激変のパウパー ~降りそそぐ大量のコモン~

長谷川 翔一

はじめに

みなさん、こんにちは。パウパー神の長谷川(@ensoul0714)です。

今週末は『第4期パウパー神挑戦者決定戦』ということで、今回も記事を書かせていただくことになりました。感謝!

前回の開催から約5ヶ月が経過し、その間にいくつかの新セットがリリースされたことでパウパーに新たなカードが追加されました。ですが、今年の夏はモダンや統率者といったエターナルフォーマットへ向けた特殊セットのリリースが集中したことにより、普段のスタンダードセットのリリースよりも非常に大きな変化をもたらしています。

そこで今回は「激変のパウパー」と題して、新カードのおさらい・流行のデッキ・メタゲームの変化をギュギュッとまとめてお届けします!

まずはこれまでにリリースされたセットの中から、特に大きな変化を与えた『指輪物語:中つ国の伝承』と『統率者マスターズ』についておさらいしましょう。

『指輪物語』によるサイクリング革命

北方の大鷲ロリアンの発見カザド=ドゥームのトロール
オリファント気前のよいエント

まずは6月に発売した『指輪物語:中つ国の伝承』から。このセットでもっともパウパーに影響を与えたのは各色に存在する「土地サイクリング」サイクルでしょう。

このサイクルは「無色1マナを支払いサイクリングすると、対応した土地タイプを持つカードをデッキからサーチする」能力を持っており、少しオーバーな表現かもしれませんがコモンのフェッチランドとも言える性能を有しています。

理想的な浜方地熱の沼氷のトンネル極北の並木

特に『団結のドミナリア』や『カルドハイム』で登場した「基本土地タイプを持ったタップイン2色土地」をデッキ内からサーチできるようになったことで、2色基盤のマナベースが大きく改善されました。またそれ以外にも面白い使われ方をしていたりもします(※後述します)。

このサイクルの優れている点は「パウパーフォーマットとの親和性の高さ」です。

パウパーではこれまで効果のない土地をデッキに採用せざるを得なかったので、マナフラッドに向き合う必要がありました。近年ではさまざまな効果付きの土地がリリースされていますが、まだまだ課題は多く、それゆえに土地を20枚以下に抑えるデッキが多いのも事実です。

ですが、このサイクルが登場したことで土地1~2枚+サイクリングでキープできるようになる=実質的な効果付きの土地として考えることができますので、マナフラッドへの耐性を上げているといえます。

灰のやせ地

今までは《灰のやせ地》がもっとも優れた「土地サイクリング」でしたが、まさか新たなライバルが呪文だとは思わなかったことでしょう。まだまだ《灰のやせ地》も現役ではありますが、今後は見る機会が少なくなっていきそうです。

『統率者マスターズ』によるダウンシフト

今月の頭に発売した『統率者マスターズ』も強力なインパクトを与えてくれました。コモンで再収録されたカードの枚数があまりにも多すぎるので、今回は2枚をピックアップしてご紹介します。

なにがコモン落ちしたかは、晴れる屋さんのほうでまとめられているので、そちらをご覧ください。

《戦慄の復活》

戦慄の復活ロッテスの巨人

一番話題となったのは《戦慄の復活》です。パウパーの「ザ・スパイ」にとって待望の強化で、これまでは複雑なコンボルートを覚える必要があり、長らくロマンデッキと言われていました。しかし、ついにお手軽なコンボルートがパウパーでも実装されたことになります。

ざっくりとした手順は以下の通り。

①デッキ内に土地がない状態で、《暗黒の儀式》などのマナ加速から6マナを準備して《欄干のスパイ》を唱えます。

②デッキをすべて墓地へ落とします。その後、墓地から《屑肉の地のゾンビ》を2体「蘇生」。

《欄干のスパイ》と2体の《屑肉の地のゾンビ》をコストに《戦慄の復活》を「フラッシュバック」し、《ロッテスの巨人》をリアニメイト。効果で相手に自分の墓地のクリーチャーの数だけダメージを与えて勝利!

もちろんコンボカードとしても強力ですが、4マナのリアニメイト呪文として見ても十分に強力なので、今後が楽しみな1枚でもありますね。0マナスペルは危険な臭いしかしないぞ!

《謎めいた海蛇》

謎めいた海蛇

もう1つご紹介するのは《謎めいた海蛇》です。私が前回の神決定戦で使用した「ディミーアテラー」を分かりやすく強化するカードであり、新たなデッキタイプ誕生を担う1枚でもあります。

トレイリアの恐怖グルマグのアンコウ

今までの「ディミーアテラー」は《トレイリアの恐怖》《グルマグのアンコウ》という2体の軽減効果を持ったクリーチャーで構成されていましたが、今回《謎めいた海蛇》が登場したことで青単色でこのコンセプトを確立できるようになりました。

つまり、青+好きな色の組み合わせ or 青単色でも「ディミーアテラー」の強力な動きを再現できるようになったのです。もちろん《グルマグのアンコウ》にしかないメリットもありますが、青を中心に構成されているテラー系デッキでは《謎めいた海蛇》のほうが唱えやすさのレベルが段違いです。

すでにマジック・オンラインのパウパーチャレンジでも青単テラーが優勝しており、今後要注目のアーキタイプといえるでしょう。

新カードによって強化されたデッキ

10テラー

トレイリアの恐怖謎めいた海蛇グルマグのアンコウ

今回取り上げるリストはテラーが10枚採用されたリストです。テラーというのは《トレイリアの恐怖/Tolarian Terror》の英語名から来たもので、似たようなサイズのほか2種もまとめてそう呼んでいます。

《謎めいた海蛇》を多く採用することで、墓地を減らさずに毎ターン戦場に脅威を送り続けることを意識した構築となっています。

このデッキの大きなアップデートは攻め手の増加です。今まではクリーチャーが8枚しかなかったのでよく攻め手を欠くことが多く、《地下室からの這い上がり》といったカードで墓地に落ちた《グルマグのアンコウ》などを回収する必要がありました。攻め手を失ったこのデッキには勝利手段がないからです。

しかし、クリーチャーが10枚になったことでそういった心配も起こりづらくなりましたし、なにより3ターン目にクリーチャーを出すという明確な目標を達成しやすくなりました。

ロリアンの発見

また、《ロリアンの発見》もこのデッキのマスターピースといえます。デッキの性質上、土地は少なければ少ないほど呪文が多くなるので《トレイリアの恐怖》たちのプレイが早まることになります。まさか土地カウントできる呪文が出るとは……。

呪文面の3枚ドローもまれに打つことがありますが、基本的にサイクリングしたほうが大体のケースで有効です。おおむね引いたカードをそのターンに唱えられないので、フルタップの状態でカウンターを引き込んでしまい、その間に相手のマストカウンターが通ることもしばしば。誘惑には負けずオマケ程度に考えるのが良いでしょう。

堅固な証拠命取りの論争つぶやく神秘家

「ディミーアテラー」はほかにもさまざまな強化を手にしており、アプローチのパターンがいくつかあります。《堅固な証拠》+《命取りの論争》のパッケージが入った通称「カルニブルー」は黒ダブルシンボルが出しやすいのでサイドに《悲哀まみれ》が採用されていたり、《謎めいた海蛇》ではなく《つぶやく神秘家》をフィーチャーした通称「Twitter Blue」など、このデッキのポテンシャルはまだまだ伸びていきそうです。

きらきら親和

きらきらするすべて解析調査

『統率者マスターズ』でまさかのコモン落ちを果たした《きらきらするすべて》を採用した「エスパー親和」も登場しています。「親和」カウントを稼ぎながらクリーチャーを並べつつ、そのままその数が《きらきらするすべて》によって打点になるという結構とんでもないデッキです。

また、《物読み》よりは少し弱いですが《解析調査》という新たなドローソースを獲得したのも注目ポイント。《命取りの論争》《勢団の取り引き》はアーティファクトを生け贄に捧げてしまう関係で《きらきらするすべて》と若干相性が悪いのが問題でしたが、黒いドローに頼らなくても良くなっています。『統率者マスターズ』、最高!!

血の泉

エスパーと言いつつも入っている黒いカードは《血の泉》のみで、基本的には青白2色で構成されています。1枚のために黒をタッチするというかなり思い切った選択のように見えますが、《血の泉》のような1枚で2枚のアーティファクトカウントを稼ぐカードがほとんど存在しないため、替えがきかないと判断されたのでしょう。

Clowning Around

一応ですが、MOに実装されていないコモンで《Clowning Around》という2マナでアーティファクト・トークンを2枚出すソーサリーがあります。これを使えば青白2色で構築することも可能ですので気になる方はぜひ。

スレイベンの検査官

欠点を挙げるとするなら、《スレイベンの検査官》といった少し「親和」とはかけ離れたカードを採用しなければならない点でしょうか。特に起きやすいのが、《スレイベンの検査官》から出た《手掛かりトークン》を手なりで起動してしまう点です。そこでアーティファクトを引いても最終的な「親和」カウントは結局±0になってしまうことがほとんどで、本当にリソースが足りないとき以外は安易に起動しないほうがいいと感じました。

間に合わせの砲弾

また個人的な考えですが、《間に合わせの砲弾》も入れたほうが強そうに感じます。アーティファクトを並べた先に《きらきらするすべて》で手痛い一撃を入れたとしても、返しの除去で処理されるとジリ貧になりやすいですが、並べたアーティファクトを《間に合わせの砲弾》の弾にできると綺麗に詰め切れそうなイメージです。大体6点くらい入れれば、相手も倒れてくれることでしょう。

3ランド・スパイ

レガシーのザ・スパイだと土地が1枚なのですが、パウパーのザ・スパイは1〜3枚で少しばらつきがあるのが特徴です。今回はもっとも多い「3ランド・スパイ」をご紹介。

欄干のスパイ

基本的にザ・スパイは、デッキの中に土地がない状況で《欄干のスパイ》をプレイすることで勝つデッキなのですが、このデッキでは3枚もの土地を採用しています。つまり極端に言うと、コンボを決めるためには「デッキから土地をすべてサーチ」する必要があるということです。

そのためのカードが、2種の「土地サイクリング」と《土地譲渡》&《豊穣な収穫》です。

Troll of Khazad-dum気前のよいエント土地譲渡豊穣な収穫

たとえば《土地譲渡》+「土地サイクリング」なら、森を持ってきてそのままサイクリングすることでデッキから2枚サーチできますし、「土地サイクリング」が《豊穣な収穫》だったとしても土地を選択することで同様のアクションが可能です。

《水蓮の花びら》《猿人の指導霊》+「土地サイクリング」でも土地を加えることができるので、実質15〜17枚くらいの土地感覚で回すことができます。

デッキからすべて土地をサーチしたら弱いカードなのでは?と思う方もいるかもしれませんがご安心を。《豊穣な収穫》は土地以外を選ぶことで1ドローに変えることができますし、《気前のよいエント》《カザド=ドゥームのトロール》はマナ加速からプレイすることでコンボに頼らない勝ち筋として活躍してくれます。

唯一《土地譲渡》のみ役割が少ないですが、基本的に引いていた場合は優先して《土地譲渡》から土地をサーチすることになるので、後引き以外はそこまで気にならないかと思います。

森林の地割れ森森林の地割れ

ここまでしてまで3枚の土地を入れるのは、コンボの安定性向上のためです。

デッキの性質上、土地をサーチするカードはある程度入れなければなりませんが、デッキに土地が1枚のみだと土地を持ってきた後にかなり使いづらくなってしまうのが難点です。そこであえて土地を増やすことで、その受け入れを多くしようというのが理由の1つ。そして、土地が3枚あれば6マナ出すという条件が達成しやすく、妨害後の少ない手札でもリカバリーが効きやすいメリットがあります。

まれにですが、デッキに土地が1枚残っているときに《欄干のスパイ》をプレイするケースがあります。墓地にクリーチャーを送り込んで《忌むべき者の歌》から、再度《欄干のスパイ》で仕掛けたりするときなどです。こういった判断もあり、かなりプレイ練度が出るデッキだと思いますね。

メタゲームに起きている変化まとめ

最後に、現在までの流行とメタゲームの変遷について簡単に触れておきます。

ロリアンの発見

《ロリアンの発見》のリリースで青いデッキが幅を利かせる。主にカウ・ゲートやディミーアテラーなど。

オリファント気前のよいエント紅蓮破

それに強いグルールランプの隆盛。こちらにも「土地サイクリング」が採用されており、「続唱」で捲れる当たりとしても活躍。それに合わせて《紅蓮破》を採用できる赤単も勝ち始める。

謎めいた海蛇

③『統率者マスターズ』リリース。初日はディミーアテラーが強化を受けて再度環境の王者に。対抗するように《紅蓮破》を採用した赤いデッキが増殖。

きらきらするすべて

《きらきらするすべて》を採用したアグロ〜ミッドレンジデッキが徐々に勝ち始める。また《トレイリアの恐怖》を中心としたイゼットコントロールも登場。

塵は塵に

《きらきらするすべて》対策で《塵は塵に》が採用できる白系が立ち位置を上げている。

こんなところでしょうか?

取り上げていない細かなデッキもメタゲーム上で活躍しているので、気になる方はぜひ調べてみてください!面白いデッキがまだまだたくさん眠っているはずです。

おわりに

今回の記事はここまでになります。

ここ数か月のパウパーの変化が凄まじすぎて、僕自身も神決定戦で何を使うか悩ましくはありますが、ベストを尽くせるように頑張りますので、ぜひみなさんもパウパーをやりましょう!

もしデッキがないという方は、晴れる屋さんのデッキ販売を要チェック!!デッキもかなり最新のリストになっているので、そのまま出ても全然優勝を狙えると思います!

それではまた!

長谷川 翔一 (X)

この記事内で掲載されたカード

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

長谷川 翔一 日頃からパウパーを嗜む関東のマジックプレイヤー。参加者268名で開催された「第1期パウパー神決定戦」では、ゴブリン頑強で頂点に輝き、見事「初代パウパー神」に就任する。 長谷川 翔一の記事はこちら