードの典型だけど、そうではないので赤のもっとも良い4マナの1枚だ。俺のカード評価は一貫して「指輪があなたを誘惑する」ができるものに重きを置いていることを覚えておいて欲しい。

《不死者の討滅》

不死者の討滅

質の高い除去だ。クリーチャー除去の枠はとても重要で、破壊不能を失わせる効果を持つので《アングマールの魔王》を引き当てたラッキーな対戦相手に放てる唯一の一撃になるかもしれない。

《ゴルゴロスの戦獣》

ゴルゴロスの戦獣

ほとんど注目されていないカードだが、自身と同様にパワー4以上であれば倒されても「動員2」をおこなえるのには感心した。

《オリファント》

オリファント

赤の「土地サイクリング」もとても優秀なクリーチャーで、黒と組み合わせると文字通り戦場を蹂躙していく。

《間に合わせの棍棒》

間に合わせの棍棒

このカードは多くのゲームでフィニッシャーとなってくれるカードだ。プレイヤーへの4点火力は申し分なく、繰り返しになるけれど黒は特に生贄にできる適当なクリーチャーがたくさんいる。

《ロヒアリムの槍兵》

ロヒアリムの槍兵

ちっぽけな1マナでありながら、威迫により指輪保持者にふさわしいカードだ。加えて、死亡したときには指輪の誘惑も誘発するので倒されても都合がいい。

《エレボール山の炎鍛冶》

エレボール山の炎鍛冶

今回の特別賞はこのカードにした。青赤スペルは赤で2番目に成功体験のあるアーキタイプで、このカードはまさにピッタリだ。最も重要となる2マナは間違いなくこれだろう。

《群がるモリアのやから》

群がるモリアのやから

このセットには、以前のセットのカードを参考にしているようなカードが数多くある。俺はこれを《鏡割りの寓話》と呼んでいた…というのはもちろん冗談で、そこまで強力なわけじゃない。けれど、まあまあなサイズと宝物トークンによるマナ加速をもたらしてくれるとても良い3マナだ。

これくらいで赤は終わっておこう。赤もこのフォーマットではとても良い色で、もっともパフォーマンスのいい赤黒・赤白人間・青赤スペルの3つのアーキタイプをオススメする。

話を白に移すにあたって、カードの質が下がるのを感じるだろう。けれど、まだ組み合わせる色次第でそれなりに良いシナジーがある。

《ゴンドールの使者》

ゴンドールの使者

《ならず者の精製屋》として使えれば良いカードからとても良いカードになる。経験から考えると、どちらにせよ白の圧倒的ベストカードなことに変わりはない。

《ゴンドールの守護者》

ゴンドールの守護者

1枚のカードに2体のクリーチャーはいつだって素晴らしいけど、人間にはアンコモンに《ウェストフォルドの領主、エルケンブランド》《ローハンの王、セオデン》とのコンボがあるのでなおさらだ。

《塚山丘陵の霧》

塚山丘陵の霧

このカードは良いカードだと思っていたけど、とてもガッカリさせられた。軍団・トークンをスピリットにしたとしても、相手は新たに「動員」の呪文で新しい軍団を生み出すだけなので悪化している。そして今まで話している通り、このセットには生贄を使う呪文がたくさんあるから、クリーチャーが1体増えるというのは相手にとって好都合になってしまうんだ。

《北方の大鷲》

北方の大鷲

ほかの2枚の「土地サイクリング」ほど良くはないが、それでもまだ実用的だ。3/3の飛行持ちで、先制攻撃と+1/+0の修正を与える効果は戦闘で相手にとって頭痛の種になるし、有利なトレードされることを防いでくれる。

《エドラスからの追放》

エドラスからの追放

1枚目を使った後だととても使いづらくなるので、せいぜい採用できるのは1-2枚のまあまあな除去だ。ただ、このフォーマットにおけるどんな脅威でも追放できるという大きな利点もある。

《トゥック家の収穫人》

トゥック家の収穫人

マナカーブの観点から選んだ2マナで、人間でないことだけは評価できない。それでも、死亡時に「指輪があなたを誘惑する」の一文がその埋め合わせになる。

ご覧の通りカードの質は赤や黒と比べると低くなり、話しておきたいコモンも少ない。白をメインカラーにすることはほとんどないが、サポートの色としては良いだろう。

青も主にサポートになる色だが扱いが難しく、最弱の内の1色だと考えている。占術を主とした緑とは相性が良く、あとは黒とも相性が良い…いや、正直になろう。どんな色でも黒とあわせればうまくいく。

《柳風》

柳風

『ドミナリア』ではベストコモンの1枚だった《雲読みスフィンクス》も、このセットではただただガッカリするカードだ。プレイアブルではあるものの『ドミナリア』にいたときのようなパワーレベルにはほど遠い。

《誕生日の旅立ち》

誕生日の旅立ち

「指輪があなたを誘惑する」がそれほど重要だと思っていなかったために初見では見落としてしまったけど、俺の思う青のベストコモンだ。たった1マナでデッキを回せて、何度も唱えても良い。

《ペラルギルの生き残り》

ペラルギルの生き残り

青赤スペルか青黒のデッキで活躍する1枚だ。1/3のまずまずなボディでスペル限定のマナを生み出すことができるのに加えて、3枚の「切削」能力も持っている。今まで一度も切削能力は使ったことがないけどね!

《使者を欺く》

使者を欺く

青赤スペルのアグロデッキにおいてとても優秀で、環境的に速いアグロデッキが生まれるこのフォーマットにおいて、大きなテンポロスを取り戻すことができるカードだ。

《オルサンクへの幽閉》

オルサンクへの幽閉

《スメアゴルをなだめる》に「指輪があなたを誘惑する」がついていても、こちらの方が気に入っている。《スメアゴルをなだめる》は軍団・トークンをバウンスできないのが大きな問題だ。

《ロリアンの発見》

ロリアンの発見

「土地サイクリング」の1枚で互角か優勢なときは無情な《集中》になる。

《イシリアンのカワセミ》

イシリアンのカワセミ

素晴らしいカードになれるかもしれなかったが、タフネス1がこの環境ではつらい。仮にほかのセットであればもっと高く評価していただろう。

嵐のごとく恐ろしきヒスラインの縛め

そのほかの青のカードはすべてガッカリさせるようなものだが、使い道はある。最初に期待していたよりかは印象に残ったカードを挙げておくと《嵐のごとく恐ろしき》《ヒスラインの縛め》がある。両方ともデッキ次第では良いカードになる。とはいえ、優先してピックするようなカードじゃない。

最後に緑について話そう!

緑は最弱だと言われているけど、俺はまだ緑の可能性を探っているよ。個人的に緑で今のところうまくいっているアーキタイプは緑白食物緑黒だけだ。

《袋小路屋敷の荷運び人》

袋小路屋敷の荷運び人

自分のことを知っている人なら、俺がでかいクリーチャーを大好きなのはみんな知っているだろう。4マナ4/4の時点ですでに良いスタッツだ。加えて、「伝説」クリーチャーだらけのこのフォーマットでさらに大きくなる能力…大歓迎だ!緑の良いところはクリーチャーがとにかくほかの色よりでかいことだ。

《気前のよいエント》

気前のよいエント

「土地サイクリング」を持ったスタッツの良いクリーチャーで、到達を持ち、食物トークンまで出せるので盤面を安定させるのにはうってつけだ。

《怒り猛るフオルン》

怒り猛るフオルン

デカブツテーマでもう1体。5マナ4/5トランプルはそれほど印象的じゃないかもしれないが…指輪の誘惑には勝てなかったよ。

《ウォーゼの先導者》

ウォーゼの先導者

緑のベストな2マナはマナクリーチャーで、4-5-6マナのスタッツに優れるクリーチャーにアクセスするのを助けてくれる。2つ目の能力は最後の押し込みにも役立つから、どの緑のデッキでも活躍する。

《エントの憤怒》

エントの憤怒

スタッツの大きいクリーチャーなら、この格闘で+1/1の修正とは別に+1/+1カウンターもついてくる。数少ない緑の除去で、もう1枚はアンコモンだ。

《数々の別れ》

数々の別れ

《霊気との調和》を思い出させるこのカードは、食物デッキにとても合っている(《茸の番犬》との組み合わせは特に良い)。さらに、ほかの色へタッチすることを考えられるようにもなる1枚だ。

《鏡の湖の守護者》

鏡の湖の守護者

最後ではあるが、3マナ4/2で死亡時に指輪の誘惑が発動する。安心してくれ、彼は必ず倒される!赤と白にいる同様の効果を持ったクリーチャーとは対照的に、このカードを無視し続けることはできない。

緑はこれで終わりだ。マナカーブ通りに動いて相手より大きいクリーチャーをプレイして、相手にとって有利なブロックをさせる時間を与えないように戦っていきたい。

おわりに

ここまで読んでくれてありがとう。これで『指輪物語』の伝承を巡る旅を終わりとしよう。映画の大ファンだから俺はこのセットを本当に心から楽しんでいるし、みんなも楽しめることを願っているよ!

幸運と《一つの指輪》が君とともにあらんことを!

マルシオ・カルヴァリョ (Twitter)

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Marcio Carvalho ポルトガル出身のプレイヤーで、Hareruya Latinの一員。 優れた技能と環境分析能力の高さからリミテッドフォーマットのスペシャリストとして知られており、2015-2016シーズンには "ドラフトマスター" の称号を獲得した。 Magic Onlineで287枚もの《掴み掛かる水流》をピックした逸話はあまりにも有名で、どんな環境であれ研究を怠ることなく日々研鑽を詰んでいる。 Marcio Carvalhoの記事はこちら