はじめに
みなさん、こんにちは。富澤です。
『エルドレインの森』の公式発売後、最初の週末をむかえました。スタンダードでは9月の新エキスパンション発売とセット・ローテーションは風物詩となっていましたが、セット・ローテーションの期間が3年へと延長されたことでカードプールは拡張されたかたちとなりました。未知のスタンダード環境へと歩み始めたわけです。
環境初期はアグロ優勢といわれますが、スタートダッシュに成功したのは意外にもコンボデッキでした。それも収録されたばかりの「出来事」をキーカードとしたコンボだったのです。
早速、『エルドレインの森』加入後のスタンダードを始めていきましょう。
先週末の注目トピックは?
環境初期はミッドレンジやコントロールの最適化が難しくアグロの庭と謳われるスタンダードですが、今回はやや傾向が異なりました。最初のStandard Challengeを制したのは「バトル」と「出来事」を利用したコンボデッキであり、しかも翌日には一大勢力まで成長していたほどなのです。コンボの中核を成していたのは《アラーラへの侵攻》と《木苺の使い魔》の2枚。
あらかじめデッキ構築段階で、マナ総量が4以下のカードを《木苺の使い魔》とほか最大1枚のみに絞っておくことで、《アラーラへの侵攻》から必殺必中で《木苺の使い魔》の出来事(《初めてのお使い》)を踏み倒すというもの。当事者カードは唱える際に2つのモードからいずれかを選択するため、《木苺の使い魔》として追放されながらも《初めてのお使い》をプレイできるわけです。
《初めてのお使い》の効果でライブラリートップから戦場へと登場するのはランプやリアニメイトでお馴染みのファッティたち。《原初の征服者、エターリ》や《偉大なる統一者、アトラクサ》、《ファイレクシアの肉体喰らい》がたった5マナに踏み倒されて出てきます。
このコンボはデッキ構築に制限がかかり、また戦場へ出すカードは切削中に含まれている必要があるなど多少の運要素が絡みます。ですがランプよりも少量のマナでよく、リアニメイトと違い墓地へ落とす過程を必要としません。《アラーラへの侵攻》を唱えるだけの1枚コンボなのです。
翌日の大会では決勝戦で敗れトップの座をアグロ戦略へと譲りましたが、この新しいコンボデッキがスタンダードで通用することは証明されました。
こちらのデッキですが、コンボの挙動がかつての「続唱/Cascade」に似ていることと《木苺の使い魔》の出来事の英語名《初めてのお使い/Fetch Quest》から、暫定的に“カスケードクエスト”と銘打ちます。それでは大会結果をみていきましょう。
9/9(土):Standard Challenge
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
優勝 | Rex_Iudex | カスケードクエスト |
準優勝 | INickStrad | エスパーレジェンズ |
トップ4 | andrw1232 | ディミーアフェアリー |
トップ4 | AFX | 4色ランプ |
トップ8 | Edel | 4色ランプ |
トップ8 | komattaman | ゴルガリミッドレンジ |
トップ8 | _IlNano_ | バントランプ |
トップ8 | FerMTG | ゴルガリミッドレンジ |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
9/9(土)に開催された『Standard Challenge』を制したのは新コンボデッキであるカスケードクエスト。トップ8にはランプ、ミッドレンジ、クロックパーミッションと複数のアーキタイプが残っていましたが、単色アグロの不在は予想外でした。どのデッキもクリーチャー対策を手厚く取っていたようです。
メタゲーム
デッキタイプ | トップ32 | トップ16 |
---|---|---|
4色ランプ | 5 | 2 |
ゴルガリミッドレンジ | 4 | 3 |
ディミーアフェアリー | 3 | 2 |
オルゾフミッドレンジ | 3 | 2 |
バントランプ | 3 | 2 |
赤単アグロ | 3 | 1 |
ディミーアミッドレンジ | 2 | 0 |
その他 | 9 | 4 |
合計 | 32 | 16 |
トップ8にも複数名残っていた4色ランプがトップメタとなり、ゴルガリミッドレンジが続きます。《執念の徳目》は両デッキに共通したカードであり、環境初期らしくクリーチャーデッキを徹底的にマークしていました。
4色ランプは定番であった《装飾庭園を踏み歩くもの》と《ゼンディカーへの侵攻》を減らし、《木苺の使い魔》と入れ替えて軽量化に成功しています。ワンテンポ早い立ち回りが可能になったことで、以前に比べてアグロ戦略との相性が改善されています。その上で、アグロを攻略してくるミッドレンジをも狙っているのです。
ミッドレンジではボード処理に長けた黒がメインカラーとなり、相方には赤を除く3色が候補となりました。特にゴルガリミッドレンジは《苔森の戦慄騎士》を獲得したことで、序盤のプレッシャーとリソースカードを同時に獲得していました。今後ディミーアに代わるミッドレンジの有力候補となりそうです。
トップ8デッキリストはこちら。
カスケードクエスト
カスケードクエストは『エルドレインの森』の加入により誕生した新デッキ。同じ踏み倒し戦略であるリアニメイトと違って墓地を経由する手間が省け、《墓地の侵入者》のような対策カードを気にする必要はありません。コンボの手軽さと安定性は環境随一といえるでしょう。
冒頭で述べた通り、コンボ自体は《アラーラへの侵攻》1枚で完結しており、6マナ以上のクリーチャーかエンチャントが戦場へ出てきます。《偉大なる統一者、アトラクサ》や《原初の征服者、エターリ》となら大当たりですし、《ファイレクシアの肉体喰らい》もアグロに対しては頼もしいクリーチャーといえます。
《執念の徳目》は「出来事」を持つエンチャントであり、コンボの過程で戦場へ出すことが可能です。タップイン土地の多いこのデッキでは初動が3ターン目となるのも珍しくなく、少量でもライフ回復はありがたい効果です。コンボのゴールとしては速攻性は低いものの、ボードコントロールと当たりの二役を兼ねる器用なカードなのです。
また、《アラーラへの侵攻》は追放された中から任意の1枚を唱えてよく、マナ総量が4以下のカードであっても《木苺の使い魔》のほかに最大1枚まで採用可能です。《喉首狙い》はコンボを阻害しないためにも1枚に抑えられています。
実はこのコンボにはまだ続きがあります。カスケードクエストが本当に狙っているのは、7マナのフィニッシャーではなく《墓所の冒涜者》です。
クリーチャー除去性能ばかりに目がいきがちな《墓所の冒涜者》ですが、もうひとつ「パーマネントの上からカウンターを取り除く」効果を持っています。これを利用してコンボの起点となった《アラーラへの侵攻》の守備カウンターを取り除けば、瞬時に《大渦の目覚め》としてプレイされ圧倒的なアドバンテージを得ることができるのです。
一度に裏返すには墓地に7マナの呪文が必要ですが、序盤に土地サーチとして使った《群れの渡り》や《初めてのお使い》の「切削」過程で落ちたカードをコストに当てれば良いのです。
《大渦の目覚め》が対象にとるのはカードを引くプレイヤーと破壊するパーマネントのみであり、コピー先や+1/+1カウンターの配置先は解決中に選択できます。《大渦の目覚め》の効果で引いた中に《ファイレクシアの肉体喰らい》があれば出せますし、その複製やその上に+1/+1カウンターの配置も可能です。破壊対象には土地も含まれており、相手のマナを縛ることもできます。ミラーマッチでは土地を潰して相手の《アラーラへの侵攻》自体を封じるプレイもアリです。
ディミーアフェアリー
ディミーアフェアリーは低コストなクリーチャーや瞬速をベースに、妨害しながらライフを攻めるクロックパーミッションの一種。既存のディミーアミッドレンジよりも軽く、部族シナジーを形成するカードで構築されています。
《眠り呪いのフェアリー》や《フェアリーの黒幕》といったクリーチャーを展開し、インスタントトリックを絡めて相手を翻弄します。一部のカードはフェアリーの有無によって効果が乱高下するため、まずはフェアリーを定着させるところからゲームを始めます。
《眠り呪いのフェアリー》は単体除去に対する耐性を持ち、シナジーの起点となるクリーチャーです。戦闘に参加するまでには時間がかかるものの、安全に《自我の流出》や《フェアリーの剣技》の効果を最大限引き出してくれます。
特に《自我の流出》は対応してフェアリーを除去されてしまうと、プレイした側がアドバンテージを失ってしまうリスキーなカードです。タップアウトを狙うか《眠り呪いのフェアリー》とのセットで運用が必須になります。
2マナ域に採用されているのは《フェアリーの黒幕》《フェアリーの荒らし屋》《夢見る決闘者、オビラ》と3種類の瞬速持ち。アドバンテージ源を《漆月魁渡》に頼っているため、是が非でも2ターン目にはクリーチャーを展開しておきたいところです。これら3種のクリーチャーは隙を最小限におさえてボード構築が可能です。
《黙示録、シェオルドレッド》と一緒にマナカーブの頂点に据えられているのは《慈愛の王、タリオン》。相手のデッキや手札を読み解くことで、破格のアドバンテージをもたらしてくれます。
環境や相手のデッキにもよりますが、無難な選択肢は「2」。《慈愛の王、タリオン》自身へと向けられるカードや採用率の高いマナ域を狙います。《喉首狙い》や《骨化》されてもカード1枚分得できるのです。
ゴルガリミッドレンジ
ゴルガリミッドレンジは、高スタッツのクリーチャーを除去でサポートしながら押し込む攻め手の厚い中速デッキ。単体で攻防を制圧できる《グリッサ・サンスレイヤー》や《黙示録、シェオルドレッド》、時間経過とともにトークンを量産してくれる《下水王、駆け抜け侯》などでプレッシャーをかけていきます。また《執念の徳目》の獲得により、序盤のガードを下げずに長期戦も戦える仕様となっています。
《苔森の戦慄騎士》は相手の除去呪文を気にせず、手放しでプレイできる2マナクリーチャーと言って差し支えありません。仮に《切り崩し》や《稲妻の一撃》されようとも、「出来事」を経由して再度クリーチャーとしてプレイできるのです。状況に応じてモードを選択でき、さらに使いまわせる。まさにミッドレンジ戦略に適した2マナ域です。
《太陽降下》や《放浪皇》などの追放除去に対しては、自分で《喉首狙い》を打ち込み墓地へ逃げられることをお忘れなく。
ゴルガリミッドレンジの強みは、土地を脅威としてカウントできる点にあります。《開花の亀》は単にマナを伸ばすのみならず、複数枚採用されたクリーチャー化する土地とも相性の良いカードです。《眠らずの小屋》を対処されても《開花の亀》で戻すことができ、インスタントの乏しいデッキにとっては厄介な存在となります。
そのほかの大会結果
9/10(日):Standard Challenge
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
優勝 | O_danielakos | 赤単アグロ |
準優勝 | BomattCourier | カスケードクエスト |
トップ4 | Mogged | エスパーレジェンズ |
トップ4 | ThaisM | アゾリウス兵士 |
トップ8 | jakobpablo | ゴルガリミッドレンジ |
トップ8 | katubuta | 白単人間 |
トップ8 | Hamuda | ディミーアフェアリー |
トップ8 | hermanomlg | アゾリウス兵士 |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
9/10(日)に開催された『Standard Challenge』を制したのは赤単アグロ。前日の結果からは一転して、テンポデッキが巻き返しています。ランプなどの遅いデッキに的を絞ったクロック+青いデッキが増えているようです。
O_danielakosの赤単アグロは、発売前から話題だった2枚のクリーチャーが採用されています。「祝祭」により4/4へと変化する《擬態する歓楽者、ゴドリック》と、赤らしくない器用さが魅力の《魅力的な悪漢》の2枚です。後者はマナカーブを埋め、後続の展開を助けると同時に《擬態する歓楽者、ゴドリック》の「祝祭」を助ける素晴らしい1枚。
《擬態する歓楽者、ゴドリック》が加入したことで《焼炉の懲罰者》よりも《怪しげな統治者、スクイー》が優先されています。《反逆のるつぼ、霜剣山》も2枚採用されるなど、1枚で複数のパーマネントを生成できるカードが評価されているようです。
メタゲーム
デッキタイプ | トップ32 | トップ16 |
---|---|---|
カスケードクエスト | 5 | 3 |
赤単アグロ | 4 | 2 |
ゴルガリミッドレンジ | 4 | 1 |
ディミーアフェアリー | 3 | 1 |
エスパーコントロール | 3 | 1 |
白単人間 | 2 | 2 |
アゾリウス兵士 | 2 | 2 |
セレズニアエンチャント | 2 | 2 |
4色ランプ | 2 | 1 |
その他 | 5 | 1 |
合計 | 32 | 16 |
前日の結果を受けてカスケードクエストが最多アーキタイプとなりましたが、赤単アグロなど各種テンポデッキがしっかりとマークする展開となりました。ゴルガリミッドレンジと多色ランプもそれなりに残りましたが、トップ16以上へ進めたのはわずかに1名ずつ。エスパーコントロールを含めて対応する側のデッキは構築の最適化が課題となっています。
トップ8デッキリストはこちら。
おわりに
今回は新環境一発目ということで、『エルドレインの森』のカードを使ったデッキを中心にご紹介しました。《アラーラへの侵攻》と《木苺の使い魔》が織りなすコンボは初期とは思えぬ完成度であり、破壊力も相まって一度使えば病みつき間違いなしです。ぜひお試しください。
今週末にはMTGアリーナを使用した『マジック:ザ・ギャザリング ジャパンオープン2023』が控えていますね。次回はそれらの情報をお届けしたいと思います。