はじめに
みなさん、こんにちは。富澤です。
先週末に『エルドレインの森』の全カードリストが公開されました。新しいプレインズウォーカーに伝説クリーチャー、懐かしの「出来事」、強力なレアの数々と多くの人が楽しめるセットとなっています。9月1日から始まるプレリリースが楽しみですね。
スタンダード視点でも魅力的なカードが多数あり、カードプールが広がったことで新しいデッキが構築されたり、既存デッキのアップデートが図られることでしょう。その中でも《一巻の終わり》は注目の1枚であり、長らく続いてきた《黙示録、シェオルドレッド》環境に終止符を打ってくれそうです。
今回の情報局では『エルドレインの森』に登場する新カード、《一巻の終わり》にスポットを当てていきます。
《一巻の終わり》とは?
《一巻の終わり》 – インスタント
あなたのライフ総量が5点以下であるなら、この呪文を唱えるためのコストは少なくなる。
クリーチャーやプレインズウォーカーのうち1体を対象とする。それを追放する。それのコントローラーの墓地と手札とライブラリーから、そのパーマネントと同じ名前を持つ望む枚数のカードを探し、追放する。そのプレイヤーはライブラリーを切り直し、その後、これにより自分の手札から追放されたカード1枚につき1枚のカードを引く。
《一巻の終わり》は4マナの単体除去呪文。戦場にあるクリーチャーかプレインズウォーカーを追放し、さらにそのコントローラーの墓地と手札とライブラリーからも根こそぎにしてしまいます。インスタントなので打ち消し呪文やドロー呪文、瞬速クリーチャーと併用しやすく、マナが余る中盤以降は使い勝手の良いカードと言えます。
『闇の隆盛』の「窮地」を彷彿とさせる効果が付与されており、緊急時には《喉首狙い》と同じ感覚でプレイできます。
似たカードとしては『イクサラン』期のスタンダードで大活躍した《ヴラスカの侮辱》があげられます。当時は破壊不能を持つ《熱烈の神ハゾレト》や墓地から使いまわせる「不朽」「永遠」があったことで追放の価値が高く、プレインズウォーカーまで対策できる汎用性の高さも相まって黒いミッドレンジからコントロールにいたるまで採用されました。
ネックとなるのはやはりそのマナコストです。現在のスタンダードで採用されている単体除去は《切り崩し》や《喉首狙い》《シェオルドレッドの勅令》と2マナ以下のものばかり。4マナは単体除去としてはやや重い部類にあたり、テンポが取れず手札でダブつくリスクを考慮すると、アグロ戦略あふれる環境では敬遠されがちです。活躍するにはミッドレンジやコントロールも共存していることが前提となります。
しかし、《一巻の終わり》はボード処理に加えて、ほかの領域から同名カードを追放する効果を有しています。これを忘れてはなりません。戦略のキーとなるクリーチャーやリソース管理を一手に任されたプレインズウォーカー、コンボに必須のクリーチャーなど、特定のカードを追放することで相手の戦略自体に大きなダメージを与えられます。マナコストの重さに目をつむったとしても得難い効果です。
それでは《一巻の終わり》の可能性を探っていきましょう。
丸ごと追放するカードの歴史
《一巻の終わり》の前に複数の領域からカードを追放する効果を持つカードの歴史を見ていきます。
「特定のカード名を持つカードを手札と墓地とライブラリーから追放する」効果を持つカードは《ロボトミー》を祖にして、『ウルザズ・デスティニー』の5色サイクル、『神河物語』の《頭蓋の摘出》とさまざまなカードがデザインされてきました。時を経てこの効果が黒の役割として定着していくわけですが、《屍呆症》はパイオニアでも見るカードであり、ご存知かと思います。
その中でも、比較的初期にデザインされたカードに《撲滅》があります。
《撲滅》 – ソーサリー
黒でないクリーチャー1体を対象とし、それを追放する。それのコントローラーの墓地と手札とライブラリーから、そのクリーチャーと同じ名前を持つカードをすべて探し、それらを追放する。その後、そのプレイヤーはライブラリーを切り直す。
《撲滅》は『ウルザズ・デスティニー』の5色サイクルの内の1枚であり、「黒でないクリーチャー1体を戦場+他領域から追放」します。対象の狭いソーサリー版の《一巻の終わり》であり、今見ると時代の流れを感じるデザインです。
当時は《極楽鳥》に代表されるマナクリーチャーや攻撃的な1マナクリーチャーが多く、ゲームテンポは比較的スピーディーに進んでいました。《暗黒の儀式》があるとはいえ、とても《撲滅》が間に合う速度ではありません。しかしながら、《撲滅》は一定の評価を受けていました。
それはひとえに《マスティコア》の存在にほかなりません。ウルザ+マスクス・ブロック期のスタンダードと《マスティコア》は切っても切り離せない関係であり、最強クリーチャーの一角とまで呼ばれました。《恐怖》の対象とならず火力や戦闘ダメージでは「再生」されてしまうため、着地してしまうと手がつけられなかったのです。追放しようにもそのような効果を持つカード自体がなく、打ち消し呪文こそが最良の対策でした。
《撲滅》は当時としては貴重な追放効果であり、アーティファクトを対象にとれることもあって《マスティコア》対策となりました。やや重いマナコストも《マスティコア》を対処できるとあってはおつりがきます。
また、デッキごとにキーとなるクリーチャーが存在していました。「レベル」における《果敢な勇士リン・シヴィー》や「トリニティ」における《錯乱した隠遁者》はそれに該当し、ほとんどのデッキに4枚採用されていたのです。《撲滅》は特定のカードに頼ったデッキへの対策カードとしても機能したのです。
《撲滅》と聞いて思い浮かぶのはジョン・フィンケル/Jon Finkel(現マジック・プロツアー殿堂)が使った「フローレスブラック」。シルバーバレット戦略を組み込んだこのデッキは状況に応じて《吸血の教示者》から致命的なカードをサーチしてきました。《撲滅》はその内の1枚だったのです。
《一巻の終わり》の可能性
複数の領域からまとめてカードを追放する《撲滅》を見てきましたが、ここで《一巻の終わり》に戻りたいと思います。《一巻の終わり》はスタンダードに居場所を見つけられるのでしょうか。
現在のスタンダードを登場以来支配し続けているクリーチャー《黙示録、シェオルドレッド》。除去耐性は皆無ですが、スタッツの高さとその誘発型能力により相手を選ばずに活躍でき、高い採用率をほこります。除去したところでおかわりを出されては目も当てられません。伝説のクリーチャーでありながら4枚採用されるのも納得です。
そこで《一巻の終わり》の出番です。かつての《マスティコア》に対する《撲滅》と同じく、《一巻の終わり》は《黙示録、シェオルドレッド》の返しとしては最高のカードといえます。テンポ面での損失はなく、これ以降《黙示録、シェオルドレッド》に怯える必要もありません。
《黙示録、シェオルドレッド》以外にも獲物は数多くいます。《策謀の予見者、ラフィーン》は戦略のキーとなるクリーチャーですし、《しつこい負け犬》や《ドーンハルトの殉教者、カティルダ》を対象にとれば使いまわしを未然に防止できます。《夜明けの空、猗旺》サイクルに代表される死亡時の誘発型能力に対しても適切に対処してくれます。
プレインズウォーカーでは《ヴェールのリリアナ》や《漆月魁渡》《放浪皇》はよく見るカードです。着地後すぐに《一巻の終わり》で対処したとしても、プレインズウォーカーの性質上、起動された能力分損をしてしまいますが、それ以降プレイされないことは潜在的なアドバンテージとなります。特にリソース管理をプレインズウォーカーに頼っているデッキには効果的な一打になるでしょう。
現在のスタンダードにはディミーアに代表される黒系ミッドレンジやエスパーコントロールなど黒の濃いデッキが存在しています。これらのデッキはインスタントや瞬速を多用しており、相手の行動に対応できるように構築されています。《一巻の終わり》はリアクション重視の戦略と相性がよく、これらのデッキで《黙示録、シェオルドレッド》対策として機能しそうです。
もちろんメタゲームにより採用枚数は左右されますが、《黙示録、シェオルドレッド》が環境にはびこる限りサイドボードには居場所が確保されるはずです。
サンプルリスト
ディミーアミッドレンジ
エスパーミッドレンジ
おわりに
今回は追放効果を持つ新カードである《一巻の終わり》に着目してきました。過去の似たカードと比較しても使いやすいデザインであり、メインボードですら採用される可能性があります。登場以来続く《黙示録、シェオルドレッド》環境に終止符を打ってくれるのかに期待です。
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