Translated by Riku Endo
(掲載日 2022/07/24)
パイオニアの練習
当初のプランで私は、今回の『地域チャンピオンシップ・アテネ』はとにかく肩の力を抜いて、調整もしっかりとはせずにラクドスミッドレンジを使おうとしていた。『プロツアー・機械兵団の進軍』を良い形で終えたことで続く2つのプロツア―への招待を得たので、地域チャンピオンシップで好成績を残せるか気に病む必要がなかったのだ。
だが、12月の時点ですでにアテネ行きの航空券を期限切れ間近のポイントで買ってしまっていたので、とにかくアテネに行くつもりではいた。結果を気にする必要がないというのは、この旅を仕事というよりは休暇として捉えられるということだ。
そんなわけで、使用デッキはラクドスミッドレンジが魅力的に思えた。《鏡割りの寓話》と《黙示録、シェオルドレッド》のデッキはここ数年すでにさまざまなフォーマットで使っていたし、この前のプロツアーでも使ったばかりだ。カードを用意するのも使うのも自分にとって簡単だったのだ。
しかしながら、長年競技的なマジックに身を置いているからか、ただリラックスしてとにかく一番手ごろなデッキを使うというのは、まったくもって簡単なことではなかった。調整以外に仕事の後の夕方に何をすればいいのだろう?「肩の力を抜いて」というプランは早々に崩れ、すぐさまマジックオンラインのリーグとプレリミナリ―に参加し始めたのだ。
まずはラクドスミッドレンジを調整して戦い方を知ろうとしたが、構築にもいくつか選択肢があった。たとえばメインデッキに追加の《勢団の銀行破り》や《変わり谷》を入れるのか、おなじみの《死の飢えのタイタン、クロクサ》を入れるのか、といったように。
そんなとき、このフォーマットのもう1つのラクドスに興味を引かれた。ラクドスサクリファイスだ。親友のジョーナス・エロランタ/Joonas Elorantaとループ・メトサ/Roope Metsä(マジックオンラインではともにRhianneとFoleroという名前だ)が、このデッキで非常にいい結果を出していて、メタゲームにおいてもいいポジションにいるように見えた。ここしばらくもそうであったように、もっとも人気と予測していたラクドスミッドレンジに対して、明確に有利なのだ。それによってサクリファイス型が良さそうに見えたのに加えて、ミッドレンジ型をあまり魅力的でないように見せた。
そこで公平にラクドスサクリファイスも試してみた。実際に使ってみて、勝率もよく好きになろうという気もあった。けれども、私の心はそこにはなかった。
使っている間ずっと手札のカードは頼りなさそうで、つまらなかったのだ。また、シナジーをそろえるのにも苦労した。こちらが《魔女のかまど》を引けないで、引きすぎた《大釜の使い魔》を手札に抱えて身動きが取れないうちに、対戦相手は《創案の火》から《巨智、ケルーガ》をプレイするといったようなパワフルな動きをしていた。
勝ったときでさえ、引くべきタイミングで運よく《波乱の悪魔》をトップデッキしただけ。あるいは相手が運悪く《不屈の独創力》をずっと引けずにいる間に、《不運な目撃者》で8ターン連続で攻撃してどうにかライフをゼロにできただけに感じることがよくあった。
それでもこのデッキに対しては大きな敬意を持っているし、ファンがいる理由も理解できた。しかし、いくつかの観点からこのデッキに見切りをつけざるを得なかった。ただ私に合わなかったのだ。感情のないロボットではないから、自分が好きになれないデッキを上手く使うことはできない。
また、今回の旅行は私にとって依然として休暇のようなものであって、使っていて楽しくないデッキに費やすつもりはなかった。仕事から離れる年に一度のバケーションのほぼすべてはマジックに関する旅行に費やされており、それはそれで楽しい。ただ、プロツアーに向けて調整し、参加することをくつろげるアクティビティとはいえない。
これが日中働きながらマジックのプロとして活動することのマイナス面であり、 今回の旅行は非常に真剣なイベントでなく、楽しむことにフォーカスする時間にしたかった。くつろげる時間を確保できなければ、容易に燃え尽きてしまう。マジックプレイヤーとしての長期的な観点から見れば、ときにはあまりプレイしないほうが良いこともあるというのは重要な教訓だ。次の大会ではなく、今後の5年間でマジックにおいていい結果を残すことが目的なら、バランスの取れた生活を送ることが大切なのだ。
ギリシャへの旅
幸運なことに、いくらかくつろげる時間もあった。旅行の前半で私たちは、フェリーに乗ってアテネから約2時間のところにあるアンドロス島へ向かった。この島は本当に美しく、この時期は天気がとても良かった。車をレンタルして、AirBNBで予約した、島の主要な港とは反対側に位置する小さな村にある宿泊地へと向かった。そのアパートからの景色は見事なものだった。
宿でくつろいでいると間もなく、アメリカで行われた『地域チャンピオンシップ』の結果が舞い込んできた。予想通りラクドスサクリファイスが結果を残していて、ラクドスミッドレンジはそこまで勝ってなかったのだ。
私の結果予想ではラクドスミッドレンジは極めて平凡な結果に終わるだろうと思っていたので、想定以上にメタが回っているように感じた。赤黒系統のミラーマッチにおける有用な強みになるものを見出すこともできでいなかったので、ゆっくりとだが着実に絶望が現実味を帯びてきていた。何かいい策はないのか?
そんなことを考えていたところ、チームメイトのエイブ・コリガン/Abe Corriganとオースティン・バーサヴィッチ/Austin Bursavichが、アメリカの『地域チャンピオンシップ』に向けて共同で調整していたアゾリウスヨーリオンで好成績を残していたのが目にとまった。
アゾリウスコントロールは前週末では散々な結果に終わっていて、“生粋の敗者”となっていたので気にすらとめていなかったのだ。
ところが、オースティンとエイブが考案したリストは率直に言ってとても良いように見えた。また、前週末のイベントはデッキ非公開制であったが、これはコントロールデッキにとっては大きく不利となる。《空を放浪するもの、ヨーリオン》は「相棒」にする時点で、対戦相手にどのようなデッキかある程度教えてしまうから特にだ。デッキ公開制であれば、対戦相手に応じて必要になる干渉手段を求めてマリガンできる。緑単や白単とのマッチアップにおいては、これが極めて重要なのだ。
新セットからの追加カードでとても気に入っていたカードといえば《金属の徒党の種子鮫》だ。サイドボードに柔軟性のあるカードを入れられるのは、ヨーリオンのデッキ構築において非常に価値が高い。通常のデッキよりメインデッキの枚数が多いのに、サイドボードの枚数はそのほかのデッキと同じままだからだ。メインデッキの枚数が多いなら、通常のデッキより多くのカードをサイドアウトしたいはずであり、それはつまりどのマッチアップにおいてもより多くのカードをサイドインできなければいけないということだ。
そんなときにサイドボードが《安らかなる眠り》のような、限定的なマッチアップのためだけの解決策であれば、それが不可能になる。《金属の徒党の種子鮫》はほぼどんなマッチアップにも入れられるとても使い勝手のいいカードで、相手のサイドボーディングを難しくする。サイド後に相手はどれくらい除去を入れておかなければならないだろうか?といったように。
マジックオンラインのリーグでこのデッキを試してみて、1回目であっという間に5-0したのでこれだと思った。リストは洗練されていて、こういったデッキをプレイするのは本当に楽しい(勝っているときに言うのはもちろん容易いのだが)。このデッキが大会でどれくらい良いデッキとなるかは正直分からなかったが、少なくとも大会を楽しめそうだということは分かっていた!足りていないのは実物のカードそのものだったが、幸運なことにフィンランド人の友人がアテネへ後からやってきたので、デッキをそっくりそのまま持ってきてくれた。
デッキを回してみて、オースティンの元のリストから多くを変える必要性はあまり感じられなかった。ロングゲームで使えると、(たとえばパルへリオン相手では)決定打になるので《告別》を1枚メインデッキに移して、《巻き直し》と4枚目の《ドビンの拒否権》を入れ替えた。
《巻き直し》が1枚メインデッキに入ったままなのが気にはなったが、役立つときもあり、明確な代替え案も思い浮かばなかった。いくつかのマッチアップでは打ち消しを大量に唱えたくなるが、《ドビンの拒否権》以降の候補となる打ち消しはどれも欠点を抱えていた。
振り返ってみると、ライフ回復が決め手になるマッチアップがいくつかあるので、3枚目の《吸収》があればプレイしただろうと思った。しかし、それだと4枚の《廃墟の地》が入っているこのデッキにとって非常に色拘束がきつくなる。
今年行われたパイオニアのプロツアーに向けた調整でアゾリウスコントロールを使っていた際、《ドビンの拒否権》を使ったターンに引きすぎた《吸収》を唱えられなかったせいで負けたのがトラウマになっていた。《襲来の予測》はよくある代替え案だが、私からすると質が非常に低く見え、どのフォーマットでもデッキに入れないで済むほうが良いと思っている。
こちらが最終的に私が使ったリストだ。
デッキを決めた後は、この美しい島を満喫することにした。候補は多くあったがそのなかでも、主要な町であるコーラに行き、島の中心部近くにある森の中をハイキングした。
ヨーロッパ地域チャンピオンシップ
そしていよいよ、本土に戻って大会本番に臨むときが来た!大会直前にはアテネ在住の旧友であるマキス・マツォカス/Makis Matsoukasと再会し、アテネのダウンタウンへ食事に行った。こうして集まれること(The Gathering)は間違いなくマジックの醍醐味であり、長年会えていなかった友人との時間は本当に素晴らしいひとときだった。
1日目
大会1日目のマッチアップと結果は以下の通りだ。
アーキタイプ | 対戦結果 |
---|---|
ラクドスミッドレンジ | 2-1 |
グルール機体 | 2-1 |
グルール機体 | 0-2 |
《白日の下に》オムナス | 2-0 |
白単 | 1-2 |
エニグマファイヤーズ | 2-0 |
ラクドスミッドレンジ | 2-1 |
イゼット独創力 | 2-0 |
白単 | 2-1 |
マジック漬けの長い1日を終えて私は、デッキ選択に関しては満足していたがプレイングはそうはいかなかった。負けた試合は両方とも犯したミスを咎められて喫したものだったからだ。
グルール機体との対戦では、相手の唱えた《エシカの戦車》に対して打ち消しか全体除去が絶対に必要だったので、対応して《海の神のお告げ》をキャストした。1枚をボトムに送ってもう1枚(全体除去)をトップに置いたのだが、どういうわけか《海の神のお告げ》の効果を1枚ではなく2枚ドローと勘違いして引いてしまって、ジャッジを自分で呼んだ。
ジャッジが下した判断は、対戦相手が私の手札から1枚を選んでそれを山札に入れてシャッフルする、というものだった。もちろん相手は私が《海の神のお告げ》でデッキトップに置いて引いた全体除去を選び、私の手札には余分にトップから引いてしまった役に立たない1枚が残された。ジャッジによるその”修正”は少し奇妙に思えたが、明らかに自分のせいなので不満を言うことはできなかった。
もうひとつのミスは白単に対するより本質的で戦略的なものだ。相手は2ターン目に《スレイベンの守護者、サリア》を唱えて、《かき消し》か《ジュワー島の撹乱》のどちらで打ち消すか選択を迫られた。
考え方のひとつは、手札には《告別》や《放浪皇》といったよりコストの重いカードがあり基本土地は1枚しかないので、呪文を引いたときのために土地としてプレイできる《ジュワー島の撹乱》を温存しておいて、ここでは《かき消し》を使うというものだ。
もう一つは、この場面では《ジュワー島の撹乱》を使い、より打ち消しとして優秀な《かき消し》を取っておいて次のターンも相手の呪文を打ち消せる可能性を高くすれば、土地を引くための時間をより長く稼げるという考え方だ。
結局私はここで《かき消し》を使ったのだが、これが大きく裏目に出てしまった。トップからも土地を引いてしまった私に対して相手は3ターン目に《ゴバカーンへの侵攻》を唱えたので、《ジュワー島の撹乱》では打ち消せなかったのだ。これによって私の手札にあった《放浪皇》が追放され、残りの短い試合の間は何もできずに完敗してしまった。
ミスはしたものの、これらについて怒りが収まらないということはなかった。大会前一週間以内にデッキを変えて自分に完璧なプレイングを期待するというのは無理のある話で、ミスを含めたすべてを考慮しても、おおむね上手くプレイできたと信じている。犯したミスについては何かできたか考えたらあとは切り替えるのが大切で、あれこれと思い悩むのはシンプルに生産的な時間の使い方じゃない。言うは易く行うは難しであるし、常に自分が言い聞かせていることを実行できているとは言えないのだけれどもね。
2日目
2日目は極端な展開の2つのラウンドから始まった。最初のラウンドではこちらの手が相手のカードに対して弱々しく、ラクドスミッドレンジにつぶされてしまった。2ラウンド目は真逆の展開で、こちらの打ち消しと《廃墟の地》が、何度もマリガンする必要があったエニグマファイヤーズを破壊した。
この日の3ラウンド目はプロツアー優勝経験のあるマーティン・ダン/Martin Dangのラクドスミッドレンジとマッチしてしまった。私たちは長時間に 及ぶ消耗戦を3度繰り広げ、延長ターンでやっと《太陽の勇者、エルズペス》の奥義のおかげで勝つことができた。
その後、緑単信心とのフィーチャーマッチに呼ばれた。1ゲーム目は相手の土地が詰まり、いくつかのマナ加速もこちらが打ち消したので相手はしたいことがまったくできず、どちらかというと盛り上がりに欠ける試合だった。
2ゲーム目は何度追放されても戻ってくる《真髄の針》が印象的なゲームだった。相手が《ドミナリアの英雄、テフェリー》を止めるために《大いなる創造者、カーン》で《真髄の針》を持ってきたのだが、手札に解答が複数あるので心配はしていなかった。しかし、《冥途灯りの行進》や《一時的封鎖》《告別》を使っても、《真髄の針》は何度でも帰ってきた。最終的には《放浪皇》を唱えることができ、侍・トークンが数ターンで私を勝利に導いてくれた。
次のラウンドは白単と対戦したのだが、2-1で勝ったこと以外あまり覚えていない。ただ、この勝利は最終ラウンドで勝てばトップ8に入れることを意味していた!
最終ラウンドはフィーチャーマッチエリアでのアゾリウススピリットとの試合だった。1ゲーム目に相手はマリガンしなければならず、結果フラッドしたので、こちらには相手が出して来る可能性のある脅威を警戒しながら強力なカードをプレイする余裕があった。試合中にこちらが危うい状態にあるとはまったく感じなかったが、実際に勝利する方法を見つけるまでにかなり時間がかかってしまった。
2ゲーム目は相手が先攻で早々に負けてしまい、3ゲーム目は本当にハラハラする展開だった。相手は《ゴバカーンへの侵攻》をすぐに唱えてこれによって《サメ台風》が追放され、裏面の《光盾の陣列》でクリーチャーを守りながら育ててライフを詰めてきた。私は何とか場を安定させたが、残されたライフはかなり少なく、試合の行方はまだわからなかった。
しかし、ここで試合を決めうる《サメ台風》をトップデッキしたことで、戦闘でクリーチャーを守るために相手の《光盾の陣列》を生贄にささげさせることができた。その後はこちらにより大きなクリーチャーがいて、相手は攻撃することができなくなったので盤面が少し膠着したが、私も残りのライフが少なすぎて攻勢に転じることができなかった。
最終的には《ドミナリアの英雄、テフェリー》を手札から、《記憶の氾濫》を墓地から唱え始めようという場面までこぎつけたが、時間切れになりゲームを締めくくることができなかった。マッチを通してお互い適正な範囲で時間を使っていたと思う。ただ、1ゲーム目と3ゲーム目が複雑な展開で長引いてしまった。
加えて、フィーチャーマッチエリアはほかの試合と比べて遅れたラウンドタイマーによって進行されていたので、あとどれくらい制限時間が残っているのかがわかる時計を見るすべがなかった。3ゲーム目の開始時にどれだけ時間が残っているか聞いていたので、早くプレイする必要があることは理解していた。しかし、試合中に時間の経過を気軽に確認することができず、結局それが高くついた。
容易に時間が確認できていたならもっと早くプレイするよう努めたし、試合に勝つこともできそうであった。だから、この記事を読んでくれている大会運営者の方々は、フィーチャーマッチに呼ばれたプレイヤーたちも試合中に時計を見れるようにしてくれるとありがたい。勝てばトップ8に残れるかどうかといったような重要な試合の間は特に。
試合はというと、最後の延長ターンに私は《至高の評決》を唱え、相手のラストターンに負けないことを確実にして終わってしまった。終了時には対戦相手と手短に話し合ったが結果は引き分けとなり、両者ともトップ8に入ることはできなかった。
大会で実に上手く戦い12位で終われることに喜ぶべきである感じがする一方で、最終ラウンドの引き分けによって後味の悪い結果となってしまった。トップ8と世界選手権への招待の可能性がすぐそこにあったのだ!
しかしよく考えてみれば、この引き分けもまた大会前1週間以内にデッキを変えた代償で、十分な練習ができなかったためである。アゾリウスコントロールの遅さは基本的にどのフォーマットでも悪い意味で有名だ。引き分けになる可能性が高くなるというのは、大会でこのデッキを使うと決めた時点で使い手が受け入れなければいけないリスクなのだ。十分に練習できるというのはこういった遅いデッキにとって非常に価値がある。練習すれば早く決断を下すのがはるかに容易になるからだ
おわりに
大会の終え方に完璧には満足できなかったが、それでも今回の旅と大会を大いに楽しむことができた。また、制限時間の問題はあるもののアゾリウスコントロールがとても楽しいデッキであることもわかった。このデッキは現環境に非常に合っていそうで、よろこんでオススメすることができる。私なら《巻き直し》と3枚目の《吸収》は入れ替えるけれどもね。
ギリシャにはこの旅行を通じて非常にポジティブな印象を受けた。訪れるのは初めてであったが、すぐにでもまた行けることを願っている!食べ物も美味しく、写真のような景色を見ながら食事をできるというのは素晴らしいボーナスだ。
それでは、また。
マッティ・クイスマ (Twitter)