はじめに
8月7日付けで禁止制限が告知され、モダンとレガシーにおいて2枚のカードが禁止解除されました。
【お知らせ】2023年8月7日発表の禁止制限カード告知をお伝えいたします。今回、以下のフォーマットに変更がございます。
— マジック:ザ・ギャザリング (@mtgjp) August 7, 2023
モダン:
《定業》禁止解除
レガシー:
《精神の願望》禁止解除
変更理由および各フォーマットにおける見解について記事にてご説明いたします。https://t.co/3ULp04hRPy #mtgjp
《定業》と《精神の願望》はどちらもモダンとレガシーにおいてほぼ最初期から禁止されたカードであり、存在自体が忘れさられたものでした。おそらくモダンで《定業》をプレイされているのを目の当たりにした方はほとんどいないはずです。
禁止を解かれたこれらのカードは、環境にどのような影響を与えるのでしょうか。過去の活躍をもとに、今後の活躍を予想していきます。
禁止解除されたカード
モダン:《定業》
《定業》は初期のモダン環境を象徴とするカードであり、短いながらも当時のプレイヤーの脳裏に染みついて離れないであろう1枚です。
モダンがプレミアムイベントのフォーマットとして最初に採用されたのは『プロツアー・フィラデルフィア11』。多くのデッキが華々しいデビューを飾り、同時に多くのカードを禁止指定へと追いやってしまった大会となりました。《定業》はまさにそのなかの1枚でした。
同大会を制したSamuele Estratti選手が使用したのは《欠片の双子》デッキ。《詐欺師の総督》に《欠片の双子》をエンチャントしてコピーを生成し、そのコピーの誘発型能力で本体をアンタップして無限にトークンを生成するコンボデッキです。キルターンは4ターンと早めでありコンボパーツは2種類と少なめ、しかも代替カードがあるため再現性観点からも安定したデッキでした。
《欠片の双子》デッキをはじめ、当時の青を使ったコンボデッキがこぞって採用していたのが《思案》と《定業》です。どちらもわずかなマナで手札を整えてくれるため、コンボパーツをかき集めるには最適なカードだったわけです。加えて、当時のモダンは2ターンキルさえも可能な超高速環境であり、それを支えていたのは間違いなくこれら1マナのキャントリップでした。
現在のモダンを代表するデッキはラクドス想起やトロン、カスケードクラッシュなどです。早ければ1ターン目、多少の差こそあれ3ターン前後には脅威の押し付け合いが開始されます。たとえば1ターン目の《悲嘆》+《フェイン・デス》、トロンランドからの2種類のカーンや《原始のタイタン》《衝撃の足音》《一つの指輪》などなど。
ウィザーズ・オブ・ザ・コーストは何かしらの禁止カードを出してこれらのデッキを咎めるよりも、青いデッキによる環境の是正を望みました。カウンターモンキーを復活させ、《対抗呪文》によるコントロールを安定させるべく《定業》は解除されたのです。
レガシー:《精神の願望》
《精神の願望》は幽霊部員がごとく、長らくの間レガシーで見ることのないカードでした。というのもトーナメント使用可能と同時にエターナルで禁止カードに指定されたため、ヴィンテージとレガシーでは使えた日が1日もないのです。当時はクリーチャーのカードパワーが低いこともあり、エターナル環境では《精神の願望》が支配的になってしまうのではと懸念されたのです。
《精神の願望》はスタンダードとエクステンデッドのみで使用可能であり、特にエクステンデッドでは目覚ましい活躍を見せました。《精神の願望/Mind’s Desire》の名を冠したデッキがいくつも構築され、それらの大半は「〇〇デザイア」と呼ばれました。
こちらは瞬間的にマナを増幅してくれる儀式系呪文でマナを増やして行動回数を確保し、《思案》や《深淵への覗き込み》で「ストーム」を稼いでいきます。こうしてマナを伸ばして呪文の数を稼いだら、後は《精神の願望》をプレイするだけ。コピーされた《精神の願望》から呪文が連鎖していき、最終的に《苦悶の触手》で勝利します。
《精神の願望》はそれ自体に殺傷能力はないもののほかの呪文が行きつくゴールであり、実質的な勝利手段でした。「ストーム」の一文が対処を難しくしており、動き出せば《もみ消し》でもない限り止めることは不可能だったのです。
レガシーで「ストーム」といえば《苦悶の触手》をフィニッシャーに据えた《むかつき》デッキへ行きつきます。マナ加速やキャントリップなど共通するカテゴリーがあり、構築のベースとなりそうです。
20年の時を経てクリーチャーのパワーレベルは向上し、当時なかったプレインズウォーカーやバトルなど新しいカードタイプが生まれました。周囲のカードパワーは《精神の願望》と並ぶか、追い越すほどとなりました。依然として「ストーム」自体は強力なシステムですが、ほかと比較しても《精神の願望》は突出したカードではないとの判断から解除されたのです。
禁止改定後の環境について
モダン
《定業》解禁の恩恵にあずかったデッキはいくつか思い浮かびます。攻撃的な戦略からコントロール、果てはコンボにいたるまで青ければ検討の余地が生まれます。
公式文書にもあるイゼットカラーのクロック・パーミッション(撹乱的アグロ)はその筆頭であり、序盤を安定させながら《ドラゴンの怒りの媒介者》の「昂揚」に貢献し、終盤には特定のカードを最小のコストで引き込む手段となります。「土地サイクリング」を持つ《ロリアンの発見》と共存できるのかにも注目です。
以下は8月8日(火)時点のデッキです。禁止制限告知前にものとなるため、《定業》が採用されていないことをご了承ください。
カウンターモンキー
グリクシスデスシャドウ
ディミーアコントロール
レガシー
《精神の願望》はレガシーに居場所を見つけることができるでしょうか。フォーマット制定当初より禁止カードに指定されていたため、まったくの未知数です。そこで構築のヒントを得るべく、現在の《むかつき》デッキと過去のデザイアデッキを載せています。
《精神の願望》の鍵は軽量呪文との組み合わせにあります。「ストーム」を稼ぎ効果を最大化させるためにも、マナと手札の維持は欠かせません。かつては《サファイアの大メダル》などのメダリオンでマナコストを軽減したり、「フリースペル」を多用したり、《春の鼓動》で使えるマナ自体を増やしたりと、さまざまな工夫が見られました。そのマナをキャントリップへと注ぎ、「ストーム」の数を稼いでいたのです。
以下は8月8日(火)時点のデッキです。禁止制限告知前にものとなるため、《精神の願望》が採用されていないことをご了承ください。
《むかつき》デッキ
スナップデザイア
ハートビートデザイア
ぐるぐるデザイア
次回の禁止改定
今回の禁止制限告知では、次回の禁止改定についても言及されています。
前回の告知で、新しい禁止制限告知の周期と、スタンダードのローテーションが2年から3年に延長されることについてお話ししました。その記事の中で、我々はほとんどのフォーマットの変更が1年に1回、(通常は)ローテーションが伴う秋のセットのプレビューの直前であるこのタイミングに行うと発表しました。その目的はスタンダードの信頼性と安定感を高めるために変更を年1回にすることですが、各主要セットの発売に合わせて変更を行う期間を残しておきました(次は10月16日です)。この期間は慎重に運用しようと考えています。この短い期間の中で、我々はスタンダードよりもローテーションのないフォーマットへの変更を行いやすくなります。(中略)大きな問題が発生しなければ、次のスタンダードの更新は来年のこの時期になる予定です。
(「2023年8月7日 禁止制限告知」より抜粋)
次回の禁止改定タイミングは世界選手権の3週間後にあたる10月16日。以前の禁止制限告知の際に書かれたスタンダードの変更に伴う禁止制限理念の更新にある通り、大きな問題が発生しない限りはスタンダード以外のフォーマットが対象となります。
おわりに
フォーマット確立黎明期より深淵へと追いやられていたカードが解禁されたことで、モダン・レガシーとも新たなデッキや構築が生まれそうです。特にレガシーの《精神の願望》はデッキとして確立されるのか、またどのようにして「ストーム」を稼ぐのかに注目していきたいと思います。
次回の禁止制限告知は10月16日です。各構築フォーマットが健全であり続けることを願います。
今回の禁止告知については動画でも解説しているので、ぜひご覧ください!